HPCスタッフコラム

2018.10.10

バックスクワットのコンセントリック局面の速度に関する要因の分析

画像

VBT(Velocity Based Training:(バーベルの)速度を基準としたトレーニング)は近年、トレーニング効率を向上させるために注目を集めているトレーニング方法の一つです。

VBTの利点として;
・日々の身体の状態に合わせた適切な負荷を設定できる
・トレーニングの特異性を向上できる
・疲労具合をモニタリングできる
・即時のフィードバックができることによりモチベーションやパフォーマンスを向上させることができる
といったことが挙げられます(1, 2)。

実際に、アメリカの多くの高校・大学やプロスポーツのチームはもちろん多くのアスリートが通うトレーニング施設では様々な機器を用いてバーベルの移動スピードを計測し、スポーツのパフォーマンスを向上させるために効率的かつ効果的なトレーニングプログラムを実施しています。
今回紹介する文献はVBTを行ううえで、バーベルの挙上速度に関係する要因を検証しています。

 

Analysis of Factors Related to Back Squat Concentric Velocity
バックスクワットのコンセントリック局面の速度に関する要因の分析

Fahs, Christopher A., Rossow, Lindy M., Zourdos, Michael C

J Strength Cond Res 32(9): 2435–2441, 2018

目的
バーベルエクササイズ中のバーベルの速度を計測することは、レジスタンストレーニングにおける負荷の設定や1RMを予測するための便利な指標になり得る。しかしながら、形態的な要因(例:四肢の長さ)やトレーニング経験が、バーベルの速度に影響を与えるかどうかは明確になっていない。この研究の目的は、大学アスリートにおける、バックスクワットの1RMのバーベルの速度と大腿長、トレーニング経験、筋力及び36.6mのスプリントタイムとの関係性を判定することである。

被験者
13名の大学(アメリカン)フットボール選手(年齢:22±1才、身長:180.07±0.067 m、体重:110.2±30.6 kg、トレーニング経験:7.5±1.5年)及び8名の大学ソフトボール選手(年齢:20±1才、身長:1.669±0.063 m、体重:71.3±17.0 kg、トレーニング経験:4.5±2.5年)。

方法
参加者は、まず36.6 mのスプリントを行い、続いてバックスクワットの1RMを行い同時にコンセントリック局面の平均速度と最大速度が計測された。身長、体重、スクワットのトレーニング歴、スクワット頻度、及び大腿長も合わせて計測された。ピアソンの積率相関係数を用いて、変数間の関係性を判定した。

結果
コンセントリック局面の平均速度はトレーニング歴(r = 0.150, p = 0.515)、スクワットを行う頻度(r = 0.254, p = 0.266)、大腿長(r = 0.002, p = 0.992)または相対筋力(r = −0.090, p = 0.699)とは相関関係がなかった。コンセントリック局面の最大速度は36.6mのスプリントタイム(r = −0.612, p = 0.003)、相対筋力(r = 0.489, p = 0.029)及び相対的な最大パワー(r = 0.901, p < 0.001)と相関があった。

結論・実践への応用
これらの結果は、速度を用いてスクワットトレーニングを管理している大学生アスリートにとって、四肢の長さやトレーニング歴に応じて速度の範囲を変更する必要性はないことを示唆している。加えて、バックスクワットの1RM 中の最大速度は、アスリートの相対パワー出力とスピードの有益な指標となり得る。コーチはスピードとパワーの計測の代用として筋力測定の際に速度の計測を考慮してもよいだろう。

オリジナルの論文はこちら

この研究では、バーベルの最大挙上速度がスプリントタイムや相対筋力と関係性があることがわかりました。Cause & Effect(因果関係)の関係性ではありませんが、バーベルの最大挙上速度に注目することにより、スプリントタイムや爆発的な動作(例:ジャンプ)の向上が期待できるのではないでしょうか。挙上重量もパフォーマンス向上のための重要な要因ですが、同時に挙上速度、つまり如何にバーベルを速く動かすか(または、速く動かそうとするか)もスピードやジャンプ能力の向上のためにレジスタンストレーニングで注目する必要のある重要な要因の一つと言えるでしょう。

また、この研究ではトレーニング歴と挙上速度の相関関係もみられなかったため、トレーニング歴の浅いアスリートや初心者でもVBTを取り入れることで効率的なトレーニングを行うことができると考えられます。

参考文献
1. Mann, J., Ivey, PA, Sayers, SP, Velocity-Based Training in Football. Strength and Conditioning Journal, 37 (6), 52–57, 2015
2. Jovanović M. & Flanagan, EP, Researched applications of velocity based strength training. J. Aust. Strength Cond., 22(2), 58-69. 2014