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2017.07.13

長距離ランナーのための有酸素性能力トレーニング:伝統からの脱却

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長距離ランナーの有酸素性能力トレーニングについて伝統的なトレーニング方法とは違う方法を科学的に検証しています。走ることからウェイトトレーニングまで様々な角度から検証しています。
文字数:3,796文字|目安閲読時間:6~9分

Volume 21, Number 3, pages 51-54

長距離ランナーのための有酸素性能力トレーニング:伝統からの脱却
Training the Aerobic Capacity of Distance Runners: A Break From Tradition

Anthony Nicholas Turner, MSc, CSCS, London Sport Institute, Middlesex University, London, England

序論
すでに報告されているように(6,11,14,22)、有酸素性能力は、最大酸素摂取量(VO2max)、乳酸性作業閾値(LT)、ランニングエコノミー(RE)の3つの因子によって決定され、これらの変数のどれが変化してもパフォーマンスに影響を及ぼす。したがって身体能力の中で有酸素性能力に大きく依存する競技に関しては、それを最も効果的に高める方法と、個々の因子に狙いを定める方法を知っていることが不可欠である。本稿の目的は、関連するトレーニングプロトコル(高強度インターバルトレーニング、筋力およびパワートレーニング、量負荷トレーニング)に関して簡単に論じた後、エビデンスに基づいたガイドラインを提供することにある。

高強度インターバルトレーニングはVO2maxと乳酸性作業閾値を増大させるか?
有酸素性能力を向上させる最も一般的な手法は、中強度での長距離走であると考えられることが多い。しかしこれは、実際には最も効果的な手法ではない可能性がある。例えばHelgerudら(13)は、中程度のトレーニング経験のある 55 名の男性被験者(平均年齢 25 歳、週に 3 回のトレーニング、平均VO2maxは 58 mL/kg/min)を対象として、VO2maxの改善において、高強度の持久力トレーニングが、中強度および低強度のトレーニングに比べて有意に効果的であり(表 1 )、トレーニングの強度と量には互換性がないことを見出した。この結果は、すでに高いVO2maxを有しているアスリートの検証(13)などを行なった、ほかの複数の研究(7,15)と一致している。また、トレーニング強度はトレーニング持続時間の延長によって補われないとする諸研究の結果とも一致している(28,34)。

面白いことに、そしてほかの 3 つの研究(12,19,22)と同様に、Helgerudら(13)は、%VO2maxによって示されるLTにはいかなる変化も見出さなかった(ただしいずれのグループも、LTにおけるランニング速度が平均9.6 %有意に向上した)。そこで、VO2maxが増大することでLTも増大すると考えられると結論付けた。LTは無酸素性代謝の開始を示すため、長時間維持される可能性がある、有酸素性パフォーマンスの重要な構成要素である%VO2maxを左右すると考えられる。

したがって次のように主張してよいかもしれない。高強度トレーニングは低強度トレーニングよりも大きなVO2maxの増加を促し(5,8,13,17,35)、最大強度付近で行なうインターバルトレーニングが最も効果的である(8)、と。そこで、アスリートが十分な有酸素性持久力トレーニングを経験した後は(従来の持続的な中強度のプロトコルを利用して、58 mL/kg/min を超えるVO2maxを達成した後は)、高強度のインターバルトレーニングへと進み、変化をつけるために、表 1 で例に挙げて説明した 15 × 15 と 4 × 4 の手法を交互に行なうことを推奨する。著者が知る限りでは、58 L/kg/minを下回るVO2maxからトレーニングを開始したアスリートにおいて、低~中強度プログラムに比べて、高強度プロトコルがより大きく早い向上を引き出すかどうかはまだ明らかではない。

筋力およびパワートレーニングはランニングエコノミーを増加させるか?
筋力の向上は、有酸素性持久的パフォーマンスを向上させる可能性がある。筋力の向上によって接地時の負荷局面中に適用される相対的な力(%max)が減少し(23,26)、それによって、同じ力発揮に対する代謝要求が減少して、付加的な仕事に利用できる予備の運動単位が生じるからである(26)。さらに筋力の向上は、パワーと力の立ち上がり速度(RFD)の向上を伴うことが多いため(1)、血流量が増加して(26)、筋の酸素供給と基質/代謝産物の交換が向上する可能性がある(20)。これは力発揮/作業量に動員される運動単位が減少し(26)、そしてRFDの増加によって筋収縮の時間が減少するという事実によって説明されるであろう。ひいては、酸化と基質交換が発生する筋の弛緩時間を増加させることになる。

したがって、ここで述べたような適応が筋力およびパワートレーニングによって発生するのであれば、筋力およびパワートレーニングは、REに対して最も大きな影響を及ぼすと仮定することは理にかなっている。実際これは、Storenら(27)の研究によって裏付けられていると考えてよいかもしれない。Storenらは、十分なトレーニング経験を積んだ長距離ランナーを対象として、8 週間にわたって高重量の筋力トレーニングを実施した。その結果、最大有酸素性速度での疲労までの時間が 72 秒延長、すなわち21.3 %向上した。しかし体重、VO2max、LTでの速度、%VO2maxによって示されるLTには全く変化が認められなかった。したがってStorenらの研究結果は、筋力トレーニングの処方によってREの 5 %もの向上が得られたと結論付けた。

ストレングス&コンディショニング(以下S&C)コーチは、有酸素性刺激の増大になると考えて、レジスタンストレーニングにおいてセットやエクササイズ間の休息を短縮する一般的な戦略に対して用心するべきである。それどころか(16,25)、休息時間が短すぎると( 30 秒以下)負荷が抑制され、そのため筋力、パワー、RFDの向上が損なわれる(26)。さらにそれらの向上を左右する根本的な適応のひとつが、糖分解と酸化能力が高く、疲労耐性が比較的高いタイプⅡa線維の数(およびサイズ)の増加(それに伴うタイプⅡxの割合の低下)である。そのため高負荷(最大挙上重量( 1RM)の 85 %以上)が必要とされる。

トレーニングの量負荷とエクササイズ処方の詳細に関しては、Turner(30)を参照してほしい。それに基づいて、表2に、期分けされたプログラムに組み込むことが可能なレジスタンストレーニングセッションの例を挙げた。基本的には、S&Cにおける現代のアプローチを反映したものであり、競技パフォーマンスを向上させるためには、パワー(およびRFD)トレーニングを行なわなければならないと考えている(ほとんどの運動スキルは力と時間に依存するため)。そのため量負荷は、レップの量よりも質を強調する方法を採用する(すなわち低レップ、長い休息)。そして関連エクササイズは爆発的性質のものであり、高いパワー発揮と高いRFDを可能にする。また、最大筋力とこれらの変数との間には基本的な関係が存在する(すなわち筋力の獲得がパワーとRFDの両者を向上させる)と考えるため、全トレーニング期を通じて筋力の向上と維持を図る。

REが筋腱スティフネスに大きく影響されることはよく知られている(22,32,33)。そしてS&C分野においては、この「スティフネス(硬さ)」を向上させるにはプライオメトリックスが最も適していることは広く認められている。この詳細に関してはTurner&Jeffreys(31)を参照してほしい。それに基づいて、表 3 で、レジスタンストレーニングプログラムに段階的かつ論理的に(すなわちアスリートがそれ以前のドリルを習得したのちに)付加されるべき、漸進的プライオメトリックドリルを挙げた。これらのドリルは基本的には、アスリートが高い着地衝撃に対応することを助け、筋のコンプライアンス(柔らかさ)を左右するゴルジ腱紡錘を徐々に抑制して、推進力とREの向上を助ける。さらにこれらのドリルは、ランニング中の短い収縮時間と接地時間を模倣することによってRFDを向上させる。

トレーニングの量負荷:多すぎるのは良いことか?
注意する必要があるのは、すでに存在する有酸素性トレーニングスケジュールに対して、筋力、パワー、プライオメトリックトレーニングを単純に追加するべきではないことである。例えばBastiaansら(3)およびPaavolainenら(21)は、有酸素性持久的トレーニングの全時間の37 %を筋力トレーニングに置き換えた。このプロトコルは、高いパワー発揮を維持する能力を高めはしないまでも、少なくとも短時間は維持することを可能にし、結果的に有酸素性持久的パフォーマンスの向上に寄与した( 1 時間のタイムトライアルに基づく)(26)。つまりこれらの研究は、筋力トレーニングを単純に追加するのではなく、有酸素性持久的トレーニングの一部をそれに置き換えたものである。多量のトレーニングが大きなトレーニング負荷を生み出して、コルチゾールに対するテストステロンの割合を低下させ(4,9,10)、ひいては、筋力と有酸素性持久力の獲得を損なうことはすでに示されている(26)。つまり、ここで取り上げた諸研究は、筋力トレーニングと有酸素性トレーニングの併用は競技能力の向上を損なうとみなす通念への反証でもある。この通念は筋力およびパワー系アスリートに関してはあてはまるかもしれないが、有酸素系アスリートに関してはあてはまらないといえるであろう。

結論
有酸素性能力を決定する因子は3 つある。すなわちA)VO2max、(B)LT、そして(C)REである。有酸素性能力の向上を至適化するためには、それぞれの因子に狙いを定める必要がある。VO2maxとLTは同時に適応させることが可能であり、高強度のインターバルトレーニングによって最も適切に訓練されるとみられる。REはトレーニング歴(18)、タイプI線維の割合(24,29)、形態測定値(2)によって正の影響を受けるが、その向上は、高強度の複合エクササイズ(例えば 85 % 1RM以上のスクワットとデッドリフト)や高パワー/速度のリフト(爆発的エクササイズ)を強調したレジスタンストレーニングによって負の影響を受けることがある。そのため伸張-短縮のメカニズムを向上させるドリル(すなわちプライオメトリックス)によって補強し、ストライドの推進力とREの付加的向上を促すべきである。

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