HPCスタッフコラム

2019.07.24

スプリント能力向上のためのトレーニング方法:レビュー

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スプリント能力は陸上のスポーツにおいて非常に重要な身体特性の一つです。現在明らかになっている中でも、スプリント能力はスプリントやその派生動作を行うことによってスプリント動作を直接的にトレーニングする方法と、レジスタンストレーニングやプライオメトリックなどを行い筋力や神経の機能を向上させスプリント能力の向上につなげようとする間接的なトレーニング方法で向上することができます。

今回紹介する文献は、様々な研究からのスプリントトレーニングの効果を集め統計的な分析を行ったレビュー研究です。短距離のスプリント能力を向上させる最も効果的な方法を検証しています。

 

Effect of different sprint training methods on sprint performance over various distances: a brief review
様々なスプリントのトレーニング方法による異なる距離のスプリントパフォーマンスへの効果:簡潔なレビュー

Rumpf, MC, Lockie, RG, Cronin, JB, and Jalilvand, F.

J Strength Cond Res 30(6): 1767–1785, 2016

目的
直線のスプリントスピードは多くのアスリートにとって必要不可欠な身体的要素である。スプリントパフォーマンスを向上させるために用いられる数多くの異なるトレーニング方法がある。ストレングス&コンディショニングコーチは、自身のアスリートにとって競技中に典型的に起こるスプリントの距離を考慮した最適な方法を選択しなければならない。この研究の目的は、異なるスプリント距離(0~10m、0~20m、0~30m及び31m以上)に対する特異的(フリースプリント;スレッドやバンド、傾斜を利用したレジステッドスプリント;牽引機器や下り坂を利用したアシステッドスプリント)、非特異的(レジスタンスやプライオメトリックトレーニング)及び複合的(特異的と非特異的トレーニングの組み合わせ)なトレーニング方法の簡潔なレビューを行うことである。

方法
合計で48の研究が算入基準を満たし、結果として被験者は様々な競技から1485名となった。

結果
特異的なスプリントトレーニングに関するトレーニング効果は中程度に分類された(効果量(ES)=-1.00;変化率(%)=-3.23)。一般的に特異的なスプリントトレーニングの効果は距離が延びるにつれ減少する傾向にあるが、最も大きなトレーニング効果は31m以上の距離にて見られた。非特異的なトレーニングにおける最も大きなトレーニング効果(ES=-0.43;変化率(%)=-1.65)は31m以上の距離にて見られた。複合的トレーニングでは0~10mの距離にて最も大きな効果(ES=-0.59:変化率(%)=-2.81)があった。

結論・応用
このレビューから、調査対象の距離においては特異的なスプリントトレーニングの方法が最も効果的であると考えられる。しかしながら、非特異的なトレーニング方法(筋力とパワーのトレーニング)の実施もスピードと身体パフォーマンスに対して効果があるであろう。

オリジナルの文献はこちら

 

スプリント能力の向上には器具を使わないフリースプリントや抵抗を用いたレジステッドスプリントが最も有効であるようです。つまり、特異性の原則(SAID:Specific Adaptation to Imposed Demand)に則ってスプリント能力を向上させるためにはスプリント動作を用いてトレーニングすることが効果的であるということでしょう。このレビューに含まれた方法の内最も効果量が高かった(平均ES=-1.39)のは、抵抗を用いたレジステッドスプリントであり、適切な負荷を用いた(体重の10%以下またはタイムの増加が10%未満)スプリントトレーニングは短距離のスプリント能力の向上に最も有効と言えるでしょう。

レジスタンストレーニングやプライオメトリックなどの非特異的なトレーニング方法は全体的に効果量が低かった(平均ES=-0.32)と報告されています。スプリント能力への移行という観点からは効果量が低かったのですが、レジスタンストレーニングやプライオメトリックは筋力やパワーを向上させることで、様々な身体パフォーマンスに効果的です。

フィールドやコート上で行われるチームスポーツにおいてはスピードに加え、パワーや筋力も大事な要素です。S&Cの専門家は競技の特性を理解し、様々な身体パフォーマンス要素を最も効果的にトレーニングできるようにトレーニングプログラムをデザインすることが重要となってくるでしょう。