HPCスタッフコラム

2019.04.10

コンプレックス法における活性後増強(PAP)効果

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コンプレックス法やコントラスト・トレーニングと呼ばれるレジスタンスエクササイズとジャンプなどのプライオメトリックエクササイズを組み合わせたトレーニング方法はアスリートのトレーニングプログラムにおいて一般的に行われるようになってきました。背景には活性後増強(PAP:Post-Activation Potentiation)効果と呼ばれる身体の反応はまだそのメカニズムが解明されていませんが、ジャンプの前にレジスタンスエクササイズを行うことでより高位の運動単位が動員されることで増強効果が得られているのではないかとも言われています(1)。PAPについては様々な条件で研究がされており、その発現条件が検討されています。

一般的に広く行われているコンプレックス法の実施方法として、高負荷のスクワット直後にジャンプ動作を行い、それを数セット繰り返すという方法が挙げられます。PAPの効果を利用してジャンプ種目の実施効果を向上させるのがコンプレックス法の目的ですが、今回紹介する研究では、高強度及び中強度のレジスタンスエクササイズ後にジャンプを測定しそれを3セット繰り返すという実際のコンプレックス法の実施環境におけるPAP効果を検証しています。

 

Acute effects of back squats on countermovement jump performance across multiple sets of a contrast training protocol in resistance-trained men.
レジスタンストレーニング経験のある男性において、複数のセットにまたがるコントラスト・トレーニング法におけるバックスクワットが垂直跳びのパフォーマンスへ与える急性的な効果

Bauer, P, Sansone, P, Mitter, B, Makivic, B, Seitz, LB, and Tschan, H.

J Strength Cond Res 33(4): 995–1000, 2019

目的
この研究は、複数セットにまたがるコントラスト・トレーニング法における中強度(MI)または高強度(HI)のバックスクワットの自発的な活性後増強効果(PAP:Post-Activation Potentiation)が反動を用いた垂直跳び(CMJ:Counter Movement Jump)のパフォーマンスへの効果を評価することを目的とした。

被験者
60名のレジスタンストレーニング経験のある男性(年齢:23.3±3.3歳、体重:86.0±13.9 kg、パラレルバックスクワットの最大拳上重量(1RM):155.2±30.0 kg)

方法
介入前測定において体型、バックスクワット及び垂直跳びの基準値を計測した後、被験者は間隔をあけて3回研究室に訪れた。各回において、無作為の順番でMI(6回@1RMの60%)またはHI(4回@1RMの90%)のコントラストPAP法、または20秒のリカバリー(CTRL)のいずれかを3セットずつ行った。バックスクワットまたはリカバリーの各セット終了後にCMJを7回(15秒後、1分後、3分後、5分後、7分後、9分後及び11分後)おこなった(図1)。MIとHI時にフォースプレートを用いて跳躍高と相対的なピークパワーが記録され、CTRLと比較することで自発的なPAP効果を計算した。


図1. 実験の測定プロトコル

結果
反動を用いた垂直跳びのピークパワーはスクワット(MI及びHI)直後(15秒後)に減少したが、すべてのセットに共通して3分後から7分後の間に向上した。跳躍高に関しては全てのセットにおいてスクワット(MI及びHI)直後に低下したが、1セット目においては3分後及び5分後に向上した。2セット目及び3セット目の同時点での向上は1セット目ほど顕著ではなかった。しかし、自発的なPAPの効果は小さいまたは微少であり、また3つのセット間に差異は見つからなかった。

結論・応用
これらの結果は、コントラスト・トレーニング法において中強度及び高強度のバックスクワットを用いてCMJのパフォーマンスを向上することができるが、自発的なPAPの効果を得るには最低でも3分間のリカバリーがスクワット後に必要であることを示した。

オリジナルの文献はこちら

 

各セット終了直後にはジャンプのパフォーマンスが低下し、PAP効果が発現するまで3分ほどのリカバリーが必要であることがこの研究で示されました。したがって、コンプレックス法をトレーニングプログラムに取り入れる際はレジスタンスエクササイズ後にジャンプエクササイズを実施する前に最低でも3分間の休息を入れる必要があることが示唆されます。また、跳躍高の向上が2セット目及び3セット目には見られなかったことから疲労の影響が考えられます。この研究ではセット間に2分のレストを設けていますが(図1)、もしかするとそれ以上のレストを設ける必要があるかもしれません。

Kilduffら(2)によるPAP効果についての研究では3セット3回のバックスクワットを87%の負荷で行った後8分後までPAP効果が表れなかったとしています。Gouveaら(3)によるPAPのメタ分析でもジャンプパフォーマンスを向上させるには8分から12分ほどの休息が必要であるとしています。また0分から3分の休息ではパフォーマンスが低下するとまとめています。

これらのことからPAP効果を用いてジャンプエクササイズの向上を目的とする場合は、コンプレックス法のように毎セットごとにジャンプエクササイズを取り入れるのではなく、レジスタンスエクササイズ後に休息または対象部位以外の別種目を行った後にジャンプエクササイズを行う方が、よりPAP効果を有効的に活用できるのではないでしょうか。

 

参考文献
1. Guellich, A., & Sehmidtbleicher, D. (1996). MVC-induced short-term potentiation of explosiv force. New Studies in Athletics – IAAF Quarterly, 11(4), 67–81
2. Kilduff, L. P., Owen, N., Bevan, H., Bennett, M., Kingsley, M. I. C., & Cunningham, D. (2008). Influence of recovery time on post-activation potentiation in professional rugby players. Journal of Sports Sciences, 26(8), 795–802
3. Gouvêa, A. L., Fernandes, I. A., César, E. P., Silva, W. A. B., & Gomes, P. S. C. (2013). The effects of rest intervals on jumping performance: A meta-analysis on post-activation potentiation studies. Journal of Sports Sciences, 31(5), 459–467