HPCスタッフコラム

2018.12.26

最大筋力とパワー・速度との関係

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レジスタンストレーニングのプログラムデザインにおいて、目的とするパフォーマンス要素(パワーやスピード)を向上させるためにはどのような体力要素(筋力や発揮速度、バランス、柔軟性等)をトレーニングすればよいかという指標が必要です。それによってエクササイズを選択したり、負荷の設定を行うのです。特にアスリートのS&Cトレーニングにおいては、異なるスポーツによって様々なパフォーマンス要素が必要とされます。そのスポーツにおけるパフォーマンスを向上させるためのプログラムデザインとしてどの体力要素を向上させればよいのか?

今回紹介する研究は最大筋力がどのようにパワーの発揮や速度(バーの拳上速度)と関係しているかを検証しています。

 

Effect of strength on velocity and power during back squat exercise in resistance-trained men and women.
レジスタンストレーニングを行う男女におけるバックスクワット中の速度とパワーに対する筋力の影響

Askow, AT, Merrigan, JJ, Neddo, JM, Oliver, JM, Stone, JD, Jagim, AR, and Jones, MT.

J Strength Cond Res 33(1): 1–7, 2019

目的
この研究ではレジスタンストレーニングを行う男女のバックスクワットにおける負荷-速度及び負荷-パワーの関係性を評価した。この研究の主な目的は男性と女性においてパワーの発揮や荷重スペクトルにわたって速度が異なるかを調べ、男女における筋力、身体のサイズ及びパフォーマンス結果の関係性を調査することである。
*スペクトル:大小にしたがって規則的に並べたもの

被験者
レジスタンストレーニング経験のある男性(n=20、年齢:21.3±1.4歳、身長:183.0±8.0 cm、体重82.6±8.0 kg、体脂肪率:11.5±5.0 %)及び女性(n=18、年齢:20.0±1.0歳、身長:166.5±6.9 cm、体重63.9±7.9 kg、体脂肪率:20.3±5.0 %)。被験者の条件として自体重の125%のスクワットができる、現在もトレーニングで週に1度はスクワットを行うなどが含まれた。

方法
体組成の測定の後、バックスクワットの最大拳上重量(1RM)の計測が行われた。最低でも72時間の回復期の後、被験者は実験室に再来し、無作為の順番で7種の異なる負荷(1RMの30、40、50、60、70、80、90%)で2レップずつ行った。各レップ中において、最大及び平均速度とパワーを市販の直線変位トランスデューサ―を用いて数値化した。

結果
男性はより大きな絶対的最大及び平均パワーと速度を全ての負荷において発揮した。パワーの数値が体重で標準化された時も、有意差が維持された。しかしながら、最大拳上重量によって標準化された時、性別間の有意差は見られなかった。さらに、性差に関係なく被験者が最大拳上重量の大小でグループ分けされた時、1RMの中央値よりも高い被験者はより大きな最大パワーを発揮したが、これは1RMの60%より大きな負荷においてのみであった。

結論・応用
男女間の差異は生物学的な性別よりも筋力によるものであろうと結論付けられた。さらに、筋力レベルの低いアスリートにとって、最大筋力のためのトレーニングは最大パワー発揮の向上に適した方法であろう。

オリジナルの文献はこちら

 

抄録には記述されていませんでしたが、本文には体重や最大拳上重量と速度の関係性にも触れられており、こちらはどの負荷においても弱い相関(体重と40%の負荷における平均速度、r=0.593が最大)しか見られませんでした。またこの関係性は最大拳上重量と各負荷における最大速度ではさらに弱くなります(50%の負荷でr=0.324が最大)。対して最大拳上重量と最大または平均パワーの間には全ての負荷において強い相関関係が見られました(r = 0.887–0.964)。

これらのことから、筆者らも述べているように筋力が弱いアスリートは最大パワー向上のためには最大筋力のトレーニングが有効になってくると思います。ラグビーやアメリカンフットボールなどのコリジョンスポーツには特にそのことが言えるのではないでしょうか。しかし、速度がより重視されるような動作やスポーツではそれに特異的なトレーニング必要となってくると考えられます。