HPCスタッフコラム

2018.10.31

筋膜リリースとダイナミックストレッチの効果の比較

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Myofascial Release(MR:筋膜リリース)とは、徒手を用いた軟部組織への療法で制限のある筋膜に対して伸張を促すテクニックです(1)。近年は、一人でもできる方法としてSelf-Myofascial Release(SMR:自身での筋膜リリース)が使用されるようになってきており、マッサージに代わる手法として注目されています(2)。SMRではフォームローラーやラクロスのボール等(写真)密度の高い器具を用いて行われます。フォームローラーなどを用いて筋膜の制限された部分に自身の体重を使って圧を加えることにより筋膜に対して伸張を促すことができ、Healeyら(3)はマッサージと同じように圧を加えられるとしています。

SMRの効果については痛みの減少や、疲労の軽減の他、様々な機能性の向上などが報告されています(3, 4, 5)。

今回紹介する研究では、SMRとダイナミックストレッチを比較し、それぞれが柔軟性及び跳躍高に与える影響を比較しています。また介入後の効果の持続時間についても検証がされており、それぞれの方法においてどれだけ効果が持続するかを比較しています。

 

Acute effect of foam rolling and dynamic stretching on flexibility and jump height.
フォームローラーとダイナミックストレッチが柔軟性と跳躍高に与える急性的な影響

Smith, JC, Pridgeon, B, and Hall, MC.

J Strength Cond Res 32(8): 2209–2215, 2018

目的
ダイナミックストレッチ(DS)は垂直跳び(VJ)のパフォーマンスを急性的に向上させることができるが、その効果は5分以上は続かない。フォームローラー(FR)、自身での筋膜のリリースの一種、は可動域(ROM)を急性的に増加させ、その効果の持続は10分以下である。したがって、この研究の目的は、跳躍高とROMに対するこれらの個々及び複合的な効果の時間経過を検証することである。

被験者
アスリートでない、29名の大学生(女性21名、男性8名、年齢;22±3才、身長167.0±8.1 cm、体重93.5±30.8 kg)。

方法
参加者は、4つの異なるセッション(コントロール、FR、DS及びFRとDSの併用(FR+DS))を無作為な順番で行った。ウォームアップ及び垂直跳びと長座体前屈の基準値の計測後、参加者は休息(コントロール)またはFR、DS、FR+DSの併用を行った。垂直跳びの跳躍高とROMは介入ご5分毎に20分間計測された。各計測時の平均スコアは基準値からの変化率で示された。

結果
FRの介入直後に、長座体前屈のスコアがコントロールよりも有意に大きかった(p=0.003)。垂直跳びの跳躍高の変化率ははDSとFR+DSの介入直後はFR及びコントロールよりも有意に大きかった(p≤0.002)。DSとFR+DSの跳躍高は介入5分後においてもコントロールと比較して有意に大きかった(p<0.001)。介入から15分後において、FR+DSの垂直跳びの跳躍高の変化率は同時間のコントロールの値と比べて有意に大きかった(p=0.002)。

結論・応用
FRは垂直跳びのパフォーマンスに影響を及ぼさないが、急性的にROMを向上させることができる。しかし、その効果は急速になくなってしまう。フォームローラーは、それ単体またはDSとの併用でも垂直跳びの跳躍高を向上させることはないと考えられる。

オリジナルの記事はこちら

 

先行研究(4)と同様にSMRによって柔軟性または可動性が改善することがわかりました。また、同様に垂直跳びのパフォーマンスに影響を及ぼさない、つまり跳躍高を減少させないこともわかりました。静的ストレッチによって、パワーや筋力発揮、バランスなどの運動能力が低下することは多くの文献で報告されています(6、7)。そのため、多く場合でスポーツを行う前の静的ストレッチの導入が見直されてきています。

SMRは効果こそ長く続きませんが、可動性・柔軟性を向上させなおかつパワーの発揮を低下させないことから、静的ストレッチに代わる方法としてスポーツ前のウォームアップの一部として導入できるでしょう。

また、SMRはリハビリ中などにおいて、関節を動かせないときなどに柔軟性を維持・獲得したい場合にも使用することができるでしょう。

参考文献
1. MF Barnes, The basic science of myofascial release: morphologic change in connective tissue. Journal of Bodywork & Movement Therapies, 1(4), 231-238, 1997
2. Alvar, BA, Sell, K, Deuster, PA (2017) NSCA’s Essentials of Tactical Strength and Conditioning, Champaign, IL: Human Kinetics
3. Healey, KC, Hatfield, DL, Blanpied, P, Dorfman, LR, and Riebe, D., The effects of myofascial release with foam rolling on performance. J Strength Cond Res 28(1), 61–68, 2014
4. MacDonald, GZ, Penney, MDH, Mullaley, ME, Cuconato, AL, Drake, CDJ, Behm, DG, and Button, DC. An acute bout of self-myofascial release increases range of motion without a subsequent decrease in muscle activation or force. J Strength Cond Res 27(3), 812–821, 2013
5. Okamoto, T, Masuhara, M, and Ikuta, K. Acute effects of self-myofascial release using a foam roller on arterial function. J Strength Cond Res 28(1), 69–73, 2014
6. Behm, DG, Bambury A, Cahill, F and Power, K. Effect of Acute Static Stretching on Force, Balance, Reaction Time, and Movement Time. Med. Sci. Sports Exerc., 36(8), 1397–1402, 2004
7. Power, K, Behm, D, Cahill, F, Carroll, M and Young, W. An Acute Bout of Static Stretching: Effects on Force and Jumping Performance. Med. Sci. Sports Exerc., 36(8), 1389–1396, 2004