HPCスタッフコラム

2020.04.24

コアの機能とパフォーマンス

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コア、体幹筋群、の機能やトレーニング方法については決定的なエビデンスが少なく(1)、どのようなトレーニング方法が最もスポーツパフォーマンスの向上にとって効果的であるかについては多くの議論が行われています。これまでも多くの研究が、コアの能力(筋力、持久力、安定性など)と身体パフォーマンスとの関係性を検証してきました。Sharrockら(2)やNesserら(3)、そしてOkadaら(4)はコアの安定性のトレーニングの効果やそのスポーツパフォーマンスとの関連性を検証しましたが、いずれの研究でもコアのトレーニング効果や関連性は強くないものでした。

今回紹介する研究は、安定性ではなくメディシンボールを用いた機能的な筋力とスポーツパフォーマンスとの関係性を検証し、またコアの機能的な筋力を測定するためのフィールドテストの検討をしています。

 

Effect of core strength on the measure of power in the extremities.
四肢のパワー計測に与えるコアの筋力の影響

Shinkle, J, Nesser, TW, Demchak, TJ, and McMannus, DM.

J Strength Cond Res 26(2): 373–380, 2012

目的
この研究の目的はa)コア筋群の役割とアスリートおけるコア筋群がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響を評価するための機能的フィールドテストを開発する、そしてb)下肢から上司へとどの程度コアが力を伝達できるかを評価する機能的フィールドテストを開発する、ことである。

被験者
NCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学スポーツ協会)ディビジョン1に所属するアメリカンフットボール選手25名(体重:106.2±20.9 kg、身長:184±4.6 ㎝、年齢:19.0±1.1 歳)

方法
25名のディビジョン1でプレーする大学アメリカンフットボール選手が静的及び動的なポジションでメディシンボールスロー(前方、後方、右及び左方向)を行った。メディシンボールスローの結果を様々なスポーツパフォーマンスの測定値(スクワットの最大挙上重量(1RM)、スクワットの体重比(kg/BW)、ベンチプレスの1RM、ベンチプレスの体重比、反動を用いた垂直飛び(CMJ;Countermovement Jump)、40ヤード走(40 yd)、およびプロアジリティ(PrA))と比較した。プッシュプレスのパワー(PWR)を身体を通した力の伝達の測定値として用いた。

結果
静的及び動的なメディシンボールスローの両方でパフォーマンスの計測値と比較したときにいくつかの相関関係が見つかった。静的な後方へのスローはCMJ(r=0.44)、40 yd(r=0.5)及びPrA(r=0.46)と相関があった。静的な左方向へのスローはベンチプレスの体重比(r=0.42)、CMJ(r=0.44)、40 yd(r=0.62)、およびPrA(r=0.59)と相関があった。静的な右方向へのスローもベンチプレスの体重比(r=0.41)、40 yd(r=0.44)およびPrA(r=0.65)と相関があった。動的な前方へのスロー(DyFw)はスクワットの1RM(r=0.45)及びベンチプレスの1RM(r=0.41)と相関があった。動的な左及び右方向へのスローはCMJ(それぞれr=0.48とr=0.40)と相関があったプッシュプレスのパワーはベンチプレスの体重比(r=0.50)、CMJ(r=0.48)、およびPrA(r=0.48)と相関があった。PRP予測のためのステップワイズ回帰によってスクワットの1RMが最も正確な予測因子であることが明らかになった。

結論・応用
この研究の結果は、コアの筋力はアスリートの力を発揮し四肢へ伝達する能力に著しい影響があることが示された。現在では、プランク系のエクササイズがアスリートに対してコアの筋力や安定性を向上させるコアのトレーニングに適した方法であると考えられている。これは問題であり、何故ならこのようなエクササイズはスポーツに関連した動作において再現されるのは非常にまれな非機能的な性的なポジションを取らせるからである。コアは身体の運動連鎖の中心であり、それに応じてトレーニングされるべきである。

オリジナルの、文献はこちら

 

この研究の著者らがメディシンボールエクササイズのパフォーマンスをコアの筋力の指標として用いたのは、プランクや前述の研究で用いられたエクササイズ(McGillによるプロトコル(5))は実際のスポーツにおいては起こりえない非機能的な動作であるためと記しています。しかし、この研究で得られた相関係数は強いものでも0.65でそのほかは0.4~0.5となっています。また、安定性を指標として用いた他の研究(3、4)でも相関係数は0.37~0.6と報告されています。今回の研究で用いられた方法及び従来のコアの能力とスポーツパフォーマンスとの関係性はいずれも強くありません。このような結果が出た要因の一つに、コアの筋群の機能の複雑性があげられると考えられます。いまだにコアの筋群や機能の明確な定義はなく、またその機能の評価も単に特定のポジションを維持するだけであり、様々な筋からなるコアの機能を本当の意味で評価できていないのでしょう。さらに様々な筋の貢献があることから同じ姿勢を保持するのであってもそれぞれの貢献度には個人差があることが考えられます。

Okada(4)やNesser(3)はコアの重要性は必然であるが、それをトレーニングプログラムの主な目的とするのは適切ではないとしています。さらに、Okadaらは、自身の研究でコアの安定性とパフォーマンスとの関係性が弱かったことから、コアのトレーニングは静的なポジションではなく、パフォーマンスにより特異的な動的なポジションで行うことが推奨されるとしています(4)。

プランクなどの静的なポジションを維持するようなコアのトレーニングは、コアの筋群のトレーニングにはなりますが、スポーツパフォーマンス向上のためにはより特異的で強度の高い動的なエクササイズの選択が必要となってくるでしょう。

 

参考文献
1. Wirth, K., Hartmann, H., Mickel, C., Szilvas, E., Keiner, M., and Sander, A. (2017). Core Stability in Athletes: A Critical Analysis of Current Guidelines. Sports Medicine 47, 401–414
2. Sharrock, C., Cropper, J., Mostad, J., Johnson, M., and Malone, T. (2011). A pilot study of core stability and athletic performance: is there a relationship? International Journal of Sports Physical Therapy 6, 63–74
3. Nesser, T.W., Huxel, K.C., Tincher, J.L., and Okada, T. (2008). The relationship between core stability and performance in division i football players. Journal of Strength and Conditioning Research 22, 1750–1754
4. Okada, T., Huxel, K.C., and Nesser, T.W. (2011). Relationship between core stability, functional movement, and performance. Journal of Strength and Conditioning Research 25, 252–261
5. McGill, SM. Low Back Disorders. Evidence-Based Prevention and Rehabilitation. Champaign: Human Kinetics, 2002