HPCスタッフコラム

2020.04.21

エクササイズの可動域とdetraining

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今回の研究では2つのトピックについて同時に検証しています。一つ目はレジスタンスエクササイズ中の可動域が筋の構造や能力に与える影響です。これについてはいくつかの先行研究があり、上半身、下半身ともに広い可動域でトレーニングを行ったほうが、筋量(筋の厚さや横断面積で表される)や筋量の増加が有意に大きかったと報告されています(1、2)。今回の研究ではさらに、筋の構造(羽状角や繊維束長)や皮下脂肪への影響も検証されています。

二つ目が、異なる可動域のトレーニングによって得られた効果がどのように持続するかを比較しています。Detraining(トレーニングの休止)によって筋力や筋の構造などにどのような変化がもたらされるか、さらには異なる可動域を用いることによってその変化に差は生まれるかどうかを検証しています。

 

Impact of range of motion during ecologically valid resistance training protocols on muscle size, subcutaneous fat, and strength.
生態学的に妥当なレジスタンストレーニング中の可動域が筋のサイズ、皮下脂肪及び筋力に与える影響

McMahon, GE, Morse, CI, Burden, A, Winwood, K, and Onambélé, GL. 

J Strength Cond Res 28(1): 245–255, 2014

目的
異なるレジスタンストレーニング(RT:Resistance Training)のキネマティックスを用いる、それによってRTのメカニクスが変化することの影響とその後の適応に対する効果についての報告は多くない。この研究の目的は大きな可動域でのトレーニング(LR:Long Range)を、狭い可動域でのトレーニング(SR:Short Range)と比較したときの差異と、トレーニングの休止による変化の時間経過を明らかにすることである。

被験者
26名の被験者(男性14名、女性12名。年齢範囲:18~26歳)

方法
LR群(n = 8、男性4名、女性4名)とSR群(n = 8、男性4名、女性4名)に属した趣味で身体活動を楽しむ被験者がが8週間のRTと4週間のトレーニングの休止期間に参加した。筋のサイズ、構造、皮下脂肪、筋力を0週目、8週目、10週目、12週目に測定した(反復測定)。コントロール群(年齢23±2.4歳、n = 10、男性6名、女性4名)も同期間に観察された。

結果
トレーニング前後の有意な差(p<0.05)が、筋力(角度間平均で4±2% vs 18±2%)、遠位の解剖学的横断面積(16±10% vs 59±15%)、繊維束長(10±2% vs 23±5%)および皮下脂肪(22±8% vs 5±2%)にみられ、LRがSRと比較してより大きな適応を見せた(LR vs SR)。トレーニングの休止は、両群において、筋のすべてのパラメターの低下につながり、SR群にはLR群よりもトレーニングによって増加した筋力のより急速な損失がみられた(p<0.05)。

結論・応用
LR群におけるより大きな形態的及び構造的なRTによる適応(より高い力学的なストレスによる)は、SR群のと比較してより著しい筋力の向上につながった。この研究の実践的に意義として、筋力と筋肥大の向上が目的のRTにおいてはLR(大きな可動域)がより用いられるべきということであり、なぜならより大きな外的な負荷のためにROM(Range of Motion:可動域)が犠牲になるべきではないことが示されたからである。

オリジナルの文献はこちら

 

今回使用されたエクササイズは膝関節を主としたもので、バックスクワットやレッグプレスの他に片脚種目のランジやスプリットスクワットなどが含まれていました。使用された負荷はそれぞれの可動域での最大挙上重量に基づいたもの(80%)で相対的に等しい負荷を用いています。

その結果、どの項目においても広い可動域でトレーニングを行ったほうがトレーニング効果が大きかったことが示されました。他の研究(1、2)と同様に、やはり可動域を広く用いたほうが筋力や筋の構造に対するトレーニング効果が高いことが示されました。

この研究の結果でさらに興味深いことは、Detrainingによって筋力はどちらのグループにおいても低下したものの大きな可動域で行ったグループの低下率が低かったことです。Detrainingよる減退効果は筋力のみならず、有酸素能力にも及び、心拍出量の低下(3、5)に加え筋中のミトコンドリアによるATP生成能力の低下など(4)が原因にあげられるようです。また、筋に関することでは、Detrainingの効果は筋のサイズに顕著に表れるようであり、筋力についての低下は比較的ゆっくりのようです(4、5)。今回紹介した研究ではDetrainingによる筋サイズの低下には有意な差はみられませんでしたが、両群ともにトレーニング休止によって低下しました。筋力については、SR群は4週間のDetrainingによってトレーニング開始前まで戻ってしまいましたが、LR群はトレーニング開始前よりも有意に高い筋力を維持してたことが示されました。

絶対的な負荷が小さくてもより大きな可動域でトレーニングを行うことでトレーニング効果が大きくなり、さらに、そのトレーニング効果(筋力)もより長く維持されるでしょう。

 

参考文献
1. Pinto, R.S., Gomes, N., Radaelli, R., Botton, C.E., Brown, L.E., and Bottaro, M. (2012). Effect of range of motion on muscle strength and thickness. Journal of Strength and Conditioning Research 26, 2140–2145
2. Bloomquist, K., Langberg, H., Karlsen, S., Madsgaard, S., Boesen, M., and Raastad, T. (2013). Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations. European Journal of Applied Physiology 113, 2133–2142
3. Neufer, P.D. (1989). The Effect of Detraining and Reduced Training on the Physiological Adaptations to Aerobic Exercise Training. Sports Medicine 8, 302–320
4. Mujika, I., and Padilla, S. (2001). Muscular characteristics of detraining in humans. Medicine and Science in Sports and Exercise 33, 1297–1303
5. Mujika, I., and Padilla, S. (2000). Detraining: Loss of Training-Induced Physiological and Performance Adaptations. Part I. Sports Medicine 30, 79–87