HPCスタッフコラム

2020.05.01

挙上限界までのトレーニング

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挙上限界後にさらに補助者の助けを借りて2~3回行うフォースドレップ法など、トレーニングにおいて挙上限界まで回数を行うことがあります。このことに対していくつかの研究が行われています。ベンチプレスを対象にした研究(4)では挙上限界(Muscle Failure)まで行うトレーニングとそうでないトレーニングをした場合、両群ともに筋力とパワーを向上させましたが、挙上限界まで行ったグループのほうが、増加が大きかったと報告しています。

しかし、ほかの研究(1、2、3)ではこれらの同様のトレーニングを比較したところ、その効果に際はなかったり、決められた回数を行ったグループのほうが効果が高かったりと、相反する研究結果が出ています。

今回紹介する研究では、トレーニング経験の少ない被験者を対象にし、挙上限界まで行うトレーニングと決められた回数を同等数おこなうトレーニングとを同一被験者内の比較をもって検証しています。

 

Is performing repetitions to failure less important than volume for muscle hypertrophy and strength?
筋肥大や筋力向上に対して挙上限界まで続けることはボリュームをこなすことよりも重要ではない?

Lacerda, LT, Marra-Lopes, RO, Diniz, RCR, Lima, FV, Rodrigues, SA, Martins-Costa, HC, Bemben, MG, and Chagas, MH.

J Strength Cond Res 34(5): 1237–1248, 2020

目的
この研究の目的は、挙上限界まで続ける(MF:Muscle Failure)またはその前で止める(NMF:Not to Muscle Failure)方法でトレーニングを行うことで相対的な筋力及び筋肥大の増加値(平均と個々のデータ)に与える効果を検証することである。

被験者
レジスタンストレーニングを行っていない成人男性10名(年齢:23.7±4.9歳、身長1.77±0.09 m、体重80.1±20.1 kg、体脂肪率:20.5±8.5 %)

方法
10名のレジスタンストレーニングを行っていない男性が研究に参加した。各脚を二つの膝関節伸展エクササイズの片側性トレーニング(ボリュームを統一したMFまたはNMF)のうちの一つにあてがった。両方のトレーニングにおいて3分間のレストを挟んで3~4セット行い、最大挙上重量(1RM)の55~60%を用いた。大腿直筋及び外側広筋の横断面積(CSA:Cross Sectional Area)、最大筋力(1RM及び自発性アイソメトリック筋力)及び筋持久力(最大反復回数)を14週の前後で評価した。加えて、標準化した筋電図の信号の二条平均平方根(EMGRMS:Root Mean Square of the Electromyographic signal)による筋の活動量をトレーニングセッションの2回目と35回目に計測した。

結果
結果の平均値は両方のトレーニングが筋力の向上と筋肥大を引き起こすのに同様に効果的であったことを示した。しかし、個々の分析データはボリュームが均一のNMFトレーニングはMFトレーニングと比較して同様または優れた筋肥大(外側広筋)及び筋持久力のパフォーマンスを促進することを示唆した。さらに、2回目と35回目のセッション時における標準化されたEMGRMS反応の分析は、大腿直筋と外側広筋においてMFとNMFトレーニングにおいて同様であった。

結論・応用
結論として、同じ総レップ数で行ったMF及びNMFトレーニングは同様の最大筋力のパフォーマンスと筋活動を引き起こした。しかしながら、NMFトレーニングは、MFと比較したとき、筋肥大(外側広筋)を増加させるより適切な方法になりえる。

オリジナルの文献はこちら

 

本文ではトレーニング中のRPE(自覚的運動強度)についての記載もありました。RPEはMF側がNMF側よりも有意に高かったと報告がされており、同じボリュームを行った場合でも自覚的な強度はMFまでトレーニングしたほうが当然高くなっていましたが、総合的な結果には大きな差異はなく、それどころか外側広筋の筋肥大はNMF側のほうが大きかったとしています。

また、筋持久力に関しては群間の有意な差はありませんでしたが、被験者個々の分析の結果、NMF側が向上した被験者が10人中5人、差異なしが4人、MF側が向上したのが1人となりました。挙上限界までトレーニングを行わないほうが効果的である傾向が示されました。

この研究は下肢の単関節エクササイズを用いており、上肢やより複合的なエクササイズにおける反応は今後検証される必要があるでしょう。しかし、ほかの研究(1、2、3)でも示されましたが、この研究でも、トレーニング初心者に対して、処方されたレップ数やボリュームをしっかりと完遂することでトレーニング効果を高めることができることが示されました。

参考文献
1. Izquierdo, M., Ibañez, J., González-Badillo, J.J., Häkkinen, K., Ratamess, N.A., Kraemer, W.J., French, D.N., Eslava, J., Altadill, A., Asiain, X., et al. (2006). Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains. Journal of Applied Physiology 100, 1647–165
2. Wlllardson, J.M., Emmett, J., Oliver, J.A., and Bressel, E. (2008). Effect of short-term failure versus nonfailure training on lower body muscular endurance. International Journal of Sports Physiology and Performance 3, 279–293
3. Nobrega, S.R., Ugrinowitsch, C., Pintanel, L., Barcelos, C., and Libardi, C.A. (2018). Effect of resistance training to muscle failure vs. volitional interruption at high-and low-intensities on muscle mass and strength. Journal of Strength and Conditioning Research 32, 162–169
4. Drinkwater, E.J., Lawton, T.W., Lindsell, R.P., Pyne, D.B., Hunt, P.H., and McKenna, M.J. (2005). Training leading to repetition failure enhances bench press strength gains in elite junior athletes. Journal of Strength and Conditioning Research 19, 382–388