HPCスタッフコラム

2017.09.07

不安定なサーフェスでのトレーニングは 健康な成人に推奨できるか?

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不安定なサーフェスでのトレーニングがトレーニング効果におよぼす影響を検証した文献です。不安定なサーフェスでのトレーニングについてはいろいろな意見が出ていますがこの文献は研究をエビデンスにしその影響について様々な角度から検証しています。
文字数:3,586文字|目安閲読時間:6~9分

From Strength and Conditioning Journal Volume 32, Number 3, pages 64-66.

不安定なサーフェスでのトレーニングは健康な成人に推奨できるか?
Is Unstable Surface Training Advisable for Healthy Adults?

Daniel Hubbard, MEd, Hubbard Training Systems, Carmel, Indiana

不安定なサーフェスでのトレーニング(UST)とUST器具は、フィットネストレーニングプログラムに参加する健康な成人の間で広く利用されている。運動愛好家やパーソナルトレーナー、フィットネスインストラクターの間では、従来の安定したサーフェスでのエクササイズを不安定なサーフェスでのエクササイズで補ったり、置き換えたりすることが日常的に行なわれている。またUST器具のメーカーは、UST器具を利用するメリットを広く宣伝している。

USTは、一般的にリハビリテーションに用いられる効果的な手段であり、足関節の捻挫(19)や前十字靭帯の損傷(6)の再発予防に役立つ。またUSTのバランストレーニングは、足関節や膝関節における傷害の再発リスクの低下に効果がある(6,19)。USTが足関節や膝関節の既往歴がある患者の固有感覚と反応不全の回復に役立つことはすでに明らかになっているが、UST を健康な成人に適用した場合の効果に関する研究は、最近ようやく始まったばかりである。

コア(体幹の筋群)の活性化と安定性の向上を目的として、安定したサーフェスで行なう従来のレジスタンスエクササイズを不安定なサーフェスで行なうことは広く行なわれている(2,4,7,12,14,17)。これは、伝統的な安定したサーフェスでのレジスタンスエクササイズを不安定なサーフェスで行なうと、一部の筋(腹直筋)の筋電図(EMG)活動が増大することを示した研究に基づいている(2,4,7,12,14,17)。今では多くのトレーナーが、健康な成人のための安定したサーフェスでのトレーニングをUSTで補足したり置き換えたりしている。

USTはコアの筋活動と安定性を高める手段になる可能性はあるが、結局のところ、USTにはいくつか限界がある。USTは、安定したサーフェスでのトレーニングによって神経筋に生じる、効果的なトレーニング適応とは潜在的に対立する。USTについてさらに理解を深めることは、パーソナルトレーナーとエクササイズインストラクターがUSTを適切に応用し、健康な成人のための安全で効果的なエクササイズトレーニングプログラムを作成することに役立つだろう。

例えば、ベンチを使わずにスタビリティボール上でチェストプレスを行なう場合を考えると、従来の安定したサーフェスで行なうエクササイズに不安定要素が加わるために、一部のコアの筋活動が増大する(2,3,13,14)。しかし安定したサーフェスでのエクササイズに不安定性が加わることにより、目的とする筋群の最大筋力発揮を含め、エクササイズの他の特徴も影響を受ける(1,3,10,13)。スクワットやベンチプレスなどのエクササイズを不安定なサーフェスで行なうと、筋の発揮筋力が著しく低下する(1,3,10,13)。Anderson&Behm(1)は、不安定なサーフェスと安定したサーフェスでベンチプレスを行なった際の最大等尺性筋力を比較し、不安定なサーフェスでは 59.6 %低下することを明らかにした。従来の安定したサーフェスでのエクササイズを調節するために不安定なサーフェスを用いることは、目的とする筋へのトレーニング刺激を低下させる。したがって安定したサーフェスでのトレーニングと組み合わせない限り、漸進的過負荷を提供することは困難になるだろう。しかもUST器具の使用中にトレーニング負荷を増やそうとすれば、器具の破損やクライアントの受傷のリスクが高まる可能性がある。

エクササイズを不安定なサーフェスで行なうと、最大発揮筋力の低下に加え、関節の主働筋と拮抗筋の神経筋動員パターンも変化する(1,2)。EMG活動を測定した研究によると、レジスタンスエクササイズをUSTで行なうと、発揮筋力は低下するにもかかわらずEMG活動は低下しないことが示されている(1,3,13)。EMG活動が維持されているということは、関節の安定筋として、主働筋が一層大きな役割を果たしていると解釈できる。また、USTでは関節の拮抗筋の活動も大きく増大し、関節の安定化に一層大きく関与することを示している(1,2)。このような神経筋の動員パターンは、拮抗筋の筋活動が変化しないか、または低下する安定したサーフェスでのトレーニングとはかなり異なっている(9)。このような神経筋動員パターンの相違が及ぼす長期的な影響は、見落とされている可能性がある。

これまでに実施されたプロスペクティブ(前向き)トレーニング研究は少ないが、Cresseyら(8)は、安定したサーフェスでの効果的なトレーニングプログラムにUSTを加えただけで、筋力、パワー、およびパフォーマンスの向上が抑制される可能性があることを明らかにした。これは、安定したサーフェスでのトレーニングとUSTを同時に行なうことにより、神経筋動員パターンが対立した結果であると思われる。

不安定なサーフェスで行なうトレーニングの特異性は、安定したサーフェスで行なう動作には転移しないと思われる(11)。USTによる特異的な神経筋動員パターンは運動課題に特異的であり、日常活動やスポーツの神経筋パターンとは異なると思われる。Stantonら(16)の研究により、6 週間のスタビリティボールトレーニングの後、コアの安定性が向上した証拠が認められたが、UST群と対照群を比較すると、腹部および背部の筋群の筋電図活動、トレッドミル上での最大酸素摂取量、走効率、走姿勢に有意差はないことが示された。著者らは「スイスボールトレーニングはコアの安定性にはプラスの影響を与える可能性があるが、若いアスリートの身体パフォーマンスの同時的な向上は伴わず、エクササイズの選択の特異性を考慮すべきである」と結論付けている(16)。

USTによるコアの筋活動(2,4,7,12,14,17)や安定性(7)の向上を示唆する研究では、被験者はおおむね初心者であり、エクササイズ中に用いた負荷はかなり低強度である。ある研究では、様々なレベルの不安定条件下でベンチプレスを実施したが、被験者が用いた負荷はわずか 9.1 kgであった(14)。最近の研究では(20)、より高い負荷レベルでコアの筋群のEMG活動を測定している。Willardsonら(20)の研究は、安定したサーフェスと不安定なサーフェスでバックスクワット、デッドリフト、オーバーヘッドプレス、カールを行ない、コアの筋群の興奮レベルを比較した。この研究で用いた負荷は、健康な成人の筋力増大に推奨される典型的な負荷レベル( 50 ~ 75 % 1RM)であった。その結果、エアドーム上でこれらのエクササイズを行なっても、安定した床面で行なっても、コアの筋活動に差はないことが証明された(20)。

USTはしばしば「ファンクショナル(機能的)」筋力トレーニングだと説明される。それは、USTによる筋力と安定性の向上が、安定したサーフェスでのトレーニングによる向上よりも、一層容易にスポーツや日常活動に転移するという意味である。だが、この仮説は正確ではない。神経筋動員パターンの変化(1,2)、発揮筋力の低下(1,3,13)、日常活動やパフォーマンスの向上をもたらさないこと(8,16)など、USTが従来の安定したサーフェス上でのトレーニングに比べ「機能的」であるとはいえない。

レジスタンスエクササイズを不安定なサーフェスを使って仰臥位で行なう場合、USTは腹部の筋群、特に腹直筋を活性化するために使用できる(12,17)。しかし、不安定なサーフェスを使って立位でレジスタンスエクササイズを行なうことは、50 % 1RMかそれ以上の負荷を使って安定したサーフェスでレジスタンスエクササイズを行なう場合に比べ、コアの筋活動を高める効果は認められない(15,18,20)。

コアの筋に対する一層大きなトレーニング刺激を望む場合には、安定したサーフェスでのレジスタンスエクササイズを調整するとよい。安定したサーフェスで行なう(デッドリフトなどの)フリーウェイトエクササイズの負荷を増やすことは、不安定なサーフェスでコアに特異的なエクササイズを行なうよりも、コアの筋を活性化する効果が大きい(15,20)。安定したサーフェスで行なう一側性の(上下肢の)トレーニングも、コアの興奮レベルを高めるもう 1 つの効果的な方法である(4)。さらに「腹を殴られるときのように、腹部を硬く引き締めなさい」などと言葉がけをすることは、従来の安定したサーフェスでのエクササイズ中に、腹部の筋群の一層大きな活性化に役立つ(5)。

USTとUST器具は、健康な成人や彼らを指導するパーソナルトレーナーの間で非常に人気が高まっている。USTは、足関節や膝の傷害でリハビリ中の患者の固有感覚や反応不全を回復させるために用いる効果的な手段ではあるが(6,19)、健康な成人に対するUSTの効果的な応用は、きわめて限定的であると思われる。USTは、特に仰臥位で行なった場合には、初心者のコアの筋群の活性化と強化に利用できる(2,4,7,12,14,17)。しかし、従来の安定したサーフェスでのエクササイズに不安定要素を加えることは、特に、安定したサーフェスでのエクササイズ経験が豊富な鍛錬者の場合には、安定したサーフェスでのエクササイズから得られる利益を損なうおそれがある(8)。

References
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