HPCスタッフコラム

2017.07.27

筋力およびパワーの適応を競技パフォーマンスに転移させる:水平および鉛直方向の力発揮

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加速やスプリント時にどの方向に力がかかるのか、よくおこなわれるウェイトトレーニングとの相違点を考察した記事です。加速力やスピードを向上させるためのトレーニングへの応用の方向性を示唆しています。
文字数:11,004文字|目安閲読時間:18~27分

Volume 20, Number 6, pages 44-50

筋力およびパワーの適応を競技パフォーマンスに転移させる:水平および鉛直方向の力発揮
Transference of Strength and Power Adaptation to Sports Performance Horizontal and Vertical Force Production

Aaron D. Randell, MSc
John B. Cronin, PhD
Justin W.L. Keogh, PhD
Nicholas D. Gill, PhD

序論
短距離における走速度は、ほとんどのチーム競技において優れたパフォーマンスを発揮するための重要な要素である(2,21,26)。速度はストライド長とストライド頻度(ピッチ)の積であり、速度を高めるためには、これら変数の両方は無理でも、いずれか一方は向上させなければならない(23,24)。図に示した速度の決定論的モデルをみると、ストライド長とストライド頻度はいずれも元をたどれば力の発揮される量と時間の産物であることがわかる。これはすなわち、速度を最大限に向上させる上で最も重要な要素は、力の発揮と発揮時間であることを意味する。

一方、決定論的モデルをみてもはっきりしないのは、力発揮において最も重要な方向はどちらかということである。速度を向上させるためにより重要なのは、水平方向と鉛直方向いずれの力発揮であろうか? スプリントパフォーマンスにおけるそれぞれの力発揮の重要性については既存研究でも見解が分かれている。加えて他の競技特異的な要素、例えばラグビーやラグビーリーグのコンタクト場面において生じるような要素についても考慮しなければならないとなると、問題はさらに複雑になる。そのため、ラグビーやラグビーリーグなどの競技場面における速度向上に影響を及ぼすものとして、どちらの力成分がより重要であるかは完全には明らかになっていない。

さらには、選手がスプリントを行なわなければならない一般的な距離や時間など、その競技の速度要求も考慮に入れる必要がある。スプリントの平均距離が10 ~ 30 mの競技においては、最短時間で最大速度に到達する能力のほうが最大速度そのものよりも重要であるように思われる。すなわち多くのアスリートにとっては、最大速度よりも加速のほうが重要性が高いと考えられるのである。このことから、最大速度と最大加速について考えた場合、力を発揮する方向に関してはそれぞれに要求が異なるのか否かという疑問が生じる。

本文献レビューはこの問題について、(a)水平方向の力発揮とそれが速度および加速に及ぼす影響について文献を調査し、また(b)鉛直方向の力発揮とそれが速度および加速に及ぼす影響について文献を調査し、(c)今後の研究の方向性について提言を行なう。

水平方向 vs. 鉛直方向の力発揮速度の決定因子
速度はストライド頻度(ピッチ)とストライド長の積であり、速度を高めるためには、これら変数の両方は無理でもいずれか一方を向上させ、なおかつ他方の変数に一方が向上した分と同等またはそれ以上の低下をもたらさないようにしなければならない(9,20,23,24)。

速度がストライド頻度とストライド長の積にすぎないのであれば(図)、最大走速度の向上は単にストライド頻度を高めるだけで実現できるはずである。Weyandら(24)は傾斜なしのトレッドミルでのランニングにおいて、最大速度 11.1 m/秒を記録したランナーは同 6.2 m/秒を記録したランナー(速度差は 1.8 倍)に比べて 1.16 倍のストライド頻度を示したと報告している(r²=0.30 )。ところが同じ研究において、-6 °傾斜(下り)および+9 °傾斜(上り)のトレッドミルにおける最大速度の個人差を調べたところ、最大速度には有意差がみられたにもかかわらず( それぞ れ9.96±0.30 m/秒 と 7.10±0.31 m/秒)、ストライド頻度に有意差はみられなかった(それぞれ4.38±0.03 ステップ/秒と 4.34±0.08 ステップ/秒)。Hunterら(9)は、ステップ頻度とスプリント速度の間に有意な相関は認められない(r=−0.14)と報告しており、同様にBrughelliら(3)も最大走速度とストライド頻度の相関はわずかであると報告している(r=0.02)。またHeglund&Taylor(8)は、速度の違いにおいて生じるストライド頻度の変動幅は小さい傾向にあると述べている。ただしその根拠となっているのは四肢動物を用いた研究の結果であり、それもマウスからウマまでの幅広い身体サイズの動物を対象としたものである。

ストライド頻度はストライド時間の影響を直に受け、そしてストライド時間は遊脚時間(滞空時間)および接地時間(立脚時間)の影響を受ける(20)。すなわち、

ストライド頻度= 1 /(滞空時間+立脚時間としての)ストライド時間

最大速度におけるストライド1 回の総所要時間においては、遊脚時間がその大部分を占めることを考えると(最大速度 6.2 ~ 11.1 m/秒におけるストライド時間の約75 %)(24)、最大速度と最大ストライド頻度の間に比較的弱い関連性しか認められないのは、最大速度の異なるランナーであっても脚の入れ替えに費やす時間には大きな差がないためである可能性が考えられる。すなわち最小遊脚時間が似通っているために、最大ストライド頻度の変動幅も最小限にしか生じないのである。Weyandら(24)が提示した回帰関係は、傾斜なしのトレッドミルランニングにおいて、最大速度 11.1 m/秒のランナーは同 6.2 m/秒のランナーと比べて最小遊脚時間がわずか8 %( 0.03 秒)短いだけにすぎなかったことを示している(r²=0.06)。これに対し、低速を記録した上り傾斜でのトレッドミルランニングと高速を記録した下り傾斜でのランニングとでは、遊脚時間はかえって低速のほうが 8 %短かった(それぞれ 0.331±0.005 秒と 0.359±0.004秒)。ただしこの違いは速度の差によるものというより、ランニングサーフェスの 傾斜によって下肢の弧を描く動きが妨げられることが原因であると考察されている。

高速と低速のランナー、および高速と低速でのランニングに遊脚時間の差がないことが事実であるとすると、高速ランナーと低速ランナーの間にみられる最大ストライド頻度の差は、高速のランナーおよびランニングにおいてストライド当たりの接地時間が短いことに起因するものではないかと考えられる。Brughelliら(3)は最大走速度と接地時間の相関は低い(r=0.14)と報告しているが、他の研究では対照的な結果が出ている。Nummelaら(20)は最大走速度と接地時間の間には有意な負の相関関係(r=-0.52)が認められたと報告している。同様にWeyandら(24)も、最大速度における接地時間は高速の下り傾斜でのランニングのほうが低速の上り傾斜でのランニングに比べて有意に短かったと報告している(それぞれ 0.098±0.003 秒 と 0.130±0.004 秒)。またKyröläinenら(12)は、走速度が 3.45 m/秒から 8.25 m/秒に上昇すると、接地時間は 0.227±0.011秒から 0.115±0.007 秒に短縮されたと報告している。さらにMunroら(18)も、走速度の上昇につれて接地時間は短縮されたと報告している(速度 3.0 m/秒で0.27±0.020 秒から同 5.0 m/秒で0.199±0.013 秒へ)。したがってストライド頻度の上昇による速度の上昇は、ストライド当たりの接地時間の短縮によって生じている可能性が考えられる。

すでに述べたように、速度が単にストライド頻度とストライド長の積であるならば(図)、最大走速度の向上は単純にストライド長を増大させることによっても実現できるはずである。Weyandら(24)は、傾斜なしのトレッドミルランニングにおいて最大速度11.1 m/秒を記録したランナーの最大速度におけるストライド長は、最大速度 6.2 m/秒のランナーを1.69 倍上回っていた(それぞれ 4.9 mと 2.9 m)と報告している(r²=0.78)。また最大速度での下り傾斜ランニングにおけるストライド長(9.96±0.30 m/秒において4.6±0.14 m)は、最大速度での上り傾斜ランニングにおけるストライド長(7.10±0.31 m/秒において3.3±0.10 m)を有意に上回っていた。他の研究でもこれと同様の結果が出ており(3,9)、最大走速度とストライド長の間には有意な相関関係が認められることが報告されている(それぞれr=0.66とr=0.73)。

ストライド長は離地距離、滞空距離、および着地距離の合計である。しかしWeyandら(24)は、高速と低速のランナーで接地距離に差はなく、回帰方程式が示す最大速度11.1 m/秒のランナーと 6.2 m/秒のランナーの接地距離の差はわずか1.10 倍であったと報告している(r²=0.30)。さらには男女それぞれの群内でこれらの結果を分析したところ、最大速度における接地距離の差はほとんどあるいは全く認められなかったという。Nummelaら(20)は、ストライド長の増大は鉛直方向に発揮される力(r=0.58)と水平方向に発揮される推進力( r=0.73)の両方に関連していると報告し、ストライド長の増大は鉛直と水平の両方向の地面反力(ground reaction force:GRF)を増大させることによって達成される可能性を示唆している。これらの結果は、ストライド長を伸ばすための主要メカニズムとしてランナーが用いている手段は、より大きなGRFの獲得であることを示唆している。すなわちストライド長は、足が地面に接する局面において発揮される力と、その力が発揮される時間との積によって決定されていることになる(23,24)。

速度の主な決定因子は、地面に対して発揮される力、ならびに足が地面と接する時間であると考えられる。すなわち、より大きな速度を獲得するためには、より短い接地時間の間により大きな支持力を発揮しなければならない。GRFは 3 つの構成成分に分けられるが、通常、最も重視されるのは水平成分(前後方)と鉛直成分のふたつである(10)。Mero&Komi(14)は、走速度と体重当たりの平均合力(水平と鉛直)との間には相関関係が存在することを証明したが(r=0.65)、スプリントパフォーマンスに対するGRFの諸成分の相対的重要性については多くの仮説が立てられている。走速度の向上は、鉛直方向の力発揮の増大に関連していることが証明されているが(1,3,11,12,18,19,24)、一方で水平方向の力発揮とも関連性のあることが明らかになっている(3,10,12,18,20)。本稿ではここから両成分の関係について掘り下げ、この分野における今後の研究の方向性について提言を行なう。

鉛直方向の力発揮
一定速度でのランニングにおいては、打ち勝つべき水平方向の抵抗はほとんどないかゼロであり、離地前に身体の前進速度を増大させる推進力があれば、着地時に身体の速度を低下させるブレーキ力は容易に相殺されると考えられている(18,24)。また重力に打ち勝つ必要上、補助を必要とするのはストライドの鉛直成分のほうである。したがって、重力に抵抗して発揮される力を増大させれば離地時の鉛直速度が増大し、その結果、走速度の向上が得られると予想される。

Weyandら(24)は、鉛直方向の力発揮の増大は最大速度を向上させるためにランナーが用いている主要メカニズムであると報告している。最大速度において重力に抵抗して発揮される体重当たりの力は、高速ランナーでは低速ランナーの1.26 倍にのぼったことが回帰方程式によって明らかとなっている(r²=0.39)。また同一被験者の異なる走速度間で比較したところ、高速の最大速度を記録した下り傾斜でのランニングと、低速の最大速度を記録した上り傾斜でのランニングとでは、発揮された鉛直方向の力の大きさに有意差が認められた(それぞれ2.30±0.06/BW[体重]と 1.76±0.04/BW)。Munroら(18)は、走 速 度 が 3 m/秒 から 5 m/秒に上昇すると、鉛直方向の最大GRF(体重当たり)は1.40±0.11BWから1.70±0.08BWに増大したと報告している。Niggら(19)も同様の結果を示しており、速度が3 m/秒から 6 m/秒に上昇すると、鉛直方向の力が有意に増大したと報告している(1331±225 Nから 2170±489 Nへ)。報告されている被験者の平均体重から計算すると、これらの力はそれぞれ 1.9BWと3.0BWに相当すると推定される。同様にKyröläinenら(12)も、速度が 3.45 m/秒から 8.25 m/秒に上昇すると、GRFに変化が生じたことを明らかにしている。鉛直方向の最大の力の値は 1665±219 Nから 2134±226 Nへと増大した。この研究結果は性別で分けられていなかったため、相対値を計算することはできなかった。またArampatzisら(1)も、速度が 2.5 m/秒から 6.5 m/秒に上昇すると鉛直方向の最大GRF(N/kg)が増大したと報告しているが、数値は提示していない。以上の研究結果は、鉛直方向のGRF増大を通じて走速度の向上が達成されるという説を裏付けるものである。

水平方向の力発揮
上記とは対照的に、最大速度でのスプリントにおける決定的因子は水平方向の推進力の増大であるとする説もある。速度を維持するためには水平方向の推進力はブレーキ力と等しくなくてはならないが、速度を向上させるためには推進力がブレーキ力を上回らなくてはならない(10,15,20)。このことは、水平方向の推進力が速度向上と加速に重要な役割を果たしていることを示唆している。

Hunterら(10)は、相 対 的 な 推 進 力積はスプリント速度の分散の 57 %(r²=0.57)を説明するが、一方で、相対的な鉛直方向の力積はスプリント速度の分散をそれ以上説明しないことを、重回帰分析を用いて明らかにした。Nummelaら(20)もこれを裏付ける結果を示しており、推進局面における最大走速度と体重当たりの水平方向の力の間には有意な相関関係があると報告している(r=0.66)。そしてここでもまた、体重当たりの鉛直方向の力と最大走速度の間に関連性は認められなかった。Munroら(18)は、速度が 3.0 m/秒 か ら 5.0 m/秒 に 上 昇 す ると体重で標準化した推進力積は79 %増 大 し、0.14±0.01BWI(body weight impulse)から.25±0.2BWIに なったと報告している。同じ速度幅において、鉛直方向のGRFは21 %しか増大しなかった。Kyröläinenら(12)も速度の上昇に伴う水平方向の力の変化を報告している。速度が3.45 m/秒から8.25 m/秒へと上昇するのに伴い、水平方向の最大の力は 175 %増大して 235±42 Nから 675±173 Nになったのに対して、鉛直方向の力は 30 %しか増大しなかった。前述したように、この研究では結果が男女別に分けられていなかったため、相対値を推定することができなかった。水平方向の力の増大はBrughelliら(3)も報告している。走速度が最大速度の 40 %から 100 %へ上昇するのに伴い、相対的な水平方向の力は 105 %増大して 0.21 ± 0.02 N/kgから 0.43 ± 0.06 N/kgになったのに対して、鉛直方向の力は 18 %しか増大しなかった。以上の研究結果は、走速度を向上させる上で、水平方向の力発揮は鉛直方向の力発揮よりも重要であることを示唆していると考えられる。

これら複数の研究が用いている手法の違いにも着目すべきであろう。電動(24)および非電動トレッドミル(24)を用いた研究結果と、地面でのランニングを用いた研究結果が存在する(1,10,12,18-20)。電動トレッドミルを用いた一定速度でのランニングが地面でのランニングとの因果関係を導き出す上で正確な手法であるかについては疑問の余地があるかもしれない。しかしそれより重要なのは、Weyandら(24)が鉛直方向の力のみを計測した結果、鉛直方向の力発揮の増大は最大速度を向上させるためにランナーが用いている主要メカニズムであると結論付けていることである。これはArampatzisら(1)とNiggら(19)も同様であり、やはり速度の上昇に伴って鉛直方向の力が有意に増大したと報告している。また、鉛直と水平の両方向の力を計測した研究のうち、Kyröläinenら(12)とMunroら(18)は速度上昇に伴い両成分とも増大したと報告している一方、Hunterら(10)とNummelaら(20)は有意な相関関係が認められたのは水平方向の力のみであったと報告している。

鉛直方向 vs. 水平方向
鉛直成分と水平成分を比較してみると、鉛直方向の力のほうが大きさでは上回っているように見受けられる。Munroら(18)は、速度3.0 ~ 5.0 m/秒における鉛直方向の最大GRFは概して水平方向の最大の力の 5 ~ 10 倍にのぼると報告している。また速度 3.0 m/秒および 5.0 m/秒における水平方向の推進力積は鉛直方向の平均GRFのそれぞれ 10 %と 15 %であった。Kyröläinenら(12)は、速 度3.45 m/秒 と8.25 m/秒における水平方向の力は鉛直方向のGRFのそれぞれ14 %と 32 %であったと報告している。この見かけ上の力の大きさの差はBrughelliら(3)のデータにも見受けられ、最大速度の 40 、65 、および 100 %の速度における相対的な水平方向の力は相対的な鉛直方向の力のそれぞれ9 、12 、および 18 %であり、これは重力加速度(9.81 m/秒²)によるものと考えられると報告している。

鉛直方向と水平方向の力発揮には確かに見かけ上の差があるが、しかしこの差は速度が上昇するにつれて小さくなるようである。GRFの水平成分を鉛直成分の割合として表した場合、研究結果においてその割合が上昇していれば、水平成分のほうが鉛直成分より比例的に増大していることになる。このように速度上昇に伴ってGRFへの水平成分の寄与率が上昇したことを明白に示した研究結果として、Munroら(18)では速度3.0 m/秒で 10%が 5.0 m/秒では 15%に、Kyröläinenら(12)では 3.45m/秒で 14%が 8.25 m/秒では 32%に、そしてBrughelliら(3)では40%最大速度で 11%が 100%最大速度では 19%にそれぞれ上昇している。

GRFのふたつの主要成分は増大の仕方に違いがあるだけでなく、鉛直方向の力については速度上昇に伴って直線的に増大しない場合があることもまた 明 白 で あ る。Munroら(18)とNiggら(19)は、速度3 ~ 6 m/秒の範囲において、鉛直方向のGRFは速度上昇とともに直線的に増大したことを示しており、またKellerら(11)も速度3.5 m/秒までは同様の直線的な増大を認めているが、速度がそれ以上になると増大との関係は非直線的になり、場合によっては鉛直方向の力はそれ以上増大しなくなることを報告している。またBrughelliら(3)は、走速度が最大速度の 40%から 65%に上昇するのに伴い、相対的な水平方向の力は38%増大し( 0.21±0.02 N/kgか ら 0.29±0.03 N/kgへ)、相対的な鉛直方向の力は 17%増大した( 1.98±0.23 N/kgから 2.31±0.18 N/kg へ)と報告している。しかし走速度が65%から100%へと上昇する間には、相対的な水平方向の力はさら に48 % 増 大 し た(0.29±0.03 N/kgから0.43±0.06 N/kgへ)のに対して、相対的な鉛直方向の力は比較的変化がなく、1%しか増大しなかった(2.31±0.18 N/kgか ら 2.33±0.30 N/kgへ )。同様にNummelaら(20)も、最大速度の約 65%以上では相対的な鉛直方向の力は変化しなかったと報告している。速度 7 m/秒までは鉛直方向の力の増大が認められたが、それ以降は速度が上昇しても鉛直方向の力は増大しなかった。先ほど述べたとおり、Kellerら(11)は低速においては相対的な鉛直方向の力が直線的に増大したと報告しているが(1.5 m/秒で1.23±0.10BWから 3.5 m/秒で 2.45±0.28BWへ)、速度が 3.5 m/秒から 6 m/秒へ上昇する間には相対的な鉛直方向の力に有意な増大は認められなかったという( 3.5 m/秒では 2.45±0.28BW、6 m/秒では 2.38±0.28BW)。さらに最大速度8.0 m/秒では力の減少(1.89±0.49BW)が認められたが、ただしそのような高速での試行は被験者 1 名が 3 回実施したのみであり、この数値はその 3 回から得たものにすぎない。Hunterら(10)も、相対的な鉛直方向の力積とスプリント速度の関係は非直線的なものであることを示す証拠が認められたと報告している。ただしこの場合は、相対的な鉛直方向の力積の大きさがある一定レベルを超えるとスプリント速度の上昇に呼応した増大を示さなくなったというものである。これはグラフでしか報告されていない結果であるが、それでも鉛直方向の力発揮には上限が存在し、ある一点を過ぎると、鉛直方向のGRFの増大は速度の向上に寄与しなくなる可能性を示唆するものと考えられる。 最大走速度を向上させるためには、鉛直と水平両方のGRFを増大させなければならないことが明らかになっている。ふたつのGRFのうち鉛直成分のほうが見かけ上は大きいが、走速度は最大に近づくにつれて鉛直よりも水平方向の力に対する依存度を高めると考えられる。速度が上昇するにつれて鉛直方向の力と走速度の間に直線的な関係がみられなくなることを考えれば、そうであることは明白である。鉛直方向の力を増大させても水平方向の速度は向上しないが、走速度の加速と減速は主に水平方向の力の変化によってもたらされることから、水平成分を重要視することは理にかなっていると思われる。次のセクションでは、鉛直および水平方向の力発揮が加速にもたらす寄与について考察する。

加速
速度はほとんどの競技場面において非常に重要であるが、最大努力で短距離のみ走る場合においては加速のほうが重要である(6,23)。したがって、最短時間で最大速度に到達する能力は最大速度そのものよりも重要性が高いと考えられる。すなわち加速は多くの競技の要求について調査する際の、ひとつの大きな焦点となるものである。

すでに述べたとおり、スプリントパフォーマンスに対するGRFの諸成分の相対的重要性については多くの仮説が立てられている。速度-時間曲線は加速、等速、および減速の3 つの局面に分けられるが(15)、これら仮説の多くはスプリントの等速局面に最もよく当てはまるようになっている(10)。一定速度(等速)でのランニングにおいては、離地前に身体の前進速度を増大させる推進力によって、着地時に身体の速度を低下させるブレーキ力は容易に相殺されると考えられている(18,24)。これに対して加速は、推進力がブレーキ力を上回るように水平方向の力を変化させることで達成される(20)。このことから、最大速度と最大加速について考えた場合、力を発揮する方向に関してはそれぞれに要求が異なるのか否かという疑問が生じる。

Mero(13)は、鉛直方向と水平方向のGRFの特性を調べる研究において、スプリントの加速局面(速度= 4.65 m/秒)を、先行研究で調べた最大速度でのスプリント(速度=9.85 m/秒)と比較した(16)。それぞれにおける鉛直方向の力の平均値は同等であったのに対し(前者は 431±100 N、後者は約 563 N)、スプリントの加速局面で発揮された水平方向の力は、一定の最大速度におけるスプリントのそれを約46 %上回っていた(前者は 526±75 N、後者は 360±42 N)。ただし、Meroら(16)における鉛直方向の力の平均値は、体重を含めた規定値:stated value(1286±61 N)から被験者の平均体重( 73.7 kg)を差し引いた概算値であることに注意しなければならない。

Mero(13)が取得した速度4.65 m/秒での加速局面における鉛直および水平方向の力の値を、平均体重を用いて体重当たりの数値として表し、Munroら(18)の報告している類似速度4.5 m/秒および4.75 m/秒での基準値と比較することが可能である。するとここでもやはり、類似速度における加速局面と一定速度でのランニングとの間で相対的な鉛直方向の力に差はみられなかったのに対し、水平方向の力は加速局面が一定速度でのランニングを上回っていた(表)。これらの結果は、加速中には一定速度でのランニング中よりも水平方向の力への依存度が大きいことを示唆している。

Hunterら(10)は、単回帰分析と重回帰分析の両方を行なった結果、発揮される相対的な推進力積は高速のアスリートのほうが大きいことが比較的強い傾向として認められたと報告している(r²= 0.57)。このことから、大きな水平方向の推進力を発揮できるアスリートほど立脚局面ごとに水平方向の速度が上昇する度合いが大きく、したがって、より短時間で加速できると考えられた。これと同様の結果が得られた研究 と し て、Mero&Komi(14)は、35~45 m地点間における推進局面の平均合成GRFとスプリント速度の間には正の相関関係があると報告しており(r =0.84)、またMero(13)は、推進局面における水平方向の力発揮と走速度の間には高い相関関係があると報告している(r = 0.69)。これらの結果は、スプリントの加速局面における推進局面の重要性をさらに強調するものである。 Hunterら(9)は、大きな鉛直方向のGRF、ひいては離地時の大きな鉛直方向の速度はストライド長にプラスの効果をもたらしたが、一方でストライド頻度にはマイナスの効果をもたらしたことを示唆している。加えて、ストライド長とストライド頻度の間には強い負の相関関係があることを示す証拠も得られた(r =− 0.78)。すなわち、ストライド頻度の高いアスリートはストライド長が短い傾向にあり、またその逆のこともいえるということである。このことから、鉛直方向のGRFを小さくして滞空時間を短くすることによって接地頻度を高めれば、それだけ加速する機会が多く得られるはずであると考えられた。相対的な鉛直方向のGRFが大きいために加速中の滞空時間が長くなると、それに伴い接地に費やされる時間の割合は低下すると予想される。アスリートが自身のスプリント速度に影響を及ぼすことができるのは地面と接している間だけであるため、接地時間の短縮は不利益となる(10)。したがって鉛直方向のGRFは、下肢の入れ替えに最低限必要な滞空時間をもたらす程度の大きさが最も望ましいということになる。下肢の入れ替えを素早くできれば相対的な鉛直方向のGRFもそれほど必要とせず、残りの筋力はすべて水平方向に発揮されるはずである。相対的な鉛直方向のGRFを大きくすることのほうが重要になるのは、アスリートが疲労などで高いストライド頻度を達成または維持できない場合に限られる(10)。

以上のことから、スプリントの加速局面において高い加速度を達成するためには、水平方向の推進力を増大させる必要がある(10)。したがって、トレーニングの大部分を鉛直方向ではなく水平方向のGRFを高める目的に当てることが良い結果につながると考えられる。

結論/今後の研究方向
最大走速度には大きな力発揮が必要とされることは広く認められている(2,15,17)。そのため筋力およびパワートレーニングは、走速度を向上させる手段としてほぼ例外なく推奨されている(2,5,23)。したがって筋力およびパワーと速度との関係は、ランニングパフォーマンス向上の潜在的メカニズムを特定する上での大きな関心事である(2,5,25,27)。

また、トレーニングエクササイズが競技動作に特異的であるほど、トレーニング効果のパフォーマンスへの転移の度合いが高くなることも広く認められている(5,21,22)。そのため水平面におけるパワーを必要とするアスリートは水平成分を含むエクササイズを行ない、鉛直方向へパワーを発揮したいアスリートは鉛直方向のエクササイズをトレーニングに取り入れる(4,21)。スプリントのパフォーマンス向上を最終目標とするトレーニングにおいては、発揮筋力を増大させるための様々なエクササイズが広く用いられていることを考えると(21,23)、速度の向上に最も重要である力の増大に注目することは直感的に理にかなっていると思われる。

文献を調べると、力発揮は鉛直面と水平面の両方において必要であるようにみえるが、最大速度へと加速する局面において最も増大するのは水平方向の力である。この見解はラグビー、アメリカンフットボールの要求を考慮に入れるとさらに妥当性を増す。これらの競技では、短距離を移動する間に素早く加速する必要があり、そのためには水平方向の推進力を増大させることが非常に重要であるのに加え、相手選手とコンタクトする際に大きな水平方向の抵抗に打ち勝つ必要もあるためである。したがって、これら競技のための筋力およびパワー向上レジスタンストレーニングプログラムのデザインには、動作特異的なアプローチを取り入れることが非常に重要であると考えられる。

現在ジムで行なわれているレジスタンストレーニングプログラムは、主に下肢筋群を鉛直面において動作させるエクササイズが中心である。しかし鉛直と水平の両方向に力を発揮するエクササイズを用いれば、ジムで獲得した筋力が競技へ移行する効果を高められる可能性が考えられる。したがって、優れたパフォーマンスを発揮するために水平面における力、速度、およびパワー(力と速度の積)を必要とする場合には、レジスタンストレーニングプログラムを作成する際、伝統的な鉛直方向のエクササイズに加えて、水平方向の動作に特異的なエクササイズにも重点を置くとパフォーマンスの向上が期待できる。ただし、ジムベースの下肢のレジスタンストレーニングプログラムに水平成分を取り入れた場合の効果の程度は、現時点ではまだ調査されていな
い。

Reference
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