HPCスタッフコラム

2017.08.24

野球のコンディショニングの考え方

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野球のコンディショニングについて論理的な考え方を示している文献です。少し古い記事ですが内容は現在でも十分通用し、野球に特異的なトレーニングプログラムを構築するうえで考慮しなくてはならない点を丁寧に解説しています。S&C指導者のみならず野球の監督・コーチの方々にもぜひ一読していただきたい内容です!
文字数:10,395文字|目安閲読時間:17~26分

from Strength and Conditioning

野球のコンディショニングの考え方
Concepts for Baseball Conditionig

John Weatherly, MS, CSCS ネブラスカ州オークランド、スポーツ生理学者
Craig Schinck オハイオ州レバノン、スポーツ選手

本稿の筆者の1人 (J・W)は、子ども時代に始まり、大学及びマイナー リーグも含めた野球の選手経験の中 で、この“国民的娯楽”とも呼ばれる スポーツのコンディショニングについ て実に様々な意見や考え方に出合ってきた。こうした多様な見解は、野球 コーチやコンディショニング・コーチ、そして研究者らから示されたものであった。

例えば野球コーチの多くは、ウエイ ト・トレーニングは効果よりも害のほ うが大きいと思っている。一方、コン ディショニング・コーチや研究者の側 からすれば、野球コーチは「まるで何 もわかっていない」ということにな る。以下に挙げるのは、筆者 (J・ W)が実際に耳にした話の一例である。

「大学時代にはウエイト・トレーニン グも含むコンディショニング・プログ ラムを行っていたが、ウエイト・ト レーニングはシーズンが始まると除外 された。あるとき野球コーチたちが、当時大学にいた運動生理学者にコンディショニングに関するアドバイスを求めたことがある。ところが彼が勧めたのは、なんとピッチャーのコンディショニングの一環に常時30分のランニ ングを加えるというものだった。

マイナーリーグでは、一度ケガをし て登録名簿から除外されたことがある。この頃、ある朝ハードなウエイト・トレーニングをしたんだが、無論、その日の試合で投球を命じられるとは思いもしていなかった。ところが その夜、球場に着いた途端、自分が復活し、その試合のリリーフ・ピッ チャーとして投げられると聞かされ た。そして実際、投げたが、朝のウエイト・トレーニングの疲れから、思わしい出来ではなかった。そしてその朝ウエイト・トレーニングをしたと聞いた監督は、激怒して、私にウエイトは止めろと命じた。

私自身も、ビッチャーのコンディショニングについて何人かの研究者に尋ねたことがある。その中にはひどく困惑した様子で、はっきりしたことは 何も言えないと答えた人もいた。また 1人は、これは私が非常に尊敬している人なのだが、ビッチャーのシーズン中のレジスタンス・トレーニングを尋ねられると、即座に「パワー・スナッ チ」という答えが返った。このスポーツ科学者にはウエイトリフティング選手の経歴があったが、多分、野球の試合で投げた経験は一度も ないのだろう。パワー・スナッチは確かに素晴らしいエクササイズだが、「野球の投球向けではない。それにピッチャーは試合後によく痛みに襲わ れ、特にかなりの数を投げた翌日や 翌々日には、投球側の腕を素早く頭上に挙げられなかったり、ひどく痛むことさえあるのだ」従って、本稿には二重の目的がある。その1つは野球のコンディショニ ングに関する論理的な考え方を示し、コンディショニングの専門家や野球コーチが選手のためにより適切なトレーニング・プログラムを作成できるようにし、そしてもう1つは、今後の研究に役立つ提案をし、野球のコンディショニングに関し、さらに優れた科学的知識が得られるようにすること闘 である。

投球及び打撃動作について
野球の投球動作は次のように表現されている。すなわち、足の部分から始
まる一連の協調した動作が運動連鎖として伝えられ、続いて体幹の回旋を初めとするその他の動きを経由し、最終的にこの力の総計がボールに伝えら れ、ボールが手から放たれるというものである。Jacobsが行った投球動作に関する詳しいキネシオロジー的分析に よれば、プロのビッチャーの肩の内旋のピーク速度には9000°/秒以上の数字が計測された。さらに、投球動作の力のおそらく50%は、体幹の回旋動作 から生じると考えられる。体幹の回旋は、もちろん打撃動作でもみられ、脚の加速に続き、体幹が加 速される。そして続いて脚と体幹の動きが減速され、これによってスイング時にみられる“鞭を振るような”腕の動きが助けられる。この力のほとんどは、この場合もまた、下半身と体幹の 筋肉によって生み出される。

打撃のストロークに関しては、Garhammerの分析により、より明確な知 識が得られる。これによれば、打撃もまた非常にハイスピードのバリスティックな動きであり、バットのピークの角速度は、大学選手では2437°/ 秒が計測されている。

トレーニングの専門的特性としての スピード
力、速度及びパワーに関連しては、 これまでにいくつかの優れた報告が発表されている。パワーの定義は、単位時間当たりの仕事量、あるいは力と速 度の積となっている。簡単に言えば、スポーツの専門性に即さず、速度が遅 く、大きな力を要する動作 (すなわち 通常の一般的なウエイト・トレーニン グ) は、おそらくは野球の投球や打撃 にみられる複雑な筋ー神経系のスキル に必要な非常に速い動きを行う能力を 強化するものではないと考えられる。ただし、この例外となるのが初心者の場合である。

実証例からは、筋力の基礎レベルに達しない選手の場合、スポーツの専門的特性からは外れるウエイト・トレー ニングの動作により、投球及び打撃速度が向上することが示されている。しかし、重い重量で行う長時間の非専門 的ウエイト・トレーニングを重視する と、現実に動作スピードが低下することが考えられる。野球のパフォーマンス向上が目的であれば、トレーニング には動作と速度の両方の専門性の要素を備えたエクササイズを採り入れねばならない。図1は、力と速度の相互関係を示したものである。通常の一般的なウエイト・トレーニングは、図の左上、すなわち力/速度曲線の大きな力を示す部分に影響を及ぼす。逆に、スピードの速い(バリスティックな)形態のトレーニングは、スピードに大きく影響し、すなわち力/速度曲線の図の右下部分に影響が現れている。そこで我々に与えられた課題は、個々の選手の特性とスポーツの専門性の両方に即し、 さらにまた選手生活全般を通し、継続的な適応と進歩をもたらすのに不可欠な多様性を備えたトレーニング・プログラムを作成することである。

野球に必要な筋力
投球動作に関しては、準備動作とフォロースルーを除けば、実際の加速段階に関わる時間は非常にわずかであ る。Pappasらによれば、エリート選手の場合、この加速段階の時間は50ミリセカンド(0.05秒)程度となってい る。従って素早い速度で力を発揮する能力が、投球速度では決め手となる。これは“動作の開始筋力”と言われており、これに対し、継続的に短時間内 に力を増大させる能力には、“爆発的筋力”という語が当てられている。

Buhrleらは、1人の被検者につい て、異なる負荷を設定した測定機器に対し、最大筋力を発揮するよう指示し、興味深い実験を行っている。力/時間関係の諸数値は、被検者のアイソ メトリックな最大筋力と、この最大筋 力の%に基づくその他の負荷について記録された。アイソメトリックな最大 筋力以外のテストはすべて、アイソメ トリック収縮の50%から、最も軽い負荷は35kgまでの範囲の動的な収縮であった。驚いたことには、力/時間曲 線の最も初期段階の数値には、どのテスト状況においても同様の結果が示された。この実験では被検者が1人であり、このために確かな結論を引き出すことはできないが、しかしこの結果から、力/時間曲線の極めて初期においては、軽い負荷によるトレーニングに、より重い負荷による場合と同様の効果があることが示唆される。規定では、野球のボールの重量は5~5・1/4オン ス (142〜149g)であり、また選手のほとんどは30〜35オンス (851〜992 g)のバットを使用しており、このボールまたはバットに加速の力が加えられねばならない。

図2は、一般的なウエイト・トレー ニングと投球の加速段階における力/時間関係の特徴の理論的な違いを示し たものである。筋収縮の絶対的初期段階における可能性を除いては、両者の力/時間関係の特徴は極めて異なると考えられ、図2で示されるように、投球の加速段階については、力/時間曲線が初期段階から50ミリセカンドの間 までに急上昇を描く。

打撃に関しても、力の産生速度を短時間で増大させる能力が要求される。 「Men At Work」という著書の中で、Willは野球の打撃という動作がいかに素晴らしいものであるかを、次のようこ記述している。

「55フィート(16.5m)先のピッ チャーの手元から放たれた時速90マイ ル(144km)の速球は、秒速132 フィート (39.6m)で進み、0.4167秒 内でバッターボックスに達する。一方、チェンジアップボール、すなわち速球と同じモーションで投げる緩い球は、時速80マイル(128km)で投げられると、秒速117.3フィート(35.27 m)で進み、0.4688秒でバッターボックスに達する。両者の違いはわずかに 0052秒であるが、これが決定的な差となる。ヒットを狙うバッターには、約2/10秒の時間しか与えられていな い。ボールがバットに当たるのは、そのボールが進む距離のうちの約2フィート(0.6m)の間であり、つまり 0.015秒の間のことなのである」(pp.180-181より)。 

野球のトレーニング・プログラムを作成する場合には、以下の要素について考慮する。

1. 脚は主として、そのほとんどが側性の大きな動作に用いられる。脚は上体よりも大きな力を生み出さねばならず、というのは脚の力によって、選手の身体が押し出されるからである。守備や塁を走る動きのほとんどでは、横方向や種々の角度で動く短時間の爆発的な動作が行われる。

2. 体幹を斜めに動かしたり、回旋させる動きは、投球でも打撃でも非常に重要である。

3. 上体の動作は特に速く、優れた運動スキルが必要となる。また投球及び打撃ともに、減速のためにハイスピードのエキセント リックな筋力が必要となる。

4. 過度の筋肥大はマイナスの影響を及ぼし、特に上体についてはこの影響が大きい。筋量が増えてもボールやバットのスピードを増す助けにはならず、これはつまるところ、より多量の筋肉を加速や減速させねばならないということである。加えて、野球の動作機能には不要な筋肉が多ければ、ケガの危険性も高まる。

5. 投球及び打撃では、手首とグリップの筋力が重要である(すなわち投球動作での尺屈など)。

6.  ATPーPC系が主要な生体エネルギー供給系となる。無酸素性の解糖系が重要となるのは、三塁打や場内ホームランを打ったとき、あるいはスチールやフィールドプレーで何度も続けざまにスプリントしなければならな いとき、またはピッチャー(先発投手 のほうが、リリーフよりもこの必要性 は大きい)についてのみである。有酸 素性のエネルギー供給系のトレーニングは不要である。ただし、フィールド内外でジョギング練習をしたいとか、場外ホームランを放った後にベースをゆっくり回る練習をしたいというならば、話は別である。

筋内及び筋間の神経系機能の協調性
力、及び最大速度の力の発現に重要な神経系の要因には、動員される運動単位の数、運動単位が活性化される頻度、活性化された運動単位の同調的な働き(すなわちいくつもの運動単位が 同時に活性化されること、筋伸張反射に影響を及ぼすゴルジ腿器官と筋紡錘からの刺激伝達、スキルまたは専門的動作に関与する筋間の神経系機能の 協調性が挙げられる。これらの要因は、スキルを除いてはすべて、筋内の神経系機能の協調性と言われるものである。

一般的なウエイト・トレーニングでは、準備期の量が多いトレーニング段階の後に、高負荷のトレーニング期があり、こうした方法を取ることによ り、筋内の神経系機能の協調性が高められ、また量の多いトレーニング期に高反復回数で行うことにより、筋肥大も促進される。筋内の神経機能の協調性は、ウエイトを負荷したジャンプ・ エクササイズや、メディスンボール・ エクササイズなどの低負荷のバリス ティックな形態のトレーニングによっ ても強化される。

これに対し、筋間の機能の協調性 は、実際のスポーツのスキルに極めて 近い動作を行うことにより強化され る。従って、ウエイト・トレーニング はそれ自体の動作を除いては、おそらくは筋間の機能の協調性を高めることにはならない。さらに、スポーツ動作 のための筋間の機能の協調性を強化す るトレーニング方法の場合には、高反復回数のウエイト・トレーニングでもたらされる筋肥大反応が生じない。

野球動作の筋間の機能の協調性を高めると思われるトレーニング方法には、標準よりも若干重量の重い、または軽いボールとバットの使用や、種々のメディスンボール・エクササイズ、 あるいは負荷を課した、または課さない種々の形態のジャンプ・エクササイズを初めとするその他のバリスティッ クなドリルがある。

バリスティック・トレーニング
バリスティックとは、フリースペー スに実際に身体を投げ出す動作が、加速され、ハイスピードで行われることをいう。これは一般のウエイト・ト
レーニングの動作とは対を成す。つまりこの場合には、動作の最終段階に向 かってバーベルの動きを減速させるこ とになるからである。そして言うまで もなく、動作速度の減速は野球の投球 や打撃動作の専門的特性ではない。投球や打撃で求められるのは加速であり、ボールが手から放れるまで、またはバットでボールを打つまで、あるいは打者が打ち損なった後、バットの速度を落とすまで、加速が要求される。

メディスンボール投げやウエイトを負荷した、または負荷しない種々の形態のジャンプ動作、あるいは標準よりも若干重量の重い、または軽いボールやバットの使用などは、これをどのレップスも全力で行うことにより、投球及び打撃動作全般の加速を強化することができる。こうしたエクササイズは、野球の動作、及び力/速度の要素の両方の専門的特性に即したトレーニ ングを行わせる方法となる。

野球では投球の速度が重要である。 極めて少ないが、プロのビッチャーの中にはこともなげに速球を投げる選手もいるが、しかし確かに、ピッチャーには打者に一目置かせる速球が必要で ある。また球速と同じくらい重要なのが、ボールを送る位置とビッチャーが行う種々の動作である。とはいえ、中でも 最も重要なのは何といっても球速である。なぜならプロのレベルに進むには、ビッチャーには最低でも時速85マ イル(時速136km)以上の速度で投げる能力が求められるからである。

投球の速度は守備の選手にとっても重要である。つまるところ、選手は大概はその投球能力によって、それぞれのポジションを与えられるからである。ほとんどのチームでは、ライトの選手のほうがレフトの選手よりも強い投球腕を持っている。つまりライトの選手は、ヒットを放った打者が一塁 から三塁に進むのを阻止するために、 三塁に向かってより長いボールを投げねばならないからである。

もう1つの例はショートの選手である。例えば動作能力がほぼ同じならば、強いだけでなく正確に投げる腕を持った選手のほうが、腕の弱い選手には取れないようなボールもさばくことができる。

スピードは打者にとっても、一貫して“ヒットが放てる”ようにするための必須条件である。おそらくそれほど明白ではないが、バットを振るスピードも重要であり、これによって十分に待ってからバットを振ることができる。これに関しては、打撃のストロークの長さも関係し、理想的には素早くしかもコンパクトなストロークが望ましい。おそらくはこうしたことによっ て、平均して力強い打撃が可能になると考えられる。

ある研究者チームの調査で、ウエイト・トレーニングとバリスティック・トレーニングの影響を初心者と経験のある選手について調べた結果がある。これによれば、ウエイト・トレーニングによって初心者の投球速度が向上したが、バリスティック・トレーニングにはその効果はなかった。一方、すでにトレーニング基礎があり、経験のある選手については、バリスティック・トレーニングによって確かに投球速度が向上し、またベース・ランニングのスピードも増した。この研究では、メディスンボール投げとウエイトを負荷 したスクワット・ジャンプがバリス ティック・トレーニングの方法として用いられた。

また関連した研究では、トレーニング経験がなく野球選手でない被検者に、爆発的な方法でウエイト・トレーニングを行わせたところ、バットを振 るスピードが強化されたという。

標準よりも若干重量の重い、あるいは軽いボールとバットを用い、この影響を投球とスイングの速度について調べた研究はいくつかあるが、我々が知る中では、これらのうち唯一の包括的な 研究は、DeRenneとその同僚チームが 行ったいくつかの研究である。これらによれば、標準よりも重量の若干重い、あるいは軽い用具の使用により、 高校及び大学ピッチャーの投球速度が 向上し、またバットを振る速度についても同様の結果が得られている。

これらの研究結果から考えられるのは、野球選手には標準重量よりも±20%の範囲内で過負荷及び過少負荷の用具を用いたトレーニングが必要である ということである。またこれらの用具には、基準型のバット及びボールを使用する (すなわち穴のあいたドーナッ ツ 型は不適)。

DeRenneらは、この種のトレーニングは神経系の変化を引き出し、これによってタイプIの速筋線維の運動単位の動員頻度が向上すると考察してい る。こうしたメカニズムがどうであれ、この種のトレーニングは、力/速度曲線と筋間の働きの協調性という見地から考えると、確かに野球の専門的特性に応じた方法であると言える。

野球のトレーニングのエクササイズ 処方
以上に述べたことから、野球のパ フォーマンスを高めるためのトレーニ ングの構成法が考えられると思う。野球動作については、力の大部分は下半 身と体幹の筋肉から生み出され、これが上体を経由し、加速され、最終的にボールまたはバットに伝えられると考えてもよいだろう。加えて、守備または塁走のほとんどの動作は爆発的な形態を取り、従って加速の強化に重点を置き、スプリント及び横方向に動くアジリティ・ドリルを行う必要がある。

年間トレーニング・スケジュールを 一般的、特別的、及び専門的エクササ イズ処方の考え方に従って作成し、コンディショニングとパフォーマンス強化を行う。

例えば、下半身の一般的エクササイ ズの例にはスクワットや片脚のサイド・スクワット、サイド及びフロント・ランジなどがあり、同じく下半身の特別的エクササイズとしては種々の負荷(アイソメトリックな1RMの30 %の負荷により、機械的パワーは最大限に強化される)を用いたジャンプ・スクワット、ラテラル・ジャンプ、ホリゾンタル・ジャンプ、片脚ジャンプなどが挙げられる。さらに下半身の専門的エクササイズには、負荷を課し た、または超過スピードのスプリント、ベース・ランニング、横方向のアジリティ・ドリルなどがある。

体幹は下半身からの力を受け止め、また野球動作に固有の回旋及び斜め方向にひねる動きにより、さらに力を生み出し、上体へと伝えるための要の部分であることから、腹部及び腰背部のトレーニングには特に重点を置かねばならない。この部位の一般的なエクササイズには、種々のフォームで行うシッ トアップ、クランチ、リバース・シットアップ、リバース・クランチ、レッグ・レイズ、体幹の種々のツイスト動作、立位及び仰欧位のサイド・ベンド、バック・レイズ、グッド・モーニングなどがある。

またこの部位の特別的エクササイズ には、リバース・トランクツイスト、ロシアン・ツイストや捻りを加えたバック・ツイストなどがあり、専門的エクササイズには、バリスティックなメディスンボール投げ、メディスンボールをロープに吊るして行う斜め方向のチョップ動作などがある。

またパートナーと行うメディスンボール・エクササイズも、これらの筋肉によるエキセントリックな力の吸収力を強化する。

上体のエクササイズについても同様に考え、従ってブルオーバーは一般的なウエイト・トレーニングのエクササイズとなり、頭越しにメディスンボー ルを投げるエクササイズは特別的エクササイズの範疇に入る。そして標準重量よりも若干過負荷及び過少負荷のボールやバットを用いた投球や打撃の練習は専門的エクササイズとみなされる。

同様に、従来型の肩の内旋及び外旋のエクササイズは、肩の回旋筋腱板の一般的エクササイズとなる。またPanarielloが提唱したハイスピードの減速に移行していく漸進的エキセントリック・エクササイズは、ケガ防止のための特別的及び専門的エクササイズ の範疇に収まる。

表1に示したのは、こうした一般的、特別的、及び専門的エクササイズ処方の年間トレーニング計画の中の位 置づけを示す例である。これらは各トレーニング期の中でかなり重なり合う部分もあり、初心者のトレーニング計画は、しっかりしたトレーニング基礎のあるプロ選手の場合に比べ、かなり難しい面もある。

選手のトレーニング度が増すにつれ、重点は一般的トレーニングから特別的及び専門的コンディショニングへと移行する。とはいえ、上級レベルの選手にも依然、一般的トレーニングは必要であり、これによって結合組織を強化し、またより専門的形態のコンディショニングを行うための基礎を築き、関節の全般的強度を高めることができる。

以上に述べたトレーニング処方は、 異なる特性を持つ個々の選手に関し、 よりスポーツの専門的特性に即した機能的な研究が行われ、これによってこの方法論の正否が証明されるまでは、 妥当な方法になると思われる。初心者については、重点は投球及び打撃動作のメカニクスの習得に置く。ただし、これは確かに専門的トレーニングではあるが、我々がここで述べる投球及び打撃の速度強化のための専門的トレーニングとは別の範疇に分類されねばならない。

今後の研究に関して
野球はアメリカに深く根を下ろしたスポーツであり、この事実から考えると、この動作のパフォーマンスに関連した機能的な種々の側面に対し、科学界からほとんど関心が向けられていないことには驚かざるを得ない。投球及び打撃速度の強化を図るには、一般的ウエイト・トレーニングとバリス ティックなトレーニング、及び DeRenneらが示した野球の用具を用い たトレーニング法を組み合わせた効果 に目を向けた研究が行われる必要があ る。

それぞれ異なる能力段階にある選手について、トレーニング法の組み合わせで最適となる例はあるのだろうか。あるいは一般的ウエイト・トレーニン グにより、投球及び打撃のバリス ティックな動作を向上させることができるだろうか。それともこうしたトレーニングの効果は、主としてケガの 予防にあるのだろうか。

下半身と体幹により、投球及び打撃の力の大部分が生み出され、伝えられることから、これらの部位のトレーニ ング法は、おそらく上体とは異なることが考えられる。上体の動作は非常に速く、この部位の一般的筋力の必要性は、おそらくはケガの予防のためのみとなる。

我々はこうした疑問に対する答えを必要としている。今までにどれほどの野球選手が、一般的ウエイト・トレーニングを重視したトレーニングに多く の時間を費やし、そしてその結果、 フィールド上のパフォーマンスにはほとんど効果はもたらされず、さらに度を越せば (すなわち上腕の過度の筋肥大)、ケガが生じやすくなっていることだろう。野球選手のコンディショニング・プログラムの多くで勧められて いるプレス動作や筋肥大タイプの腕のトレーニングには、ほとんど有益性はないだろう。

だが、これは野球選手は絶対にベンチ・プレスをすべきではないという意味ではない。そうではなく、パフォーマンス強化を図るには、より野球のスポーツ特性に即した形態のトレーニングが必要だということであり、例えばベンチ・プレスにしろ、バーベルではなく、ダンベルを使えば、より機能的 なエクササイズを行うことがきる。ダ ンベルを使えば、動作の可動域がより大きくなり、また必要な場合には片側 性のエクササイズを行うこともでき、さらにバーベルを使うときよりも、肩の安定筋がより大きな角度で使われ る。

パフォーマンス強化に関し、その他 にも研究対象となる分野には、反応時間、スイングのストロークの長さやスピードなどのストロークに関するその他の種々の側面、またこれらの要素の相互関係などがある。ピッチャーの様々な投球スタイルや、球種の違い、形態学的調査、スランプ現象などに関する研究からも有効な資料が得られると思われる。

スランプ状態では神経機能に停滞現象が現れることが示唆されている。 シーズン中の投球及び打撃の速度、さらにその他の要因(心理的要因など)を観察することにより、選手にもコー チにも役立つ情報が得られるはずである。最後に、個々の異なる選手に対し、シーズン中のトレーニングとしてはどのような方法が適当となるだろうか。例えば、リリーフ選手にはいつ登板の機会がやってくるかわからず、この選手に対するコンディショニング・ プログラムや精神的準備は、当然、先発投手とは異なるはずである。

まとめ
以上、ここでは野球選手のトレーニングの構成法に関する理論的な考え方を示した。投球や打撃の力の多くは下半身及び体幹から生み出され、上体へと伝えられると考えられる。投球の上体動作は特に速く、また打撃の場合にも極めて速い。常識的に考えれば、野球のエクササイズ処方では、動作と速度の両方の専門的特性を考慮する必要 がある。

さらにまた、コーチやコンディショ ニングの専門家らが適切なトレーニング・プログラムを作成するための助けとなる今後の研究についての提言も述べた。こうした努力は、言ってみれば エベレスト登頂を目指したヒラリー卿の試みにも似ているのではないか。つまり、眼前には征服を待ち受けているデータの山があるのだ。そしてまた、 DeRenneを初めとし、この“素晴らしき偉大なスポーツ”のパフォーマンスの機能面を研究した多くの研究者らに対し、我々は心から敬意の念を示す。

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バックナンバー(1996年7月号)