HPCスタッフコラム

2022.09.09

筋肉の緊張下時間によるレジスタンストレーニングの管理

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トレーニングボリュームと筋肥大の関係性について、15本の研究を用いてシステマチックレビューを行ったSchoenfeldら(1)によれば、レジスタンストレーニングのボリュームと筋肥大には段階的な比例関係がみられたと報告しています。つまり、筋肥大の効果に対する上限値はありますが、より多くのトレーニングボリューム(部位に対して週に最低でも10セット)でレジスタンストレーニングを行うことで筋肥大の効果が向上することを示しています。また別のメタ分析(2)では、週間のセット数と筋力の増加は段階的な比例関係にあると報告しています。筋肥大同様、筋力の向上にもトレーニングボリュームが関連していることを示しています。

さて、レジスタンストレーニングのボリュームを数値化する一般的な方法としてセット数×レップ数で総レップ数を求めるものがありますが、筋が緊張下におかれている時間(Time Under Tension)によっても表すことができます。緊張下の時間が長いほど、タンパク合成の速度が速くなるとの報告(3)もあり、緊張化時間に関する研究も多く行われるようになってきました。

今回紹介する研究では、2つのトレーニングプロトコルを緊張化時間で均一化し、筋力と筋肥大についての効果を比較しています。

 

Equalization of training protocols by time under tension determines the magnitude of changes in strength and muscular hypertrophy.
筋の緊張下時間によるレーニングプログラムの均一化が筋力と筋肥大の変化の大きさを決定する

Martins-Costa, HC, Lacerda, LT, Diniz, RCR, Lima, FV, Andrade, AGP, Peixoto, GH, Gomes, MC, Lanza, MB, Bemben, MG, and Chagas, MH.

J Strength Cond Res 36(7): 1770–1780, 2022

目的
この研究の目的は、緊張下時間(TUT:Time Under Tension)によって均一化した2つのトレーニングプロトコルの、最大筋力(1RM)、大胸筋と上腕三頭筋の局地的な横断面積(近位、中部、遠位)および総横断面積(局地的な横断面積の合計)に対する効果を調査することである。

被験者
過去6ヵ月にレジスタンストレーニングを行っていない33名の男性被験者 (年齢24.2 ± 4.9歳、体重76.4 ± 10.4 kg、身長1.75 ± 0.06 m)

方法
38名のトレーニングを行っていない男性被験者を3つの条件に振り分けた:3秒プロトコル(n=11;12レップ、1レップにつき3秒)、6秒プロトコル(n=11:6レップ、1レップにつき6秒)、コントロール(n=11;トレーニングなし)。トレーニングのプロトコル(10週間、ベンチプレス)はTUT、セット数(3~4)、強度(1RMの50~55%)、およびセット間の休息(3分間)を均一化した。統計的な有意さを確立するために0.05でαレベルを設定し、3グループ間の対象の変数の変化率を検証するために分散分析が用いられた。

結果
3秒と6秒のプロトコル間で、筋の総横断面積及び局地的な横断面積の増加に差異はなかった。大胸筋の局地的な筋肥大に差はなかった。上腕三頭筋において、遠位部の横断面積の増加は中部と近位部と比較して大きかった。両方の介入グループは1RM測定において同様の増加があった。

結論・応用
結論として、TUTが同じトレーニングプログラムは筋力の向上と筋肥大を同様に促進した。さらに、これらのプロトコルでは異なるレップ数を使用したことを考慮すると、この結果は神経筋の適応を評価する際はトレーニングのボリュームをTUTと切り離して考えることはできないことを示している。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では実施したレップ数に関係なく、筋が緊張下におかれる時間(TUT)が同等であれば同様の筋力の向上と筋肥大が起こることが確認できました。トレーニングプログラムでは両グループとも同じ緊張化時間、セット数、強度、レスト時間にて行い、したがって総レップ数(3秒プロトコル:36(4週目からは48)レップ、6秒プロトコル:18(4週目からは24レップ)のみが異なっていました。興味深いのは、よりレップ数の少ない6秒プロトコルでも同様の筋力向上と筋肥大の適応が起こったことで、これはこの論文の筆者らの言う通り緊張下時間がこれらの適応により大きく関係していることを示唆しています。つまり、セット数×レップ数の総ボリュームではなく、緊張下時間でトレーニングプログラムを管理することで、トレーニングの効果を向上させることができると考えられます。高齢者を対象にしたレジスタンストレーニングのレビューでは1レップ当たりの時間が6秒で効果が最も高くなると報告されています(4)。

しかしながら、この研究に参加した被験者がトレーニング非経験者ということで、経験者についての効果については定かではありません。経験者を用いた同様の研究を探してみましたが、見つけることができませんでした。緊張下時間に関する研究はまだまだ多くなく、今後は様々な被験者やプロトコルにて研究が行われていくと考えられます。これまでに行ったことがないのであれば、筋肥大や筋力の向上を目的にトレーニングする場合、筋の緊張下時間でプログラムを組んでみると効果的かもしれません。

 

参考文献
1.  Schoenfeld, B. J., Ogborn, D., & Krieger, J. W. (2017). Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis. Journal of sports sciences, 35(11), 1073-1082.
2.  Ralston, G. W., Kilgore, L., Wyatt, F. B., & Baker, J. S. (2017). The effect of weekly set volume on strength gain: a meta-analysis. Sports Medicine, 47(12), 2585-2601.
3.  Burd, N. A., Andrews, R. J., West, D. W., Little, J. P., Cochran, A. J., Hector, A. J., … & Phillips, S. M. (2012). Muscle time under tension during resistance exercise stimulates differential muscle protein sub‐fractional synthetic responses in men. The Journal of physiology, 590(2), 351-362.
4.  Borde, R., Hortobágyi, T., & Granacher, U. (2015). Dose–response relationships of resistance training in healthy old adults: a systematic review and meta-analysis. Sports medicine, 45(12), 1693-1720.