HPCスタッフコラム

2019.10.03

カフェインと筋肉痛

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カフェインは、一般的な飲料(コーヒーやお茶類、エナジードリンク)などに多く含まれ、古くからその効用が研究されてきています。特に、スポーツの分野ではその興奮作用からパフォーマンス向上薬物(PED:Performance Enhancing Drug)としてその効果が検証されてきました。カフェインはWADA(世界アンチ・ドーピング機構)の禁止薬物リストには掲載されていませんが、その使用を監視する必要があるとのことでWADAのモニタリングプログラム(1)に含まれる薬物の一つとなっています。

カフェインはその効能と食品などから摂取できることからこれまで数多くの研究が成されてきています。カフェインの摂取により有酸素持久力のパフォーマンスが向上し(2)、また、Astorinoらによるシステマチックレビュー(3)によれば、レジスタンストレーニングにおけるトルク、回数、拳上重量が向上すると報告されています。

今回紹介する論文は、レジスタンストレーニングによって起こる筋肉痛に対するカフェインの効果を検証しています。

 

The effect of caffeine ingestion on delayed onset muscle soreness.
遅発性筋肉痛に対するカフェイン摂取の効果

Hurley, CF, Hatfield, DL, and Riebe, DA.

J Strength Cond Res 27(11): 3101–3109, 2013

目的
有酸素運動やレジスタンストレーニングのパフォーマンスに対するカフェインの有効性は研究で充分に証明されている。しかし、エクササイズ中の痛みや不快感を減少させるカフェインの潜在的な効果についてはあまり解明されていない。さらに、遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset of Muscle Soreness)に対するカフェインの効果についての情報はない。この研究の主な目的は、肘関節の屈曲・伸展エクササイズ後の筋肉痛、血液中の酵素活性、そしてパフォーマンスに対するカフェインの効果を検証することである。

被験者
日常的にカフェイン摂取の少ない男性9名(体重:76.68±8.13 kg、身長:179.18±9.35 cm、年齢:20±1歳)

方法
日常的にカフェイン摂取の少ない男性9名が、プリーチャーカール台でのバイセップスカールを4セット10回行った後の5セット目に拳上できなくなるまで行い、その一時間前にカフェインまたはプラセボのどちらかを摂取するよう無作為に振り分けられた。筋肉痛と触診時の痛みの強度を、エクササイズ前、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後及び120時間後に0から10までの視覚的アナログスケールを用いて評価した。成分を体内から流出させる期間を設けた後、被験者は方法を入れ替え、もう一方の介入グループで同様に行った。

結果
カフェインの摂取によりプラセボ群と比較して2日目と3日目において有意に筋肉痛が弱かった(p≤0.05)。プラセボと比較して、エクササイズの最終セットでの総回数がカフェインの摂取により増加した。

結論・応用
この研究は上半身のレジスタンストレーニングの直前のカフェインの摂取がパフォーマンスを向上させることを示した。エクササイズ後の数日間にわたってカフェインを継続して摂取することによるさらなる効果としてDOMSの軽減が見られた。強度の高いレジスタンストレーニング後の数日間の筋肉痛が軽減することで、一定の期間に行えるトレーニングセッションの回数を増やすことができるであろう。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究でもAstorinoらのレビュー(3)と同様にカフェインの摂取により、実施エクササイズの総回数が増加しました。またエクササイズ後において、継続的にカフェインを摂取することで筋肉痛が軽減しました。本文では、筋損傷マーカーの一つである血中のクレアチンキナーゼ(CK:Creatine Kinase)の量は両グループともに差がなかったと報告しています。これらのことから、カフェインはその興奮作用により疲労や痛覚を軽減させることでレジスタンストレーニングでより多くのボリュームを行えたり、筋肉痛の感覚を鈍くさせたりすることが考えられます。

カフェインの摂取でレジスタンストレーニングにおいて総ボリュームを増加させトレーニング効果を増加できることが示されました。また筋肉痛を軽減させる効果もあることが示唆されましたが、血中のCKには作用しないことから組織的な回復が早くなっているわけではないようなので注意が必要です。

 

参考文献
1. World Anti-Doping Agency (2019). The 2019 Monitoring Program [PDF]. Retrieved from https://www.wada-ama.org/sites/default/files/wada_2019_english_monitoring_program.pdf
2. Ganio, M. S., Klau, J. F., Casa, D. J., Armstrong, L. E., & Maresh, C. M. (2009, January). Effect of caffeine on sport-specific endurance performance: A systematic review. Journal of Strength and Conditioning Research
3. Astorino, T. A., & Roberson, D. W. (2010). Efficacy of acute caffeine ingestion for short-term high-intensity exercise performance: A systematic review. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(1), 257–265