HPCスタッフコラム

2017.08.17

コアトレーニングがパフォーマンスの向上と傷害予防に役立つ証拠

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腰痛に関する研究及び臨床で有名なStuart McGill博士によるコアに関するレビュー論文です。コアの筋組織特有の機能からエクササイズの紹介までパフォーマンス向上や傷害予防から考察しています。
文字数:17,347文字|目安閲読時間:29~43分

Volume 20, Number 4, pages 30-42

コアトレーニングがパフォーマンスの向上と傷害予防に役立つ証拠
Core Training: Evidence Translating to Better Performance and Injury Prevention

Stuart McGill, PhD Spine Biomechanics, Department of Kinesiology, Faculty of Applied Health Sciences, University of Waterloo, Waterloo, Ontario, Canada

はじめに
コアを十分に鍛えることは、最適なパフォーマンスと傷害予防に欠かせない。本稿では、パーソナルトレーナーがクライアントのために適切な漸進プログラムを作成する際に役立つように、コアと関連のあるいくつかの基本事項を紹介する。コアは、腰椎と腹壁の筋群、背部伸展筋群、および腰方形筋で構成される。さらに、コアを通りコアと骨盤、脚部、肩、腕の連携をもたらす多関節筋、すなわち広背筋と腰筋も含まれる。解剖学的、バイオメカニクス的にみた骨盤との相乗効果を考慮すれば、殿筋群もまた主要なパワー発生源として本質的な構成要素と考えられるだろう(これら構成要素の相乗効果は別途概説する)(36)。

コアの筋組織は、四肢の筋群とは機能的に異なり、頻繁に共縮して剛性を高め、すべての筋群が共同筋として活動することを可能にする。その具体的な例は様々なトレーニングや競技活動に関する参考文献で提供されている(2,3,5,13,14,15,19,20,53,55)。したがって、コアを効率的に鍛えるためには、四肢の筋群とは異なる方法でトレーニングを行なう必要がある。

トレーニングの世界では、科学的知見と現場における一般的な実践は必ずしも一致しない。例えば、屈筋群(腹直筋と腹壁)を鍛えるためには、脊椎の反復屈曲が良い方法であると信じている人たちがいる。興味深いことに、これらの筋群が実際にそのような動作として使われることは滅多になく、むしろ運動を停止している間、身体のブレーシング(共縮による支持)のために使われる。したがってこれらの筋群は、屈筋としてよりも、安定筋として働くことのほうがはるかに多い。また、椎間板の屈曲を反復することは障害を誘発するメカニズムである(10,61)。現場でよくみられる別の誤った指導例は、トレーナーが「腹横筋を活動」させて安定性を高めるために、クライアントに腹筋群を引き込むように指導することである。しかし、安定性を測定した研究によれば、最も重要な安定筋は運動課題に特異的であるため、この方法は脊椎の主要な安定筋を標的にしているとはいえない。

その理由として、第1に腰方形筋はときに最も重要な筋であるにもかかわらず、多くのトレーナーがいまだにこの筋を無視している(19)。第2に、腹筋群を内側に引くことは逆に安定性を低下させる(57)。第3に、腹横筋に関して、特定の背部障害を有するクライアントにおいて、この筋を活動させることによって別の障害が起こる可能性を示唆する知見があるが、これは他の多くの筋が活動することを原因としても起こる可能性があるため、結局、なにも腹横筋に限ったことではないことを示している(11,59)。腹横筋は非常に収縮レベルが低く、運動課題に対して内腹斜筋と共同で働くため、単独にこの筋だけを活動させることはできない(18)。よって、腹横筋に重点を置くトレーナーの狙いは誤っている。

また別の知見によると、コアが身体の他の部位における運動能力を高めることが示されている。例えば、ストロングマン競技のトレーニング課題を定量化した我々の研究では、股関節周辺の筋力が十分ではない人でも、コアの筋群が股関節の機能を補助し、その課題を行なうことができるように働いていることが明らかとなった(53)。具体的には、腰方形筋が振出し脚を振り上げてステップを踏むことができるよう、骨盤の挙上を支える。これは強力なコアが、身体の末梢部からさらに遠方に向かって筋力を発揮できるようにすることを示唆する最初の知見であった。同様に、我々の最近の研究(58)は、トレーニング中、立位のプレスでは自重の半分しか挙上できないことを明らかにした。立位でなければ彼らは自重以上の負荷を挙上できるだろう。仰臥位では、ベンチプレスのパフォーマンスは主に胸部と肩部の筋群によって支配されるのに対して、スタンディングプレス、特にシングルアームプレスのパフォーマンスは、コアの筋力に支配される。したがって、スタンディングプレスの能力の制限因子はコアの筋力であった。

コアは多くの場合、動作を開始するよりむしろ制止するために働いている。これは、多くのトレーナーがクライアントのためにエクササイズを作成する際に用いるアプローチとは矛盾する。スポーツや日常生活動作における優れたテクニックには、大抵の場合、股関節で発揮されたパワーがコアを通って完全に伝達することが必要である(37)。押す、引く、挙上する、運ぶ、捻じるなどの運動は、股関節のパワーを発揮する基礎的なテクニックを使って強化される。しかし、脊柱が曲がるとしばしば「エネルギー漏れ」と呼ばれる現象が起こり、それらの運動は弱まる。興味深いことに、このような課題の分類は、プログラムデザインの作成に大いに役立っている(腹部、背部伸展筋群、広背筋などの特定の筋群に対する個別のエクササイズよりむしろ、押す、引く、運ぶ、捻じるなどに重点を置いた運動課題を要求するエクササイズを作成することを考える)。

本稿を執筆するにあたり、筆者はトレーナーの指導能力向上のためにどうすれば最良の手助けができるかを考えた。我々は発表した数百の科学的知見に基づいて 2 冊の教科書を書き(25,35)、すでにまとまった形で何が必要で何が重要かを示したと考えている。したがって本稿は、コアのための治療的エクササイズの評価やデザインに関する問題に取り組んでいる、エクササイズ専門職のための考察である。クライアントの間で背部痛の有病率が高いことを考えると、コアのトレーニングは重要である。コアのトレーニングは、背部障害に起因する脊椎の安定性と不安定性にかかわる。背部障害の研究文献から得た証拠は、不適切な運動パターンが背部障害を引き起こす可能性があることを示している。したがってトレーナーは、すべてのクライアントについて運動パターンの質を検討するべきであり、どのようなエクササイズプログラムも、まずコレクティブエクササイズから始めることを前提に考える必要がある。

多くのトレーナーが評価、コレクティブエクササイズ、あるいはパフォーマンストレーニングの「レシピ」に従っている。そのような一般的な方法を用いることにより、「平均的な」結果は確実に得られるだろう。なかには症状が改善し好転するクライアントもいるが、多くのクライアントは、その方法が障害への対処に必要な適正水準から上方または下方に外れているという理由だけでトレーニングに失敗する。以上を踏まえて、本稿で提起するプログラムと方法の原理は、コレクティブエクササイズやトレーニングを行なう上級専門職の能力開発を支援することを目的としている。

背部障害の原因を考える
憂慮すべき事実がある。私が出会った背部痛患者の多くは、損傷のメカニズムを知らずに取り入れた不適切なト レーニングプログラムによって症状を悪化させていた。あらゆるエクササイズにおいて、漸進の第一歩は、痛みまたは潜在的な痛みの原因、すなわち、痛みを生じさせるおそれのある運動と運動パターンを排除することである。例えば、背部が屈曲に耐えられない症状(すなわち、繰り返しまたは長時間背部を屈曲した後の痛み)は、現代社会ではきわめて多くみられる。このようなクライアントに対し胸部に膝をひきつけるような種類のストレッチングを行なわせることは(脊柱起立筋の伸張受容器の刺激を通して)、一時的には痛みが軽減した感覚を与えるかもしれない。しかしこのような方法は、痛みの原因となっている組織が累積的な損傷を被るため、結果的に再び痛みが生じ、確実に柔軟性を失うだけである。

このタイプのクライアントには、特に午前中、睡眠中に起こる浸透圧性の浮腫状態により椎間板が膨張しているので、脊椎の屈曲を回避することが非常に効果的であることが証明されている(60)。さらに、通常このようなクライアントがウェイトを床面から持ち上げようとして腰を曲げると、脊椎に累積的な損傷が生じる。トレーナーが是正しないがために、このような事態が長く続いていることが多い。椎間板は損傷前にすでに数多く屈曲しているということを認識しなければならない(10)。屈曲動作は、靴ひもを結ぶというようなどうしても屈曲を行なう必要のある課題のためにとっておく必要がある。これに基づいて、できるだけ取り除くべきクライアントの背部における問題の原因として、多くの生活活動と仕事上の実例が示されている(28)。これらを参考にすると、トレーナーは指導による改善効果の半分は、原因(欠陥のある運動様式)を取り除くことによって得られるということに気付くだろう。これは単純なことである。背部の筋群が慢性の筋肉痛を起こす程度まで常時収縮した状態で、前かがみの姿勢で立っているクライアントを思い起こしてみるとよい。この場合、医師は通常、筋弛緩剤を処方するが、それでも筋を弛緩させることはできない。一方でトレーナーは原因を突き止めて、立位姿勢を修正し(図 1 )、効果的に筋の安静を保つことができれば、脊椎から過剰な負荷を取り除くことができる(32)。

科学的基礎を築く
脊椎の機能と損傷メカニズムに関する神話や論争は珍しくない。背部障害が、特に何かしら共通の「きっかけとなる出来事」を原因として起こっていると考えた際、通常、疫学的方法で統計が取られるが、その統計では、累積的な外傷による起因の度合いが無視される。補償機関のデータがしばしば参照されるが、それらは臨床医に「損傷」を起こした原因となる「出来事」を報告書に書き込むように求めている。例えば、「X氏は、荷物を持ち上げたときに腰を捻り、その結果負傷した」という具合である。運動学者やトレーナーは、回旋することと回旋トルクが発生することは異なることを知っている。しかし報告書に記入する人の中で、それを知っている人はきわめて少ない。その損傷は回旋トルクが生じさせたのか? それとも回旋動作そのものが生じさせたのか? 繰り返しになるが、背部の損傷が、ある単発の出来事に関連して発生することはきわめて少ないにもかかわらず、傷害/事故報告システムが「損傷」と関連づけられる「出来事」を報告するようになっており、これは適切ではない。累積的な要因が関与しているということは、椎間板ヘルニアの形成過程のデータが証明している。ヘルニア、すなわち器官脱出が形成される損傷メカニズムは、非常に軽微な圧縮負荷がかかる腰椎の屈曲を繰り返すことである(10)。このほぼ無症状の外傷が蓄積し、未来の患者が誕生するのである。繰り返される屈曲により、椎間板の線維輪は 1 層、また 1 層と徐々に剥離する(61)。これにより、薄くなった層の間に髄核物質の蓄積が始まる。また、椎間板線維輪の亀裂がどこで起こるかは、屈曲の方向から予測できる。例えば、脊椎が若干右方向へ偏って屈曲されている場合は、左の後方側面の椎間板が突出する可能性が高い(1)。それに続く回旋が線維輪の周辺部に亀裂をもたらす。このようなクライアントにとっては、マッケンジーの脊椎伸展法は役に立たないか、むしろ悪化させる(23)。これらは、背部障害の予防に関してもまた治療に関しても、トレーナーにとってきわめて重要な情報である。特定の原因を回避することは、最適な治療のための最適なエクササイズデザインをもたらし、同時に、患者の日常生活で繰り返される原因活動を排除することにもつながる。

トレーニングプログラムの多くは、筋を鍛え、脊椎の可動域を広げることを目的にしている。だが、これは患者によっては問題となることもある。背部をより多く動かすクライアントほど、将来背部に異常が生じるリスクが高いからである(56)。コントロールと持久力が伴っていない場合、完璧なフォームで筋力発揮を繰り返し行なうことができないリスクが高まるため、筋力は、あるクライアントにとっては役立つ場合も役立たない場合もある。興味深いことに、多くの「問題を抱えた背部」(繰り返し発症する慢性背部疾患)と無症状の対照群との差が、背部の筋力や可動性以外の変数であり、運動と運動パターンの欠陥がより一層重大であることが証明されている。したがって、運動や運動パターンの欠陥を治療のためのエクササイズの目標とするべきである。

例えば、背部に問題を抱えた人ほど背部を使う。通常、彼らは力学的に背部への負担を増大させる方法で、歩き、座り、立ち、挙上する。彼らの多くは比較的強い背部を有しているが、無症状の対照群よりも耐性は低い(47)。よくみられる異常な運動様式は、グルートアムネシア(gluteal amnesia、殿筋群を適切に動員できなくなった状態)として知られているが(27)、それは背部障害に共通の結果であると同時に、原因でもあると思われる。関節痛が「緊張」と言ってもいい程度まで伸展筋群を抑制し、屈曲筋群の慢性的促通をもたらすという一般原則は、股関節と背部痛に関しては正しいと思われる。明らかにこのカテゴリーのクライアントにとっては、殿筋群の統合を促進するエクササイズにより、膝を保護しながら背部の機能を高めることができるだろう。股関節屈曲筋群の可動性も同じく必要とされる(しかし腸骨筋とは別に腰筋に狙いを定めるためには、特別なテクニックが必要である)(図 2 )(38)。最適な背部の運動療法は、まずこれらの不安定なパターンをもつクライアントを特定し、次いで特異的なコレクティブエクササイズを行なうことによって可能となる。これを他のすべてのエクササイズの漸進に先行して行なう必要がある。

コアの安定性の科学
効果的なコア/脊椎安定化の方法は、安定性とは何かをしっかりと理解することから始めなければならない。脊椎からみれば、ジムボールの上でバランスをとる能力にはほとんど関係がない。これは単純に身体のバランスを保持する能力であり、重要には違いないが、不安定な脊椎に対処するものではない。実際、多くの場合、不安定な脊椎は屈曲には耐えられないし、圧迫に対する耐性も伴っていない。エクササイズボールに座ってエクササイズを行なうことは、屈曲した脊椎への圧迫を増し(52)、トレーニングプログラムの漸進を遅らせる。つまりこのような背部のエクササイズを選択することは、通常、治療の漸進過程のかなり後期にならなければ不適切である。脊椎の真の安定性は、腹壁全体の「バランス良く」剛性を高めることが可能になることで達成される。腹壁には、腹筋群、腰方形 筋、広背筋、さらに最長筋、腸肋筋、多裂筋などの背部伸展筋群も含まれる。ひとつの筋に焦点を合わせることは、通常、安定性の強化にはならず、むしろ、定量的に安定性の低下をもたらすパターンを生じさせる(20)。腹横筋、多裂筋などの筋を単独で鍛えることは不可能である。これらの筋だけを活動させることはできない。腹部を引き込むアブドミナルホロウィング(abdominal hollowing)のテクニックは行なってはならない。脊柱の潜在的な発揮エネルギーを低下させ、耐えうる負荷が低くなるからである(39)。多くのエクササイズを定量化して比較した興味深い 臨 床 試 験 が(22)、最 近 の「Physical Therapy」誌に掲載された(24)。この研究では、同じエクササイズを特定の腹横筋の単独エクササイズ(ホロウィングなど)と組み合わせて実施したが、腹横筋トレーニングを加えることにより効果は低下した。それに対して、腹部のブレーシング(腹筋と背筋を共縮させる)は安定性を促進する。ブレーシングの目標収縮レベルとトレーニングテクニックも解説されている(38)。最終的には、剪断力テストなど、ある種の誘発試験が、安定化法アプローチに最も適したクライアントを見分けるのに役立つだろう(17)。

脊椎/コアの安定性の向上を謳うトレーニング器具があるが、それらを定量的に調査した研究を考察することも興味深い。例えばMoresideら(54)は、「ボディブレード(Bodyblade)」(MadDogg Athletics, Venice, CA)を用いてコアの安定性を測定した。この器具は柔軟性のある金属板で、これを共振周波数で振動させる。他のほぼすべての方法でも言えることであるが、器具を使用する場合、テクニックによって実際に達成される安定性が決まる。実際、ボディブレードを不適切なテクニックで使用すると、安定性が低下するのに対して、適切なテクニックで用いれば、運動をコントロールするためにコアが等尺性収縮の状態に固定されることにより、コアの安定性が促進される。トレーナーの役割はこの科学やテクニックの意味を知り、エクササイズ中のクライアントの注意を適切なフォームに向けさせることである。

耐性と体力
ここで、コアの背部要素に負荷を課すために、トレーナーがリフティングパターンを取り入れようと考えているとしよう。トレーナーは、プレートをつけたバーを持ってスクワットをするほうが、バードドッグエクササイズより良いかどうか迷っている。このような場合に役立つのは、所定のエクササイズ処方がクライアントに適していることを保証するために、クライアントの耐性と体力を判定することである。各クライアントの負荷に対する耐性(tolerance)はそれぞれ異なり、ある値を超過すると痛みが生じ、最終的には組織の損傷をもたらす。例えば、あるクライアントは「バードドッグ」の伸展姿勢に耐えることはできても、腰椎に2倍の圧縮力がかかるジムボール上での「スーパーマン」の伸展には耐えられないかもしれない。一方、より高い耐性をもつ鍛錬者にとっては、「スーパーマン」がきわめて適切であると判明するかもしれない。体力(capacity)とは、ある人が痛みや症状が発生するまでに行なうことのできる累積的な運動量である。

例えば、20 m歩いただけで痛みを感じ始める人の体力は低い。このレベルに分類されるクライアントには、1週間に3回行なう治療的エクササイズは役に立たない。代わりにこのクライアントは、1日3回の短いセッションを行なえば改善する可能性が大きい。 1日3回の短いセッション中に歩行矯正を行なっても、決して現在の耐性と体力を超えることはなく、体力を鍛えるための代替法のひとつとなる。通常クライアントは、無痛でトレーニングできる体力が増すのに合わせて 1日1セッションまで漸進する。そうなれば、1日に1回のトレーナーとのセッションにも耐えられるだろう。

クライアントの症状を解釈する
我々がクライアントを評価する方法には、バイオメカニクスの確固たる基礎と様々な学問分野からの総合的な専門的知識が取り入れられている。まずクライアントの初回面談で、座り方、椅子からの起立方法、最初の歩行パターンなどから印象を形作る。次に既往歴を聞き、可能性のある損傷メカニズムや何が痛みを悪化および緩和させるかを探る。さらに評価プロセスを進め、基本動作の観察を続けて症状のメカニズムと本質を掘り下げる。続いて誘発試験を行ない、クライアントが耐えられる動作と運動パターンを特定する。具体的には、可動域、姿勢、および負荷を含めて評価する。それらのすべての情報を使って、コレクティブエクササイズを伴うエクササイズの漸進計画を作成し、クライアントが耐えられる治療的エクササイズの開始用量を決定する。このプロセスは、それまでに得た情報に基づいて選択した機能診断とテストで完結する。このような評価プロセスは、科学的に十分裏付けられている(29)。その結果は、不安定な動作や運動パターンの存在に関する推測を実証するために、またエクササイズの選択と次のエクササイズへの漸進速度を考慮するために用いられる。

クライアントの症状の解釈
背部痛のあるクライアントに特異的なエクササイズプログラムは、以下の手順で作成する(医師によるスクリーニングは実施済みであると仮定する)。

  1. 椅子からの立ち上がりを手始めに、クライアントのあらゆる動作を観察する。
  2. 既往歴につながる損傷メカニズム、特定の活動に伴う痛みのメカニズム、過去のエクササイズ処方などを調査する。「警告」が出現した場合は適切な専門医に照会する。
  3. 誘発試験を実施する:どのような負荷、姿勢および運動が痛みを憎悪または緩和させるか。
  4. 運動スクリーニングとテストを実施する。不安定な姿勢、動作、および運動パターンはあるか。椅子から、あるいは床から立ち上がるなどの日常活動が十分行なえるか。もし行なえなければ、トレーナーは、負荷を用いる漸進を行なう前に矯正のためのスクワットやランジが必要であることを認識すべきである。
  5. 臨床症状が複雑で、トレーナー自身が安心して指導できる範囲を超えている場合は、有能なコレクティブエクササイズの専門職との間で照会関係を作る。これは相互に有益であり、トレーナーは将来、より多くのクライアントを委託されるだろう。

有用な誘発試験の例
誘発試験は腰痛の評価に効果的な手段であり、簡単に実施できる。この種の専門知識は、テクニックを実際に目で見て得られるものであり、文章からは得られないため、各種の誘発試験と若干の矯正テクニックがDVDに収録されている(34)。図3(31)は、圧縮負荷への耐性を調べるための誘発試験の様子を示している。この姿勢調整耐性試験は有力な情報を提供し、損傷を引き起こし悪化させる活動を回避するための指針として役立つだけでなく、適切な治療法を計画するためにも役立つ。

クライアントに痛みに関して良い状態の日や悪い状態の日があるかを尋ねるだけで、さらに実際的な情報を収集できる。たとえ単純に思えるとしても、実際に良い日や悪い日があれば、それは痛みを軽減する活動と悪化させる活動があるということを意味する。そのことはいくら強調しても強調しすぎることはない。それらがどのような活動であるかを明らかにし、悪化させる要素を排除しなければならない。例えば、長い時間座ったままの姿勢が耐えられないのであれば、長時間の座位を取り除いた運動課題を組み立てることと合わせて、椅子のランバーサポートを使って屈曲を避けることが有効である。これは「脊椎健康法(spine hygiene)」として知られ、クライアントの体力を高め、トレーナーの指導を受けられるようにする。その後、座位による累積的なストレスと戦うために作成された特異的エクササイズを処方するべきである。

傷害リスクの軽減
エクササイズ専門職は誰でも、クライアントの1日の生活を通じて、背部疾患の原因である運動の欠点を取り除かない限り、完全に成果を上げることはできない。「荷物を持ち上げるときは膝を曲げて、背中は真っ直ぐ保ちなさい」というような助言はよく聞かれるにもかかわらず、本当に重要な問題に対処できることは稀である。仕事をしている際にこのような方法を実践できる患者は少ないし、それどころか、それが最良の動作とはいえない場合がしばしばある。例えば、「ゴルファーズリフト」は床から軽い負荷を繰り返し何度も持ち上げる際の、関節の保護に有効である。この場合、片方の脚を後ろに上げ、支持脚の屈曲した股関節を支点にして体幹を前傾する。脊椎も膝も屈曲しない。別の例は、特定の作業に対して動作の選択が不適切な場合を示している。例えばクライアントが、床に横たわる姿勢に移る際にディープスクワットを使うことがみられる。この方法では背部に過度の負担がかかる。スクワットの姿勢は、トイレや椅子から降りる場合には適切かもしれないが、床に身体を倒す場合には不適切であると思われる。その代わりに、椎間板を曲げないランジのほうがはるかに適切な選択である。(脊椎保護ガイドラインの詳しい説明と知見は参考文献[30]を参照)。繰り返しになるが、このような方法をとることにより、トレーナーとのトレーニングセッションで、より多くを達成できるクライアントの体力を高められる。筆者の専門外ではあるが、肩(21)と膝(16,55)の傷害予防とリハビリテーションに対しても、「コアスタビリティ」トレーニングが効果的であることが明らかとなっている。

解剖学と機能を結びつける
例として、シットアップやカールアップをジムボール上で行なうことによって腹壁の筋群を鍛えるという、通常行なわれている人気の高い方法を検討してみよう。だがここで、「シックスパック」の外観をもたらす横方向の腱により収縮要素が妨げられる腹直筋について検討しなければならない。この筋は至適な筋長の変化よりもむしろバネとして機能するように作られている。腹直筋にはなぜこれらの水平方向の腱があるのだろうか? その理由は、腹筋が収縮する際、腹斜筋によって、腹直筋を分離しようとする「帯状のストレス」が生じるからである(26)。さらにこの筋のバネのような構造に加え、それがどのように使われるかも考える必要がある。スポーツや日常動作では、骨盤が腹直筋を短縮させるまで胸郭を曲げることは滅多にない。むしろ、腹直筋を硬くして股関節や肩関節に負荷をかける。投球や方向転換のようにそれを素早く行なえば、腹直筋は弾性エネルギーの貯蔵と再利用の装置として機能する。ウェイトを挙上する際は、股関節で発揮されたパワーが体幹を通して効率的に伝達するように腹直筋は硬くなる。活発に体幹を屈曲するアスリート(クリケット選手や体操選手を考えてみよう)は、脊椎の関節破壊と痛みを経験する割合が高い。では、再びジムボールの上で体幹を曲げる一般的なトレーニング方法を考えてみよう。それは、パフォーマンスを高める運動能力を引き出さないばかりか、機械的な損傷原因を反復していることになる。これはほとんどの状況でむしろ不適切なエクササイズの選択である。それでもジムボールの使用に期待するクライアントは多い。したがって、それらのクライアントを指導する際には、トレーナーは自分の意図は隠したままジムボールを使い続けるべきである。ただし、エクササイズは脊椎にリスクを負わせるカールアップではなく、両肘をボールに置いて行なうプランクに変えなければならない。その際に体幹/腹部のバネを強化し、脊椎を保護するために「ステア・ザ・ポット(鍋をかき回す)」の動作を行なうとよい。これは大多数のクライアントにとってはるかに優れたエクササイズである(図4参照)(41)。

コアエクササイズのデザイン-バイオメカニクスと臨床現場の実践
エクササイズの漸進は段階的なプロセスである。利用できる情報源はいくつかあるが(30,40)、それらは各段階において、多くの検討すべき事項や臨床技術を磨くテクニックについて詳しく解説している。その中からいくつかを以下に挙げる。
漸進的エクササイズデザインの段階:
1. 矯正、治療目的のエクササイズ
2. 適切かつ完全な動作や運動パターンの習慣化
3. 全身および関節の安定性の確立(股関節などいくつかの関節の可動性および腰椎/コア部分による安定性)
4. 持久力の向上
クライアントがプロまたはアマチュアのスポーツ選手の場合:
5. 筋力の増強
6. スピード、パワー、アジリティの強化

適切なコレクティブエクササイズを作成する第一段階は、すべての不安定な動作および運動パターンを特定するところから始まる。最初にエクササイズを行なう際は誘発試験とみなし、推測される実用的な診断の範囲内で各エクササイズを検討する。それらのエクササイズに耐えることができれば、クライアントは次の段階に進む。そのエクササイズに耐えられない場合は、テクニックを再検討し、修正して、さらに耐えられるバリエーションを試す。参考文献(51)には、テクニックの修正により、より挑戦的エクササイズにも痛みなく耐えられるようにするスタビライゼーションエクササイズを用いた例がいくつか挙げられている。本稿ではコレクティブエクササイズの例を紹介するが、多くは参考文献で提供されている(33)。

例えば、我々の研究室では、主としてJandaの独創的研究に基づく殿筋活性化再トレーニングをさらに洗練させた(図5)。これは伝統的なスクワットトレーニングでは達成できない(37)。慢性的な背部痛があると、殿筋が股関節伸展筋として働くことを妨げるため、その結果クライアントは、ハムストリングスを殿筋の代用として使い股関節を伸展させようとする。それに続く背部の伸展は、脊椎伸展筋群を過度に活性化し、本来は不要な圧縮力が生じる。したがって殿筋再活性は、背部の負荷を軽くすることに役立つ。この段階のエクササイズデザインでもうひとつの重要な概念は、テクニックの「細部」が重要な点である。問題は、クライアントがエクササイズを行なえるかではなく、クライアントがエクササイズを完璧に行なえるかである。エクササイズのフォームはもちろん、痛みを取り除く絶妙な技術、速度、持続時間、その他の考慮するべき事項はすべてがきわめて重要である(51)。漸進的手順の次の段階は、安定性を保証するために、動作および運動パターンをコード化することである。2段階の安定性(すなわち、関節安定性[本稿では脊椎/コアの安定性]と全身の安定性)が考えられる。安定性の定量的な測定によると、これらの2つの目的は基本的に異なり、 2 種類の異なるエクササイズが必要であることが証明されている。

我々の観察では、この2種類の安定性がクリニック/ジムではしばしば混同されているようだ。我々が提案するスタビライゼーションエクササイズのバリエーションである「ビッグ3」(修正カールアップ、サイドブリッジ、四つん這いで行なうバードドッグ)は、十分な脊椎安定性と最適な運動パターンを保証するために選択されている。これらのエクササイズは、多くの損傷メカニズムと痛みの憎悪から脊椎を保護し、筋持久力を鍛えることを目的としている(図6~9を参照)(49)。次に特定の筋群の持久力を強化する。脊椎の安定性には、ある程度長い時間筋組織が共縮することが要求されるが、それは比較的低いレベルの収縮である。これは持久力と運動制御に対する挑戦的課題であって、筋力に対する挑戦ではない。日常生活の様々な活動を無痛で行なえるようになることを望んでいる多くのクライアントにとっては、この 課題で十分である。前述の漸進において、もちろんスクワット、プッシュ/プル、ランジなどの特異的パターンにより筋力は向上する。しかし筋力を特に鍛えることが目的ではない。筋力の強化には過負荷が必要であり、リスクが増大するからである。これはパフォーマンストレーニングの段階までとっておく。運動目標(ゴルフができるようになりたい等)のあるクライアントや身体的要求の厳しい仕事に就いているクライアントの多くが、このカテゴリーに分類される。



一方、多くのクライアントが健康上の目的(痛みを最小限に抑える、関節を保護する方法を身につける)とパフォーマンス上の目的(リスクを伴う)とを混同し、あまりに早い段階で特異的な筋力トレーニングを行なうことにより漸進を台なしにしている。腰痛患者に処方される典型的なエクササイズの多くは、脊椎負荷や関与する筋群の活動レベルに関する知識をもつトレーナーの監督なしで行なわれる。そのため我々は、エクササイズの最適な漸進を計画するために科学的証拠に基づいた決定ができるように、エクササイズを数量化した(2,9,19,20)。図10、11(14,43)に示したエクササイズをいくつか用いて漸進計画を検討するとよい。

治療/コレクティブエクササイズに対する注意

  1. アイソメトリックエクササイズの持続時間を10秒に保ち、持続時間を延長するのではなく、レップ数を増やすことにより持久力の向上を図る。筋の近赤外線分光法によると、これが酸素不足や乳酸の蓄積による筋痙攣を起こさずに持久力を鍛える方法であることが示されている(48)。
  2.  初期により大きな向上を図り、背部の痛みをなくしていくために、セット数とレップ数の漸進計画には、ロシア式逆ピラミッド(Russian descendingpyramid)を用いる(42)。
  3. 利用可能な筋力を強化し、最も強力な(最も耐性の高い)姿勢で脊椎を保持するために、完璧なフォームを維持する。

傷害予防プログラムとしてのコアエクササイズ
前節で取り上げた「ビッグ3」を構成するエクササイズは、多くの職場団体やスポーツ団体により、傷害予防プログラムの一環として活用されている。例えばDurallら(12)は、大学生の体操選手の集団を対象に、プレシーズンの10週間にわたるトレーニングに、ビッグ3を用いた屈筋群、体側の筋組織、コアの伸筋群を取り入れたことにより、新たな背部痛の予防や背部痛のある選手の痛みのコントロールに効果があったことを証明した。なお、体操選手は、背部痛/背部障害のリスクが高い。興味深いことに、同様のエクササイズは、大学生女子バスケットボール選手の膝の傷害も予防することが示されている(16)。

パフォーマンスのためのトレーニング
パフォーマンス向上のための背部のトレーニングは(運動競技または職業への応用)、リハビリの目的を達成するためのトレーニングとは異なる方法や目標を必要とする。我々が世界レベルの選手との研究の中で開発したテクニックがいくつかあり、それらは本稿では割愛するが、他の文献で広範囲にかつ詳細に解説されている(35)。これらは適切なコレクティブエクササイズを行なった後の運動制御パターンの確立から、さらに安定性、持久力、筋力、スピード、パワー、アジリティへの漸進が含まれる。ここで注意が必要である。脊椎におけるパワー(力×速度)の発揮は、通常きわめて危険である。その代わりに、パワーを肩と股関節まわりで発揮し、パフォ-マンスを向上させ、同時に脊椎と関連組織のリスクを最小限に留めることが必要である。特に脊椎/コアの発揮する力が大きい場合は(デッドリフトなど)、脊椎の速度(筋長を変化させるための屈曲)を遅くしなければならない。逆に脊椎の速度が速い場合(ゴルフなど)は、(特に脊椎が適正な範囲から逸れている場合には)発揮する力も小さくしなければならない。これが、卓越したゴルファーが、ボールコンタクトの直前まで脊椎をニュートラルに保ってスイングできる理由である。

スピードトーニングにおいては興味深い例がみられる。大抵の人は、筋力の向上を目的としたレジスタンスエクササイズを使ってスピードを鍛える。しかし測定によると、スピードの技術には通常、素早い弛緩速度も必要である。このような一見矛盾した事実は、次のことからも実証できる。ゴルフのスイングを例に考えてみよう。ダウンスイングの開始には筋収縮が必要であるが、あまりに収縮しすぎれば実際のスイングは遅くなる。スピードには弾性と弛緩が必要である。世界中で最も飛距離の長いゴルファーは、ボールコンタクトの直前に、全身の連携により「スーパースティフネス」をもたらす全身収縮を行なう(45)。次に、剛性をもたらす収縮から素早く解放され、弾性が生まれるまさにその瞬間に、最高のスイングスピードが出る。世界最強のスプリンター、総合格闘技の優れたストライカーやキッカー、最強の重量挙げ選手などにおいても、弛緩と収縮との間の周期的な交互作用が測定されている。したがって、素早く筋を解放できるときにこそ、筋の収縮速度は重要な意味をもつ。それが可能なアスリートは世界でも数少ない。

これらの例は大抵の場合、伝統的な筋力トレーニングがなぜパフォーマンスに不利かを示している。このような概念をある程度理解できる可能性があり、また、おそらく助けを借りずに初めてトイレで立ち上がることができるようになったと思われる機能的能力が不十分なクライアントに配慮する際には、筋力系アスリートが用いる「スーパースティフネス」のテクニックを理解することが重要である。私がコンサルティングを行なうと、しばしば「体操選手やレスラーのためのトレーニングプログラムをどのように作成したらよいか」という質問を受ける。これらのアスリートは、脊椎を変形した姿勢で大きな力を発揮しなければならない。可能性のある方法がいくつかあり、その選択は(少数の例を挙げれば)アスリートの体格、既往歴、現在の体力レベル、フィットネス目標などによって変わる。時には、トレーニング中の損傷メカニズム(逸脱した脊椎姿勢)を避けること、「屈曲」を試合のために温存しておくことが.必要である。このような方法により、過酷なトレーニングを負傷せずにより高いレベルへと進むことができる。このような方法の具体例が、オーストラリアのクリケット投手にみられる。彼らは、投球数を制限することにより傷害率を低下させているが、その他の活動でトレーニングを行なう。このような最新の概念が蓄積されている(40)。

スーパースティフネスには8つの基本要素がある。

  1. 筋を素早く収縮させ、次いで弛緩させる。スピードは、スピードをもたらす弛緩から生じるが、同時に四肢の関節をしっかりと支えて動作を開始し(ゴルフクラブ、ホッケーのスティック、握りこぶしなどの)インパクトを強化するために、身体の一部
    (コアなど)の剛性を高めることからも生じる(50)。
  2. 筋を調整する。筋の弾性エネルギーの貯蔵と再利用は、最適なスティフネスを必要とするが、それは活動レベルに合わせて調整される。コアにおける活動レベルは、多くの動作に対して、随意最大筋力のおよそ 25 %である(4,8,5)。
  3. 筋の結合と組織を強化する。複数の筋が共縮すると複合構造を形成し、その全体の剛性は個々の筋の貢献の総和よりも大きい(6)。これは特に、内腹斜筋、外腹斜筋、および腹横筋によって形成される腹壁において重要であり、ブレーシングパターンによりこれらの筋を同時に収縮させる必要性が強調される(15)。
  4. 運動ニューロンのオーバーフローを方向付ける。ある関節の筋力は、他の関節における収縮によって増大する。武道家はこれを「ソフトスポットをなくす」と呼ぶ。ストロングマンのプロ選手は、コアの筋力を使って弱い関節を強化する(53)。
  5. エネルギー漏れをなくす。弱い関節がより強い関節によって伸張性筋活動を強いられると、エネルギー漏れが起こる。例えば、ジャンプや方向転換をするときには股関節の筋群が急速に収縮するが、脊椎が屈曲していると推進力は低下する。「石を押すことはできても、ロープを押すことはできない」という喩えはこの原理を例証している。
  6. スティッキングポイントを乗り越える。ベンチプレス中のスティッキングポイントで「バーを広く持つ」テクニックは、弱い関節の剛性を高める好例である。
  7. 受動的な結合組織を最適化する。不適切な受動的ストレッチングは中止する。指導するアスリートをカンガルーに変身させる。例えば、ランニングの可動域外で、ランナーがストレッチングを行なうべきかを再考しなければならない。有能なランナーの多くは筋群を温存するために、また各ストライドに合わせて筋群の力を増強するために弾性を活用する。しかし、将来的な傷害の発生を示唆する左右の非対称性を矯正するためのストレッチングは、考慮に入れる必要がある。
  8. 衝撃波を発生させる。股関節を使って発生させた衝撃波を、コアを通して伝達させることにより、挙上、投球、攻撃力などを高め、不可能なリフティングを可能にする。

後期のプログラムを組み立てる
最後にスクワットなどのエクササイズを検討してみよう。興味深いことは、ウェイトを担ぐ世界レベルのストロングマンや片足を軸にしてカッティングを行なうNFLのフットボール選手を調査したところ、どちらの選手たちもスクワットだけに重点を置いたトレーニングは行なっていない(44)。スクワットエクササイズでは、彼らの運動に大いに必要とされる腰方形筋と腹斜筋を鍛えられないからである(53)。

対照的に、バーを持ってスクワットを行なう時間をむしろ短くし、ファーマーズウォーク(またはボトムアップ・ケトルベルキャリー、図12を参照)のように、非対称に負荷がかかる活動に 転換することにより(53)、はるかに「脊椎に優しい」方法で、彼らの競技活動での優れたパフォーマンスに必要とされる運動能力を鍛えている。優れたアスリートを観察すると、パワーが股関節で発生し、剛性を高めたコアを通して伝達されることは常に明らかであり、コアは決してパワーの発生源ではない。彼らは体幹を運動に対抗し制御する手段として用い、運動の発生装置として使うことは滅多にない(もちろん、投手などの例外もあるが、脊椎姿勢の大きな変化でパルスを生み出す人は、最も受傷しやすい人でもある)。したがって、コアの筋組織は非常に強力でなければならないし、他の身体部位のトレーニングを最適化し最善のパフォーマンスを促進するためにコントロールが可能でなければならない。しかしパワートレーニングは、コアではなく、股関節のために実施するべきである。

指導中のクライアントが優れた運動パターンおよび安定性と可動性との適切なバランスを獲得した時点で、コレクティブエクササイズからパフォーマンス向上エクササイズへと漸進してもよい。ここでは、押す、引く、挙上する、運ぶ、捻じるを強調した課題を含め、トレーニングを体系的に計画するように配慮する。具体的なエクササイズはクライアントに合わせて調整する。例えば、押すエクササイズとしては、プッシュアップもできるかもしれないし(14,49,51)、剛性を高めコントロールされたコアを使ってシングルアーム・ケーブルプッシュを行なうこともできる。引く運動としては、プルアップやスレッドドラッグを取り入れるとよい(13)。そして運ぶ動作では、シングルアーム・スーツケースキャリーがある。これは腰方形筋や体側の筋群を鍛える独特のトレーニングである。またはシングルレッグ・ボトムアップ・ケトルベルキャリーは、コアの剛性を強化し、連鎖を通じて筋力の誘導技術を強化するトレーニングである。挙上動作では、バーリフティング、ケトルベルスイング、スナッチなどが行なえる。捻じる課題はツイストとは異なり、脊椎の捻りを伴わずに捻じりに対抗するエクササイズである。例えば、両腕を前方の異なる位置へと動かすラテラル・ケーブルホールドなどがある(図13)(44)。最後に、コアの筋力、持久力、およびコントロールを必要としながら素早い力発揮を促進する特別な状況に備えるために、コンポジットエクササイズを導入してもよい(図14)(46)。

私は、この短い記事ではエリートトレーナーに必要な要素をすべて伝えきれないため、読者にとって物足りなさが残るのではないかと懸念している。だが少なくとも、本稿により、いくつかの問題点に対する意識を高めることはできると思う。私は、痛みを軽減し、パフォーマンスを向上させるために科学的研究を行ない、その原理を現場に応用することに喜びを感じてきたが、読者も同じように、充実した探究の旅を経験することを期待している。

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