HPCスタッフコラム

2020.02.13

足関節の背屈制限とスクワット時の床反力の非対称性

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過度な非対称性はけがのリスク要因になるだけでなく(1)、パフォーマンスにマイナスの影響を与える要因にもなるとも報告されています(2)。この非対称性には筋力やパワー発揮をはじめ、可動域や動作の速度、柔軟性などが含まれます。しかし、非対称性には様々な要素が絡み、またその範囲も多岐にわたることから、非対称性を対象にした研究の結果は一貫しておらず、どのような非対称性がパフォーマンスに対して影響を及ぼすかは明確には示されていません。

今回紹介する研究では関節可動域に非対称性に着目しており、片側の可動域制限が両側性のスクワット中の床反力にどのような影響を及ぼすかを検証しています。

 

Restricted unilateral ankle dorsiflexion movement increases interlimb vertical force asymmetries in bilateral bodyweight squatting.
制限された片側の足関節背屈動作が自体重のスクワット中における下肢間の垂直方向の力の非対称性を増加させる。

Crowe, MA, Bampouras, TM, Small, K, and Howe, LP.

J Strength Cond Res 34(2): 332–336, 2020

目的
この研究の目的は足関節背屈可動域(DF-ROM:Dorsiflexion Range of Motion)の片側の制限が下肢間の垂直方向の床反力(vGRF:vertical Ground Reaction Force)の対称性に与える影響を調査することである。

被験者
20名の健康で活動的な成人(男性10名、女性10名、年齢:23±3歳、身長:1.72±0.1 m、体重74.9±20.3 kg)

方法
20名の被験者がそれぞれ、裸足での自体重のスクワット(コントロール群)と人工的に足関節の背屈制限を再現するために特注の10度のくさびを右足の下に入れた自体重のスクワット(くさび群)を3回ずつ行った。力のデータを用いて両側性のスクワットにおける下降局面上部、下降局面下部、上昇局面下部、および上昇局面上部の非対称の指標の平均スコアを計算した。

結果
条件間での各局面の比較で有意な差が見られ、効果量は0.7から1.1の範囲であった。非対称性の指標のスコアは、すべての局面においてくさび群の制限されていないほうの脚でより大きなvGRFが生じたことを示した。

結論・応用
したがって、下肢間の足関節背屈可動域の差は、両側性のスクワット中のvGRFの下肢間の非対称性を引き起こす。かくして、スクワットのメカニクスに非対称性があるアスリートは、足関節背屈可動域の下肢間の差が要因であるかどうかを確認するためにその可動域を調べるべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

くさびを入れることでスクワットのキネマティックスにどのような変化が現れたかは明記されていなかったので、結果としてスクワットのフォームが変化したかはわかりません。しかし、足関節の背屈が制限されることで、結果下腿の前方への傾きが制限されることが考えられます。そして、制限のある側の床反力の増加はこのようなスクワットのメカニクスの変化が影響していると考えられます。

Fongら(3)によると、足関節背屈可動域は着地時の膝関節の屈曲角度と正の相関関係があり、また床反力と負の相関関係が示されたと報告しています。つまり、足関節の背屈可動域が大きいほど着地時に膝の屈曲が大きくなり、同時に、着地時にかかる力の最大値が小さくなるということです。

これらのことから、足関節の背屈制限は自体重のスクワットだけでなく、跳躍動作の着地時にも床反力や動作に影響を与えることがわかります。傷害予防の観点から、片側に過度の負担をかけないよう、着地や方向転換などの動作が頻繁に行われるスポーツや、スクワットを高負荷で行うことがあるときは足関節の背屈可動域を確認し、左右の差が適度な範囲内に収まっていることを確認することが重要でしょう。

 

参考文献
1. Hewit, J., Cronin, J., and Hume, P. (2012). Multidirectional leg asymmetry assessment in sport. Strength and Conditioning Journal 34, 82–86
2. Bishop, C., Turner, A., and Read, P. (2018). Effects of inter-limb asymmetries on physical and sports performance: a systematic review. Journal of Sports Sciences 36, 1135–1144
3. Fong, C.M., Blackburn, J.T., Norcross, M.F., McGrath, M., and Padua, D.A. (2011). Ankle-dorsiflexion range of motion and landing biomechanics. Journal of Athletic Training 46, 5–10