HPCスタッフコラム

2019.04.24

エクササイズによるポステリア筋群の活動量の違い

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殿筋群、特に股関節の伸展筋である大殿筋はランニングのパフォーマンス(1)や障害(2)に関連しているという報告があります。二関節筋で股関節の伸展機能への貢献も大きい大腿二頭筋は着地やカッティング動作において重要な役割を果たします(3)。これらの筋に加えて脊柱起立筋などの身体の後面の筋群は総称してポステリア筋群(Posterior Chain:ポステリア・チェーン)と呼ばれます。多くの研究やトレーニングの現場からスポーツパフォーマンスや障害予防の観点からこの筋群の重要性が議論されています。

ポステリア筋群をトレーニングするエクササイズの代表的なものとしてデッドリフトやヒップスラストなどが挙げられますが、種目ごとによって貢献する筋が変化します。今回紹介する研究は、ポステリア筋群をトレーニングするためのエクササイズの筋活動を比較したものです。

 

Electromyographic comparison of barbell deadlift, hex bar deadlift, and hip thrust exercises: a cross-over study.

バーベルデッドリフト、ヘックスバーデッドリフト及びヒップスラストエクササイズの筋電図の比較:クロスオーバー研究

Andersen, V, Fimland, MS, Mo, D-A, Iversen, VM, Vederhus, T, Rockland Hellebø, LR, Nordaune, KI, and Saeterbakken, AH.

J Strength Cond Res 32(3): 587–593, 2018

目的
この研究の目的は、抵抗をかけた複合的な膝関節伸展動作であるヒップスラスト、バーベルデッドリフト及びヘックスバーデッドリフトにおける大殿筋、大腿二頭筋及び脊柱起立筋の筋活動を比較することである。


図1. ヘックスバー

被験者
20歳から25歳までの13名のレジスタンストレーニング経験のある男性(年齢21.9±1.6歳、体重81.4±7.2 kg、身長180±5.0 cm)

方法
2回の習熟過程の後、被験者は無作為かつ平衡した順番で3つ全てのエクササイズを最大拳上重量で実施した。動作中の大殿筋、大腿二頭筋及び脊柱起立筋の筋活動を記録した。上昇過程全体(コンセントリックフェーズ)及びその過程の前半と後半に分けて(コンセントリックフェーズを2つに分ける)分析を行った。

結果
ヒップスラストはコンセントリックフェーズ全体(16%、p=0.025)及び後半部分(26%、p=0.015)においてヘックスバーデッドリフトと比較して大殿筋の活動量が大きかった。コンセントリック動作全体では、バーベルデッドリフトにおいて大腿二頭筋の活動量がヘックスバーデッドリフト(28%、p<0.001)やヒップスラスト(20%、p=0.005)と比較して大きかった。前半部分では、大腿二頭筋の活動量がバーベルデッドリフト(p<0.001)及びヘックスバーデッドリフト(p=0.049)においてヒップスラストと比較してそれぞれ48%と26%高かった。動作の後半部分の大腿二頭筋の活動量はバーベルデッドリフトにおいてヘックスバーデッドリフトと比較して39%(p=0.001)、ヒップスラストにてヘックスバーデッドリフトと比較して34%(p=0.002)高かった。脊柱起立筋の活動量においてはエクササイズ間の差異は見られなかった(p=0.312~0.859)。

結論・応用
結論として、バーベルデッドリフトは、大腿二頭筋の動員においてはヘックスバーデッドリフトやヒップスラストと比較して明らかに優れており、一方でヒップスラストは大殿筋の活動量が最も高かった。

オリジナルの文献はこちら

 

同じポステリア筋群をトレーニングするエクササイズですが、やはり種目や使用する機器が変わることで筋活動が変化しました。バーベルとヘックスバーのデッドリフトは動作自体が大きく変わりませんが、バーを保持する位置(バーベルは身体の前、ヘックスバーは身体の真横)が変わるだけで筋活動に有意な差が出ました。また、ヒップスラストもポステリア筋群をトレーニングするエクササイズですが、股関節の伸展の方向に対する負荷の方向がデッドリフトとは異なります(ヒップスラストは股関節の動作方向に対して平行に負荷がかかるに対してデッドリフトは垂直)。この要因が、ヒップスラストにおいて殿筋の活動量が比較的大きかったことに関係があると考えられます。

この研究結果によってエクササイズによる筋活動の違いが明らかになったのでトレーニングの目的やターゲットとする筋によってより効率よくトレーニングを行えるようにエクササイズを選択することができるでしょう。

 

参考文献
1. Dorn, T. W., Schache, A. G., & Pandy, M. G. (2012). Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performance. Journal of Experimental Biology, 215(11), 1944–1956
2. Souza, R. B., & Powers, C. M. (2009). Differences in Hip Kinematics, Muscle Strength, and Muscle Activation Between Subjects With and Without Patellofemoral Pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 39(1), 12–19
3. Ebben, W. P., Fauth, M. L., Petushek, E. J., Garceau, L. R., Hsu, B. E., Lutsch, B. N., & Feldmann, C. R. (2010). Gender-based analysis of hamstring and quadriceps muscle activation during jump landings and cutting. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(2), 408–415