HPCスタッフコラム

2017.09.28

子どものためのレジスタンストレーニング

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アスリートのみならずレジスタンストレーニングの効果は子どもにも有効的!一般的に言われている子どもへのレジスタンストレーニングについての迷信を科学的に反証しながらその効果を論証しています。
文字数:5,954文字|目安閲読時間:9~14分

Special Feature Article
October 2006•Strength & Conditioning 47, Volume 13, Number 8, pages 46-50

子どものためのレジスタンストレーニング
Resistance Training for Children

Avery D. Faigenbaum, EdD, CSCS,*D Department of Health and Exercise Science The College of New Jersey

長い間、子どもはスイミングや自転車などの有酸素性活動に参加することを奨励されてきたが、レジスタンストレーニングも適切なガイドラインに従うことで、子どもにとって安 全で効果的な運動であることが示唆されている(6,12)。我々がレジスタンストレーニングについて理解していることの大部分は、様々なプロトコルに対する成人の反応について調査 した結果から得られたものである。しかしこの10年で、子どものレジスタンストレーニングに関する研究は次第に増加し、現在ではその安全性と有効性はすでに十分証明されている(11)。青少年のレジスタンストレーニングは、例えば、National Strength and Conditioning Association(NSCA)(7)、American College of Sports Medicine(ACSM:アメリカスポーツ医学会)(2)、American Academy of Pediatrics(AAP:米国小児科学会)(1)、British Association of Sport and Exercise Sciences(BASES:イギリススポーツ・運動科学協会)(3)などの医学やフィットネスの専門機関によって条件付きで認められており、 次第に普及しつつある。学校、レクリエーションセンター、スポーツキャンプなどにおいて、レジスタンストレーニングを行う少年少女の数は増加している。それにもかかわらず、体育教師やユースのコーチの中には、青少年のレジスタンストレーニングの安全性に関して、いまだに不安を抱いている人たちがいる。さらに、青少年のレジスタンストレーニングにはリスクを上回るだけの潜在的利益があるのか、あるいは、青少年のレジスタンストレーニングのためのガイドラインは存在するのか、といった質問をする保護者も少なくない。残念なことに、これら共通の問題点に対する正しい答えは、青少年のレジスタンストレーニングにまつわる迷信によってしばしば曖昧にされている。本稿の目的は、これらの迷信を一掃し、青少年のレジスタンストレーニングに伴う潜在的な利益と問題点に焦点を当て、子どもに対する安全で有効なプログラムデザインの要点について概説することである。本稿で用いる「レジスタンストレーニング」という用語は、幅広い範囲の負荷と様々なトレーニング様式(ダンベル、ウェイトマシーン、メディシンボール、自重エクササイズなど)を漸進的に利用し、筋機能を強化、もしくは維持するために計画された身体コンディショニングの専門的な方法、と定義付けられる。「子ども」という用語は、第二次性徴による発達が起こる以前の少年少女(男子は13歳くらいまで、女子は11歳くらいまで)を指す。

一般的な迷信
青少年のレジスタンストレーニングの安全性と有効性に関する疑問に対しては、ケーススタディ報告や事例観察に対する感情的な反応に惑わされることなく、関連のある科学的文 献を体系的に再検討することによって、冷静な答えを出すべきである。議論をこのような科学的レベルにまで引き上げることにより、有資格者が監督し、周到に計画されたレジスタンストレーニング・プログラムが、少年少女にとって安全で 有効なコンディショニング方法であることが明らかになるであろう。青少年のレジスタンストレーニングに関連した、いくつかの最も一般的な迷信について以下に論じる。

迷信:レジスタンストレーニングは子どもの成長を阻害する。
事実:現時点における所見では、管理された環境で定期的なレジスタンストレーニングを行う場合、子どもの身長が伸び ないという証拠は示されていない。いずれの発達段階におい てもレジスタンストレーニングへの定期的な参加は、子ども の成長に好ましい影響を及ぼすことはほぼ間違いない。ただし遺伝的限界を超える効果をもたらすこともない(5)。

迷信:子どもは、レジスタンストレーニングによって骨端軟骨を損傷する。
事実:有資格者の監督下で適切に計画されたプロスペクティブ研究(注:現在から将来に向かって被験者の変化を追跡調査する研究。前向き研究)からは、骨端軟骨板の骨折はこれまで報告されていない。興味深いことに臨床医の中には、低年齢の子どもの骨端軟骨は強く剪断力に対する抵抗力があるため、思春期前の子どもにおける骨端軟骨損傷の危険性は、年長の 子どもよりも低いと考えている者もいる(16)。

迷信:子どもはテストステロンを十分に分泌しないため、筋力を向上させることはできない。
事実:テストステロンは、筋力の向上に不可欠というわけではない。テストステロンをほとんど分泌しない女性や高齢者であっても、目覚しい筋力の向上を経験するという研究結果からも明らかである。相対的に、すなわちパーセントで比較すると、トレーニングによって生じる子どもの筋力向上は、思春期の若者および成人の筋力向上に匹敵する(18)。

迷信:レジスタンストレーニングは子どもにとって危険である。
事実:適切な監督と指導があれば、レジスタンストレーニングに伴う危険性は、子どもが日常的に参加するその他の活動と全く変わらない(13)。最も重要なことは、厳重な管理・監督、年齢に合わせた指導、安全なトレーニング環境の提供である。しかし、子どもがウェイトルームで定められたガイドラインに従わずに悪ふざけをしたりすれば、どのような種類 の活動であっても事故は起こり得る。

迷信:レジスタンストレーニングを始めるのは、早くても12 歳になってからにすべきである。
事実:指示を理解し、その指示に従えるだけ情緒的に成長していれば、レジスタンストレーニングはいつ始めてもよい。参考までに例を挙げると、我々が実施している青少年のトレーニングプログラムには、7歳と8歳の少年少女が多数参加している(9)。

迷信:レジスタンストレーニングは若いアスリートだけのものである。
事実:レジスタンストレーニングは若いアスリートのパフォーマンスを向上させる一方で、青少年のレジスタンストレーニング・プログラムへの日常的な参加は、どのような能力の少年少女にも多大な健康的価値をもたらす。例えばレジスタンストレーニングは、骨粗鬆症を起こすリスクのある少女の骨密度を改善する可能性や、長時間の有酸素性運動を好まない過体重の子どもに、運動に対する興味を起こさせる可能性を持っている(5,6)。

青少年のレジスタンストレーニングに期待できる効果
研究によると、適切に処方され、十分な監督下で行われる青少年のレジスタンストレーニング・プログラムは、少年少女に対して、健康的および体力的価値をもたらすことが示唆されている(5)。プログラムへの参加は、筋力、筋パワー、および局所的な筋持久力に加えて、心肺機能、身体組成、血中脂質、骨密度、運動能力、およびいくつかの心理的尺度(5)にプラスの効果を及ぼす可能性がある。さらにいくつかの研究結果によれば、慎重に計画されたプログラムは、過体重の子どもの身体組成を改善し、若年アスリートの傷害リスクを低減する可能性が示唆されている(8,20)。表1に、青少年のレジスタンストレーニングに期待できる効果を示す。

過体重の青少年の数は世界的に増加し続けており(14)、身体組成に及ぼすレジスタンストレーニングの効果について注目が集まっている。一般的に体脂肪の減少には有酸素性運動が処方されているが、過体重の青少年がレジスタンストレーニング・プログラムに定期的に参加することにより、身体組成が改善されることが明らかになっている(20)。過体重の青少年は、レジスタンストレーニングに楽しく参加しているように思われる。いかなる体格であっても、有酸素性運動のような負担感がなく、すべての参加者に成功を体験するチャンスがあり、自分のパフォーマンスに自信を持つことができるためであろう。さらなる研究が必要ではあるが、過体重の青少年に運動を奨励する第一歩は、活発な身体活動に取り組む自らの能力に対して自信を高めることであると思われる。それがやがて、身体活動の増加と体脂肪の減少をもたらすであろう。 幼年期の肥満の治療は簡単ではないが、我々のユース・フ ィットネスセンターでの観察では、有酸素性運動のような負担を感じることなく、体格にかかわらないすべての参加者に成功体験のチャンスがあり、自分のパフォーマンスに自信を持つことができると示唆している。我々のセンターの未公開データによると、子どもの30~40分間のレジスタンストレー ニング中の心拍数(ポータブル心拍数モニターによって測定)は、1分間に130~160拍の間で増減することを示している。過体重の子どもにおいて、中程度の負荷、高レップ数で行うレジスタンストレーニングは、長期的な体脂肪の減少と体重管理に対する有効な解決策になると思われる。現在確認されている青少年のレジスタンストレーニングにおける他の利点は、意欲的な若いアスリートが、スポーツ競 技に参加するために必要な能力を向上できることである。子どものスポーツに対する関心が驚くほど高まるのと同時に、準備不足が原因の競技に関連した傷害や、十分にトレーニングされていない若いアスリートの数も増加している(17)。成長、不適切なシューズ、競技場の硬いサーフェスなどが、子どものオーバーユース障害のリスク要因として挙げられている一 方で(16)、若いアスリートが成長過程で経験している身体活動レベルも考慮しなければならない。昔に比べて体育に参加する生徒の数は減少しており、テレビ鑑賞やネットサーフィンなどのような座ったままで行う活動が、子どもの自由時間 のかなりの部分を占めるようになり、その状況は今も続いている(19)。 レジスタンストレーニングは、筋力の向上や関節周囲の筋バランスを改善することで、若いアスリートの傷害発生率を 減少させる可能性がある。レジスタンストレーニングを含むプレシーズンのコンディショニングプログラムに参加した思春期の若者において、傷害発生率が減少したと複数の研究が報告している。レジスタンストレーニングが、子どもに対しても同様の効果を提供できる可能性は高いと思われる(8)。スポーツ傷害を完全に無くすことは非現実的な目標であるが、意欲的な若いアスリートに、競技に参加する前の準備として、少なくとも6週間のコンディショニングプログラム(レジスタン ストレーニングを含む)に参加するよう奨励することは一考に値する。資格を持つコーチ、教師、トレーナーが、不十分な身体コンディションや筋のアンバランスなどの修正可能なリスク要因を特定し、このプログラムの間に適切に対処することができるだろう。

リスクと問題点
青少年のレジスタンストレーニングに伴うリスクや問題点が、子どもが日常的に参加するその他のスポーツやレクリエーション活動よりも大きいことを示唆する科学的な証拠はない。しかし青少年のレジスタンストレーニングには、有資格者による監督、適切な指導、そして適切なプログラムデザインが必要である。コーチと体育教師は、レジスタンストレーニングに伴う特有のリスクについて認識している必要があり、 定められたガイドラインに従いリスクを低減する努力をする。子どもを指導する教師やコーチは、単に資格を持っていればいいというものではない。青少年のトレーニングプログラムを計画する専門職は、一人ひとりの子どものニーズ、関心、能力に合わせ、慎重に対応しなければならない。子どもの能力を超えたプログラムを処方することは、傷害のリスクを増加させるだけでなく、レジスタンストレーニングの楽しさを台無しにする可能性もある。

プログラムデザインの問題点
注意深く計画されたプログラムで有資格者による指導を受ける、という条件が満たされれば、レジスタンストレーニングは子どもにとって、最も強力で効果的なコンディショニングの方法の1つとなる。様々なタイプの機器の使用、およびセット数やレップ数の多様な組み合わせは、子どもにとっても安全で効果的であることが証明されている。子どものレジスタンストレーニングは、1週間に2~3回、1日以上の間を空けて行い、大筋群を動員するバラエティに富んだエクササイズを、6~15レップ、1~3セット行うことが推奨される(7)。しかしプログラム開始時には、週2回、各エクササイズを10~15レップで1セットずつ行う。これは、筋機能の好ましい変化をもたらすばかりでなく、さらに上のレベルに進む前に、参加者が自分の能力に自信をもつ機会を与えることにもなる(10)。表2は、青少年のレジスタンストレーニングの一般的なガイドラインを示している。

時間をかけて、徐々に負荷、レップ数、あるいはセット数を増加させることによって、継続的に向上していく。大部分のエクササイズにおいて、平均5~10%の負荷(普通1~2 kg)の増加が適切である。目標のレップ数を完了できるようになったら、継続的に向上させるために、負荷を徐々に増加しレップ数を減少させる。しかし、これは必ずしも以前のセッションより強度を高めなければならないということではない。子どもの身体に与える負荷を、時間をかけて次第に増加させる必要があるということである。教師とコーチがそれぞれの子どもの関心や不安に耳を傾け、各々の進歩を観察し、一人ひとりの子どもの身体面および心 理面の特徴を理解する必要がある。体力レベルが不十分な青少年の場合、同じトレーニングプログラムに参加していても、仲間が耐えられる同量のエクササイズに耐えられない場合もある。ここがまさに、プログラムデザインに関してアートと科 学が力を発揮する部分なのである。なぜなら、最大限の向上を実現し、マンネリを防ぎ、オーバートレーニングによるストレスを減少させるためには、特異性や負荷の漸進性といったトレーニングの原則は、個人のニーズや能力とのバランスを取る必要があるためである。青少年のレジスタンストレーニングのプログラムデザインに関する詳細な情報は、他にも様々なところから入手できる(4,9,15)。

まとめ
青少年にとって、レジスタンストレーニング・プログラム が、日常的に参加する他のスポーツや活動と比べて「リスクが高い」ことを示す証拠はないが、レジスタンストレーニングは、有資格者による監督、適切な負荷、段階的な漸進、およびセッション間の適切な回復を必要とする、専門的なコンディショニング方法である。青少年のレジスタンストレーニング・プログラムを計画するときに注意する重要な点は、プログラムの目標を筋力の向上だけに限定すべきではないとい うことである。自分自身の身体について子どもたちに教えること、安全なトレーニングの手順を奨励すること、そしてすべての参加者がレジスタンストレーニングや身体活動に対して、より積極的な態度で臨むような興味を持てるプログラムを提供すること、これらすべてが等しく重要なことである。

REFERENCES

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