HPCスタッフコラム

2020.11.27

トレーニング後の筋機能の回復に適した栄養摂取

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エクササイズやトレーニング後の栄養摂取はリカバリーを促進するために非常に重要です。トレーニング後の炭水化物の摂取はトレーニング中に使用されたグリコーゲンの合成に必要であり、また、たんぱく質の摂取は筋中のたんぱく合成を促進します(1)。個々の栄養成分ごとに見てみると、たんぱく質の摂取はさらに、徐脂肪体重の増加(2、3)や筋力の増加(2、3)の効果があります。炭水化物においては、グリコーゲンの再貯蔵だけでなく、トレーニング後の摂取によって有酸素および無酸素性持久系パフォーマンスの向上(5)やたんぱく質の合成を増加させる(4)効果もあるようです。

また、近年のメタ分析によってトレーニング後に炭水化物にタンパク質を加えて摂取することで、エクササイズの持続時間やタイムトライアルのパフォーマンスが向上すると報告されています(6)。しかし、リカバリーのためのトレーニング後の栄養またはサプリメント摂取に関する多くの研究は持久系のパフォーマンスについて行われてきました。

今回紹介する研究では、トレーニング後に炭水化物のみと炭水化物とタンパク質の両方を摂取する場合で筋機能やパフォーマンスの回復に焦点を当てて検証しています。

 

Effects of a multi-ingredient beverage on recovery of contractile properties, performance, and muscle soreness after hard resistance training sessions.
複数成分(炭水化物とタンパク質)の飲料が強度の高いレジスタンストレーニングセッション後の収縮特性、パフォーマンスおよび筋肉痛に及ぼす効果

Naclerio, F, Larumbe-Zabala, E, Cooper, K, and Seijo, M.

J Strength Cond Res 34(7): 1884–1893, 2020

目的
炭水化物-タンパク質を基本としたサプリメントはエクササイズ後のリカバリーを最大化するために提案されてきた。この研究は、強度の高いレジスタンストレーニング後の筋機能の回復や遅発性筋肉痛(DOMS)に対して、トレーニング後のサプリメント摂取で複数成分(MNT)と炭水化物のみ(CHO)を摂取する場合の効果を比較した。

被験者
10名のトレーニングを行う男性大学生(年齢:26.9 ± 7.4歳、年齢範囲:21~40歳; 体重:74.45 ± 8.36 kg;身長:178.5 ± 4.6 cm、BMI:23.4 ± 2.5 kg/m2

方法
二重盲検クロスオーバー研究で、被験者は、MTNまたはCHOのどちらかを摂取して、同じ内容のの5日間の介入期間を過ごした。被験者は、最初の3日間は日に一回のトレーニングを行った。その後は、3回目のトレーニングセッション完了の1時間後、24時間後、および48時間後に評価を行った。主な測定項目は内側広筋(VM)および大腿二頭筋長頭(BFLH)の筋収縮特性測定(tensiomyography)(筋の変位(Dm)、収縮時間(Tc)、および収縮速度(Vc))であった。二次的な測定項目はパフォーマンスとDOMSであった。

結果
24時間後の時点において、両方のコンディションではVMにおいてDm(MTN:-1.71±1.8 mm、CHO:-1.58±1.48 mm)およびVc(MTN:-0.03±0.03 m/s、CHO:-0.03±0.04 m/s)が減少した。48時間後の時点において、すべての筋収縮特性の測定値がMTNの条件下で回復したが、CHOでは低下したままであった(p<0.01、VM:Dm =-1.61±1.60, mm、Vc=-0.04±0.04 m/s;BFLH:Dm=-1.54 ± 1.52 mm、Vc=-0.02 ± 0.02 m/s)。垂直飛びのパフォーマンスはCHOにおいて低下したが、MTNでは低下しなかった。両方の条件下で上半身の筋力およびパワーが1時間後の時点で減少したが、MTNにおいて数値が24時間後にベースラインに戻ったものの、CHOでは48時間を有した。DOMSは両方の条件下で24時間後と48時間後の両方で同様に増加した。

結論・応用
炭水化物のみを摂取した場合と比較して、トレーニング後の複数成分のサプリメントの摂取は、強度の高いレジスタンストレーニング後にDOMSを減少させることなく筋の収縮特性およびパフォーマンスのリカバリーを促進するように思われる。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では筋収縮特性測定(Tensiomyography)を用いて非侵襲的に筋機能の測定を行っています。研究で使用されたサプリメントは、MTN群では39gの炭水化物に加え16gのたんぱく質と0.8gの脂質を含み、CHO群は同じエネルギー量となる59gの炭水化物のみでした。メタ分析において、総摂取カロリー量を同じにして行った研究をまとめると炭水化物単体と炭水化物とたんぱく質の複合サプリメントの持久系のパフォーマンスに対する効果に有意な違いは見られませんでした(6、7)。しかし、今回紹介した研究では、炭水化物の一部をたんぱく質に置き換えることで筋機能や筋力やパワーのパフォーマンスのリカバリーに有意な差が見られました。

炭水化物はグリコーゲンの再貯蔵に必要不可欠な栄養素であり、またたんぱく質は筋の再合成に利用されます。強度の高いトレーニング後にこれらの栄養素を複合的に摂取することで筋機能のリカバリーを促進させることができることがこの研究によって示唆されました。このことは試合の間隔が短いスポーツや短い期間で開催されるトーナメントにおいてパフォーマンスのリカバリーを促進させるための有効な手段となるでしょう。

 

参考文献
1. Beck, K., Thomson, J.S., Swift, R.J., and von Hurst, P.R. (2015). Role of nutrition in performance enhancement and postexercise recovery. Open Access Journal of Sports Medicine 259
2. Cermak, N.M., Res, P.T., De Groot, L.C.P.G.M., Saris, W.H.M., and Van Loon, L.J.C. (2012). Protein supplementation augments the adaptive response of skeletal muscle to resistance-type exercise training: A meta-analysis. American Journal of Clinical Nutrition 96, 1454–1464
3. Naclerio, F., and Larumbe-Zabala, E. (2016). Effects of Whey Protein Alone or as Part of a Multi-ingredient Formulation on Strength, Fat-Free Mass, or Lean Body Mass in Resistance-Trained Individuals: A Meta-analysis. Sports Medicine 46, 125–137
4. Børsheim, E., Cree, M.G., Tipton, K.D., Elliott, T.A., Aarsland, A., and Wolfe, R.R. (2004). Effect of carbohydrate intake on net muscle protein synthesis during recovery from resistance exercise. Journal of Applied Physiology 96, 674–678
5. McCartney, D., Desbrow, B., and Irwin, C. (2018). Post-exercise Ingestion of Carbohydrate, Protein and Water: A Systematic Review and Meta-analysis for Effects on Subsequent Athletic Performance. Sports Medicine 48, 379–408
6. Nielsen, L.L.K., Lambert, M.N.T., and Jeppesen, P.B. (2020). The effect of ingesting carbohydrate and proteins on athletic performance: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrients 12
7. Stearns, R.L., Emmanuel, H., Volek, J.S., and Casa, D.J. (2010). Effects of ingesting protein in combination with carbohydrate during exercise on endurance performance: Asystematic review with meta-analysis. Journal of Strength and Conditioning Research 24, 2192–2202.