HPCスタッフコラム

2018.10.24

可変性負荷による活動後増強作用(PAP)の研究

画像

この研究におけるキーワードが2つあります。

一つがPost-Activation Potentiation(PAP)。日本語に訳すのが難しい言葉ではありますが、活動後増強効果や活性後増強効果と訳されることが多いです。これは、高負荷のレジスタンスエクササイズ後がその後の運動作用を増強させる(1)というものです。まだまだ、明確な発現条件(負荷や回復時間)が明らかにされていませんが、多くの研究で効果が証明されています。

もう一つがAccommodating resistanceです。直訳すると調整抵抗となり少しわかりにくいですが、意訳すると可変性抵抗(負荷)となります。動作の可動域によって出力が変わる、たとえばスクワットでは最終可動域(完全伸展の直前)の方がより大きな筋力を発揮できる、のでそれに合わせて抵抗(負荷)を変化させるという考え方です。代表的な方法に、レジスタンスバンドやチェーンを用いた方法があります。PAPと違ってこの方法の効果はまだ決定的となっていません。特に長期的なトレーニング効果についてはまだまだ多くの研究が必要です。

今回紹介する研究では、PAPとAccommodating resistanceを組み合わせ、その効果を検証しています。

 

Effect of accommodating resistance on the post-activation potentiation response in rugby league players.
ラグビー選手において可変性抵抗が活動後増強効果反応に与える効果

Scott, DJ, Ditroilo, M, and Marshall, P.

J Strength Cond Res 32(9): 2510-2520, 2018

目的
 この研究では、可変性抵抗を組み合わせたヘックスバーデッドリフト及びバックスクワットの2つの運動条件による活動後増強効果(PAP:Post-Activation Potentiation)反応を調査した。

被験者
20名の大学レベルのアマチュアラグビー選手(年齢:22.35±2.68才、範囲19-29才;身長:182.23±6.0cm;体重:94.79±12.79kg)

方法
参加者は、2つの実験試行(ヘックスバー及びバックスクワットを含む)及び運動条件の無いコントロール試行(ジャンプのみ)を行った。反動を用いたジャンプ(CMJ:Counter Movement Jump)を、各運動条件の試行前(基準値)、30秒後、90秒後及び180秒後に行った。各運動条件では、3回1セットを1RMの70%の負荷に、レジスタンスバンドを用いて最大で各条件の1RMの23%の可変性抵抗を加えて行った。パワー出力の最大値(PPO)、PPO時の反力、PPO時の速度及び跳躍高を各CMJについて計算した。外側広筋(VL)、大腿二頭筋(BF)、前脛骨筋(TA)及び腓腹筋(GM)の表面筋電図も合わせて計測された。

結果
繰り返しのある分散分析において、CMJの変数の基準値と比べたときに、どちらのエクササイズ条件でも有意なPAP反応はなく(p>0.05)、また、エクササイズ条件間にも有意な差がなかったことが分かった(p>0.05)。コントロールとヘックスバーデッドリフト(HBD)及びバックスクワット(BS)比較では試技の30秒後に跳躍高とPPO時の速度において有意な増加が見られ(跳躍高:9.45%、p<0.01(HBD)、8.98%、p<0.01(BS);速度:6.36%、p<0.01(HBD)、5.52%、p<0.01(BS))、PPO時の反力において有意な減少(p<0.05)が見られた(-6.62%、p<0.01(HBD)、-5.51%、p<0.01(BS))。
個別化された回復時間(基準値vs増強反応の最大値;時間に関わらず増強反応の最大値と基準値を比べた場合)ではPPO(3.99 ± 4.99%)、PPO時の反力(4.87 ± 6.41%)、PPO時の速度(4.30 ± 5.86%)、跳躍高(8.45 ± 10.08%)、VLのEMG(20.37 ± 34.48%)、BFのEMG(22.67 ± 27.98%)、TAのEMG(21.96 ± 37.76%)そしてGMのEMG(21.89 ± 19.65%)において有意な増加を示した(p≤0.05)。

結論・応用
この研究の結果は、注意をもって解釈されなければならないが、コンプレックストレーニングの変数が個別化された時、運動パフォーマンスを急性的に向上させると考えられる。

オリジナルの研究はこちら

 

この研究では比較する項目が多く、少し解釈のしづらい結果が出ました。筆者らの言葉を借りながらこの研究からわかったことをまとめると、
1.  1RMの70%の負荷にさらにバンドで23%の負荷(最終可動域で)を加えると様々な項目でPAPの効果が発現する。
2. ただしこの発現するまでの時間には個人差が大きく出ている。
3. 種目間の有意な差はない。
となるでしょう。

Accommodating resistanceを用いる時は、通常ボトムポジションでバンドやチェーンによる負荷が最小(0に近く)なるように設定します。固定負荷の重量が1RMの70%程度でもバンドを用いることによってPAPの効果でるということは、腰部への負荷が大きくなるボトムポジション付近での負荷が小さくなり、より安全にコンプレックストレーニングを行えることが示唆されました。

ただ、注意しなければならないのがPAPの発現までの時間(回復時間)に大きな個別性があるということも示唆されたことです。

著者も本文では、回復時間の個別化がPAP効果を利用するトレーニングには重要であることを述べています。

参考文献
1. Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics