HPCスタッフコラム

2019.09.05

神経筋機能と内分泌系機能への作用:スクワットvsデッドリフト

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デッドリフトとスクワットは下肢の代表的なエクササイズです。両エクササイズ共に高重量を扱うことができ、筋力向上から筋量の増加など様々な目的に対して用いることができる一方で、バイオメカニクス的(1、3)にも筋活動的*(2)にも大きく異なるエクササイズです。しかしながら、実際にこのスクワットとデッドリフトを直接比較した研究は意外にも多くはありませんでした。(*バックスクワットとスティフレッグド・デッドリフトとの比較)

今回紹介する研究の著者も述べていますが、デッドリフトは神経系により大きな負荷を与えトレーニングからの回復に大きな影響を与えると考えられているといった話を少なからず聞くことがあります。また、複合的なエクササイズを高負荷で行うと回復により長い時間がかかることは周知のことだと思います。

今回の研究ではスクワットとデッドリフトが身体に与える影響を比較しています。

 

Acute neuromuscular and endocrine responses to two different compound exercises: squat vs. deadlift.
二つの異なる複合的なエクササイズに対する神経筋機能と内分泌系の急性的な反応:スクワットvsデッドリフト

Barnes, MJ, Miller, A, Reeve, D, and Stewart, RJ.

J Strength Cond Res 33(9): 2381–2387, 2019

目的
デッドリフトは他のエクササイズ種目と比べ中枢神経へより大きな疲労を引き起こすと信じられているが、これを支持する実験によるエビデンスはない。さらに、高重量のデッドリフトに対する急性の内分泌系の反応およびこの反応が他の似たような種目とどのように異なるかはあまり知られていない。したがって、この研究の目的は、スクワットとデッドリフトに対する神経筋機能及び内分泌系への急性の反応を明らかにし、また比較することである。

被験者
最低でも2年間のレジスタンストレーニング経験のある男性10名の(年齢=24.0 ± 3.6歳、体重=96.5 ± 22.2 kg、スクワットの1RM=158.2 ± 23.4 kgデッドリフトの1RM=191.5 ± 31.4 kg)。

方法
10名のレジスタンストレーニング経験のある男性が最大拳上重量の95%の負荷で2回を8セット行った。大腿四頭筋の最大自発性アイソメトリック筋力(MVIC:Maximum Voluntary Isometric Contraction)に加えて、中枢性(自発的活性度(VA:Voluntary activation)と表面筋電図)及び末端(電気的に引き起こされたコントロール刺激)の疲労の測定をエクササイズの前、5分後、及び30分後に行った。さらに、唾液中のテストステロンとコルチゾールを同様の時点で測定した。

結果
両方のエクササイズにおいて、終了後にMVICが低下していたが(p=0.007)、エクササイズ間の違いは見られなかった。同様に、VAが時間経過により変化した(p=0.0001)にも関わらず、エクササイズ間に違いは見られなかった。末端部の疲労に関しては、コントロール刺激による筋力が経過とともに変化し(p=0.003)、スクワット後により大きな減少がみられた(p=0.034)。筋電図の計測値は経過とともに減少したが(p=0.048)、エクササイズ間の違いは見られなかった。テストステロン及びコルチゾールの数値に変化は見られなかった。完遂できた絶対的な重量や総ボリュームはデッドリフトにおいてより大きかったのにもかかわらず、中枢性の疲労に2つのエクササイズ間の違いは見られなかった。

結論・応用
スクワット後に末端の疲労がより大きかったのは、このエクササイズにおける大腿四頭筋の仕事量がより大きかったからかもしれない。これらの結果は、スクワットまたはデッドリフトを用いて筋力の向上を目指す際にピリオダイゼーション、テーパリング、そしてプログラム設計において別々に検討する必要性がないであろうことを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究で明らかになったのは、相対的な負荷が同様である場合、デッドリフトとスクワットは同様の影響を身体に与えるということです。この二つのエクササイズは高負荷で実施されることで、中枢へ影響を与え、神経筋の機能を低下させることが確認されました。

しかしながら、前述したようなデッドリフトの方がより大きな疲労を中枢系の機能に引き起こすといったことは認められませんでした。このことはBelcherらの研究でも同様の結果が出ています。中程度の重量で拳上できなくなるまでエクササイズを行い身体の反応と回復のスピードを比較した研究(4)では、スクワットとデッドリフトではほぼ同様の反応を見せ、項目によってはデッドリフトの方が身体への影響が軽かったり回復のスピードが速かったりしたとあります。

文献の筆者も述べているように、この研究の結果からピリオダイゼーションやトレーニングプログラムを作成するうえでエクササイズによって回数や負荷、または頻度などのトレーニング変数を変更する必要性はないことが明らかになりました。それぞれのエクササイズの違いを理解することで、目的や必要性に応じてトレーニングプログラムに組み込むことができるでしょう。

 

参考文献
1. Wright, G. A., Delong, T. H., & Gehlsen, G. (1999). Electromyographic Activity of the Hamstrings during Performance of the Leg Curl, Stiff-Leg Deadlift, and Back Squat Movements. Journal of Strength and Conditioning Research, 13(2), 168–174
2. Hales, M. E., Johnson, B. F., & Johnson, J. T. (2009). Kinematic analysis of the powerlifting style squat and the conventional deadlift during competition: is there a cross-over effect between lifts? Journal of Strength and Conditioning Research, 23(9), 2574–2580
3. Choe, K. H., Coburn, J. W., Costa, P. B., & Pamukoff, D. N. (2018). Hip and Knee Kinetics During a Back Squat and Deadlift. Journal of Strength and Conditioning Research, XX(X): 000–000, 2018
4. Belcher, D. J., Sousa, C. A., Carzoli, J. P., Johnson, T. K., Helms, E., Visavadiya, N. P., … Zourdos, M. C. (2019). Time Course of Recovery is Similar for the Back Squat, Bench Press, and Deadlift in Well-Trained Males. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism