HPCスタッフコラム

2017.11.10

ウェイトルームにおける オーバーコーチング

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トレーニングや指導の現場において選手やクライアントへエクササイズを教えるときしっかりと伝えられていますか?
エクササイズを正しく行ってもらうためにどのような声掛けをしたらよいのか?
コーチングについて一般的な誤りやその改善法を解説した記事の紹介です!
文字数:10,342文字|目安閲読時間:17~25分

Volume 18, Number 10, pages 45-50

ウェイトルームにおけるオーバーコーチング
Overcoaching in the Weight Room

Jonathon Janz, MS, CSCS, USAW, Department of Intercollegiate Athletics, University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota

はじめに
ストレングスコーチの主な仕事の中に、アスリートにウェイトトレーニングのエクササイズを指導することが含まれる。これは、コーチが行なう最も重要な仕事の一つとみなすことができるだろう。適切なエクササイズテクニックを教えることにより、参加しているアスリートの総合的な安全の向上が図れるからである。さらに、適切なテクニックが習得できれば、トレーニング中のエクササイズや方法の効果も増大する。したがって、単にエクササイズの指導方法を学ぶだけではなく、最も効率的な指導方法を知ることは、ストレングスコーチの義務である。指導の効率化により、アスリートは適切に、またできる限り早くエクササイズを習得できる。アスリートがスキルに費やす練習量は、長い目で見ればパフォーマンスを向上させる。したがって、スキルの習得が早ければ早いほど多くの練習を積むことができる(18)。

記事や論文、ビデオ、現場研修などを含め、ストレングスコーチは、数多くの教材や資料を利用できる。これらの教材の多くは、科学的な研究に基づく指導方法を取り入れ、近年このトレーニング分野で達成された専門性および正当性の総合的な向上を反映している。しかし多くの理由から、コーチの多くが、エクササイズを指導するときに共通の誤りを犯している。コーチが、十分な裏付けのない、旧来の指導方法を用いていることもあれば、多くの異なる指導方法の選択肢を完全に理解していない場合もある。だがいずれにせよ、最終的に、そのような誤った指導上の結果苦しむのはアスリートである。本稿で取り上げる、よく見られる指導上の誤りは、比較的単純なエクササイズを教えるときに、あまりに多くの指導上の手がかりや段階を用いること、そして、あまりに多くのフィードバックを与えることである。これにより、コーチは貴重なトレーニング時間を犠牲にしている。このような現象は、オーバーコーチング(行き過ぎた指導)と言われる。オーバーコーチングのせいで、アスリートのエクササイズの学習が遅れる場合もあり、その結果、アスリートの身体的な向上が遅れるようなことがあれば、さらに被害は大きい。後者のシナリオは、トレーニングセッションを何回も実施する間、コーチがアスリートに対して(負荷を漸増させずに)特定の段階や特定のエクササイズの練習を強制するときに起こる。アスリートがそのスキルを十二分に習得できたとコーチがみなすまで、この状態は延々と続く。その間、有意義なトレーニングは一切行なわれず、スキルの練習だけが数週間も、場合によっては数ヵ月も続き、ストレングス&コンディショニング(以下S&C)の基本概念すら曖昧になる。この時点でコーチは、自分が達成しようと望む目標は、次の2 つのどちらなのかを考える必要がある。すなわち、アスリートが参加しているスポーツとは無関係な、完璧なスキルのエクササイズなのか、それともスポーツのための実際的なトレーニングなのかということである。

オーバーコーチングの原因
オーバーコーチングは全く何の原因もなく起こるわけではなく、通常、いくつかの原因がある。その原因とは、最適な指導法が分からないための混乱、安全性への行き過ぎた配慮、完璧なテクニックに対する行き過ぎたこだわり、さらに指導能力に対する自信の欠如などである。表 1 に、オーバーコーチングの原因を要約する。

指導法の混乱
トレーニング関係の研究論文を吟味すると、ある特定のエクササイズを教えるときに、一体いくつの段階や手がかりが最適であるのかに関して、一部のコーチが混乱をきたす理由が容易に理解できる。一例を挙げれば、クリーンまたはそのバリエーションの指導に関しては、莫大な量の提言がある。ハングパワークリーンのために 6 段階以上の指導段階を提言している論文が複数あり、段階を上がるために 26 もの異なる指導上の手がかりを用いるよう助言している(6)。別の論文では、クリーンを学ぶときは 12 段階に分割することを提言している(7)。さらに別の論文は、パワークリーンには、段階毎に 7 つの手がかりを含む8 段階の方法を勧めている(9)。アメリカのウェイトリフティングチームと旧ソ連(当時)のナショナルチームのコーチは、クリーンをアスリートに指導する場合に、7 段階の指導法を用いることを推奨している(12,21)。対照的に、国際的な強豪であるウェイトリフティング大国のブルガリアは、同じエクササイズをするのに、たった 4 つのステップしか用いない(5)。これらの論文の一つひとつを読んだコーチは、一体どの著者が正しいのか、どの漸進法が他の主張より望ましいのかを決定しなければならず、徒労ともいえる空しい課題に直面する。

興味深いことに、前述したような多数のステップや指導の手がかりを用いて、長期的な漸進的指導を使うことが、ウェイトルームの活動のおよその傾向であると思われる。このような細かく、注意深い一連の指導方法を採用する理由が、学習者の安全性にあるとするならば、ウェイトルームエクササイズより傷害発生率の高い他のスポーツ活動を指導する場合はどうなのか、疑問を感じざるをえないだろう。例えば、バスケットボールのようなスポーツは、例えばジャンプショットのような複雑なスキルでも、たった 5 つの段階で解説できるし(2)、時にはもっと少ないステップで教えられるだろう。クリーンに関する解説よりもはるかに少ないステップである。バスケットボールにおける傷害の危険性は、ウェイトリフティングの危険性よりはるかに高いにもかかわらず( 0.3 / 100 時間対 0.0017 / 100 時間)、これが現実である(20)。コーチがエクササイズを教えるときに、ほとんどあるいは全くウェイトを用いないとしたら、傷害の可能性はさらに少ない。クリーンのようなスキルが、なぜジャンプショットのように同じくらい複雑なエクササイズに比べて、多くのステップや手がかりを必要とするのか、おそらく疑問に思うことだろう。もう一つの例が円盤投げである。円盤投げは、仮にすべてとは言わないまでも、大多数のウェイトルームでのエクササイズよりも複雑な運動であることは間違いない。それでもこの運動は、従来4 つの部分に分けて説明されている(4)。ウェイトルームのエクササイズよりもはるかに多くの運動の精度とスキルを必要とし、傷害の発生する可能性も高い動作を行なうスポーツは、これ以外にもたくさんある。これらのスポーツにおいて、フィールドやコートやマットの上で、オーバーコーチングが行なわれることは決してないだろう。その答えは、多分、一方のスキルについてはアスリートが他方より精通しているという点にあるのだろう。つまり、大抵のアスリートとコーチにとって、ジャンプショットのほうがクリーンよりはるかに馴染みがある。だからといって、クリーンの特定のスキルをオーバーコーチングする口実にはならない。しかし、なぜオーバーコーチングが起こるのかについて、ヒントを提供していると思われる。

安全性に対する行き過ぎた配慮
クリーンや一見複雑なその他のウェイトルームでのエクササイズにも言えることだが、コーチはこれらのスキルを安全に行なうことにもっぱら心を砕いている。安全性は確かに重視しなければならないが、安全性に対する必要以上の行き過ぎた心配は、コーチをオーバーコーチングへと導く。ウェイトルームでは技術的なミスが起こり、その結果傷害が発生する可能性もあるが、そのようなシナリオは比較的稀である(10,19,20)。安全に実施できる方法を使って、エクササイズを指導することは重要である。しかし一旦スキルを習得したら、身体能力の向上を目指して運動する(トレーニングの目的を達成するために負荷を加える)ことは、アスリートにとって安全性と同じぐらい重要なことである。結局のところ、S&Cの目的の一つは傷害の予防である。アスリートが妥当な時間内に何らかの有意義なトレーニングを受けられなければ、そのアスリートが競技で受傷する可能性は、全くトレーニングしなかった選手と何ら変わらない。

完璧なテクニックに対する行き過ぎたこだわり
エクササイズを完璧に行なうことに対する非生産的で執拗なこだわりは、エクササイズの安全性に関する行き過ぎた配慮に関係している。テクニックに対する執着の例として、クリーンを取り上げよう。コーチが利用できる多くの記事や本があり、それらはリフティングの適切な実施方法について論じているが(1,5-7,9,12,16,17,21,22)、漸進の指導法と同じくらい多くの異なった解説がある。これらの情報源はリフティングに関していくつかの基本的な考え方では一致しているものの、バイオメカニクス、姿勢、および重要なポイントに関しては見解が異なる場合もある。この違いが、どのテクニックが正しいか知ろうとしているストレングスコーチの混乱を招く場合もあるが、本来その必要はない。なぜなら、それらの大多数の論文や教科書は、エリートレベルのウェイトリフターのフォームを解説しているからである。ウェイトリフティングとは無関係な未熟なスポーツ選手は、クリーンに関してエリートアスリートと同様のトレーニングや経験を積んでいるわけではない。したがって、それらのエリートアスリートと似た姿勢、バーのスピード、その他の測定値を達成しようと期待することは、そもそも非現実的である。

すべてのアスリートは身長、体重、筋力、柔軟性、その他の体格やパフォーマンスの測定値が異なっている。したがって、それぞれのアスリートが、正確に、まったく同じやり方でエクササイズを行なうことを期待するのは実際的とは言えない。あるアスリートにとって効果的で安全な方法も、別のアスリートにとっては効果がなく、安全ではないかもしれない。指導のプロセスでよく見過ごされる側面は、個々のアスリートにとって最も良いテクニックを発見し、そのアスリート自身の可能性を最大限に引き出すことである。どのような動作やエクササイズにも関係する基本的なテクニックやリズムは、確かに存在する。しかしコーチは、それぞれのアスリートの個別の体格や能力に基づいて、個々のスタイルの違いを認識した上で説明をする必要がある。それができれば、完璧なテクニックを追い求め、行き過ぎた指導を行なうのとは対照的に、コーチは、アスリートの学習プロセスを促進できるだろう。

また、大抵のアスリートが参加している競技は、ウェイトルームでのエクササイズや運動を行なう競技ではない、ということを肝に銘じておくこともコーチにとって重要である。例えば、競技ウェイトリフターを別とすれば、アスリートが実際に試合でクリーンを行なうことはない。コーチにとって、できる限りアスリートが実際に参加しているスポーツに特異的にトレーニングすることのほうが、その競技とは無関係な動作の完璧性を目指して不必要に多くの時間を費やすことよりもはるかに重要なのである。アスリートが一旦あるエクササイズを学んだら、アスリートが(エクササイズの目的に従って)さらに筋力と爆発力を身につけるために、そのエクササイズを使ってトレーニングを始めることが重要である。アスリートが(構造的な、または機能的な特性により、または単に興味がないために)エクササイズを習得することができない場合には、必要とされる身体特性がどのようなものであっても、それを鍛えるための、別のエクササイズを見つけることがコーチの責任である。別のエクササイズを与えることは、トレーニングにそもそも必要ではないかもしれないエクササイズのオーバーコーチングによって貴重な時間を浪費するよりも、はるかに良い効果をもたらすだろう。

指導法に対する自信の欠如
ウェイトルームでアスリートを指導するときの自信の欠如は、必ずしも全ての場合に当てはまるわけではないが、経験不足が原因であることが多い。ストレングスコーチの中には、新しいエクササイズを教えることにより、アスリートが受傷したり、落胆したり、コーチの信頼を失ったりしないかとおそれている者もいる。これを避けようとして、そのようなコーチは、論文や教科書に見られる厳格な指導法や漸進法に固執して、個々のスタイルの違いを考慮に入れることを避ける傾向がある。その結果、コーチの完璧性を求める期待に応えることができず、総じて身体的な進歩が欠如しているアスリートに対して、オーバーコーチングが起こる可能性がある。このような状況は理解できないわけではないが、多くの理由から、アスリートが新しいエクササイズを学ぶときには、(傷害のリスクがなく行なえることを条件に)軽微なミスをすることが役立つ可能性がある。エリートアスリートは、自分のパフォーマンスの誤りを自ら検出する優れた能力を持っているものだ。そのようなフィードバックに基づいて、彼らは自らミスを修正する努力をする(8)。だがこれは、アスリートが本来もっている能力ではなく、むしろトレーニングにより獲得し発達させた能力である。コーチがアスリートの能力を信頼し、アスリート自身が自らミスを発見することを許容すれば、学習プロセスは一気に加速するだろう(8)。

オーバーコーチング対策
オーバーコーチングの解決策は、健全な運動学習理論、すなわち、使用する指導法の種類、与える手がかりの数、そしてパフォーマンスの途中またはパフォーマンス後に提供するフィードバックにある。表2 にオーバーコーチングの解決策をまとめて示す。

指導法の種類
コーチがアスリートにあるスキルまたはあるエクササイズを紹介し指導する方法は、そのプロセスの成功にとって決定的に重要である。それぞれのアスリートに適した、多くの異なるアプローチを提供できるように、コーチが複数の異なる教授法を学ぶことが有益であろう。アスリートは一人ひとり異なり、新しいスキルの学び方も異なっている。中には口頭での指導をあまり好まず、より多くの実演を好むアスリートもいるし、一方、スキルを理解しマスターするために、練習を重ねることを好むアスリートもいる(8)。コーチは、それぞれのアスリートにどの学習スタイルが効果的かを決定し、指導を提供するときに適切な教授法を用いることが重要である。コーチが常に、例えば口頭でのコミュニケーションのように、1 つの指導方法だけに依存していると、多くのアスリートにコーチが伝えようとしていることが通じず、結果としてオーバーコーチングが生じるおそれがある。時として、アスリートが学ぶ最良の方法は、アスリートが実際に動作を練習し、自分自身でそれを理解することである。アスリートは多くの場合、機会とわずかなガイダンスさえ与えられれば、自分自身でミスを修正することを学ぶであろう。

人間の脳は信じられないほどの能力をもっている。アスリートが新しい動作を学びながら問題解決に脳を使うことは、コーチにも利益をもたらすはずである。このような自然な学習プロセスが生じることを妨げることは、何であれ、ほとんど利益があるとは思えない。エクササイズ指導のように、ある量の情報がインプットされると、アスリートは情報を識別し、自分が適切であると考えたことに基づいて反応を選択する。これは情報処理として知られているが、脳がどのように環境からデータを取得し、識別し、それに反応するかを理解するための単純なモデルとして使用できる(18)。もちろんアスリートが選択する反応が、常に正しいというわけではない。したがってコーチは、情報処理モデルの中のミスが起きていると推定される、ある特定の分野だけに対処することを決定すればよい。アスリートが、コーチが提供した指示の意味をはっきり理解していない場合は、コーチは単に、何が問題となっているかをはっきり指摘するだけでいいだろう。他方、アスリートが指導したことを理解しているにもかかわらず、適切な反応を生み出すことができないのであれば、コーチは指導方法を変えるか、または情報の変更を決定すればよいだろう。どちらの場合も、情報処理と学習プロセスにおける、適切な手がかりの活用が重要な役割を果たすのである。

手がかりの数を制限する
指示を与えたり分かりやすく説明したりするときに、コーチは、アスリートが短期記憶に留めておくことのできる指導のポイントや手がかりの数は限られていることに留意する必要がある。この数は5 ~ 9 つの情報の断片であると推定されている(13)。アスリートが、騒々しいウェイトルームの中で指導中のコーチに十分な注意を払っていない場合は、アスリートは何らかの手がかりを聞き逃す可能性もあるし、さらに情報が実際に記憶に貯えられることも制限される。そのような場合、コーチは最も重要で、目下の運動と密接な関係があり、しかも容易に理解できるものだけに限定して手がかりを与えることが重要となる。コーチがあまりに多くの手がかりを与えると、アスリートが混乱をきたし、パフォーマンスが低下するおそれがあり、それが、指導プロセスをはるかに困難にするだろう(14)。この点に関しては、経験をできるだけ短く単純にする、という概念に意味があると思われる。さらに、一度に多くの情報を与えられたとき、アスリートは最初と最後の指導ポイントを最もよく記憶する傾向がある。この現象は、それぞれ「初頭効果」と「新近性効果」として知られている(11)。コーチはこの利点を生かして、最も重要な情報を最初と最後に強調すること
ができきる。

同様に、最も重要な手がかりやポイントだけを選択し取り上げるときに、コーチは、どのミスが他のミスを引き起こしているかを知ることができるかもしれない。最初に最も重大な誤りを修正することによって次の誤りが修正され、そうすることにより、個々の問題に一つひとつ対処する時間が不要になる可能性がある。この好例がスナッチの指導で見られる。セカンドプルの間にアスリートの身体とバーベルがあまりに離れていると、リフティングが後方へそれてしまう。これらの問題に個々に対処するために時間をかける代わりに、コーチは、アスリートにファーストプルの速度を遅くするように指導することができるだろう。これにより、セカンドプルの開始時に、アスリートはよりバランスのとれた適切な姿勢を保てるようになる。それができれば、アスリートはバーベルを身体により近い位置に保持できるようになり、頭上で容易に、しっかりバーベルを保持できるようになるだろう。別の例が、Rippetoeの論文(15)に見られる。その中で彼は、事前にアスリートに適切なスクワットのスタンスを取らせるだけで、バックスクワットを行なっているアスリートによく見られるミスが修正できることを指摘している。アスリートがスクワットの最下部での適切な姿勢に対する感覚を習得していれば、そのフォームが不適切な場合には、それを察知し、大概は自分の力でこの問題を修正できる。指導に対するこの単純なアプローチをとれば、このバックスクワットに対してあまりに多くの手がかりを与えすぎたり、オーバーコーチングに陥ったりすることもなくなるだろう。フラストレーションや疲労を感じるまでエクササイズを指導し、莫大な時間を費やすことにはほとんど意味がない。そうすることで、実際はコーチが、アスリートのパフォーマンスの質を低下させ、学習プロセスを妨げている場合すらある(3)。

前述したように、特に、ミスをどのように発見すればよいかが教えられていれば、アスリートの多くは自分でミスを修正できる(8)。ミスを指摘することは重要であるかもしれないが、それと同じくらい重要なことは、アスリート自身がそれらミスを感知し検出する方法を学ぶことである。そうすれば、その後の練習で、独力でミスを修正することができるようになるだろう。手がかりを少なく抑え、練習により多くの時間を割けるようにすれば、コーチは実際に学習プロセスをスピードアップできると思われる。フィードバックを与えるコーチがアスリートに与えるパフォーマンスに関するフィードバックは、学習プロセスの重要な一部である。だが残念なことに、中には、どの程度のフィードバックが最適であるか、またはどのような種類のフィードバックが最も役に立つかを知らないコーチがいる。初心者は通常、中級レベルあるいは上級レベルの学習者よりも多くのフィードバックが必要である。しかし、大抵、フィードバックの質は量よりも重要である(8)。コーチがパフォーマンスに関するフィードバックを提供することはきわめて重要ではあるが、アスリートが自分のパフォーマンスのどこが正しく、どこが正しくないのかを明らかにする手助けをすることは、より一層重要である(8)。そうすればアスリートは、パフォーマンスに関する情報を受け取り、また自己修正のためのフィードバックメカニズムを開発するチャンスを与えられる(18)。コーチは、アスリートのエクササイズ実施について必ず専門的なフィードバックを提供するだろう。しかしまた、アスリートに対して、パフォーマンスについてどのように感じたか、そしてパフォーマンスのプラス面とマイナス面は何だと思ったかを尋ねるべきである。この種類のフィードバックは、アスリートに自らのパフォーマンスについて考えさせ、ミスの見つけ方を学ぶことを奨励する(18)。

この例をパワークリーンとパワースナッチの指導に見ることができる。これらの複雑なエクササイズに対しては、コーチはしばしば、習得を容易にするために、動作を複数の部分に分割することが最も良い方法であると気付く。そうすれば、コーチが一度に与える手がかりは少数で済み、アスリートが限られた情報に確実に集中できると思われる。アスリートがセカンドプルの後、バーベルの下に身体を引き込み、姿勢を立て直す(スクワットする)ことが苦手な場合、ドロップクリーンやドロップスナッチなどの補助エクササイズを使って、アスリートのリズム感と運動感覚を発達させる(1)。これらの 2 つのエクササイズの成功には、タイミングが重要である。アスリートは素早く、そして適切なリズムで動かなければならない。コーチはアスリートに、リフティングの際どのような感じがしたかを尋ね、アスリートの注意をエクササイズのスピードに向けることによって、アスリートのこのスキルに対する理解と気付きを手助けできる。アスリートがこれらの部分的な動作を利用して、スクワットに必要なタイミングとスピードを一旦発見できれば、パワークリーンやパワースナッチはより容易に完了できるようになるだろう。

コーチからのフィードバックが絶え間なくまた延々と続けば、実際にパフォーマンスの質を低下させ、学習プロセスを遅らせることもあり得る (18)。アスリートは、コーチのフィードバックに完全に依存することを強いられ、それによりミスの発見と自己修正が抑制されて、エクササイズの習得という全体的な目標の達成は遅れる(8,18)。アスリートに動作をどのように感じ、どのように見えたかを尋ね、それらのミスをアスリート自身が見つけ感じる能力を指導することは、ただパフォーマンスのフィードバックを提供するよりもはるかに優れている。アスリートがエクササイズを習得し始めたら、コーチはアスリートにフィードバック(肯定的なフィードバックも含め)を控え、アスリート自身のフィードバックメカニズムを育成し、自分自身のフィードバックを信頼できるように仕向けるべきである。アスリートのパフォーマンスが最適なパフォーマンスからあまりにもかけ離れてしまっている場合に限り、コーチはあらためて状況に対処する必要がある。そして、一旦アスリート自身がミスを検出し修正したならば、フィードバックは再度減らす必要がある(18)。また同様に、動作またはスキルが適切に実行されたときは、パフォーマンスの些細で表面的な誤りを修正することは避けるほうが賢明である。次のパフォーマンスが低下するおそれがあるからである(18)。「触らぬ神に祟りなし」という古いことわざがあるが、エクササイズに関してもこれが当てはまると思われる。アスリートが自分自身のフィードバックメカニズムを使って、動作を完璧に近づけることができるようにすることはスキルを十分に習得させ、トレーニングプロセスを次のレベルへと導くことを保証するだろう。

まとめ
コーチがアスリートにオーバーコーチングすることは、ウェイトルームにおける学習とトレーニングに影響を及ぼす。オーバーコーチングの原因は多様で複雑であると思われるが、その解決はきわめて単純である。コーチが介入してアスリートの一挙一動を指図したい衝動に駆られたときは、より良い方法として、一歩後退して、アスリート自身による状況の把握を支援することである。そうすることによってコーチは、アスリート自身のフィードバックメカニズムを強化し、自己修正能力の育成を手助けできる。これは学習プロセスの効果を高める。したがってコーチにとっては、オーバーコーチングを行なうよりも短い時間枠でトレーニングを開始できる。学習プロセスを単純に保つことによって、コーチが指導に費やす時間とエネルギーが節約でき、またアスリートは、トレーニングプロセスの中の最も重要な面だけに注意を集中できる。結局、このような方法が、コーチにとってもアスリートにとっても大きな利益をもたらすのである。

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