HPCスタッフコラム

2022.11.04

ウェイトリフティングvsプライオメトリックトレーニング

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近年のスポーツパフォーマンス向上のためのトレーニングにプライオメトリックやウェイトリフティングエクササイズは欠かせないものとなっています。

プライオメトリックトレーニングは、ストレッチ‐ショートニングサイクル(伸張‐短縮サイクル)を利用して短い時間に大きな力を発揮するエクササイズを用いたトレーニング方法です(1)。その効果は、筋力やスピード、パワーなどの様々な身体能力やスプリント、跳躍、投球などのパフォーマンスの向上として現れます。(2、3、4)。またプライオメトリックトレーニングは着地のメカニズムを向上させるなどけがの予防にも貢献します(2)。

ウェイトリフティングエクササイズ(クリーン、スナッチ、ジャークとそのバリエーション)は、特に跳躍のパフォーマンスの向上に有効であり(5、6)、その背景にはウェイトリフティングトレーニングによってパワーの出力や力の発揮率の向上が望めることがあります。

今回紹介する研究は、ジュニア年代のアスリートを対象に、プライオメトリックとウェイトリフティングのトレーニングを処方しその効果を比較しています。

 

Weightlifting is better than plyometric training to improve strength, counter movement jump, and change of direction skills in Tunisian elite male junior table tennis players.
チュニジアのエリート男子ジュニア卓球選手において、筋力、垂直飛び、方向転換スキルの向上には、プライオメトリックトレーニングよりもウェイトリフティングの方が優れている

Kaabi, S, Mabrouk, RH, and Passelergue, P.

J Strength Cond Res 36(10): 2912–2919, 2022

目的
本研究は、男子エリートジュニア卓球選手を対象に、8週間のウェイトリフティング(WL)レジスタンストレーニングまたはプライオメトリックトレーニングを導入した場合の身体能力への影響を比較することを目的とした。

被験者
45名の選手(年齢:16.6 ± 0.4歳(範囲:16.0–17.4歳)、体重:64.1 ± 6.2 kg、身長:1.67 ± 0.07 cm、BMI:22.6 ± 1.7 kg/m2)を無作為に3群に分けた。

方法
WLレジスタンストレーニング群(n=15)、プライオメトリック(P)群(n=15)、コントロール(C)群(n=15)である。準備期において、WL群とP群は通常の卓球の練習に加えて8週間のトレーニング(週2回、毎回3種類の異なるエクササイズ)を行い、一方で、C群は一般的な卓球のトレーニングを継続させた。トレーニングプログラム開始前(T0)と終了後(T1)に、5mスプリントタイム、20mT字方向転換(CD)テスト、立ち幅跳び、スクワットジャンプ(SJ)、反動を用いた垂直跳びなどのジャンプテスト、握力、そしてベンチプレスとバックスクワットの最大挙上重量テスト(1RM)が実施された。

結果
トレーニングプログラム開始前において3群間に統計的な差はなかった。8週間のトレーニングプログラム終了後、P群とWL群のみが、すべてのテストにおいて有意にパフォーマンスを向上させた。すべてのテスト結果を統合すると、WL群はP群よりも大きな増加(それぞれ12.6 %と8.2%)と効果量(それぞれ1.88と1.22)を示した。

結論・応用
したがって、ウェイトリフティングトレーニングはプライオメトリックトレーニングよりも卓球選手の神経筋パフォーマンス、特に20m方向転換テストのような卓球特有の方向転換テストの向上により効果的であると思われる。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、ウェイトリフティングとプライオメトリックトレーニングの両方でパフォーマンスの向上がみられましたが、総合的にはウェイトリフティングトレーニングの効果が大きかったことを報告しています。特に筋力についてはウェイトリフティングトレーニングのほうが増加率や効果量が大きくなっていました。

この研究のようにウェイトリフティングとプライオメトリックトレーニングを比較した研究はいくつかあり、垂直跳びに対する様々なトレーニング方法の効果を比較したシステマチックレビューでは、ウェイトリフティングは一般的なレジスタンストレーニングよりも垂直跳びのパフォーマンスに対して効果が高いが、プライオメトリックトレーニングと比較したときは大きな違いはなかったとしています(6)。ジャンプ、スプリント、方向転換のパフォーマンスに対する6週間の垂直跳びまたはウェイトリフティングのトレーニングの効果を検証した研究でも、同様の結果が報告されています(7)。今回紹介した研究では、被験者がユース年代の選手でありウェイトトレーニングによる筋力の向上がパフォーマンスのより大きな向上に寄与した可能性も考えられます。

しかしながら、この研究結果の重要な点は、卓球の競技のトレーニングのみであったコントロール群(C群)にはパフォーマンスの向上がみられなかったことであり、これは身体的なパフォーマンスの向上には卓球の競技トレーニングだけでは不十分であることも示唆しています。

 

参考文献
1.Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics
2.Galay, V. S., Poonia, R., & Singh, M. (2021). Understanding the Significance of Plyometric Training in Enhancement of Sports Performance: A Systematic Review. Vidyabharati International Interdisciplinary Research Journal, 11(2), 141-8.
3.Eraslan, L., Castelein, B., Spanhove, V., Orhan, C., Duzgun, I., & Cools, A. (2021). Effect of plyometric training on sport performance in adolescent overhead athletes: a systematic review. Sports health, 13(1), 37-44.
4.Booth, M. A., & Orr, R. (2016). Effects of plyometric training on sports performance. Strength & Conditioning Journal, 38(1), 30-37.
5.Hori, N., Newton, R. U., Nosaka, K., & Stone, M. H. (2005). Weightlifting exercises enhance athletic performance that requires high-load speed strength. Strength and Conditioning Journal, 24(4), 50.
6.Hackett, D., Davies, T., Soomro, N., & Halaki, M. (2016). Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: a systematic review with meta-analysis. British journal of sports medicine, 50(14), 865-872.
7.Teo, S. Y., Newton, M. J., Newton, R. U., Dempsey, A. R., & Fairchild, T. J. (2016). Comparing the effectiveness of a short-term vertical jump vs. weightlifting program on athletic power development. Journal of strength and conditioning research, 30(10), 2741-2748.