HPCスタッフコラム

2020.02.05

類似したエクササイズのトレーニング効果の比較

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筋電図は筋の活性を計測する方法であり、これを用いることで、異なるエクササイズ間における特定の筋の活動量を比較することができます。子の活動量ですが、筋力の向上や筋量の増加を目的としたとき、最大アイソメトリック筋収縮(MVIC:Maximum Voluntary Isometric Contraction)時の筋活動量の最低でも40~60%が推奨されています(1)。

今回はベンチプレスとプッシュアップの比較ですが、ベンチプレスは上半身の基本的なレジスタンスエクササイズの一つであり、上半身の筋量の増加から筋力やパワーの向上まで、様々な目的に対して用いられます。プッシュアップは、そのベンチプレスとバイオメカニクス的に類似しており、主に自体重を負荷として用います。自体重を用いるため、人によっては十分な負荷が得られず、上半身の筋力や筋量の向上を目的としたトレーニングには用いられないことも考えられます。しかし、レジスタンスバンドを用いたり重りを背中に載せたりすることによって負荷を増加させることができます。

今回紹介する研究では、ベンチプレスと同等の筋活動量になるようにプッシュアップに負荷を追加し、トレーニングしたときに、同等の筋力の向上が現れるかを検証しています。

 

Bench press and push-up at comparable levels of muscle activity results in similar strength gains.
同等の筋活性でのベンチプレスとプッシュアップは同様の筋力向上につながる

Calatayud, J, Borreani, S, Colado, JC, Martin, F, Tella, V, and Andersen, LL.

J Strength Cond Res 29(1): 246–253, 2015

目的
筋電図(EMG:Electromyography)によるエクササイズの評価は筋収縮の強度を測定するために良く用いられる。研究者は、同様のEMG量を示すバイオメカニクス的に類似したレジスタンスエクササイズは長期間にわたって同様の筋力の獲得ができると推測しているが、この仮説を実際に証明した研究はない。この研究では6RMのベンチプレスとプッシュアップ中のEMG量を評価し、その後、筋力の向上を評価するために、被験者は無作為に3つのグループ(例:6RMベンチプレス、6RMバンドを用いたプッシュアップ、そしてコントロール)に振り分けられ5週間のトレーニング期間を設けた。

被験者
2年以上の高度なレジスタンストレーニング経験のある30名の大学生が二部からなる研究に参加した(男性22名、女性8名、年齢:21.9±2.4歳、身長:172.8±7.6 cm、体重70.6±8.9 kg、体脂肪率:14.0±5.8 %19)。

方法
第一部ではベンチプレスの最大挙上重量(1RM)を測定し、その後平衡した順番でベンチプレスおよびバンドプッシュアップの6RMが測定された。6RMの測定の際はEMGも合わせて計測した。第二部では被験者を三つのグループに振り分け5週間の週2回のトレーニングを行い、その後1RMおよび6RMを計測した。トレーニング期間中は、それぞれのエクササイズを6回5セット行い、EMGデータを収集した時に用いたのと同じ負荷と設定を使用して行われた。

結果
ベースラインでは、EMGの振幅において6RMベンチプレスとバンドプッシュアップのグループ間で有意な差は見られなかった。測定の前後で、6RM(p=0.017)と最大挙上重量(1RM)(p<0.001)の変化率(Δ)における有意な差がそれぞれのグループにおいてみられた。6RMベンチプレスグループと6RMバンドプッシュアップグループはそれぞれ1RMと6RMの測定(13.65~22.21%)で同様な有意な向上を示し、コントロールグループに変化はなかった。

結論・応用
したがって、EMGの値が同等で、同じ条件が再現されれば、前述のエクササイズらは同様の筋力向上をもたらすことができる。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では大胸筋と三角筋前部の筋活動量が計測されました。6RM測定時の平均の筋活動量にはエクササイズ間の差はなく両エクササイズ共にそれぞれの筋でMVICの52~62%の活動量が見られました。そのため、筋の力の出力としては概ね同じくらいであったと考えられます。

変化率をみると6RMでは同等の変化(プッシュアップ:21.04±0.22% vs ベンチプレス:22.21±0.13%)でしたが、1RMを見ると有意な差とは明記されていませんが、13.65±0.14%(プッシュアップ)と19.84±0.20%(ベンチプレス)となっています。これは特異性の原則の影響もあるかもしれませんが、最大挙上重量に関してはより特異的なエクササイズのほうが効果が高いのかもしれません。

しかしながら、この研究で示されたことは、適応を促すのに十分な負荷をかけたプッシュアップでもベンチプレスと同等の筋力の向上が望めることです。これは、十分な機器のない環境下でもプッシュアップに負荷を追加する(もしくは自体重で)ことで十分な筋の活動量が得られれば、筋力向上が望めることを示しています。また、筋力の向上や筋量の増加のためにエクササイズのバリエーションを増やしたい場合やピリオダイゼーションでエクササイズを変更する際の一つのオプションとしても、プッシュアップを用いても十分な効果が期待できるでしょう。

 

参考文献
1. Andersen, L.L., Magnusson, S.P., Nielsen, M., Haleem, J., Poulsen, K., and Aagaard, P. (2006). Neuromuscular Activation in Conventional Therapeutic Exercises and Heavy Resistance Exercises: Implications for Rehabilitation. Physical Therapy 86, 683–697