HPCスタッフコラム

2020.08.04

リカバリーを促進させる要素:前半

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試合やトレーニングにおいてよいパフォーマンスを発揮するためには、前回の試合やトレーニングからしっかりと身体が回復していることが必要です。より速く身体が回復できることで、強度の高いトレーニングをより頻繁に行うことができるでしょう。それによってさらにパフォーマンスが上がるという良い循環が生まれます。そのため、よいパフォーマンスを発揮するためには、リカバリーはトレーニングと同様に重要な要素といえるでしょう。

今回のコラムでは、リカバリーについてのレビュー論文からリカバリーを向上させる要素について述べられているセクションを抜粋し、紹介します。このセクションでは主に、トレーニング間のリカバリーについて考察されており、リカバリーを促進させるための要素が解説されています。今回は、そのセクションの前半部分を紹介します。

 

潜在的にリカバリーを向上させる方法Recovery from training: A brief reviewからの抜粋)

アクティブ(積極的)vsパッシブ(受動的)
 トレーニングからのリカバリーについて近年発表された研究が数本あります。アクティブおよびパッシブなリカバリーを短期的およびトレーニングからのリカバリーの両方について検証している。トレーニングからのリカバリーの研究では、Bosakら(5)は12名の良くトレーニングされたランナーに対する5km走後のアクティブおよびパッシブなリカバリーの効果を比較した。トレーニングからのリカバリーについての以前の研究では、Bosakら(4)は、彼らが用いたレクリエーションランナーのサンプルでは24時間で完全に回復することはできなかったが、72時間で回復したことを示した。この結果を受けて、彼らはアクティブリカバリーとパッシブリカバリーを72時間の時点で比較した(5)。彼らは、アクティブリカバリーとパッシブリカバリーは同様のパフォーマンスをもたらし、付随的にこのパラダイムの試験-再試験信頼度を証明することとなった。しかし、参加者によってばらつきが起こり、一部のランナーは特定のリカバリー方法によってより大きな効果を得ていたことに気づいた。一つの研究をもとに、アクティブリカバリーが平均的にみて効果がないと示唆するのは賢明ではない。Enokaが指摘したように(11)、もし5km走には当てはまったとしても、他のトレーニングに対しては当てはまらないかもしれない。

食事、エルゴジェニックス(パフォーマンス向上物質)とトレーニングからのリカバリー
 トレーニング後に起こる筋損傷に対する一つの興味深い説明として、機械的な損傷ではなく反応性酸素種が、筋細胞の損傷の主要な原因であるというものがある。この仮説が正しいかということには関係なく、多くの研究者らは人間の生理機能に対するフリーラジカル(遊離基)の影響に関心を持っている。これは、筋の状態、このレビューにおいてはトレーニングからのリカバリー、に対する潜在的な抗酸化物質の役割に対する関心へとつながるのである。
 食生活の乱れは食事障害を引き起こし、一部のアスリートにおいて早期の疲労に貢献する可能性がある。研究者らは、対照群と比較して、持久系のアスリートはより鉄分不足に陥りやすいことを発見している(27)。鉄分は持久系アスリートにおいて発汗や排せつ、利尿によって男女それぞれ一日に1.75mgと2.3mg(参照値として1mgと1.4mg)が失われる(40)。鉄分が正常値にあることの効果は広範にわたるが、エクササイズのパフォーマンスに元も直接的に関係していることは、鉄分は酸素を運搬するタンパク質であるヘモグロビンの主要な構成要素であるということである。血液の酸素運搬能力は、最大酸素摂取量(VO2max)の主要な決定因子である。鉄分のサプリメント摂取は貧血を持つアスリートとって効果的ではあるが、貧血を持たないアスリートにとってサプリメントによる効果があるかどうかはいまだに議論の余地がある(28)。疑いもなく、相互作用のある栄養素を含むアスリートの食事に鉄分を加えることは比較的費用のかからないことである。
 クレアチンはリカバリーを補助するものとして研究されてきた。Branch(7)は、クレアチンが短時間(30秒未満)のリカバリーに効果的であることを発見したが、3分以上続く水泳やランニング競技では効果がなかった。これは、MisicとKelleyのレビュー(25)とは対照的であり、彼らは繰り返しの無酸素性パフォーマンスの向上には効果的でないことを発見した。チョウセンニンジンといった他のエルゴジェニックスは一貫して有益であるとは証明されていない(10)。一部のエルゴジェニックスは、その作用がリカバリーを促進させると主張しているため、これは重要なことである。

水分補給とトレーニングからのリカバリー
 MaughanとShirreffsがうまく述べているように、強度の高い試合やトレーニング後の体水分の回復はトレーニングからのリカバリーの総合的なプロセスの重要な要素である(23)。多くの研究者らが示したように、水分の回復は電解質の回復を必要とする。この理由から、ほとんどの水分補給についての専門家は、水分補給のための飲料にカリウムに加えて1リットルにつき50mmolかそれ以上の濃度になるようにナトリウムを含めることを推奨している。水分補給用の飲料には嗜好性を高め、即座の筋のグリコーゲン再貯蔵を促進させるために、炭水化物が含まれるべきである。補給する飲料の量はエクササイズ中に失われた量よりも多くなることが一般的に受け入れられており、なぜなら、身体は摂取した飲料を100%の効率で保持できないからである。適切な濃度の炭水化物を含み、また適度に多量の飲料は胃の通過速度を速めると一般的に言われている。

マッサージ療法
 マッサージはトレーニングからのリカバリーの手段としてアスリートに普及してきた。これは、マッサージは気持ちよく、どのスポーツ団体によって禁止されておらず、そして明らかな副作用がないことが部分的な理由であろう。これらの利点があるにも関わらず、マッサージがトレーニングからのリカバリーを促進させることに効果的であるとする提言は少ない。
 Martinら(22)は、10名の良くトレーニングされた自転車選手に対する20分間のリカバリーについて研究した。2分間の休息を挟んだ3回のウィンゲートテストによって血中乳酸値を上昇させた。パッシブな休息と比較してマッサージの効果はなかった;しかし、アクティブリカバリーによって乳酸の除去のスピードが上昇し、エクササイズ直後の乳酸値の41%まで下がり、パッシブレストやマッサージではエクササイズ直後の数値の62%まで低下した(すなわち、アクティブリカバリーは20分間で乳酸を3分の1多く低下させた)。この方法はトレーニングからのリカバリーにおける乳酸除去の役割に対する疑問を生じさせる。乳酸除去は短時間または即時のリカバリーにおいて有効的であるかもしれないが、トレーニングからのリカバリーに対してはもしかすると効果的ではないかもしれない。
 Robertsonら(31)は、ウィンゲートパフォーマンステストを用いて様々なアスリート(n=9)の乳酸除去とともにリカバリーを測定した。30秒のウィンゲートと30秒のリカバリーを6回繰り返した後、被験者は20分間のマッサージまたはパッシブレストのどちらかを行った。乳酸除去またはパフォーマンスに対する効果はなかったが、疲労指数はマッサージが30%対34%と優れていた。しかし、この研究では疲労指数は最初の5秒間と最後の5秒間の変化率で計算されていた。疲労指数は、このような短時間のテストにおいてもペース配分にある程度異存するため不確かなマーカーである可能性もある。同様に、どのように抵抗が加えられたかということも最初の5秒の平均に影響を与えることがある。
 アイスマッサージは軟部組織の怪我に対する一般的な医学療法である。HowatsonとVan Someran(16)は9名の娯楽的にトレーニングする男性に、筋肉痛を引き起こすために10回3セットの片腕バイセップスカールを7秒のエキセントリック局面を伴って行わせた。アイスマッサージまたは見せかけの超音波療法を直後、24、48、72時間後に行った。無作為クロスオーバーデザインで、血漿CK(クレアチンキナーゼ)、1RM、および遅発性筋肉痛のチェックをエクササイズの前、直後、24、48、72時間後に行った。アイスマッサージによってCKのみ72時間後に800±680 u/Lから197±56 u/L へと減少した。この研究は、このような状況下ではマッサージはトレーニングからのリカバリーに対して効果的な方法とは思えないが、リカバリーの特異性に留意しなければならないだろう。
 Weerapongら(41)は最近、マッサージとリカバリーについてのセクションを含んだマッサージの包括的なレビューを発表した。マッサージのポジティブな効果があるかもしれないと示唆する少数の研究にも拘わらず、リカバリーに対するマッサージの強い効果を示した良くデザインされた研究はないように思える。Weerapongら(41)は一部の研究が遅発性筋肉痛を効果的に軽減したことを示したと確かに報告したが、一方で他の研究ではどんな効果も見られなかった。このレビューで挙げられた一つのよい主眼点は、リカバリーに対する潜在的なマッサージの心理的な効果は無視できないということである。

Bishop, PA, Jones, E, and Woods, AK, Recovery from training: A brief review. J Strength and Cond Res 22(3): 1015–1024, 2008
オリジナルの文献はこちら

 

このセクションの後半では鎮痛剤や冷却の効果について述べられています。後半はこちらから。