HPCスタッフコラム

2020.10.30

アスリートによるプロバイオティクスの摂取

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プロバイオティクスとは腸内において身体に有益な働きをする微生物であり、乳酸菌はその最も有名な例でしょう。近年はアスリートに対するプロバイオティクスの効果についての研究が増えてきています。それらの研究ではアスリートに対するある程度の臨床的な効果が認められていますが(1)、その効果の幅は様々であり、断定的な解釈はまだまだ難しいようです。現在認められているプロバイオティクスの効果として、負荷の高いトレーニングや競技中の呼吸器や消化器系の病気のリスクの減少(1)や抗酸化作用(2)、免疫作用の向上(2、3)がありますが、筋力やパワーの向上には効果が見とれられませんでした(4)。

今回紹介する研究では、女性アスリートを対象に、レジスタンストレーニング期間中のプロバイオティクスの摂取が筋力や身体パフォーマンス、そして体組成に対する効果を検証しています。

 

Effects of probiotic (Bacillus subtilis) supplementation during offseason resistance training in female Division I athletes.
女性ディビジョン1アスリートにおけるオフシーズンレジスタンストレーニング中のプロバイオティクス(枯草菌)のサプリメント摂取の効果

Toohey, JC, Townsend, JR, Johnson, SB, Toy, AM, Vantrease, WC, Bender, D, Crimi, CC, Stowers, KL, Ruiz, MD, VanDusseldorp, TA, Feito, Y, and Mangine, GT. 

J Strength Cond Res 34(11): 3173–3181, 2020

目的
大学アスリートにおけるオフシーズントレーニング中のプロバイオティクス(枯草菌)のサプリメント摂取の効果を検証した。

被験者
23名の大学(NCAA)ディビジョン1のバレーボール(n=10)およびサッカー(n=13)の女性アスリート(19.6±1.0歳、67.5±7.4 kg、170.6±6.8 kg)

方法
23名の女性大学アスリートがこの研究に参加し、スポーツが平衡するように無作為にプロバイオティクス(n=11、DE111)またはプラセボ(n=12、PL)グループのどちらかに振り分けられた。アスリートはオフシーズン中に、週に3~4回の上半身と下半身エクササイズおよびスポーツ特異的なトレーニングからなる10週間のレジスタンストレーニングプログラムを完了した。アスリートはDE111(DE111;500万/日)またはプラセボのサプリメントを10週間のプログラム全体にわたって毎日摂取した。トレーニング期間の前後ですべてのアスリートが最大挙上重量(1RM)の測定(スクワット、デッドリフト、ベンチプレス)、パフォーマンス測定(垂直跳びおよびプロアジリティ)およびアイソメトリックのミッドサイプル測定を行った。体組成(体脂肪率(BF%))をBODPODおよび生体インピーダンス分析、さらに超音波を用いた大腿直筋(RF:Rectus Femoris)と外側広筋の筋厚(MT:Muscle Thickness)によって測定した。すべてのデータの分析に個別の反復測定分散分析を用いた。

結果
時間経過に対する有意(p≦0.05)な主作用がスクワットの1RM、デッドリフトの1RM、ベンチプレスの1RM、垂直跳び、RF MT、およびBF%の向上について見られた。これらの内、グループ×時間経過の有意な相互作用がBF%についてみられ(p=0.015)、DE111グループ(-2.05%±1.38%)においてPLグループ(-0.2±1.6%)よりも大きな減少が確認された。これ以外のグループ間の差異は見られなかった。

結論・応用
これらのデータは、トレーニング後の栄養摂取と同時にプロバイオティクスを摂取することは身体パフォーマンスに影響はなかったが、女性の大学ディビジョン1サッカー選手およびバレーボール選手においてオフシーズンのトレーニング期間後に体組成を改善させるかもしれないことを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

今回使用されたプロバイオティクスの枯草菌の一種に納豆菌があり、またこの種類のプロバイオティクスはサプリメントとしても摂取することもできます。

さて、この研究の結果からはIbrahimらの研究(4)と同様に筋力やパフォーマンスに対するプロバイオティクスの効果は確認されませんでした。しかし、体脂肪率に関してはグループ間に有意な差が見られ、プロバイオティクスを摂取したグループのほうが体脂肪率の減少率が大きくなりました。ParkとBae(5)らは、プロバイオティクスの体重と体脂肪率の減量に対する効果は限定的であるとしています。肥満の人を対象にした研究を分析したBorgeraasらの研究(6)では、プロバイオティクスの体重や脂肪の減少に対する有意な効果が認められましたが、効果量は小さかったとしています。今回紹介した研究で示された体脂肪率の減少については、著者らは、プロバイオティクスの摂取によって腸内での栄養素の吸収が改善したためではないかと示唆しています。

プロバイオティクスについての研究はまだまだ限定的であり、その効果も明確になっていません。筋力やパフォーマンスにたいして直接的に作用するといった、運動能力を向上させるような機能は今のところ確認されていません。しかし、免疫作用の向上や、気道や消化器官を整える、されには抗酸化作用なども認められることから、プロバイオティクスはリカバリーに働きかけることで2次的にパフォーマンスを向上させる助けとなるかもしれません。いずれにせよ、プロバイオティクスについてはまだまだ多くの研究が必要な領域でしょう。

 

参考文献
1. Pyne, D.B., West, N.P., Cox, A.J., and Cripps, A.W. (2015). Probiotics supplementation for athletes – Clinical and physiological effects. European Journal of Sport Science 15, 63–72
2. Wosinska, L., Cotter, P.D., O’Sullivan, O., and Guinane, C. (2019). The potential impact of probiotics on the gut microbiome of athletes. Nutrients 11
3. West, N.P., Pyne, D.B., Peake, J.M., and Cripps, A.W. (2009). Probiotics, immunity and exercise: A review. Exercise Immunology Review 15, 107–126
4. Ibrahim, N.S., Muhamad, A.S., Ooi, F.K., Meor-Osman, J., and Chen, C.K. (2018). The effects of combined probiotic ingestion and circuit training on muscular strength and power and cytokine responses in young males. Applied Physiology, Nutrition and Metabolism 43, 180–186
5. Park, S., and Bae, J.H. (2015). Probiotics for weight loss: A systematic review and meta-analysis. Nutrition Research 35, 566–575
6. Borgeraas, H., Johnson, L.K., Skattebu, J., Hertel, J.K., and Hjelmesæth, J. (2018). Effects of probiotics on body weight, body mass index, fat mass and fat percentage in subjects with overweight or obesity: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Obesity Reviews 19, 219–232