HPCスタッフコラム

2020.09.02

ストレングスアスリートに対するケトン食

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ケトン食とは脂肪分が多く、タンパク質と炭水化物が少ない食事のことを指し、典型的な脂肪対炭水化物およびたんぱく質の割合(グラム数で)は3対1または4対1とされています。通常のエネルギー源である炭水化物の代わりにケトン体を脳のエネルギー源として利用する食事であり抗痙攣作用があり、医療目的でケトン食が処方されることもあります(1)。

ケトン食についてはスポーツのパフォーマンスに対する効果に対しても多くの研究がなされています。体重や体脂肪については、ケトン食が減量に有効とする報告が多数あります(2、3、4、7)。また、持久系のパフォーマンスに対しても通常の食事(高炭水化物食)と比較しても影響がない、または限定的との報告もあり(4、5、7、8)、これは炭水化物の摂取の減少により体内のグリコーゲン量が減少することで、脂肪の酸化によるエネルギー源の供給が高まることが理由のようです(4)。しかし、多くのエネルギー供給を解糖系に頼るようなスポーツやトレーニングではケトン食は有害となるかもしれません(5、8)。筋力に対してもケトン食による影響はないようです(6)。

今回紹介する研究では、減量をしながらも筋力やリフティングのパフォーマンスを維持しなければならない階級制のパワーリフティングおよびウェイトリフティングのアスリートを対象に、通常食とケトン食の効果を比較しています。

 

A low-carbohydrate ketogenic diet reduces body mass without compromising performance in powerlifting and Olympic weightlifting athletes.
低糖質ケトン食によってパワーリフティングとオリンピックウェイトリフティングの選手のパフォーマンスを阻害せずに体重を減少させる

Greene, DA, Varley, BJ, Hartwig, TB, Chapman, P, and Rigney, M.

J Strength Cond Res 32(12): 3382–3391, 2018

目的
階級制のアスリートは、適切なパワーと体重の比率で特定の階級で競技するために体重の調整方法を用いる。低糖質食が、以前は炭水化物の制限に伴うと仮定されていた筋力やパワーへの負の影響を受けることなく減量するための特定の利点を提示するかもしれないというエビデンスがある。したがって、この研究の目的は、低糖質ケトン食(LCKD:Low Carbohydrate Ketogenic Diet)を、パワーリフティングやオリンピックリフティングといった階級制スポーツで競技するアスリートに対する減量方法として用いることができるかを検証することである。

被験者
14名の中級からエリートレベルの競技リフティング選手(年齢:34±10.5歳、範囲:24~53歳、体重:78±12 kg、体脂肪率:17.5±4.6 %、そのうち内女性が5名)。平均的なリフティングの経験年数は6.2±5.8年。

方法
クロスオーバー法で、14名の被験者が任意の通常の食事(UD:Usual diet)(1日に250g以上の炭水化物の摂取)および任意のLCKD(一日に50g以下または全体の10%以下の炭水化物の摂取)を無作為の順序でそれぞれを3カ月間おこなった。リフティングのパフォーマンス、体組成、安静時代謝、血糖値、および血中電解質をベースライン、3カ月後、および6か月後に測定した。

結果
LCKDの期間はUDの期間と比較して体重(-3.26kg、p=0.038)と徐脂肪体重(-2.26kg、p=0.016)が有意に減少した。徐脂肪体重の損失はリフティングのパフォーマンスに反映されず、パフォーマンスは食事期間の間で差はなかった。食事間に主要および二次的な評価項目にそれ以外の差は見られなかった。

結論・応用
任意の低炭水化物ケトン食(LCKD)をとる階級制のアスリートは体重を減少させそして通常食と同等のリフティングパフォーマンスを示した。コーチやアスリートは階級制スポーツの減量目的を達成するためにLCKDを用いることを考慮すべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究では3カ月間のケトン食によって体重の減少が報告されました。同時に徐脂肪体重量も減少しました。これは他の研究と異なり(3、4、6)、多くの研究ではケトン食でも徐脂肪体重の維持が報告されています。また、この研究ではケトン食による徐脂肪体重の減少も見られず、この点も他の研究と異なっていました。しかし、この研究の対象であるストレングスアスリートにおいて最も重要であるリフティングのパフォーマンスは維持されていました。そのため、目標体重を達成しながら筋力やパワーを維持するためにはケトン食が有効であるといえるでしょう。

ケトン食は筋量の増加には適していない(3)とされており、実際に多くの研究ではケトン食による徐脂肪体重の増加はみられません(3、4、6)。今回の研究でも、徐脂肪体重は減少してしまっています。そのため、増量を必要とするアスリートに対しては、ケトン食は有効でないといえるでしょう。

スポーツパフォーマンスに対するケトン食の効果については多くの研究が行われています。様々な効果が報告されており、脂肪の減量には特に効果が大きく、また通常の減量に伴うパフォーマンス(持久力や筋力)の低下もない、または限定的です。一方で、筋量の増加や解糖系のエネルギー供給システムに頼るようなスポーツや身体活動のおいてはその効果が限定的であったり、有害となったりすることもあります。

ケトン食の導入は、スポーツや個々のニーズや特性を理解しそれらに対してケトン食が有効であるかを検証することが必要でしょう。

 

参考文献
1. Hartman, A.L., and Vining, E.P.G. (2007). Clinical aspects of the ketogenic diet. Epilepsia 48, 31–42
2. Fleming, J., Sharman, M.J., Avery, N.G., Love, D.M., Gómez, A.L., Scheett, T.P., Kraemer, W.J., and Volek, J.S. (2003). Endurance Capacity and High-Intensity Exercise Performance Responses to a High-Fat Diet. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 13, 466–478
3. Vargas, S., Romance, R., Petro, J.L., Bonilla, D.A., Galancho, I., Espinar, S., Kreider, R.B., and Benítez-Porres, J. (2018). Efficacy of ketogenic diet on body composition during resistance training in trained men: A randomized controlled trial. Journal of the International Society of Sports Nutrition 15
4. McSwiney, F.T., Wardrop, B., Hyde, P.N., Lafountain, R.A., Volek, J.S., and Doyle, L. (2018). Keto-adaptation enhances exercise performance and body composition responses to training in endurance athletes. Metabolism: Clinical and Experimental 81, 25–34
5. Cox, P.J., Kirk, T., Ashmore, T., Willerton, K., Evans, R., Smith, A., Murray, A.J., Stubbs, B., West, J., McLure, S.W., et al. (2016). Nutritional Ketosis Alters Fuel Preference and Thereby Endurance Performance in Athletes. Cell Metabolism 24, 256–268
6. Paoli, A., Grimaldi, K., D’Agostino, D., Cenci, L., Moro, T., Bianco, A., and Palma, A. (2012). Ketogenic diet does not affect strength performance in elite artistic gymnasts. Journal of the International Society of Sports Nutrition 9.
7. Zajac, A., Poprzecki, S., Maszczyk, A., Czuba, M., Michalczyk, M., and Zydek, G. (2014). The effects of a ketogenic diet on exercise metabolism and physical performance in off-road cyclists. Nutrients 6, 2493–2508
8. Phinney, S.D. (2004). Ketogenic diets and physical performance. Nutrition and Metabolism 1.