HPCスタッフコラム

2022.08.05

足関節可動域の向上と着地動作

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足首の背屈はジャンプ動作や着地動作においてパフォーマンスと関連があると報告されています(1、2、3、4、5)。そのため、足首の背屈制限は着地を繰り返すようなスポーツや身体活動においてけがのリスク要因になるといわれています(1)。しかしながら、足関節の可動域の向上が実際に跳躍動作や着地動作の改善につながるかどうかを検証した研究はありません。

今回紹介する研究では、実際に4週間の足関節の可動域向上を目的としたトレーニングプログラムを含む介入を行い、実際に着地動作の改善が起こるかどうかを検証しています。

 

Improved ankle mobility after a 4-week training program affects landing mechanics: a randomized controlled trial.
4週間のトレーニングプログラム後の足関節のモビリティの向上が着地のメカニクスに影響を与える:ランダム化比較試験
Howe, LP, Bampouras, TM, North, JS, and Waldron, M.
J Strength Cond Res 36(7): 1875–1883, 2022

目的
この研究では、4週間の足関節モビリティ介入が着地のメカニクスに与える影響を検証した。

被検者
足関節の背屈制限を伴う20名の被検者がストレングストレーニングのみ(n=9)またはストレングストレーニングと足関節モビリティのプログラム(n=11)のどちらかに振り分けられた。

方法
被検者は、介入前後で荷重したランジテスト及び両側のドロップランディングを行った。標準化した垂直方向の床反力(vGRF )の最大値、vGRFの最大値までにかかる時間、および負荷率(体重で標準化されたvGRFをvGRFの最大値までにかかる時間で割ったもの)に加えて、足関節、膝関節及び股関節の接地時の矢状面上の角度、角度の最大値、および矢状面上の関節の変位を求めた。前額面上の下肢関節角度も求められた。

結果
介入後は、ストレングスとモビリティのグループのみが足関節の背屈可動域を向上させた(差の平均=4.1°、効果量[ES]=1.00、p = 0.002)。分散分析により、両側によるドロップランディングにおける接地時の足関節角度(p = 0.045)、最大屈曲時の足関節(p < 0.001)と股関節(p = 0.041)の角度、および矢状面上の足関節(p < 0.001)と股関節(p = 0.024)の変位についてのグループ効果が明らかになった。事後分析により、介入の後のストレングスとモビリティグループは、接地時のより大きな足関節の底屈角度(差の平均=1.4 ± 2.0°, ES = 0.46)および最大屈曲時のより大きな足関節の背屈角度(差の平均=6.3 ± 2.9°, ES = 0.74)が明らかになり、結果として足関節のより大きな変位(差の平均=7.7 ± 4.0°, ES = 1.00)につながった。しかしながら、ストレングストレーニングのみのグループは、トレーニング後において着地時の股関節の最大屈曲角度(差の平均= 14.4 ± 11.0°, ES = 0.70)および股関節の変位(= 8.0 ± 6.6°, ES = 0.44))差の平均が増大していた。

結論・応用
これらの結果はストレングストレーニングを行った後の着地の方法の変化は、足関節のモビリティが介入の一部として考慮されているかどうかに特異的であることを示唆している。
オリジナルの文献はこちら

 

この研究の介入ではフロントスクワットやRDLなどのストレングトレーニングを両グループが行い、加えて一方のグループは足関節のモビリティトレーニングを毎回のトレーニングの前後に行いました。実際に足関節のモビリティを改善させるトレーニングの介入研究は少ないのですが、この研究では足関節のモビリティを行ったグループに背屈可動域の改善が見られました。背屈制限の向上により、ランディングのメカニズムにも変化が見られ、ランディング動作中の足関節の可動域が向上しました。しかしながら、垂直方向の床反力のピーク値に関しては変化が見られず、足関節の可動域と床反力のピーク値に関しては関連性が低いことが示唆されました。これについて、Howeらは(7)、足関節の可動域の変化は床反力の下肢の関節での受け方に影響を与えると述べており、着地時に特定の関節への負荷を軽減する効果があるかもしれません。

また、足関節の背屈制限のある被検者に対して12週の股関節筋群のトレーニングを行ったところ着地時の膝関節と股関節の最大屈曲角度が向上したとの報告があります(6)。これは今回の研究でも同様の効果が出ており、ストレングストレーニングのみのグループでは股関節の屈曲角度の向上が見られました。

筆者らは、着地動作に改善が必要な場合、その原因の一つが足関節可動域の制限であるならばトレーニングプログラムに足関節のモビリティエクササイズを入れることが推奨されると述べています。しかしながら、そうでない場合は股関節の伸展筋群の筋力向上によって着地時の股関節の貢献を増加させることで着地動作を改善できることも示唆しています。

 

参考文献
1.  Backman, L. J., & Danielson, P. (2011). Low range of ankle dorsiflexion predisposes for patellar tendinopathy in junior elite basketball players: a 1-year prospective study. The American journal of sports medicine, 39(12), 2626-2633.
2.  Panoutsakopoulos, V., Kotzamanidou, M. C., Papaiakovou, G., & Kollias, I. A. (2021). The ankle joint range of motion and its effect on squat jump performance with and without arm swing in adolescent female volleyball players. Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 6(1), 14.
3.  Godinho, I., Pinheiro, B. N., Júnior, L. D. S., Lucas, G. C., Cavalcante, J. F., Monteiro, G. M., & Uchoa, P. A. G. (2019). Effect of reduced ankle mobility on jumping performance in young athletes. Motricidade, 15(2-3), 46-51.
4.  Wyndow, N., De Jong, A., Rial, K., Tucker, K., Collins, N., Vicenzino, B., … & Crossley, K. (2016). The relationship of foot and ankle mobility to the frontal plane projection angle in asymptomatic adults. Journal of foot and ankle research, 9(1), 1-7.
5.  Kondo, H. (2018). Changes in the Ground Reaction Force, Lower-Limb Muscle Activity, and Joint Angles in Athletes with Unilateral Ankle Dorsiflexion Restriction During A Rebound-Jump Task. Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 3(4), 52.
6.  Kondo, H., & Someya, F. (2016). Changes in ground reaction force during a rebound-jump task after hip strength training for single-sided ankle dorsiflexion restriction. Journal of Physical Therapy Science, 28(2), 319-325.
7.  Howe, L. P., Bampouras, T. M., North, J., & Waldron, M. (2019). Ankle dorsiflexion range of motion is associated with kinematic but not kinetic variables related to bilateral drop-landing performance at various drop heights. Human movement science, 64, 320-328.