HPCスタッフコラム

2020.03.05

エクササイズによるハムストリングスの筋活性の違い

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多関節筋は複数の関節にまたがる筋であり、近位の関節と遠位の関節でそれぞれの機能があります。その多関節筋の代表的なものがハムストリングスでしょう。ハムストリングスは大腿二頭筋(長頭、短頭)、半腱様筋および半膜様筋からなり、似たような役割を担いますが少しずつその機能は異なります。Mendiguchiaら(2)は、股関節伸展筋としてハムストリングを動員するランジと膝関節屈曲筋としてハムストリングを動員するレッグカールを比較してエクササイズによって運動後の筋の変化に差異が出ることを示しました。

今回紹介する研究はMendiguchiaら(2)と同様に股関節伸展エクササイズと膝関節屈曲エクササイズそれぞれにおけるハムストリングスの部位ごとの筋活動を、筋電図を用いて検証しています。

 

Regional differences in muscle activation during hamstrings exercise.
ハムストリングエクササイズ中の筋活性の局所的な差異

Schoenfeld, BJ, Contreras, B, Tiryaki-Sonmez, G, Wilson, JM, Kolber, MJ, and Peterson, MD.

J Strength Cond Res 29(1): 159–164, 2015

目的
筋における局所的な活性は、活性された部分の筋の部位特異的な筋のより良い適応につながると信じられている。ハムストリングは多関節筋であるため、動作の起点が股関節または膝関節にある単関節エクササイズは筋複合体の異なる活性につながると理論立てられている。この研究の目的は、内側および外側のハムストリングの近位と遠位の筋電活性を股関節優位であるスティフレッグドデッドリフト(SLDL:Stiff-Legged Deadlift)、および膝関節優位の伏臥位でのレッグカール(LLC:Lying Leg Curl)を行っている最中に評価した。

被験者
10名の若い成人男性(年齢:23.5±3.1歳)

方法
10名の若いレジスタンストレーニング経験のある男性が大学生の個体群から選ばれこの研究に参加した。被験者内比較を用いて、参加者はSLDLおよびLLCを夫々のエクササイズの8RM(Repetition Maximum)に相当する負荷で遂行できなくなるまで行った。エクササイズを行う順番は半分がSLDLを最初に行い、もう半分がLLCを最初に行うというように、被験者間で平衡するようにした。外側ハムストリング上部および下部、内側ハムストリングの上部と下部の標準化された筋活動の平均値を記録するために表面筋電図が用いられた。

結果
結果はSLDLと比較してLLCが外側ハムストリング下部および内側ハムストリング下部の有意により大きな標準化された平均筋活動値を示した。

結論・応用
これらの結果は、エクササイズの選択によってハムストリングを局所的にターゲットにできるという考えを支持する。筋活性の違いが筋複合体におけるより大きな適応につながるかどうかを特定するにはさらなる研究が必要である。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、同じハムストリングスを対象としたエクササイズでも、主となる関節動作が膝関節の屈曲の場合は内側と外側のハムストリングスの下部により大きな筋活性が見られました。またハムストリングスの上部では内側、外側共にエクササイズ間の有意な違いは見られませんでした。これについてはMendiguchiaら(2)も同様の結果を示し、膝関節屈曲をメインとするエクササイズのほうがハムストリングスの全体に対して負荷がかかり、股関節伸展エクササイズにおいては近位部により負荷がかかることを示しました。

また、この研究の著者らはこれらの筋活性の違いが筋の適応にどのような変化を及ぼすかについてさらなる研究が必要であるとしていますが、Wakaharaら(1)によると、局所的な筋肥大の適応の差は局所的な筋活性の差によると言及しています。したがって、今回紹介した研究によって示された筋活性の違いによって、ハムストリングスの筋群の筋肥大についての適応もエクササイズによって特異的になると考えられます。筋力についての適応に関してはさらなる研究が必要でしょう。

 

参考文献
1. Wakahara, T., Miyamoto, N., Sugisaki, N., Murata, K., Kanehisa, H., Kawakami, Y., Fukunaga, T., and Yanai, T. (2012). Association between regional differences in muscle activation in one session of resistance exercise and in muscle hypertrophy after resistance training. European Journal of Applied Physiology 112, 1569–1576
2. Mendiguchia, J., Garrues, M.A., Cronin, J.B., Contreras, B., Los Arcos, A., Malliaropoulos, N., Maffulli, N., and Idoate, F. (2013). Nonuniform changes in MRI measurements of the thigh muscles after two hamstring strengthening exercises. Journal of Strength and Conditioning Research 27, 574–581