HPCスタッフコラム

2020.05.22

視覚的なアセスメントでけがを予測できるか?

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スポーツの現場では、選手のけがを予防するために様々な取り組みがなされています。その一つが選手のスクリーニングであり、選手の姿勢や機能性などを評価することで問題点を洗い出し、改善に向けて取り組むことができます。代表たる例がFMS(Functional Movement Screen)であり、プロや大学のチームを対象にけがの発生との関係性を検証した研究が多く行われてきました。

FMSに関するメタ分析(1)では、FMSのスコアとその後のけがの発生との関係性は弱いため、けがを予測するためのツールとして用いることは推奨しないとしています。しかし、多くの研究ではFMSの総合スコアを評価対象にし、個別のエクササイズやさらに細かな評価項目に着目したものは多くありません。

今回の研究では、研究者らが機能性を評価するために適していると判断したオーバーヘッドスクワット、片脚スクワット、そして交互のコアプッシュアップを用いて、これらのエクササイズのパフォーマンスによってけがを予測できるかを検証しています。

 

Can a standardized visual assessment of squatting technique and core stability predict injury?
スクワットテクニックとコアの安定性の標準化された視覚的なアセスメントはけがを予測できるか?

O’Connor, S, McCaffrey, N, Whyte, EF, and Moran, KA.

J Strength Cond Res 34(1): 26–36, 2020

目的
この研究では、スクワットのテクニックとコアの安定性の標準化された視覚的なアセスメントがけがを予測できるかを検証した。
被験者
少年男子(n=292、年齢=15.7 ± 0.7歳、身長=1.76 ± 0.08 m、体重=67.5 ± 10.0 kg)及び男子大学生(n=342、年齢19.4 ± 1.9歳、身長=1.8 ± 0.07 m、体重=77.6 ± 9.3 kg)のゲーリックフットボール選手及びハーリング選手。

方法
少年及び大学の男子ゲーリックスポーツ選手(n=627)を、交互のコア・体幹スタビリティプッシュアップテスト及び考案したオーバーヘッドスクワット及び片脚スクワット(SLS:Single-Leg Squat)のスコアシステムを用いて評価し、総合的な印象と部位ごとの基準を検証した。3つすべての測定の総合的な印象スコアから一つの合計スコアを計算した。シーズンを通してけがの発生を調査した。

結果
結果は、合計スコアは下肢、体幹、または全身における傷害を負った選手を予測することはできず、また、受診者動作特性曲線によっても予測の適切なカットオフ点を作成することはできないことを示した。多変量解析によって部位別の基準を含んだ時、これらの測定は全身(p<0.0001)及び下肢(p<0.0001)のけがを予測することができた。しかし、特異度が高かったのにも関わらず(80.6%、76.5%)、モデルの感度は低かった(40.2%、44.2%)。オーバーヘッドスクワット(46.4%)とSLS(47.6%)において最も共通していたスコアは「良」、交互のコアスタビリティプッシュアップでは「良」(33.5%)と「優」(49.1%)であり、コアスタビリティが「劣」の時に下肢の傷害が発生する確率が増加した(オッズ比=1.52「95%信頼区間=0.92-2.51」)。

結論・応用
この結果は、部位別のスコアがストレングス&コンディショニングコーチや医療従事者によって取り入れられることもできるが、より徹底的なアセスメントを必要とする選手を見出すための予備的なスクリーニングのツールとして主に利用されるべきであることを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、総合的なスコアに、各テストにおける部位別の評価を加味したとき、全身と下肢のけがの予測に有意性がみられましたが、高特異度、低感度であったと報告しています。つまり、リスクの少ない人を正しく見極める可能性は高いものの、偽陰性率、実際にけがのリスクが高い人もそうでないと判断される可能性、が高いため、けがを予測するためのスクリーニングとしては十分なものではないかもしれません。

しかし、そんな中でもオッズ比をみると、オーバーヘッドスクワット中の膝の外反がある選手は全身、下肢、及び体幹のけがの発生が2.39~2.88倍高かったことも示されています。しかし、スポーツにおけるけがは様々な要因を総合てきに鑑みる必要がある(2)ため、一つの評価項目で断定的な判断を下すことはできないでしょう。

視覚的な動作の評価は、低コストで行うことができる反面、測定者の習熟度などによることもあり、断定的な導入には至っていません。けがを予測するためのより正確なツールとして活用されるには、このような評価方法は今後も様々な動作や評価項目が検証される必要があるでしょう。

 

参考文献
1. Moran, R.W., Schneiders, A.G., Mason, J., and Sullivan, S.J. (2017). Do Functional Movement Screen (FMS) composite scores predict subsequent injury? A systematic review with meta-analysis. British Journal of Sports Medicine 51, 1661–1669
2. Meeuwisse, W.H. (1994). Assessing causation in sport injury: A multifactorial model. Clinical Journal of Sport Medicine 4, 166–170