HPCスタッフコラム

2019.06.05

炭水化物マウスリンスの効果

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近年、炭水化物マウスリンスという方法でエクササイズのパフォーマンスを向上させるという報告が数多く出てきました。炭水化物マウスリンス(Carbohydrate Mouth Rinse)とは炭水化物(主に糖質)を含んだ溶液で口を5秒から10秒程度すすぎ、その後その溶液を飲まずに吐き出すという方法です(1)。口腔内の炭水化物の受容体を刺激することにより、中枢神経の動員の増加させる(2)または脳の特定の分野を活性させること(1、3)によってパフォーマンスを向上させるようです。

パフォーマンスの向上は、有酸素持久力(1、2)、無酸素性パワー(4)において多くの報告がありますが、筋力に対しての効果は限定的のようです(5、6)。しかしながら、有酸素持久力などの持久的な能力に対して、筋力や筋持久力に対するマウスリンスの効果の検証は多くありません。

今回紹介する論文は、主に筋持久力に注目し炭水化物マウスリンスの効果を検証しています。

 

Effect of carbohydrate mouth rinse on training load volume in resistance exercises.
炭水化物マウスリンスがレジスタンスエクササイズの総トレーニング量におよぼす影響

Bastos-Silva, VJ, Prestes, J, and Geraldes, AAR.
J Strength Cond Res 33(6): 1654–1658, 2019

目的
この研究の目的は、炭水化物のマウスリンスが2つのレジスンタンスエクササイズ、レッグプレス(LP)とベンチプレス(BP)、の総トレーニング量(TLV:レップ数×重量)にお耐える影響を検証することである。

被験者
定期的にレジスタンストレーニングを行う男性12名(年齢:22.08 ± 1.88、範囲19–25歳; 身長:172.75 ± 6.20、範囲161–181 cm;体重:76.65 ± 14.07、範囲54–100 kg)

方法
被験者はLP及びBPの最大拳上重量(1RM)と筋持久力(ME)の評価を行った。筋持久力は1RM の80%の負荷で行える最大回数によって評価した。エクササイズは72時間の感覚をあけて3つの研究条件で行われた;コントロール(CONT)、炭水化物(CHO:6.4%のマルトデキストリン水溶液25ml)及びプラセボ(PLA:炭水化物を含まないジュース)。CHO及びPLAは各エクササイズの直前に行った。

結果
LPでは総回数(CHO = 13.5 ± 4.8; PLA = 11.5 ± 4.4; CONT = 12.4 ± 4.4, p = 0.68)及びTLV(CHO = 2006.7 ± 825.2 kg; PLA = 1712.5 ± 772.9 kg; CONT = 1817.1 ± 672.6 kg, p = 0.99)において条件間で有意な差はなかった。BPではCONTと比較して総回数(CHO = 8.2 ± 1.6; PLA = 7.1 ± 2.4; CONT = 6.8 ± 1.8, p = 0.002)及びTLV(CHO = 557.1 ± 155.4 kg; PLA = 495.9 ± 206.1 kg; CONT = 476.1 ± 175.3 kg, p = 0.035)において有意に増加した。

結論・応用
炭水化物マウスリンスはトレーニング経験のある男性においてベンチプレスのパフォーマンスを向上させ、レジスタンストレーニング経験の多い人が実施できる興味深い方法であることを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

今回紹介した研究では上半身のみにおいて筋持久力が向上しました。また総トレーニング量も増加したことから、上半身のトレーニングにおいてより多くのトレーニング量が求められる場合(筋肥大など)には炭水化物のマウスリンスが有効かもしれません。

炭水化物のマウスリンスは、運動中に何かを摂取することによって不快感を感じたり消化が乱れたりする場合に有効であるとされています(1)。激しい運動中に食べ物や飲み物を摂取したくない場合、持久的な種目やエクササイズであれば炭水化物のマウスリンスによってパフォーマンスを向上させることができるかもしれません。また、マウスリンスは満腹時や炭水化物を多く摂取した後よりも、空腹時のほうがよりその効果が出るようです。

 

参考文献
1. e Silva, T. de A., de Souza, M. E. D. C. A., de Amorim, J. F., Stathis, C. G., Leandro, C. G., & Lima-Silva, A. E. (2013, December 19). Can carbohydrate mouth rinse improve performance during exercise? A systematic review. Nutrients. MDPI AG.
2. Carter, J. M., Jeukendrup, A. E., & Jones, D. A. (2004). The effect of carbohydrate mouth rinse on 1-h cycle time trial performance. Medicine and Science in Sports and Exercise, 36(12), 2107–2111.
3. Chambers, E. S., Bridge, M. W., & Jones, D. A. (2009). Carbohydrate sensing in the human mouth: Effects on exercise performance and brain activity. Journal of Physiology, 587(8), 1779–1794.
4. Beaven, C. M., Maulder, P., Pooley, A., Kilduff, L., & Cook, C. (2013). Effects of caffeine and carbohydrate mouth rinses on repeated sprint performance. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism, 38(6), 633–637
5. Clarke, N. D., Hammond, S., Kornilios, E., & Mundy, P. D. (2017). Carbohydrate mouth rinse improves morning high-intensity exercise performance. European Journal of Sport Science, 17(8), 955–963
6. Dunkin, J. E., & Phillips, S. M. (2017). The Effect of a Carbohydrate Mouth Rinse on Upper-Body Muscular Strength and Endurance. Journal of Strength and Conditioning Research, 31(7), 1948–1953.