HPCスタッフコラム

2020.11.16

筋力向上には高重量のレジスタンストレーニングが必要

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筋力を発揮する際はそれに応じた運動単位が動員されます。運動単位とはα運動神経が支配する筋線維からなり、活性化される運動単位の数やその発火頻度によって発揮される筋力が変化します。最大筋力やパワーの増加は、動員や発火頻度の増加、筋間の協調性の向上またはこれらの組み合わせによって起こります(1、2)。一般的に、運動単位の動員はサイズの原理に基づいて行われます。サイズの原理とは、筋力発揮の際に小さな運動単位から動員され、必要とされる筋力が増加するにしたがってより大きな運動単位へと順に活性化されていくことです(例外があり、爆発的な動作などの場合は選択的に高閾値の(大きな)運動単位が動員されます)。

今回紹介する研究では中強度の筋収縮を疲労限界まで行う場合と高強度の筋収縮の場合の運動単位の動員を比較し、筋収縮の強度によって動員される運動単位に違いがあるかどうかを検証しています。

 

Larger motor units are recruited for high-intensity contractions than for fatiguing moderate-intensity contractions.
高強度の筋収縮のほうが中強度の疲労性運動よりもより多くの運動単位を動員する

Miller, JD, Lippman, JD, Trevino, MA, and Herda, TJ.

J Strength Cond Res 34(11): 3013–3021, 2020

目的
この研究の目的は中強度の筋収縮を疲労するまで行うことで、高強度の筋収縮時と同程度に運動単位(MU:Motor Unit)プールを動員するかどうかを検証することである。

被験者
9名の健康な男女(男性7名、女性2名、年齢=22.78±4.15歳、身長=173.78±14.19 cm、体重87.39±21.19 kg)

方法
被験者は、3回の等尺性最大筋収縮(MVC:Maximum Voluntary Contraction)、MVCの90%での等尺性台形状筋収縮(Isometric Trapezoidal Contraction)(REP90)およびMVCの50%での繰り返しの等尺性台形状筋収縮を挙上できなくなるまで行い、その1レップ目(REP1)と最後のレップ(REPL)を分析に用いた。外側広筋の表面EMG(筋電図)を記録した。活動電位を動員限界(RT:Recruitment Threshold)を伴った単一MUの活性事例へと抽出した。運動単位の活動電位の振幅(MUAPAMP:Motor Unit Action Potential Amplitude)、平均活性率(MFR:Mean Firing Rate)も記録した。各被験者の直線的MFR、MUAPAMPに対するRT、そして指数関数的MFRに対するMUAPAMPの関係性が計算された。有意性はp≦0.05で設定した。

結果
MFRに対するMUAPAMPの関係性におけるBターム(p = 0.001、REPL = −4.77 ± 1.82 pps·mV−1、REP90 = −2.63 ± 1.00 pps·mV−1)およびMVCの40%で動員された運動単位の予測MFR(p < 0.001、REPL = 11.14 ± 3.48 pps、REP90 = 18.38 ± 2.60 pps)はREPLよりもREP90のほうが大きく、REP90中の活性頻度のほうが大きいことを示している。さらに、REPL中よりもREP90中において、より大きな平均(p = 0.038、REPL = 0.178 ± 0.0668 mV、REP90 = 0.263 ± 0.128 mV)および最大(p = 0.008、REPL = 0.320 ± 0.127 mV、REP90 = 0.520 ± 0.234 mV)MUAPAMPが記録された。高強度の筋収縮中は中程度の収縮を疲労限界まで行うことと比較して、より大きな運動単位が動員され、大きさが同様の運動単位においてはより大きな活性率を維持していた。

結論・応用
運動単位の活性の最大化を試みる場合は、中強度を疲労限界まで行うよりも高強度のレジスタンストレーニングを用いるべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

Schoenfieldらによるメタ分析(3)では、低重量と高重量のレジスタンストレーニングをそれぞれ疲労原価まで行ったときの筋力と筋肥大に対する効果を分析しています。その分析の結果、筋肥大については低重量と高重量のレジスタンストレーニング間の有意な差は示されなかったものの、筋力に関しては高重量のレジスタンストレーニングにおいてより大きな向上が認められました。さらに、Looneyらが中重量と高重量のエクササイズを疲労限界まで行った場合の筋電図の振幅を比較したとき、より重い重量のほうが筋活性を最大化できることを示しました(4)。今回紹介した研究では、これらのことを裏付けるようなことが示されました。

運動単位の動員は疲労限界まで行った場合でも、低~中重量の場合はそれに応じた運動単位しか動員されず、より多くの運動単位を動員したい場合は、より強度の高い運動が必要とされるようです。

冒頭でも述べた通り、最大筋力やパワーの向上にはより多くの運動単位の動員が必要となるため、そのような適応を望む場合はより高重量のレジスタンストレーニングを取り入れる必要があるでしょう。

 

参考文献
1. Haff, G. Gregory、Triplett, N. Travis編著 篠田邦彦総監修 『NSCA決定版 ストレングストレーニング&コンディショニング』第4版、ブックハウスHD、2018年
2. Pucci, A.R., Griffin, L., and Cafarelli, E. (2006). Maximal motor unit firing rates during isometric resistance training in men. Experimental Physiology 91, 171–178
3. Schoenfeld, B.J., Grgic, J., Ogborn, D., and Krieger, J.W. (2017). Strength and hypertrophy adaptations between low- vs. High-load resistance training: A systematic review and meta-analysis. Journal of Strength and Conditioning Research 31, 3508–3523
4. Looney, D.P., Kraemer, W.J., Joseph, M.F., Comstock, B.A., Denegar, C.R., Flanagan, S.D., Newton, R.U., Szivak, T.K., DuPont, W.H., Hooper, D.R., et al. (2016). Electromyographical and Perceptual Responses to Different Resistance Intensities in a Squat Protocol. Journal of Strength and Conditioning Research 30, 792–799