HPCスタッフコラム

2020.06.26

アスリートは自身の発汗量を把握しているか?

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正常な体水分量を保つことは身体の機能を正常に保つだけでなく、スポーツのパフォーマンスを維持するためにも重要なことです。体水分量の減少によって、深部体温の上昇や心血管機能の低下などが起きるほか、持久系パフォーマンスの低下(1)や、筋力、パワーおよび高強度の持久力の低下にもつながる(2)と報告されています。このようなパフォーマンスの低下は体重の2%程度の体水分量の減少で表れてきます。

今回紹介する研究は、大学バスケットボール選手の練習今の体水分量の状態や練習中の発汗量を測定するほかに、選手の自身の発汗量の認識と実際の発汗量の差異を検証しています。

 

Hydration profile and sweat loss perception of male and female division II basketball players during practice.
ディビジョンIIの男女バスケットボール選手の体水分量と発汗量の認識

Thigpen, LK, Green, JM, and O’Neal, EK.

J Strength Cond Res 28(12): 3425–3431, 2014

目的
水分補給はバスケットボールのパフォーマンスの様々な要素に影響を与えるが、大学バスケットボール選手の体水分量について調べた研究は少ない。この研究では、NCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学スポーツ協会)ディビジョンIIバスケットボールの男性選手11名と女性選手11名の複数日にわたる練習前の水分補給状態、発汗量、水分摂取量、そして選手がどれだけ正確に発汗量を推定しているかを調査した。

被験者
NCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学スポーツ協会)ディビジョンIIバスケットボールの男性選手11名(年齢:21±1歳、身長:188±9 cm、体重:85.4±7.6 kg、体脂肪率:8.7±2.4 %)と女性選手11名(年齢:19±1歳、身長175±8 cm、体重75.3±10.1 kg、体脂肪率14.2±6.4 %)。

方法
尿比重(USG:Urine-specific gravity)を2回の練習前に任意で評価した。発汗量と水分摂取量をコンディショニング(持久系)練習(CP:Conditioning Practice)とスポーツスペシフィック(競技)練習中(SP:Sport-specific Practice)に計測した。練習後に、自身の発汗量を推定するために、1030mlのボトルに(選手自身が発汗したと思う量の)水を満たした。

結果
練習間の尿比重は中程度の相関(r=0.54;p=0.012)を示し、平均USGに男性(1.026±0.004)と女性(1.022±0.008)の差はなく、一貫して高かった(サンプルの17%=USG>1.030)。CPとSP間のアスリートの自身の発汗量の推定は強い関係性を示した(r=0.88;p<0.001)。推定の誤差は大きく(両方の練習の絶対誤差=71±52%)、誤差の方向は男性選手において大きく異なった。女性選手は発汗量を63±28%(CP)と65%±20%と一貫して少なく見積もっていた。SP中の発汗量は男性選手で2471±495 ml、女性選手で1910±441 mlであったが、練習中の多量の水分補給によって練習後の体重の減少は1.1±0.6%に制限された。

結論・応用
脱水状態は発汗量の概念の乏しさと関係していることは妥当である。この研究の方法を模倣することで常に水分補給のできているアスリートを明らかにでき、練習間の水分摂取の必要性を教育するために用いることができる。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、非常に興味深いことが所見されました。まず、練習前の選手の状態ですが、尿比重値は多くの参照値で1.020以上が脱水とされており、1.030を超えると重度の脱水と判断されます(3)。この研究の結果では、アスリートの大半が1.020以上の尿比重値を示しており、十分な体水分量を維持できていないことが示されました。また、数名の尿比重値が1.030と重度の脱水状態で練習に臨んでいました。練習間の尿比重値の相関が中程度のため、連日十分な体水分量を維持できていないとは限りませんが、多くの選手が知らず知らずのうちに脱水状態で練習に来ていたことが示されました。

また、選手が自身の発汗量を正確に把握しているかどうかも検証されましたが、多くの選手は自身の発汗量を少なく見積もっていました。夏のスポーツ(サッカー、バスケットボール、テニスなど)では一時間当たり1.37~2.6 Lの発汗があるとの報告があります(4)。この研究でも一時間当たり0.67~1.26 Lほどの発汗量が示されました。

運動時の発汗量は選手自身が認識するよりも多く、暑熱環境下ではその量も増加します。選手自身が運動中の発汗量を把握することで、運動中に十分な水分を補給に努めることができるでしょう。また、多くの選手が軽度~重度の脱水状態で練習に臨んでいたことから、練習中のみならず、一日を通しての水分補給の重要さも示されました。

 

参考文献
1. Murray, B. (2007). Hydration and Physical Performance. Journal of the American College of Nutrition 26, 542S-548S
2. Judelson, D.A., Maresh, C.M., Anderson, J.M., Armstrong, L.E., Casa, D.J., Kraemer, W.J., and Volek, J.S. (2007). Hydration and Muscular Performance. Sports Medicine 37, 907–921
3. Armstrong, L.E., Pumerantz, A.C., Fiala, K.A., Roti, M.W., Kavouras, S.A., Casa, D.J., and Maresh, C.M. (2010). Human hydration indices: Acute and longitudinal reference values. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 20, 145–153
4. Sawka, M.N., Burke, L.M., Eichner, E.R., Maughan, R.J., Montain, S.J., and Stachenfeld, N.S. (2007). Exercise and fluid replacement. Medicine and Science in Sports and Exercise 39, 377–390