HPCスタッフコラム

2017.09.14

バレーボールで高度なパフォーマンスを発揮するためのトレーニング

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バレーボールにおいてより良いパフォーマンスを発揮するうえで必要なS&Cプログラムの組み方及びトレーニングの特異性の必要性をエビデンス、現場の指導経験の両方の観点から考察しています。同時にトレーニングプログラムや特異的なエクササイズの紹介も含む実用的な文献になっています。
文字数:12,327文字|目安閲読時間:20~30分

Volume 14, Number 1, pages 38-52

バレーボールで高度なパフォーマンスを発揮するためのトレーニング
Training for High Level Performance in the Sport of Volleyball

Allen Hedrick, MA, CSCS,*D, Coach Practitioner, Head Strength and Conditioning Coach, U.S. Air Force Academy

レベルが高いバレーボールの試合は、身体要求が厳しい。レベルが高い試合で選手が自分の能力を存分に発揮するためには、試合の要求に応えられるように、身体的な準備を十分整えておく必要がある。本稿では、バレーボールの試合における身体的な必要条件を示し、トレーニングプログラムを作成する際に、その特異性を強調することの必要性について説明する。また、U.S. Air Force Academy(米国空軍士官学校)バ
レーボールチームで、実際に行っているストレングス&コンディショニングプログラムを紹介する。

試合の動作
バレーボールは、スピードが速く、爆発的でパワフルなスポーツである。バレーボールの試合は、最大か、最大に近い垂直跳びの繰り返し、頻繁に方向を変えるスプリント、ボールを拾うためのダイブ、スパイクやブロック時のオーバーヘッド動作の繰り返しなどから成り立っている(1,4)。ブロックやスパイクをするためには、下肢と股関節から体幹を通り上肢へと、決まった順序に従って筋を連続的に働かせる必要が
ある(2)。さらに、スパイクやアプローチジャンプのときには大きな力を発揮し、ダイビングや着地、またはブロックの際には、多くの力を吸収しなければならない。これらの身体的要求を満たすためには、極めて高いレベルの身体コンディショニングが必要である(4)。また、適切に計画されたストレングス&コンディショニングプログラムは、傷害の危険性を低減する上でも重要な役割を果たす。高度な力の発揮と吸収が必要なスポーツでは、特に傷害発生率が高い。レジスタンストレーニング(以下、RT)の一番の利点は、筋と腱が強化されることと、筋の動員とコーディネーションの向上による運動感覚の獲得によって、傷害発生率が低減する可能性があるということである(9)。これらすべての要因が、コートでのパフォーマンスを向上させると思われる。

傷害を受けやすい部位
バレーボール選手に最もよく見られる傷害発生部位は肩である。肩とローテーターカフの筋群は、肩の安定化という役割と、スパイクやブロックで発揮される大きな力のために、最も傷害が懸念される(4)。肩関節とローテーターカフを強化し保護するために、様々なローテーターカフのエクササイズを行うことができる。ジャンプと着地では大きな力が発揮されるため、膝と足関節にも傷害が発生しやすい。これらの関節を保護するためには、RT、プライオメトリクス、そして柔軟性トレーニングを組み合わせた包括的なプログラムを実施することが最適である。

エネルギー要求
バレーボールの平均的なプレーは、1回につき6秒程度続き、選手交代やタイムアウト以外の平均休息時間は、およそ14秒である(4)。この運動‐休息比は、バレーボール選手が、主としてATP-PC系を利用することを示唆している。バレーボールに特異的な要求を確認するいくつかの方法がある。最も優れた方法の1つは、時間‐動作分析である。これは、ポジション毎に、サーブ、パス、セット、スパイク、ブロック、ダッシュ、あるいはダイブなどの動作数を、時間特性(ラリーの持続時間、プレーの停止、ゲーム数、試合数など)とともに記録する方法である(1)。

トレーニングの特異性
スポーツ競技において身体パフォーマンスを最大限に向上させるためには、特異性と過負荷の原則の適用が必要である。特異性とは、簡単に言うとコンディショニングプログラムにおいて、可能な限り試合の動作を模倣することを意味する。過負荷とは、トレーニングにおいて、選手が通常よりも大きな努力を要求される刺激(重量、スピード、高さ、持続時間)を提供しなければならないことを意味する(1)。それを実現する最も効果的な方法は、実際の試合動作に極めて類似しており、しかも、身体能力の改善を強いる適切な過負荷を与えるエクササイズを行うことである。そのためト
レーニングでは、疲労によるパフォーマンスの低下を最小限に保ちながら、高くジャンプし、短距離をダッシュし、ダイブし、素早い方向転換をする能力を開発しなければならない(1)。しかし、プログラムデザインと同様、エクササイズの選択は「一般的」な種目から「特異的」な種目へと漸進させることは覚えておく必要がある。トレーニングが進むにつれて、試合中の動作に特異的なエクササイズへと変えていく(7)。最大の力発揮を獲得するためには、バレーボールという競技を構成している動きに類似した、動作パターン、速度、筋の収縮様式および収縮力でトレーニングを行い、試合動作を模倣する必要がある(1)。その結果、動員される筋群ではなく、動作に基づいてエクササイズが選択されるということになる。トレーニングが競技動作に類似していれば、ウェイトルームから試合にもたらされる利益は一層大きくなる(7)。例えば、レッグエクステンションとレッグプレスは、大腿四頭筋のサイズと筋力を向上させる上で効果的である。しかし、これらのエクササイズでは、バレーボールに特異的ではない動作パターンで筋力を向上させていることになる。そのため、バレーボール選手がこれらのエクササイズを行うことの価値は、疑問視せざるをえない。対照的に、スクワットやランジなどのエクササイズは(他の筋群も含め)、大腿四頭筋の筋力レベルを高める上で同じように効果的であり、バレーボールで見られる動作に類似した動作パターンで行われる。そのため、スクワットとランジは、バレーボール選手にとって、レッグエクステンションあるいはレッグプレスよりも良い選択である(7)。立位で行うフリーウェイト・エクササイズを強調することも重要である。ほとんどのスポーツ動作は立位姿勢で行われ、その大部分が多関節動作を含んでいる。トレーニングが試合の要求に特異的であれば、それだけトレーニング効果がパフォーマンスへ大きく転移する。しかし、例外として重要な事項がある。傷害発生率の低減、あるいは筋バランスの維持のためにプログラムに組み込まれるエクササイズである。例えば、ローテーターカフ・エクササイズには、側臥位で、単関節動作で行う種目がある。その他、プルダウンあるいはシーティッドロウなどは、座位で行われるのが一般的である。この種のエクササイズは例外である(7)。

エネルギー要求
バレーボールでは、大部分のラリーが10秒以下であり、1ゲーム当たり約50回のラーがある(1)。そのため、バレーボールのためのエネルギー供給機構のトレーニングは、5~10秒持続する50回以上の反復から成り立っている必要がある。頻繁な方向転換を伴うジャンプ、ランニング、ダイブで構成されている必要があり、10~15秒の休息がこれに続く(1)。ラリーの10%は15秒を超えて続く。その10%に対する準
備を整えるために、いくつかのエクササイズは20~45秒続けて行う必要がある。例えば、サイドアタッカーのためのドリルは、ブロックジャンプ、4mのバックペダル、素早いアプローチ(助走)からのスパイクジャンプで構成できるだろう。バックラインの選手のためのドリルは、3mの側方移動、ダイブから回転、スタートポジションへのバックペダルで構成される。セッターには、バックラインのポジションからネットまでダッシュ、ジャンプセット、ブロックジャンプ、スタートポジションまでダッシュで戻ることがトレーニングとなる(1)。トレーニングの強度、持続時間、および回復時間は、解糖系を強調しすぎないよう適切にコントロールすべきである。解糖系ではなく、ATP-PC系と有酸素系に負荷をかけ、乳酸の過度の蓄積を避けるために、セット間に十分な休息をとり、適切なレップ数で行うことが必要である1)。
トレーニングが、試合でのエネルギー供給機構に特異的であり、さらに動作も特異的であれば、神経‐筋系に過負荷をかけることが可能である。それにより選手は、より高く跳び、より速く走り、より素早く方向を変えるトレーニングができる。これは、通常よりさらに身体要求が厳しい状況でのトレーニングで達成できるだろう。例えば、上り坂でのスプリント、抵抗に逆らったジャンプ、あるいは、高所からのドロッ
プジャンプなどである。このようなトレーニングによって、より大きなパワーでパフォーマンスを発揮し、疲労によるパフォーマンスの低下を最小限に抑え、効率良く試合に特異的なスキルを練習することができる(1)。

垂直跳びを改善するトレーニング
垂直跳びの能力は、バレーボールでの成功を決定的に左右する(10)。ジャンプ力は、ジャンプセット、ジャンプサーブ、ブロック、スパイクなどで重要である。垂直跳びのパフォーマンス改善は、バレーボールのトレーニングプログラムの中でも特に重要な部分となる。ジャンプ力はパワーの産生と関係がある。パワーに対する筋力とスピードの効果は相乗的であり、筋力とスピードの両方が向上したときに、パワーが最大に向上する。従って、筋力あるいはスピードのどちらか一方だけに重点を置くことは、パワーの向上を制限することになる。高いパワー発揮を必要とするスポーツでは、トレーニングの早い段階において、筋力を最大限に高めることに重点を置くべきである。筋力を重点的に強化する期間の後、パワーとスピードの強化に移る(10)。垂直跳びの離陸速度の平均10%は、両腕の力によることが明らかになっているため、トレーニングを下半身に限定すべきではない(10)。しかし、ジャンプパフォーマンスは、股関節、膝、および足関節によって産み出される力に大きく依存している。結果として、脚部、股関節、さらに腕の爆発的筋力を向上させることが、垂直跳びのパフォーマンス向上をもたらす。大多数のアスリートにとって、筋パワーの向上が主
な目標となる。もちろん、特異的な生理的要求は種目によって異なる。例えば、フットボールでは力発揮に対する要求が高く、レスリングでは筋持久力により重点を置くことが必要であろう。一方、バレーボールでは、スピードの要素が大きな比重を占めると思われる。しかし、最適なパフォーマンスのためにパワーが重要であることは、これら3つの競技に共通である。筋力とパワーは関係があるが、単に最大筋力をト
レーニングするだけでは最大限のパワー向上には結びつかない。パワーは独立した要素であるため、プログラムは筋力の強化からパワーの強化へと重点を移すように調節しなければならない(10)。

垂直跳びのパフォーマンスとスクワット
ウェイトトレーニングを行うことによって、垂直跳びのパフォーマンスが向上することがいくつかの研究から明らかになっている。適切に計画されたトレーニングプログラムによって、より大きな力を発揮することが可能となる(6)。期分けされた7週間のパラレルスクワットのプログラムは、臀部と大腿部のパワーを有意に向上させることが明らかにされている。週2回、7週間スクワットを行ったところ、被験者は垂直跳びが平均3.3cm向上した。パラレルスクワットはダイナミックなエクササイズであり、伸張反射などの神経筋の効率を促進するため(6)、スクワット系エクササイズによる垂直跳びの向上は想定の範囲内である。ところが別の証拠が、下半身のパワー改善のためにスクワットを主要なエクササイズとしているプログラムは、理想的ではない適応をもたらす場合があることを示唆している。数週間から数カ月にわたる、単調で少レップ高重量のトレーニング(パワーリフティング)プログラムは、オーバートレーニングをもたらす可能性がある。パワーリフティングの問題のひとつは、パフォーマンスが向上するにつれてパワー発揮が減少することである。パワー発揮が低下する理由は、1RMは増加するが、動作速度がかなり減少するためである。パワーリフティングにおいて、動作スピードはリフトの成功に何の役割も果たさない。このタイプのトレーニングでは、非常に重いウェイトを扱うことができる。ところが、パワーリフティングの動作には、多くのスポーツで一般的に見られる爆発的動作が欠如している(6)。

垂直跳びのパフォーマンスとウェイトリフティング
パワーリフティングとは対照的に、ウェイトリフティングの動作(クリーン、ジャーク、スナッチ、および関連するエクササイズ)は、まさしく爆発的なエクササイズである。クリーン&ジャークとスナッチでは、リフトを成功させるために素早く動作を完了する必要がある。さらに、ウェイトリフティングも、ウェイトが 1RMに近付くにつれてパワーは減少するが、その程度ははるかに小さい。ウェイトが95% 1RMから最大重量まで上昇しても、動作スピードはわずかに減少するだけである(6)。ウェイトリフティングでは、動作スピードを維持する必要があるため、機械的なパワー発揮が非常に大きくなる傾向がある。研究によると、スナッチまたはクリーンにおけるセカンドプルのパワー発揮は、スクワットあるいはデッドリフトにおけるパワー発揮よりも4~5倍大きく、ベンチプレスより11~15倍も大きい(6)。ウェイトリフティングの動作は、スピード、パワー、さらに上半身と下半身のコーディネーションと運動感覚への気づきにとって理想的である(2)。ウェイトリフティングの動作は、多くのスポーツで必要な速度と同じスピードで、また同じ順序で筋を強化できる。実際の動作では、ある筋が単独で動員されることはない。このため、個々に筋を強化するエクササイズは、競技パフォーマンスを多少なりとも制限することになる(2)。ウェイトリフティングを取り入れた様々なプログラムは、特に運動感覚、柔軟性、バランスと爆発力に及ぼす効果が大きい(2)。

スクワットとクリーンの1RM の向上がジャンプパフォーマンスに及ぼす効果
U.S. Air Force Academyのフットボール選手を対象に、スクワットの 1RM、クリーンの 1RM、および垂直跳びの測定結果を評価した。この調査結果は、垂直跳びのパフォーマンス改善のために、トレーニングの一部にスクワットとクリーンを取り入れることの価値を裏付けている。表1と表2に、本研究の結果を示す(6)。垂直跳びのパフォーマンスとプライオメトリクス垂直跳びのパフォーマンス改善に有益なもう1つのトレーニング方法が、プライオメトリクスである(4,10)。いくつかの研究が、プライオメトリクスが垂直跳びに特異的な、股関節と大腿部のパワー向上にプラスの効果を持つことを明らかにしている。プライオメトリクスは、筋力とスピードの間のギャップを埋め合わせる。伸張‐短縮サイクルをトレーニングすることで、力の立ち上がり速度とパワー出力を向上させることができる(6)。下半身のパワー改善に対するプライオメトリクスの効果は、研究ですでに証明されている。週2回、6週間にわたり3種類のプライオメトリックドリルを行ったところ、6週間後に垂直跳びが平均3.81cm増加していた(6)。


レジスタンストレーニングとプライオメトリクスの複合効果
RTとプライオメトリクスは、単独で垂直跳びのパフォーマンス改善に効果があることが示されているが、両方のトレーニング様式を合わせると効果が最大限に高められる可能性がある。パワー系競技のパフォーマンス向上を目的とする場合、エキセントリック筋活動からコンセントリック筋活動に切り返される際のエネルギーの伝達を最適化することが必要である。この特徴をトレーニングするには、RTとプライオメトリクスを合わせた複合プログラムが必要である(6)。スクワットあるいはプライオメトリクスを単独に用いたところ、垂直跳びのパフォーマンスをそれぞれ3.3cm、3.81cm改善した。一方、スクワットとプライオメトリクスを組み合わせて週2回のトレーニングを行ったところ、垂直跳びのパフォーマンスが平均10.67cm改善した(6)。RTとプライオメトリクスの組み合わせが、より優れた結果をもたらすという事実は驚くべきことではない。一般に選手は、プライオメトリクスを始める前に、4~6週間のウェイトトレーニング・プログラムに参加することが推奨されている。これは、プライオメトリクスの大きなストレスによって、傷害を負う危険性を低減するためである。さらに、筋力レベルが向上するにつれて、他のプライオメトリックドリルや類似の活動を行う能力も、強化される可能性があることが確認されている(6)。

トレーニングプログラム
前述の情報に基づいて、U.S. Air Force Academyのバレーボール選手のために、以下のトレーニングプログラムが開発された。大学では、バレーボールは秋季スポーツである。練習は8月初旬に始まり、11月から12月にかけて試合が行われ、勝利チームはNCAAプレーオフへと進む。オフシーズンのトレーニングは、1月初旬に筋肥大/筋力のコンビネーションサイクルとして始まる(表3)。ワークアウトの表に使われている省略記号の解説は、表4に示す。


選手はシーズン終了以来、体系的なトレーニングには参加していないため、このサイクルでは筋力レベルを向上させつつ、要求の厳しいプログラムへの緩やかな移行を意図している。激しいトレーニング量への移行を助けるために、トレーニングプログラムの最初の2週間は量を抑え(すべてのエクサ
サイズを3セットずつ)、第3週以降にトレーニング量を増加させる(全身とコアのエクササイズを各4セット)。2つの異なるスキームが各サイクルで使われている。スキーム1は、月曜と金曜のワークアウトで用いられるが、これは、このサイクルの目標である生理学的適応をもたらすことが目的である。例えば、筋肥大/筋力サイクルⅠの目標は、筋サイズを増大させることであるが、それは、筋サイズと筋力の間に正の相関関係があるためである。従ってスキーム1では、筋サイズと筋力を同時に増大させる中程度の量と強度を用いている。対照的に、スキーム2は、低量高強度で筋力の向上を目的としている。2つの別々の生理学的要素(スキーム1の筋サイズ/筋力、スキーム2の筋力)を同時にトレーニングすることは、身体パフォーマンスの向上をもたらす上で有利である(3)。このサイクルは5週間である。セット数、レップ数、エクササイズとともに、プログラムの目標、サイクルの長さ、強度、動作スピード、および休息時間が、すべて設定されている。

上半身の筋力の必要性
脚部と股関節の筋力/パワーは明らかに必要であるが、その他に、バレーボールで成功するための重要な要因の1つが、上半身の筋力である。これには2つの理由がある。1つはパフォーマンスに関するものであり[スパイクの速度における重要な要因の1つは、高速での肩の伸展筋力であり(1)、またすでに述べたように、離陸速度の10%は腕の力による]、もう1つは傷害の予防である。肩関節の筋組織とローテーターカフの筋群は、肩のスタビライゼーションと、スパイクやブロックで発揮される大きな力のために、最も損傷が懸念される部位である(4)。事実、最も頻繁な傷害はローテーターカフの損傷である。ローテーターカフ・エクササイズは、ゆっくりと制御して、12レップ×2セット行う。このエクササイズでは、エラスティックバンドあるいは軽いダンベルを使用する(4)。次の筋肥大/筋力サイクルは、筋力サイクルⅡ(表5)である。このサイクルの目的は、さらなる筋力の向上である。筋力とパワーには正の相関があるため、トレーニングの最終目標が最大パワーの強化である場合、最初に筋力レベルを増やすと有利である(6)。筋力レベル向上のために、スキーム1のレップ数は少なくなり、休息時間は延長している。スキーム2では、爆発的動作の反復に必要な筋持久力を高める一方、筋肥大を維持することを意図して作成されている。過度の疲労を避けるために、春季練習の始まりと同時に、サイクルの途中でトレーニング量を減少させている。少なくとも1種目のオリンピックスタイル・エクササイズ(以下、OSE)を行う。OSEは、筋力、パワー、コーディネーションが組み合わされたエクササイズである。これらのエクササイズの動作パターンは、多くのスポーツで見られる動作パターン(バレーボールのジャンプなど)に類似しているため、プログラムにおいてOSEを優先的に行うことは有意義である(9)。他のRTを行う前に、最初にOSEを行うことが重要である。OSEを正確に行うためには、速いスピードとコーディネーションが要求される。従って、疲労していない状態で行うこと
が適切である。

側方への動作
トレーニングプログラムにおいて強調すべきもうひとつの分野は、側方動作のためのトレーニングである。大部分のウェイトトレーニングの動作は、矢状面で起こる。例えば、クリーン、スクワット、フォワードランジのようなエクササイズは、すべてこの平面で行われる。しかしながら、バレーボールを含め、大抵のスポーツは、前後の動作と側方への動作の混合である。バレーボールにおける横の動作の例としては、ブ
ロックをするために中央のブロッカーが横へスライドする動作、あるいはリベロがレシーブのために側方へダイブする動作などがある。矢状面のみのトレーニングでは、側方へ動くための能力を十分に身に付けることができない。側方動作に対応するためには、ウェイトルームにおいても、またプライオメトリック/アジリティトレーニングにおいても、様々な側方への動作を行う必要がある。試合での動作を、ウェイト
ルームで安全にトレーニングできるのであれば、是非ともワークアウトに取り入れるべきである。側方へのトレーニングを無視することは、選手にとって不利である(8)。

ダンベルトレーニングの重要性
ここで紹介するプログラムでは、毎週水曜日のワークアウトにおいて、ダンベルエクササイズに重点を置いている。プログラムの目標が競技パフォーマンスの向上であるならば、プログラムのかなりの部分をダンベルエクササイズで構成する必要がある。ダンベルエクササイズを実行するためには、極めて高いバランス能力とボディコントロールが必要とされるため、ダンベルは、アスリートのトレーニングにおいて適切
な選択である。これらの要素が、バレーボールの試合の要求に十分に反映される(8)。もうひとつのダンベルの利点は、腕を左右交互に用いた上半身のエクササイズ(オルタネイト・ダンベルクリーン、オルタネイト・ダンベル・ベンチプレスなど)を行えることである。当然であるが、このタイプのトレーニングをバーベルで行うことはできない。左右交互のダンベルエクササイズは、より競技特異的なトレーニング様式を提供することができる。サーブやスパイクは、片腕で行う動作の例である。ダンベルを用いた左右交互のエクササイズは、筋力サイクルⅡの期間中に開始し、トレーニングの進行につれてより広範に取り入れる。筋力サイクルⅡが終了したら、パワーサイクルⅠの前に筋力レベルをピークまで高めるために、短期間の第3の筋力サイクル(筋力サイクルⅢ、表6)を続けて行う。レップ数を減少させ休息時間を長く取ることで、強度を高めて筋力をピークに到達させることができる。スキーム2のレップ数は依然多く保たれているが、これは、筋サイズと筋力を維持することに重点を置いているためである。

体幹のトレーニング
体幹のトレーニングには、年間を通じて重点を置くべきである。選手の筋力とパワーの潜在能力を十分に開発するためには、体幹のトレーニングを特に重視しなければならない。あらゆる動作は体幹から始まるか、あるいは体幹を通して連動しているため、体幹の筋力は極めて重要である(5)。体幹のトレーニングの結果として起こるパワーの増大は、ジャンプやスパイクを含む様々な活動に転移する。体幹を強くすることで、課題を行うために上半身と下半身両方の筋組織を活用する能力が高まる(5)。体幹のトレーニングを、単なる腹部のトレーニングと捉えている人は少なくない。腹部のトレーニングが体幹のトレーニングの重要な側面であることは確かだが、強い下背部も競技パフォーマンスにとって重要である(5)。捻り、ジャンプ、
ランニングなどの競技パフォーマンスは、すべて背中に大きなストレスがかかる。背部のトレーニングが不足していると、運動能力に弱点と欠陥が生じる。やがてそれは、競技パフォーマンスの低下、傷害、痛みにつながる。残念なことに、体幹をトレーニングするとき、機能的なトレーニングがしばしば無視され、外見の改善を目的としたプログラムやエクササイズのみが重視されがちである。クローズドキネティックチェーン・エクササイズは、典型的な「シックスパックの腹筋」を作るエクササイズよりも、バランスとコーディネーションを必要とするためより競技特異的である。筋ではなく動作をトレーニングすることで、機能的な筋力を発達させることに重点を置かなければならない。実際の試合は立位姿勢で行うため、体幹のエクササイズの一部は立位で行うことが重要である。立位での腹部のエクササイズは、単に体幹を鍛えるだけではなく、身体の安定に関わるその他のあらゆる筋をトレーニングすることになる(5)。外見のためのトレーニングは、ゆっくりとコントロールして行うべきであるが、スポーツのために行う体幹のエクササイズは、素早く、爆発的な動作を伴う。スポーツ動作では、一般に爆発的、バリスティックで、十分に調整された筋活動が
必要なためである。筋力と外見のためのエクササイズは、大抵ゆっくりと行われる。一方、パワーエクササイズは、スピードに特異的な適応のために、より高速で行われる(5)。

回旋動作
バレーボールでは、体幹の回旋動作が多い。しかし、多くのプログラムで回旋トレーニングが疎かにされている傾向がある。回旋動作は試合で必要な動作であるため、ウェイトルームやプライオメトリック/アジリティトレーニングでも、回旋動作をトレーニングすることが重要である(8)。バレーボールでの回旋動作として、サーブやスパイクが挙げられる。選手はこの回旋に備えたトレーニングを行う必要がある。トレーニングで回旋動作を強調することで、初めてその準備が可能となる。

パワーのためのトレーニング
3つの連続した筋力サイクルの後、パワーサイクルⅠ(表7)を導入することで、筋力からパワーへと重点が移る。前述したように、バレーボールはパワースポーツである。筋力とパワーの間には相関関係があるので、最初に筋力レベルを高めることは意味がある。しかし、ここからは、パワーと競技パフォーマンスの向上に重点が置かれる。スキーム2は、パワー/持久力を強化する一方、筋肥大も維持するという目的で
計画されている。筋力からパワーの向上へと重点を移すために、次のような調整が行われている。・全身エクササイズが追加されているため、各ワークアウトで2種目のOSEを行う。前述したように、OSEはパワー発揮にプラスの影響を与える。

・タイムドリフトが追加されている。タイムドリフトでは、指定された時間内に、必要なレップ数を完了しなければならない。すなわち、トレーニングの重点が、どれほどの重量を挙上できるかということから、どれほど速く動作を行うことができるかに移っている。
・セット間とエクササイズ間に、確実に回復するよう休息時間を長くとり、高いレベルのパワーを発揮できる可能性を高めている。
・ジャンプスクワットが追加されている。ジャンプスクワットがパワーにプラスの影響を与えることは、すでに明らかにされている。

タイムドリフト
タイムドリフトとは、必要なレップ数を完了するまでの、具体的な時間が指定されているエクササイズである。選手は、指定された制限時間内に必要なレップ数を完了できる範囲で、可能な限り重いウェイトを用いるよう指示される。このプロトコルでは、どれだけの重さを挙上できるかよりも、どれだけ速く挙上できるかに重点が移っている。実際のエクササイズのスピードは、特に速いとは言えないかもしれない。しかし、可能な限り速く動かそうとする意識は常に強調される(8)。実際の動作スピードは、過度に速くはないと思われるので、高速エクササイズで一般に見られるように、選手がバーやダンベルを下ろす際、関節可動域の大部分で速度を遅くするよう
強制されることはない。パワーサイクルⅡとⅢ(表8、9)でも、引き続きパワーの
向上に重点を置いている。OSEが引き続き強調され、タイムドリフトがプロトコルの一部であることも変わりがない。また休息時間は、セット間とエクササイズ間での完全な回復を意図している。パワーサイクルがⅠ、Ⅱ、そしてⅢへと進むにつれて、全身エクササイズもタイムドリフトも、レップ数が減少していく。さらに、各レップの完了に与えられる時間[各タイムドリフトの( )内の数字]も次第に短縮される。タイムドリフトを行っている間は、さらに速い動作を行うよう強く要求する。スキーム2は、筋サイズとパワー/持久力の維持に引き続き重点を置いている。

プライオメトリクス
前述したように、目標がパワーの向上である場合、プライオメトリクスも重視される。RTと同様、スポーツ動作との類似性に基づいて、動作特異的なドリルを選択することが重要である。それによって、向上した筋力を運動能力に結びつけるためにプライオメトリクスを活用できる。トレーニングの結果、試合中に選手が効果的に動けていれば、そのプログラムは最適なパフォーマンス発揮に効果を上げたと考えられる。プライオメトリクスは、RTを行わない曜日(火曜と木曜)に行う。火曜には垂直方向のドリルが強調され、木曜には側方へのドリルを行うように体系化されている(表10)。RTと同様、時間の経過とともに、より複雑なドリルが選択されている。



結論
バレーボールは、高速のパワースポーツである。選手はクイックネスと垂直跳び能力を備え、しかも素早い方向転換ができなければならない。これらの特性を高いレベルまで向上させるためには、パワーの改善に重点を置いて作成されたRTプログラムと、垂直跳び、側方への動作、素早い方向転換の能力改善を目的に作成されたプライオメトリクスを組み合わせた、複合的なトレーニングが必要である。本稿で紹介した
プログラムは、そのような複合プログラムの一例であり、バレーボールにおける高度なパフォーマンスの達成を可能にするだろう。

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