HPCスタッフコラム

2022.10.07

ストレングストレーニングによる睡眠の向上

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スポーツパフォーマンスにとって睡眠は重要な要素の一つです。睡眠は心身の回復を促進させ、一般的には7~9時間の睡眠が推奨されており(1)、トレーニングの強度が高いほどさらに多くの睡眠が必要と言われています(2、3)。また睡眠時間とともに睡眠の質も重要で、質の良い睡眠は心身の回復や覚醒状態の向上につながります(4)。

トレーニングが睡眠に与える影響も多く研究されており、トレーニングやエクササイズは様々な対象に対して睡眠の質や量を向上させると報告されています(3、5-9)。その理由として、トレーニング後に成長ホルモンや成長ホルモン分泌ホルモンの分泌が促進されることが睡眠の質を向上させる要因であるとの説があります(5)。

前述のとおり、トレーニングが睡眠に与える影響は多く調査されており、その対象は高齢者やアスリートまたは疾患を患う人でしたが、今回紹介する研究は青少年期の被験者を対象にしています。

 

Effects of strength training on sleep parameters of adolescents: a randomized controlled trial.
ストレングストレーニングが青少年期の睡眠のパラメターに与える影響:無作為化比較試験

Santiago, LCS, Lyra, MJ, Germano-Soares, AH, Lins-Filho, OL, Queiroz, DR, Prazeres, TMP, Mello, MT, Pedrosa, RP, Falcão, APST, and Santos, MAM.

J Strength Cond Res 36(5): 1222–1227, 2022

目的
この研究の目的は、12週間のストレングストレーニング(ST)が睡眠に関する問題を訴える青少年期の被検者の睡眠の質と日中の眠気に与える影響を調査することである。

被験者
30名の青少年期の被験者がストレングスグループ(ST;n=18、16.4±1.6歳、1.67±0.07 m、63.3±12.2㎏)またはコントロールグループ(CG;n=12、16.0±1.4歳、1.70±0.9 m、62.6±11.1㎏)に無作為に振り分けられた。

方法
体型、体組成、最大挙上重量、および睡眠に関するパラメター(ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)及びエプワース眠気尺度(ESS))を評価した。トレーニングは一日当たり55分間(12週にわたって週3回)で、セット間およびエクササイズ間に1分間のレストを挟んで10-12回を3セット行った。ベースラインと介入後の差を一般化推定方程式およびCohenのd係数による効果量(ES:Effect Size)を用いて分析した。有意水準はp<0.05とした。

結果
12週のストレングストレーニング後、PSQIスコアの有意な低下(7.3±0.7 vs. 5.1±0.6;ES=4.10)がST群で認められたが、CG群では認められなかった(6.3 ±0.8 vs. 7.4±0.7;ES=1.53)。ESSスコアの有意な減少がST群で認められたが(10.1 ± 0.7 vs. 8.2 ± 0.7;ES = 3.08)、CG群では差がなかった(10.7 ± 0.8 vs. 11.0 ± 0.7; ES = 0.56)。ST群では総睡眠時間(h/min)が増加したが(6.2 ± 0.2 vs. 6.9 ± 0.2;ES = 3.60)、CG群では差がなかった(7.0 ± 0.2 vs. 6.8 ± 0.1;ES = 1.32)。個別分析では、青少年期の約67%がST後にPSQI(8.3、信頼区間(CI)95%:6.8-10.1)およびESS(8.3、CI 95%:6.7-9.9)の得点の低下を示したが、CG群では得点の低下を示したのは約17%にすぎなかった(PSQI:11.1、 CI 95%:9.5-12.9および ESS:11.0、CI 95%:9.4-12.6)。

結論・応用
ストレングストレーニングは睡眠の質を向上させ、また総睡眠時間を増加させた。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の紹介した研究では、ストレングストレーニングによって青少年の睡眠時間や質が向上し、日中の眠気が改善されたと報告しています。ストレングストレーニングの内容はレッグエクステンションやレッグプレス、ベンチプレス、ラットプルダウンなど一般的なエクササイズを含み、強度は1RMの75%で行ったと記述されています。また特にスポーツやエクササイズを行っていない青少年が被験者となったようです。

これまで多くのメタ分析やシステマチックレビューが運動と睡眠の関係性について検証していましたが、その多くは有酸素運動であり、例としてYangら(10)の中高年を対象にした研究を集めたシステマチックレビューでは40~60分の有酸素運動(最大心拍数の60~85%)が睡眠の時間や質を向上させると報告しています。今回の研究のように近年はストレングストレーニングを用いて同様の報告も多く行われており、有酸素運動、ストレングストレーニングともに睡眠の質や時間の改善に効果があることが証明されてきています。

しかしながら、前述のとおり、トレーニングや練習の強度が高かったり、時間が長かったりすると、睡眠効率が低下したり、より多くの睡眠を必要としたりするため(2、3)、睡眠の改善を目的にエクササイズを導入する場合は運動強度を考慮する必要があるでしょう。

 

参考文献
1.Calder, A. (2003). Recovery strategies for sports performance. USOC Olympic Coach E-Magazine, 15(3), 8-11.
2.Teng, E., Lastella, M., Roach, G., & Sargent, C. (2011). The effect of training load on sleep quality and sleep perception in elite male cyclists. Little clock, big clock: Molecular to physiological clocks, 5-10.
3.Thornton, H. R., Delaney, J. A., Duthie, G. M., & Dascombe, B. J. (2018). Effects of preseason training on the sleep characteristics of professional rugby league players. International journal of sports physiology and performance, 13(2), 176-182.
4.Walters, P. H. (2002). Sleep, the athlete, and performance. Strength & Conditioning Journal, 24(2), 17-24.
5.Ferris, L. T., Williams, J. S., Shen, C. L., O’Keefe, K. A., & Hale, K. B. (2005). Resistance training improves sleep quality in older adults a pilot study. Journal of sports science & medicine, 4(3), 354.
6.Ramos-Campo, D., Martínez-Aranda, L. M., Caravaca, L. A., Ávila-Gandí, V., & Rubio-Arias, J. Á. (2021). Effects of resistance training intensity on the sleep quality and strength recovery in trained men: a randomized cross-over study. Biology of Sport, 38(1), 81-88.
7.Viana, V. A. R., Esteves, A. M., Boscolo, R. A., Grassmann, V., Santana, M. G., Tufik, S., & de Mello, M. T. (2012). The effects of a session of resistance training on sleep patterns in the elderly. European journal of applied physiology, 112(7), 2403-2408.
8.Whitworth, J. W., Nosrat, S., SantaBarbara, N. J., & Ciccolo, J. T. (2019). High intensity resistance training improves sleep quality and anxiety in individuals who screen positive for posttraumatic stress disorder: A randomized controlled feasibility trial. Mental Health and Physical Activity, 16, 43-49.
9.Silva-Batista, C., De Brito, L. C., Corcos, D. M., Roschel, H., De Mello, M. T., Piemonte, M. E., … & Ugrinowitsch, C. (2017). Resistance training improves sleep quality in subjects with moderate Parkinson’s disease. The Journal of Strength & Conditioning Research, 31(8), 2270-2277.
10.Yang, P. Y., Ho, K. H., Chen, H. C., & Chien, M. Y. (2012). Exercise training improves sleep quality in middle-aged and older adults with sleep problems: a systematic review. Journal of physiotherapy, 58(3), 157-163.