HPCスタッフコラム

2019.07.11

アスリートにおける筋力向上のための最適なトレーニング処方量:メタ分析

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メタ分析とは複数の研究の結果をまとめ、分析する統計的な手法です。エビデンスとしての序列は一番高いとされており、研究者のみならずS&Cコーチやパーソナルトレーナーといったスポーツの現場で働く者にとって非常に有効的な研究です。


図1.エビデンスとしての序列 Haidichi(1)より抜粋

メタ分析の手法として、まず関連するテーマに関する研究を検索し収集します。そして、研究者が定める基準(例:被験者や実験方法)を満たすものだけを取り出し、介入方法の効果量を求めます。それらを統合し統計分析したものがメタ分析となります。

今回紹介する研究は、アスリートを対象にした数多くのストレングストレーニング介入を行った研究をメタ分析かけ、筋力向上に最適なトレーニングの処方量を示唆しています。

 

Maximizing strength development in athletes: a meta-analysis to determine the dose response relationship
アスリートの筋力の向上を最大限にする:処方量―作用の関係性を決定するためのメタ分析

Peterson, MD, Rhea, MR and Alvar, BA

J Strength Cond Res, 2004, 18(2), 377–382

目的
ストレングストレーニングプログラムの効率性、安全性、そして有効性はスポーツのコンディショニングにとって重要である。したがって、これらのトレーニング変数の適切な処方量を明らかにすることで単位時間当たりの筋力の獲得を最大限にし、そしてオーバートレーニングやオーバーユース傷害のリスクを減少することもできる。トレーニングの強度、頻度そしてボリュームについての数値化された処方量-作用の関係性はトレーニング愛好家に対しては明らかになっているが、競技アスリートについてはまだ明らかになっていない。この分析の目的はこれらの関係性を大学、プロそしてエリートアスリートにおいて明らかにすることである。

方法
競技アスリートにおける処方量-作用を明らかにするために37の研究からの370個の効果量の分析を行った。研究を考慮に入れるための基準はa)被験者は大学かプロのレベルでの競技アスリートである、b)ストレングストレーニング介入を行っている、そしてc)効果量を計算するために必要なデータが含まれているであった。

結果
効果量のデータによると、筋力の獲得が最大限になるのは、平均トレーニング強度が最大拳上重量(1RM)の85%で週に2日、そして平均ボリュームが筋群ごとに8セット行うアスリートであった。このデータは、トレーニング経験のあるまたはないアスリートでない人を対象にした先行メタ分析とは異なる処方量-作用の傾向を示した。

結論・応用
これらの結果は、アスリートにおける最大限の筋力獲得のための明確な処方量-作用の傾向を示しており、トレーニングの効率性と有効性を最適なものにするためにストレングス&コンディショニングの現場で直接活用できるであろう。

オリジナルの文献はこちら

 

このメタ分析によって、筋力向上に最適なトレーニングの強度、頻度、そしてボリュームが明らかになりました。効果量(ES:Effect Size)は0.8を超えれば大きいと言われており、下記のグラフ(図2及び図3)では異なる強度とボリュームにおける効果量の違いを見て取ることができます。強度に置いては85%における効果量が1.12と高く、続いて75%で0.73となっています。ボリュームについては同一筋群あたり8セットが一番高く(ES=1.22)続いて14セット(ES=1.06)、4セット(ES=0.9)となっています。このことからアスリートの筋力向上には最低でも75%の負荷で4セット以上行うことが重要であることがわかります。


図2.強度についての処方量と効果量関係性


図3.ボリュームについての処方量と効果量の関係

この結果は特にチームなどの大人数のトレーニングプログラムを作成する際に非常に有効的ですが、パーソナルトレーニングなど少人数を対象にする場合は個人差なども考慮し、これらの数字をガイドラインとして用い、個々に応じて適宜強度やボリュームを調整する必要があるでしょう。

 

参考文献
1. Haidich, A. B. (2010). Meta-analysis in medical research. Hippokratia, 14(Suppl 1), 29–37