HPCスタッフコラム

2020.08.11

リカバリーを促進させる要素:後半

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前回のコラムではトレーニング間のリカバリーに対する栄養やマッサージの効果などについて検証されていました。今回のコラムでは同セクションの後半を紹介します。

 

潜在的にリカバリーを向上させる方法Recovery from training: A brief reviewからの抜粋)

トレーニングからのリカバリーにおける鎮痛剤
 抗炎症作用のある鎮痛剤は、ハードなトレーニングによって生じる痛みや炎症をやわらげるためにコーチやアスリートが利用してきました。抗炎症作用が浮腫を最小限にし、鎮痛作用によって動作を大きくし、より早くトレーニングに戻ることができるという仮説のようであり、両方のケースはともに鎮痛剤のプロスタグランジンへの異なる影響による(30)。
 Semarkら(34)は、25名のラグビーとフィールドホッケーの選手に対するフルルビプロフェンの予防的服用の効果を単一盲検プラセボ対照実験によって検証した。DOMS(遅発性筋肉痛)は10回7セットのドロップジャンプによって生じさせた。大腿部の周径囲、30mスプリントテスト後の乳酸濃度、CK(クレアチンキナーゼ)、筋肉痛、およびスプリントパフォーマンスをエクササイズ前、12、24、48、および72時間後に測定した。鎮痛剤はパフォーマンスや他の変数に有意な差を生じさせることはなく、炎症のプロセスには影響ないようである。
 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)のレビューの中でLanier(20)は、NSAIDsは筋機能のトレーニングからのリカバリーを促進するために有効であると結論付けたが、NSAIDsの予防目的での使用は治療目的での使用よりもより効果的であると特筆していた
一部の調査では、非ステロイド抗炎症薬や鎮痛剤の使用によって筋肉痛(20)やクレアチンキナーゼ活動(30)の軽減が報告されている。しかし、Trappetら(39)は、イブプロフェンやアセタミノフェンの市販薬の服用量でエキセントリックエクササイズ後のたんぱく合成が抑制されたと示唆している。タンパク合成の減少ではなく増加のほうがトレーニングからのリカバリーにおいてより有効的のように思える。

クライオセラピー(冷却療法)とトレーニングからのリカバリー
 EstonとPeters(12)は。15名の女性におけるリカバリー療法としての冷水浴の研究を被験者間研究デザインで行った。秒速0.58ラジアン(秒速約33度)の速度で5回8セットの肘屈曲動作でDOMSを引き起こした。クライオセラピー療法のグループはエクササイズ終了直後とその後12時間間隔で6回、エクササイズを行った腕を15度の水に15分間浸した。弛緩時の肘の角度、およびCK上昇量はエクササイズ後の2日目と3日目にクライオセラピーグループで小さかったが、筋の敏感さ、浮腫、およびアイソメトリック筋力は、エクササイズ後3日間において差異がなかった。
 我々の研究室からは、Bosakら(6)が12名のトレーニングを積んだランナーの5kmのパフォーマンスを、24時間のトレーニングからのリカバリーでの冷水浴の有無で比較した。介入の反復測定は平衡させ、通常のトレーニングをしながら6~7日の間隔をあけた。冷水浴群のランタイムはベースライン値から有意な変化はなかった(p=0.09)が、コントロール群のランタイムはベースライン値よりも有意に(p=0.03)遅かった。しかしながら、これらの差は大きくなかった。ラン終了時の自覚的運動強度は冷水浴群のほうがコントロール群よりも低かった。7名の被験者が冷水浴に対してベースライン値よりも遅いという負の効果を示し、9名の被験者がコントロール条件に対して負の効果を示した。3名の被験者は冷水浴後に二日目のパフォーマンスのほうが速かったという正の反応を示し、3名がコントロール対して正の反応を示した。
 冷却療法は、リカバリーの一面において一定の効果があるように思えるが、パフォーマンスに対するその効果は個人差があるようである。

複合的な方法
 多くのテクニックや処置方法がアスリートを対象に三つ全てのリカバリーのタイプにおいて研究されてきた。我々の研究室で行った研究(2)では、平衡したクロスオーバー反復測定デザインを用いて、パフォーマンス、CK、筋肉痛およびRPE(自覚的運動強度)に対するイブプロフェン、プロテインのサプリメント、ビタミンCおよびE、そして冷却療法の同時使用の効果を22名の競技アスリートに対して評価した。30秒ウィンゲートテスト3回からなるエキセントリック局面を含まないエクササイズプロトロコルを、2部練習または予選と決勝に見立てた午前と午後のセッションに行った。リカバリーの処置によって、CKやRPEおよび筋肉痛といった項目に顕著な影響を与えることなく、平均パワーおよび体重当たりの平均パワーの回復が向上した(2)。
 2つ目の研究ではこの同じ複合的なリカバリー方法に対する性別差を、11名の男性と11名の女性被験者に対して調査した。エストロゲンの抗酸化作用と女性の安静時のCK値が低いことかがリカバリーに対する反応の潜在的な性差を示唆している。前述の研究と同様の研究デザインを用いたところ、パフォーマンスと筋肉痛に対して男女ともに同様の反応が現れた。介入条件では女性においてRPEが上昇したが、この条件で女性のパフォーマンスが微小に向上する傾向があることに関係しているかもしれない。男女間のCK値の変化の差は有意性に接近していた(p=0.059)。

Bishop, PA, Jones, E, and Woods, AK, Recovery from training: A brief review. J Strength and Cond Res 22(3): 1015–1024, 2008
オリジナルの文献はこちら

 

このレビュー論文は2008年に発表されていますが、現在も様々なリカバリー方法が検証されています。この論文の筆者は最後に、効果的なリカバリー方法はまだはっきりとなっておらず、アスリート個人に対して、さらには競技シーズンの局面にたいして特異的であるかもしれないと述べています。このレビュー論文では、栄養・サプリメントやマッサージをはじめ冷却や鎮痛剤の使用、さらにはそれらを複合に組み合わせたものについて述べられていますが、どれも核心的なものではありませんでした。しかしその中でもある被験者には効果があり、反対にあるグループには効果が小さいかったことも述べられています。そのため、コーチやアスリートは、トレーニング間のリカバリーを促進し、パフォーマンスの回復を高めるためには、様々なリカバリー方法を試し、個々に適したリカバリー方法を見つけ出すことが最適でしょう。