HPCスタッフコラム

2018.12.05

適切なウォームアップによって筋へのダメージを軽減する

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ウォームアップの重要性はこれまで多くの研究で証明されてきました。適切なウォームアップはスプリント(1、4)やアジリティ(2)、パワー(2)、跳躍(2、4)、持久力(3、4)や柔軟性・可動域(3)など様々なパフォーマンスを向上させます。そのウォームアップの方法にもさまざまなものがあり、単に血流を増加させるランニングやエアロバイクなどの有酸素運動に始まり、静的なストレッチ、ダイナミックストレッチやアクティベーションなどの抵抗や負荷をかけた動作などが挙げられます。

パフォーマンスのみならずウォームアップは傷害の予防についても有効とされており(5)、今回紹介する研究は3種類のウォームアップ方法を比較し、筋へのダメージに対する有効性を比較しています。

 

Differential effects of different warm-up protocols on repeated sprints-induced muscle damage.
繰り返しのスプリントによって起こる筋へのダメージに対する異なるウォームアップの方法の特異的な効果

Chen, CH, Ye, X, Wang, YT, Chen, YS, and Tseng, WC.

J Strength Cond Res 32(11): 3276–3284, 2018

目的
この研究の目的は、繰り返しのスプリントの前の通常のランニングベースのウォームアップに、ハムストリングのレジスンタンスエクササイズまたはダイナミックストレッチを加えることが、スプリントによる筋へのダメージに対して保護的な効果を与えるかどうかを調査することである。

被験者
12人のエリートテニス選手(男性10名、女性2名;年齢:21.6±4.14歳、身長:172.9±8.8 cm、体重:71.8±15.1 kg)が研究に参加した。

方法
実験のプロトコルを習熟した後、被験者は3回の実験参加を無作為な順序で行い、筋へのダメージを引き起こすプロトコル(30m全力スプリントを12セット)の前に3つの異なるウォームアップ介入を行った:5分間のランニング(コントロール);コントロールに加えて片脚のハムストリングのスライドカール(SLC);コントロールに加えてアクティブハムストリングストレッチ(AHS)。スプリントの直前、直後(POST0)、1日後(POST1)、2日後(POST2)に、股関節屈曲の受動的可動域(ROM)、ハムストリングの筋厚及び羽状角、筋のスティフネス、膝関節屈曲のコンセントリックの最大トルクが計測された。


図1 ハムストリングのスライドカール


図2 アクティブハムストリングストレッチ

結果
繰り返しのスプリントは3回すべての実験介入において筋へのダメージを引き起こした。AHSにおいてPSO2の筋厚とスティフネスの値は他の2つのプロトコルと比較して有意に低かった。加えて、AHSのPOST0、POST1、POST2におけるコンセントリック筋力の減少量はコントロール及びSLCのものと比べて有意に少なかった。

結論・応用
したがって、繰り返しのスプリント前の通常のウォームアップ方法にハムストリングのダイナミックストレッチを加えることは、スプリントによって引き起こされる筋へのダメージに対して保護的な効果があると言える。競技スケジュールが過密なアスリート(例:トーナメントに参加するテニス選手)は、このような方法を利用することで潜在的な筋へのダメージからの筋の回復を促進し、またこれによって次の競技に向け最大限の回復を得ることができるかもしれない。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究では、負荷をかけたウォームアップ(SLC)よりも、ダイナミックストレッチの方が筋のダメージをより抑制することが示されました。激しい運動の前に筋がストレッチされることによってその後の運動中に受ける負荷に対しての耐性ができるのではないかと考えられます。

ウォームアップは冒頭で述べたようにパフォーマンスを向上させることができますが、筆者らが結論で述べているように、試合や強度の高いトレーニングが続くような場合は適切なウォームアップによって筋へのダメージを軽減することで傷害を予防できるかもしれません。

 

参考文献
1. Fletcher, I.M., and B. Jones. The effect of different warm-up stretch protocols on 20-m sprint performance in trained rugby union players. J. Strength Cond. Res. 18(4), 885-888, 2004
2. McMillian, D.J., J.H. Moore, B.S. Hatler, and D.C. Taylor. Dynamic vs. static-stretching warm up: The effect on power and agility performance. J. Strength Cond. Res. 20(3), 492– 499, 2006
3. Stewart, IB and Sleivert, GG. The Effect of Warm-Up Intensity on Range of Motion and Anaerobic Performance, Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 27(2), 154–161, 1998
4. Needham, RA, Morse, CI, and Degens, H. The acute effect of different warm-up protocols on anaerobic performance in elite youth soccer players. J Strength Cond Res 23(9), 2614-2620, 2009
5. Woods, K., Bishop, P. and Jones, E. Warm-Up and Stretching in the Prevention of Muscular Injury. Sports Medicine, 37(12), 1089–1099, 2007