HPCスタッフコラム

2018.11.14

ランナーにおけるレジスタンストレーニングと骨密度の関係

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ランニングは用具も必要なく気軽に行えるスポーツですが、実は、誰もが皆すぐにランニングを始めることができるかと言えばそうではありません。特に体重が多い人はランニングによる怪我が起きやすいと言われています(1)。さらに、付随する怪我は少なくなく、ランニングは疲労骨折が最も発生しやすいスポーツという報告があります(2)。

骨密度については、内分泌ホルモンや栄養摂取、性別、生活習慣など様々な要因が関係しています(3, 4)。ランナーは負荷のかかる部位以外の骨密度が低いという報告もあります(5)。逆に、レジスタンストレーニングは骨密度を増加させます。

今回紹介する研究では、レジスタンストレーニングを行ってきたランナーと行ってこなかったランナー及び普段運動をしない人を対象に骨密度とそれに関係するホルモンやバイオマーカーを比較しています。

 

Resistance training is associated with higher bone mineral density among young adult male distance runners independent of physiological factors.
レジスタンストレーニングは生理的な要因とは無関係に若い成人男性長距離ランナーの高い骨密度と関係がある。

Duplanty, AA, Levitt, DE, Hill, DW, McFarlin, BK, DiMarco, NM, and Vingren, JL.

J Strength Cond Res 32(6): 1594–1600, 2018

序文
男性長距離ランナー骨密度(BMD)の低さは一般的で、骨組織の動的バランスに関係する多種のバイオマーカーによって調節されるといわれている。対して、レジスタンストレーニングは骨密度を増加させることができるが、長距離ランナーにおいてレジスタンストレーニングが骨密度を維持するために有効であるかは明確ではない。この研究の目的は、若い成人男性長距離ランナーにおけるレジスタンストレーニング、テストステロン及び骨代謝のバイオマーカーの濃度と、骨密度の関係性を調査することである。

被験者
25名の健康な男性(23-32才;年齢:25.9±2.9才、身長:1.77±0.04 m、体重:75.4±8.5 kg)。ランナーの走行距離は1週間の総距離が32km以上。

方法
被験者は過去三年のトレーニング状況に応じて三つのグループの一つに振り分けられた:トレーニングを行わないコントロール群(CON、n=8);レジスタンストレーニングを行わないランナー(NRT、n=8);またはレジスタンストレーニングを行うランナー(RT、n=9)。血液を採取し、遊離及び総テストステロン、14項目の骨代謝バイオマーカーの濃度を分析した。骨密度はDEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて測定した。

結果
全ての計測部位において、骨密度はNRTとCONに比べてRTの方が大きかった(p≤0.05)。ビタミンDの濃度はCONに比べてRT及びNRTの方が多かった(p≤0.05)。テストステロンやそのほかの骨バイオマーカーの濃度にグループ間の差はなかった(p>0.05)。

結論・応用
レジスタンストレーニングを行うランナーはレジスタンストレーニングを行わないランナーやトレーニングを行わない人に比べて骨密度が高かった。この差は、骨の形成または再吸収に貢献するバイオマーカーによって調整されるのではないようで、これは骨密度の違いは外的な負荷を用いた習慣的な過重負荷エクササイズに関係していることを示している。より大きな骨密度との関連性があることから、ランナーは少なくとも週に一度はレジスタンスエクササイズを行うべきである。

オリジナルの論文はこちら

 

今回の研究では、ランナーがトレーニングにレジスタンストレーニングを取り入れることによって骨密度を増加させられる可能性が示されました。また、興味深いのは、テストステロンや他のバイオマーカーによってこの骨密度が調整されるのではなく、レジスタンストレーニング単体が骨密度の低下を防ぐための要素となり得るということです。エストロゲンは骨密度に影響を及ぼす重要な内分泌ホルモンですが(6)、しっかりと管理されたレジスタンストレーニングを行うことによって、閉経後にエストロゲンの分泌が低下した後でも骨密度の低下を抑えられるかもしれません。趣味や競技としてランニングを楽しむと同時にけがの予防と、長期的に見て骨粗鬆症などの疾患を防ぐためにレジスタンストレーニングの導入は重要となってくるでしょう。

参考文献
1. Nielsen RO, Buist I, Parner ET, et al. Predictors of Running-Related Injuries Among 930 Novice Runners: A 1-Year Prospective Follow-up Study. Orthop J Sports Med., 1, 2013
2. Matheson, GO, Clement, DB, Mckenzie, DC, Taunton, JE, Lloyd-Smith, DR, Macintyre JG, Stress fractures in athletes. A study of 320 cases. The American Journal of Sports Medicine, 15(1), 46-58, 1987
3. Reid, IR, Ames, R, Evans, MC, Sharpe, S, Gamble, G, France, JT, Lim, TM, Cundy TF, Determinants of total body and regional bone mineral density in normal postmenopausal women–a key role for fat mass. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 75(1), 45–51, 1992
4. Pocock, NA, Eisman, JA, Yeates, MG, Sambrook, PN, Eberl, S, Physical fitness is a major determinant of femoral neck and lumbar spine bone mineral density. J Clin Invest. 78(3), 618–621, 1986
5. Bilanin, JE, Blanchard, MS, Russek-Cohen, E, Lower vertebral bone density in male long distance runners. Medicine and Science in Sports and Exercise 21(1), 66-70, 1989
6. Khosla, S, Melton, LJ III, Atkinson, EJ, O’Fallon, WM, Klee, GG, Riggs, BL, Relationship of Serum Sex Steroid Levels and Bone Turnover Markers with Bone Mineral Density in Men and Women: A Key Role for Bioavailable Estrogen. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 83(7), 2266–2274, 1998