HPCスタッフコラム

2017.11.16

青少年アスリートの可動性トレーニング

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可動性(Mobility)トレーニングと柔軟性(Flexibility)トレーニングの違いをご存知ですか?
現在S&Cにおいて多く取り入れられているコレクティブエクササイズの一つとして多くのモビリティドリルが取入れられています。パフォーマンス向上から傷害の予防まで、可動性トレーニングを取り入れることの意義をエビデンスをベースに論じています!
文字数:10,303文字|目安閲読時間:17~25分

Volume 22, Number 10, pages 52-59

青少年アスリートの可動性トレーニング
Mobility Training for the Young Athlete

Toby Brooks, PhD, ATC, CSCS, Texas Tech University Health Sciences Center, Amarillo, Texas
Eric Cressey, MA, CSCS, Cressey Performance, Hudson, Massachusetts

はじめに
十分な可動性と軟部組織の伸展性を重視する現代的な修正エクササイズの技術は、大部分のストレングス&コンディショニング(S&C)プログラムにおいて、現在、比較的よく取り入れられている(3)。具体的にいえば、若年アスリートに対して、各種可動性障害の予防と治療において、可動性の概念の現場での応用が広まりつつある。多くのS&C専門職が、適切な運動能力を促進するプログラムの作成が重要であることを認識し、従来のプログラムから、指導中のアスリートのニーズに適したプログラムに変更している。

反対に、柔軟性トレーニングはこれまでしばしば、様々に、また大雑把に定義されてきた。実際の筋や軟部組織の長さ(例えば、「柔軟性の乏しい」ハムストリングス)を意味することもあれば、単関節または複数の関節が動く大きさ(例えば、「柔軟性の乏しい」足関節)を意味することもある。あるいはアスリートが競技やコンディショニングの動作中にとれる姿勢(例えば、「柔軟性が足りないためにディープスクワットができない」)を指すこともある。柔軟性とは、通例、単関節もしくは一連の多関節の絶対的可動域を意味し、静的可動域か動的可動域のいずれかを指す(2)。

柔軟性は、確かに全身の運動に影響を与えるが、柔軟性の概念は、運動に特異的な機能的動作のあらゆる局面に完全に対応しているわけではない。例えば、柔軟性は通常、体重負荷のかからない状態で測定されるのに対して、大多数の競技動作は立位で、もしくは半立位で行なわれる。柔軟性テストの性質上、比較的単独で行なわれることが多いため、筋膜などの全身的な制約による影響は外見上容易には明らかにならないと思われる。結果として、柔軟性は通常、ある関節に特異的な運動性の不足または過剰に関する臨床的概念と考えられる。

逆に可動性は、アスリートが意図した姿勢や体位を達成できる(できない)ことを表す、より機能的な概念であると考えられる。柔軟性の評価は、通常、一度に一関節または二関節を対象とする。可動性の評価は本質的に多関節を対象とし、その結果、事実上より全身に適用される概念である。可動性に は、活動中にアスリートが望ましい姿勢をとることのできる機能的能力が含まれ、また、同時に機能する複数の関節の安定性と適切なコーディネーションに大きく依存している。一般的には、可動性は比較的容易に測定できるが、実際の制限や障害の原因を把握するためには追加的なスクリーニングが必要である。表 1 は、柔軟性と可動性の概念の基本的な違いを表している。

これらの違いを正しく理解すると、青年期および高校生アスリートの可動性トレーニングのあらゆる取り組みにおいて重要な、3 つの基本的特徴が明らかとなる。第1 に、ある可動性トレーニングがすべてのアスリートに有効であるとは限らない。若年アスリートの個人差は幅が広く、各自の特徴が異なるため、アスリートに特異的ではないプログラムは非実践的であり、ほぼ効果がない。したがって可動性プログラムは、成長期のアスリートに最大の利益をもたらすように、少なくともある程度は特別に作成しなければならない。第 2 に、思春期の真っ最中のアスリートは、身長や体重の急速な変化を経験しているため、実質的に常に目標が変化している。したがって、プログラムは単にアスリート個人に特異的であるだけではなく、発達中のアスリートに合わせて絶えず変化させなければならない。最も有益な時期を過ぎても更新されないプログラムは、急速に使い古され効果がなくなる。第 3 に、可動性とは本来全身的な概念であるから、その向上は、個々の具体的な目標をもつ柔軟性トレーニングだけでなく、可動域全体を使って行なうS&Cなど、他のトレーニングに依存している。したがって、可動性ドリルは全身のウォームアップとして実施すべきではあるが、若年アスリートの適切な運動パターンの形成と強化に役立つように、セッション中には、適切な姿勢や体位を調整するための簡単な手がかりを与えることが重要である。

運動前の静的ストレッチングへの固執
反証があるにもかかわらず、多くのスポーツコーチが依然として、運動前のウォームアップに関して時代遅れの考えをもち続けている。そのためアスリートは、スポーツ活動に参加する際に、軽いジョギングと静的ストレッチングから始め、最後に競技特異的な活動へと進むことが多い。しかし、このようなウォームアップの実施は、様々な速度における等尺性筋力や動的筋力の減少が原因で起こるパフォーマンスの低下と関連づけられている(13,21,25,34,40)。等尺性筋力は明らかに動的安定性に意味をもち(可動性にも直接影響を与える)、一方、動的筋力はパフォーマンスにとって最も重要である。複数の研究から、エクササイズ前の静的ストレッチングは、低速・高フォースの運動(パワーリフティングなど)(3,8)や、高速・低フォースの運動(垂直跳びやスプリントなど)(10,11,25)にマイナスの影響を及ぼすことが明らかになっている。

若干の研究は、長時間のストレッチ ン グ は 筋 腱 単 位(MTU:musculotendinous unit)の柔軟性を過度に高めることを示唆している。力の発揮において、MTUの適度なスティフネスは重要な要素である。そのため、柔軟性の過度な増加は力とパワー発揮能力を低下させる(10,17)。このような柔軟性の改善は、筋への神経伝達を減少させるだけではなく、伸張-短縮サイクルの効果を損なう。簡単に言えば、柔軟性に富むMTUは柔軟性の低いMTUほど効果的に弾性エネルギーを貯蔵できない(17,37)。しかし注意すべき点として、パフォーマンスに対する静的ストレッチングの影響を調査した多くの研究において、長めのストレッチングや高強度エクササイズの直前に行なうストレッチングは、典型的な競技前のウォームアップとは異なる。さらに、このような研究は、ほとんど常に大学生の年齢の被験者を対象に行なわれている。そのため、青少年アスリートへの適用には問題がある。

これらの要因を考慮すると、青少年アスリートのトレーニングプログラムに静的ストレッチングを取り入れることは、個人レベルで検討しなければならない。一般的に、個人に合わせた柔軟性エクササイズの必要性は、アスリートが身体的に成熟するにつれて高まる。具体的には、思春期前の青少年は通常、柔軟性はあまり強調せずに、神経筋の発達に重点を置く必要がある。筋骨格系が絶えず変化しているため、この発達段階で用いられた柔軟性トレーニングによる利益が無駄になる可能性がある。他方、より成熟したアスリートは、おそらく定期的な柔軟性トレーニングを取り入れることから利益を得るであろう。筋骨格系を修正し、神経筋の効率向上に順応する能力が備わっているからである。例えば、まだ成長スパートを体験していない思春期直前の 14 歳の中学生は、静的ストレッチングから利益を得られないかもしれない。一方、より骨格的に成熟した 18 歳の高校生であれば、静的ストレッチングを取り入れることからきわめて大きな利益を得られる可能性がある。端的に言えば、アスリートの骨格の成熟や骨の成長に伴う筋や腱の変化が、ストレッチングを通して劇的に促進されると思われる。結果として、若年アスリートの可動性トレーニングに何が必要かは、ほんの数ヵ月で変わる可能性がある。

以上の点をすべて考慮すると、スポーツ傷害の圧倒的多くは、可動域全体を通して静かにまたはゆっくりと組織を動かしているときよりも、むしろ、アスリートが運動し、急速な可動域の変化を体験している場合に起こるといえる。この事実を正しく認識しなければならない。さらに、大抵の傷害は、静的ストレッチングの際に起こるような 1 つか 2 つの関節が動いている場合よりも、むしろ、多数の関節が同時に動いている際に発生する。その上、傷害は通常、アスリートが座位や仰臥位、あるいは伏臥位でいる場合よりも、むしろ自重のかかる姿勢で発生する(ただし、包括的な可動性プログラムでは、大多数の上半身のエクササイズは本来オープンチェーンであるという事実が正しく理解されている)。

したがって、ほぼ例外なく、運動前の最適なウォームアップでは、自体重のかかる多関節運動に焦点を合わせ、可動域全体を使って徐々に動的な運動へとアスリートを誘導すべきである。そのようなウォームアップは疲労の影響もなく、全身運動が圧倒的に多いため、若年アスリートにとって、総体的な運動スキルの習得と向上の素晴らしい機会となる。結果的に、ウォームアップは可動性を改善するための最適な時間として役立つだろう(18)。可動性ドリルは「動的柔軟性エクササイズ」または「動的ストレッチング」と呼ばれることが多い。いずれにせよ正しく選択すれば、運動前のあらゆる目標を達成するために活用できる(10)。

「全身ウォームアップ」に分類される可動性ドリルは、可動域全体を通して行なう高強度の動作を含めることによって、運動前の休息状態とこれから行なう特異的なエクササイズとの効果的な橋渡しの役割を果たす。また、ウォームアップを適切に行なうためには、「一般的な」ドリルから「特異的な」ドリルへと漸進させる必要がある。

研究によると、動的柔軟性ドリルは、20 mスプリント(10)をはじめ、各種ジャンプ課題(43)、ジャンプとアジリティテスト(11)、その他数多くのパフォーマンスの具体的な測定値を改善させること、また動的な可動域を広げること(20)、さらに静的ストレッチングを用いた場合よりも傷害発生率を低下させること(20)などが示されている。 さらに、可動性ドリルは、主働筋または安定筋としては十分に貢献しないが、キーとなる筋群をも動員し「活性化」するのに役立つ。例えば、大殿筋の不十分な機能は腰痛の原因としてたびたび指摘されている(14,16)。一方、中殿筋と側方の股関節回旋筋群の不十分な筋力と運動制御は、腸脛靭帯炎(27)や膝前部痛(5,19)のリスク増加と結び付けられている。上半身では、僧帽筋上部と僧帽筋中部(7)、前鋸筋(9)などの動員が不十分であると、肩痛を起こす肩甲帯の機能障害に関連があるとされる。

さらに、運動前の可動性トレーニングは若年アスリートにとって運動学習の効果的な方法である。アスリートが「通常の」トレーニングや試合とは別に、リハビリテーションやプレハビリテーションの運動セッションを完了するよう指示されることがあまりにも多い。修正エクササイズと実際のパフォーマンスとの隔りが大きいと、パフォーマンスにおいてより効果的な方策を取り入れるアスリートの能力が妨げられる可能性がある。このような修正エクササイズをウォームアップの時間に取り入れることにより、アスリートは、より高強度の運動における新しい運動方策を素早く応用し獲得することが容易になるだろう。

最後に、レジスタンストレーニングと組み合わせた可動性トレーニングは、アスリートの機能的な安定性の促進を助ける。これは若年アスリートにとって特に重要である。不十分な「安定性」が不十分な「柔軟性」と混同されていることも少なくない。レジスタンストレーニングの前に可動性ドリルを行なうことによって、アスリートはまず可動域を確立し、次にその可動域内の安定性を発揮できる。

十分な可動性が確立されると、補足的な静的ストレッチングの必要性は著しく減少する。アスリートはエクササイズの選択と動的柔軟性ウォームアップを頻繁に変えながら、可動域全体を通してレジスタンストレーニングプログラムを継続する。簡単に言えば、可動性の保持は、可動性を生じさせるよりもはるかに容易である。最後に、準備/ウォームアップ、トレーニング、そして柔軟性セッションは、全身の可動性を維持し改善することを目標に計画する必要がある。

青少年アスリートにおける可動性トレーニングの様式
ウォームアップの時間が可動性をトレーニングする恰好のタイミングであることは確実であるが、最小限の時間で最大の利益を提供するドリルやその他のトレーニング刺激を選択することが重要である。大部分のアスリート、特に若年アスリートは、十分なウォームアップの重要性を見落としがちである。その結果、でたらめでいい加減なウォームアップを行なうことも多く、ウォームアップを省略してしまうこともある。したがって、アスリートが必ず十分なウォームアップを行なうように指導する必要があり、常にその重要性を強調しなければならない。

アスリートの中には、明らかな制限因子に対処するために、若干のドリルに特に時間を割く必要がある者もいるかもしれない。最も多いケースは、同年代の仲間よりも成長と成熟が早いために、週を通じて別にセッションを設け、追加のドリルを行なうことによって利益を得られるアスリートである。そのような急成長中のアスリートは、増加した身長と体重が競争上優位になるかもしれないが、一方、内因(不十分な伸張性筋活動のコントロール、より高い重心など)や外因(オーバーユースなど)により、負傷する可能性も高まる(29)。

若年アスリートのための可動性トレーニングの様式には、可能性として、地面に近い姿勢または立位での刺激、オープンまたはクローズドキネティックチェーンの動作、片側性または両側性のパターン、上半身か下半身または全身運動、さらに個別のスキルか総合的なスキルかなど、かなり多様で様々な要素が含まれる。基本的な相違はあるが、すべての様式に共通のただひとつの目標がある。それは、若年アスリートに、より効率的な動作を教えることである。これらのドリルを行なう際の要点は、身体深部温と体循環を増加させることに加え、後から行なうトレーニングセッションで役立つと思われる運動パターンを開発し促進することである。若年アスリートが不適切な姿勢で処方されたドリルを行なうと、トレーニングセッション(または試合)が始まった際に、同じ不適切な姿勢が再現される可能性が高い。

股関節の屈曲可動性
経験に照らすと、多くの若年アスリートは、股関節の屈曲可動性(HFM: hip flexion mobility)を積極的にトレーニングしているとは思えない。彼らは家でも学校でも、机やコンピュータの前に長時間座ったまま過ごしている。しかし、そような座った姿勢でいる間に、スプリントに必要な股関節の屈曲可動域に達することはまずない。HFMが不足していることが多いために、アスリートは通常、必要とされる動作を腰椎の屈曲で補おうとする。

この代償パターンでは、事実上、十分な腰椎の安定性が不足しているために、腰で生じる動きを防ぐことができない(35)。さらに、不十分な股関節屈曲筋の筋力は、膝痛と腰痛の両方と関連づけられている (28,31)。

コーチはこの問題の是正に、股関節後部筋群のストレッチングだけを行なうことによって、可動域を改善しようとしがちである。しかし、そのような方法は、効果的なコアの安定性プログラム(と股関節後部筋群のストレッチング)と関連して股関節屈曲筋群の補強が必要な状況を無視している。コアの安定性トレーニングと同時に、股関節の屈曲可動域全体を使うエクササイズを加えることによって、このしばしば観察される代償パターンに対抗できるだろう。

股関節の伸展可動性
不十分な股関節の屈曲可動性が非効率的で傷害の危険性のある運動パターンをもたらすのと同じように、不十分な股関節伸展可動性(HEM:hip extension mobility)も同じように問題がある。HEMの不足は、膝前部の痛み(31)や腰痛(39)との強い相関関係がある。この可動性不足に対処し、痛みを予防するエクササイズは、股関節伸展可動域を拡大するための股関節屈曲筋の筋長に目標を定める。同時に殿筋の活性化(GA:gluteal activation)のドリルを加えることにより、股関節伸展性の改善に役立ち、おそらくHEMに好影響を及ぼすだろう。

股関節の外転可動性
股関節外転可動性(HAM:hip abduction mobility)は、股関節内転筋群の筋長と股関節外転筋群の筋力に依存し、より重要でありながら一般的に看過されている下肢の機能要素である。HAMの制限は、鼠径部挫傷の危険性増大と関連づけられている(1)。内転筋群の可動性不足は、実際は問題のひとつの要素にすぎず、拮坑筋である股関節外転筋群の筋力も同様に重要なのである。アスリートは、大殿筋とハムストリングスの筋力不足を補うために、大内転筋をオーバーユースする傾向があるからである。驚くことではないが、外転筋群の脆弱性は膝蓋大腿部痛と関連づけられる。特に女子アスリートの間でよくみられる、膝の非接触性傷害のメカニズムとしてよく観察される膝関節外反の危険性を増大させる可能性がある(15,31)。これらの要因を考慮して、HAMへの包括的なアプローチには、内転筋群の筋長と外転筋群の筋力
の両方に重点を置くべきである。

股関節の外旋可動性
股関節外旋可動性(HERM:hip external rotation mobility)は、GAだけでなく、股関節伸展および外転とも密接に関連している。股関節外旋の脆弱性は、膝蓋大腿部痛に関連づけられる(31,33)。HERMを改善するための運動を行なう際には、股関節屈曲と伸展の両方の運動も取り入れるべきである。例えば、クレードルウォーキング(写真 1 )は、屈曲におけるHERMを提供し、一方、ウォーキングスパイダーマンランジ(写真 2 )は、伸展におけるHERMの可動性を提供する。

殿筋の活性化
大殿筋の機能には外転、外旋、および伸展が含まれる。外転と外旋は運動の重要な要素ではあるが、股関節可動域の末端での伸展と骨盤の後傾を達成するために殿筋群を矢状面で用いるGAドリルは、見過ごされている場合が多い。不十分な大殿筋機能と股関節伸展筋力は、腰痛と膝痛の症状に関連があるとされる(14,16,31)。シングルレッグ・スパインブリッジ(写真 3 )やその他類似のエクササイズは、GAの活性化に有益である。

股関節の内転および内旋可動性
傷害予防やリハビリでは股関節外転筋や外旋筋の強化に大きな比重が置かれるため、股関節内転筋と内旋筋の筋力不足は見落とされがちである。しかし、股関節の内転および内旋可動性(HIRM:hip internal rotation mobility)の不足は、決して珍しいことではなく、注意を怠ると、他の関連症状を引き起こすこともある。このような合併症は女子より男子に多く認められる(6)。しかし、このHIRMの典型的な増加は、女子アスリートの外傷性の非接触性膝関節傷害(最もよく知られているのは前十字靭帯と内側側副靭帯の損傷)の危険性を増加させる可能性がある。したがって、女子アスリートの場合、特に股関節内旋および/または内転の不足が認められない限り、通常は、これらの平面/方向でのエクササイズを避けることが良策である。

足関節の可動性
足関節の可動性(AM:ankle mobility)、特に背屈は、正常な歩行にとってきわめて重要である。アスリートはスプリント、スクワット、ジャンプ、投てきなど多くの競技活動で相当大きな背屈可動域が必要である。AMが不足しているアスリートは、十分な「深さ」を達成するために腰の屈曲で代用するため、脊椎を危険にさらす可能性がある。若年アスリートに特異的な疾患として、オズグッド-シュラッター病に罹る可能性がある(33)。

徐々にAMを改善し、脚部筋力と固有感覚を鍛える簡単な方法は、単に、様々な運動を靴を履かないで行なうことである(4,26)。乳児は生まれて1 年の間、通常、数々の動作にかかわる器用さを身につける。この間、ベビーシューズを習慣的に履くことはなく、むしろ例外である。数年後には、子どもは最新型の運動靴を履いているにもかかわらず、偏平足、足底筋膜炎、そして固く動きの悪い足関節をもつようになる(30)。素足でのトレーニングは、靴が提供するサポートや防御のために長い間使わなかった筋群を再び活性化するために有益である(26)。

胸椎の可動性
通常、腰椎の過度の可動性には問題(コアの不安定性)があるとみなされるが、適切な胸椎可動性(TSM:thoracic spine mobility)は、上肢および腰椎の双方の正常性にとって不可欠である。TSMの制限と肩のインピンジメントは、特に肥満の人において、慢性腰痛と関連づけられてきた(23,41)。TSMに取り組む間、胸部の伸展と回旋に対して、大きな関心を払うべきである。大多数の現代人は着座している時間が極端に長いため、結果的に、日常生活では胸部を屈曲させるほうがはるかに多いからである。したがってこの様式の大多数のドリルでは、上腕の水平外転、外旋、屈曲を大いに活用すべきである。それらのすべてが肩甲骨の下制と内転に好影響を及ぼす。若年アスリートでは、四つん這いでの回旋ドリル(写真 4 )などが、股関節部の安定性を強化しつつTSMを促進するのに有益である。

肩甲帯の安定性
肩甲帯周囲の不十分な筋機能は、肩に痛みのある人ほぼ全員に認められる(7,9)。僧帽筋中部と下部および前鋸筋の動員が不十分なアスリートは、大抵、小胸筋も短く柔軟性に欠ける。これらが合わさって、姿勢の悪さ、最も顕著な例として肩甲骨の前方突出の原因となる。このような悪い姿勢は、通常、静的にも動的にもみられる。肩甲骨の前方突出は、肩甲上腕関節と肩鎖関節の望ましい動きを損なう(32)。肩甲骨の内転を促進する手段として、肩甲骨のウォールスライド(写真 5 )のような簡単なドリルが効果的である。

頸部の可動性
上肢の正常性に関して、もうひとつ見落とされがちな要素は頸椎の可動性である。これはきわめて重要である。オーバーユース障害のある患者では、頭部前傾姿勢(FHP:forward head posture)が健康なコントロール群に比べ有意に多くみられる(12)。同様に、肩も同時に丸めたFHPは、症状の有無にかかわらず、肩の屈曲中(頭上に手を上げる)の肩甲骨の前方突出と前傾を増大させる(38)。顕著なFHPを呈するアスリートのために、ウォームアップに様々な「チンタック(顎を引く)」ドリルを取り入れることは効果的であると思われるが、FHPの矯正に有効な介入では、キネティックチェーンの下方までを含めた修正エクササイズに取り組むことが多い。その中には、肩甲上腕関節、肩甲骨、胸椎などが含まれ、どのトレーニングドリルを行なう間も、ニュートラルな頸椎のポジションを保持するようにわかりやすい手がかりを与える。言い換えれば、スクワット、デッドリフト、その他の可動性ドリルを行なう際に、上を向かずに真っ直ぐ前を見るように促す。

肩の内旋可動性
肩の内旋可動性(SIRM:shoulder internal rotation mobility)を保持することは、野球、競泳、テニスなどの選手や陸上競技の投てきの選手など、オーバーヘッド動作を行なうアスリートの成功にとって重要な要素である。Reinoldら(32)の指摘によると、ピッチャーは腕の減速中に伸張性ストレスがかかるため、登板後、肩の内旋が困難になる傾向がある。この一時的な内旋障害は適切な可動性エクササイズで防ぐことができるが、何度も登板を繰り返す間に、また、競技シーズン中を通して注意を向けずに放置することにより、最終的に、上腕関節の内旋不足や全体的な肩の痛みなど、多くの問題を引き起こす(24)。

オーバーヘッド動作を行なうアスリートは、利き手の肩の外旋可動域が反対側の肩に比べ有意に大きく、内旋可動域は有意に小さい。しかし、動作の弧(内旋と外旋の和)が等しければ、左右の非対称性は標準的であると考えられる(42)。したがって、オーバーヘッド動作を行なうアスリートの最善のトレーニング方法は、たとえある動作の可動域制限に類似性がなくても、全動作を左右両側で正常化することである。正しく行なえば、内旋のためのサイドライイング・スリーパーストレッチ(写真 6 )は、SIRMの獲得にとって良策である。

肩の外旋可動性
オーバーヘッド動作を行なうアスリートにとって、肩の外旋可動性(SERM:shoulder external rotation mobility)が問題になることは滅多にないが、長時間座って過ごすアスリートや、筋のバランスを確実に保つためのプル動作をほとんど、あるいは全く行なわずに常に多数のプレス動作(ベンチプレスなど)ばかりを行なうアスリートには、肩の外旋不足はよくみられる。当然のことながら、外旋が不十分であると肩のインピンジメントを引き起こし、外旋不足が改善されるとインピンジメントの症状が緩和される(22,36)。「ノーマネー」ドリル(上腕を体側につけて、両腕の肘を90°に曲げて行なう動的な肩の外旋運動で、肩の外旋可動域の末端まで動かしてから体幹へと戻し、上部にくる手を各レップごとに変えながら繰り返す)を単独で、またはスキップなどの下肢の運動と組み合わせて用いることで、全身の運動調節と併せてSERMを促進できる。

まとめ
可動性と柔軟性は相互に関連があるが、独自の能力として個々に取り組むべき固有の概念である。若年アスリートの可動性の強化には、目標を定めた動的な柔軟性ドリルと具体的な姿勢の手がかりを用いて、ウォームアップを最大限に効果的かつ効率的に行なうことが含まれるだろう。そのようなウォームアップは、S&C専門職にとって、育成中のアスリートの運動学習を促進する絶好の機会にもなる。さらに、性別、身体成熟度、暦年齢、トレーニング経験、競技歴など、アスリートの相違を考慮しながら、筋力、安定性、組織の質の向上をもたらす包括的かつ特異的なトレーニングプログラムを作成することは、きわめて重要な技術である。静的ストレッチングは多くのアスリートのプログラムにおいて一定の価値があることは確かであるが、その総合的な有用性は一人ひとりのアスリートによって異なる。

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