HPCスタッフコラム

2017.10.05

筋傷害からの回復に有効な栄養素

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栄養についての簡潔な研究のレビューです。筋傷害がおこったとき筋にどのような食品や栄養素が有効的か?トレーニングと共に栄養の摂取も健康や身体の発達にとって大事な要素です。
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NSCA’s Performance Training Journal
Training Table ● スポーツ栄養、スポーツサプリメントに関するトピックス

筋傷害からの回復に有効な栄養素
Nutrients For Recovery From Muscle Injury

Debra Wein, MS, RD, LDN, CSSD, NSCA-CPT*D
Stacie Sieloff

筋挫傷や筋傷害はアスリートに多くみられるが、その主な原因として、スポーツに求められる多くの責務と高強度が挙げられる。筋傷害の発生率はスポーツ関連傷害全体の10 ~ 55%であり(3)、傷害の程度によって異なるが、通常のトレーニングや試合に復帰できるようになるまで約3ヵ月を要する。回復時間を短縮し、筋組織の瘢痕化を防ぐために、アスリートは食事に含まれる主要栄養素に注意しなければならない。慢性腱障害を持つアマチュアアスリートを対象に調査を実施したところ、以下(表1参照)のサプリメントを投与した治療群は、対照群に比べて顕著な痛み軽減率を示した(99% vs. 31%)。また、スポーツでの活動は治療群で42%増加し、対照群を上回った(5)。

各種成分の詳細
エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸およびγ-リノレン酸
エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)、γ-リノレン酸(GLA)が炎症を緩和し、抗炎症剤として作用することを裏付ける確かなデータがある。我々の食事は、アラキドン酸( n- 6 ポリ不飽和酸)が増える一方、EPAやDHA、GLAが不足しがちである。オメガ3脂肪酸の摂取量が増えると、体内でつくられるサイトカインと呼ばれる炎症誘発性化合物は減少する(2)。これらの抗炎症性作用の効果に関していえば、多量のDHAも炎症を緩和することが判明している(6)。週に2回、脂の乗った魚を3オンス(約85 g)食べ、飽和脂肪ではなく、植物性の油を摂取するように心がけよう。魚が苦手な人は、クルミ油や亜麻仁油、キャノーラ油、大豆油を摂取すること。

セレン
セレンは、様々な酵素の機能にとって重要だが、筋傷害の場合、グルタチオンペルオキシダーゼとチオレドキシンレダクターゼの経路で重要な役割を果たす。これらの経路は、酸化ストレスの防御に不可欠であり、適量のセレンがあれば最適な効率で機能する(7)。セレンを含む栄養源として、マグロ、タラ、七面鳥、卵、ニンニクのほか、オートミールやパンなどの強化穀物食品が挙げられる。セレンのRDA(recommended daily allowance:一日当たりの推奨量)は男女とも55μgである。

亜鉛
亜鉛は、創傷や炎症の治癒、正常な免疫反応に不可欠な栄養素である。亜鉛を豊富に含む食品として、ヨーグルト、豆類(レンズ豆、エンドウ豆など)、ミルク、ホウレンソウ、シーフードなどが挙げられる。亜鉛のRDAは、男性が 11 mg、女性が 8 mgである。

ビタミンA
筋傷害を適切に治療するには、ビタミンAを含む食事が不可欠である。ビタミンAの働きとして、細胞の成長、発達、骨の修復、免疫機能などが挙げられる。ビタミンAの豊富な栄養源として、サツマイモ、ニンジン、マンゴー、ホウレンソウ、赤ピーマンなどが挙げられる。ビタミンAのRDAは、RAE(retinol activity equivalents:レチノール活性当量)で男性が 900μg、女性が700μg である。

ビタミンB 6
タンパク質と赤血球はいずれも筋の回復にとって重要であるが、ビタミンB 6 はこれらの正常な代謝に不可欠である。強化食品やヒヨコ豆、ジャガイモ(皮付き)、シーフード、アボカドに多く含まれている。ビタミンB 6 のRDAは、男女とも1日あたり1.3 mgである。

ビタミンC
ビタミンCは、筋力と柔軟性に必要なコラーゲンの形成で重要な役割を果たすほか、腱や靱帯の修復、骨の強化を助ける働きもある。柑橘系の果物やキャベツ、トマト、ブロッコリー、イチゴなどの食物に含まれている。ビタミンCのRDAは、男性が 90 mg、女性が75 mgである。

ビタミンE
動物試験の結果、ビタミンE(α-トコフェロール)には、運動によって生じる酸化ストレスと炎症性ダメージを軽減する働きがあることが示唆されている。ビタミンEの豊富な飼料を3週間摂取したラットが、トレッドミルで60分間走り続けたという報告もある。酸化ストレスと炎症性ストレスのマーカーを測定した結果、ビタミンEの豊富な飼料を摂取した治療群は、非治療群に比べてこれらのマーカー値が有意に低かったことが判明している(1)。ビタミンEの豊富な栄養源として、小麦胚芽やヒマワリ油、ピーナッツ、アーモンド、ホウレンソウ、ブロッコリーなどが挙げられる。ビタミンEのRDAは、RRR-α-トコフェロール当量で1日当たり15 mgである。

タンパク質
筋の回復中、エネルギーとタンパク質の必要量が増加して代謝が変化する。最も軽症の筋傷害である筋肉痛の場合、タンパク質とエネルギーの必要量は傷害発生後およそ48時間にわたって増加する。さらに、脂肪の酸化が増加し、インスリン感受性が低下する(4)。さらに重症度が高い軟部組織や骨格筋の傷害では、約3週間にわたって基礎代謝率(BMR:basal metabolic rate)が32%上昇する場合もある。また、十分なトレーニングを積んだアスリートでも、オルタナティブワークアウトプログラムを続けて行うと、窒素バランスがマイナスになり、食事によるタンパク質の必要量が増加する可能性がある(4)。タンパク質のRDAは、アスリートや傷害から回復中の人の場合、体重1kg当たり1.2 ~1.8 gである。

適切な栄養管理は、筋傷害の回復にとって重要な要素である。長期的にみた場合、抗炎症性の食品は、回復力を高めるだけでなく、傷害の再発予防に役立つといえる。回復のために、十分な栄養を摂取してほしい。

Reference
1. Aoi W, Naito Y, Takanami Y, Kawai Y, Sakuma K, Ichikawa H, Yoshida N, Yoshikawa
T. Oxidative stress and delayed-onset muscle damage after exercise. Free Radical Biology and Medicine , 37(4):480 – 487. 2004.
2. Calder PC. Dietary modification of inflammation with lipids. Proceedings of the
Nutrition Society, 61:345 – 358. 2002.
3. Jarvinen TA, Jarvinen TL, Kaariainen M, Kalimo H, Jarvinen M. Muscle injuries: biology and treatment. Am J Sports Med, 33:745. 2005.
4. Lowery L, Forsythe CE. Protein and overtraining: potential applications for freeliving athletes. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 3(1):42 – 50. 2006.
5. Mavrogenis S, Johannessen E, Jensen P, Sindberg C. The effect of essential fatty acids and antioxidants combined with physiotherapy treatment in recreational athletes with chronic tendon disorders—A randomized, double-blind, placebo-controlled study. Physical Therapy in Sport, 5(4);194 – 199. 2004.
6. Tate G, Mandell BF, Laposata M, Ohliger D, Baker DG, Schumacher HR, Zurier RB.
Suppression of acute and chronic inflammation by dietary gamma-linolenic acid. J Rheumatol , 16(6):729 – 34. 1989.
7. Venardos K, Harrison G, Headrick J, Perkins A. Effects of dietary selenium on glutathione peroxidase and thioredoxin reductase activity and recovery from cardiac ischemiareperfusoin. Journal of Trace Elements in Medicine and biology, 18(1):81 – 88. 2004.

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