HPCスタッフコラム

2019.01.17

ウェイトリフティングエクササイズvs荷重したスクワットジャンプ

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クリーンやスナッチといったウェイトリフティングの種目によるパワーや跳躍パフォーマンスの向上効果は多く報告されています(1、2、3、4)。しかしながらウェイトリフティングのエクササイズの習得は容易ではなく、経験のあるコーチによる指導が必要であり、また習得後も継続したコーチングが必要となってきます。また、現状では施設や設備面でウェイトリフティングエクササイズの実施が難しいケースもあります。

今回紹介する論文は、ウェイトリフティングエクササイズまたは荷重したスクワットジャンプを含むトレーニングを行いその効果を比較しています。

 

Comparison of the hang high pull and loaded jump squat for the development of vertical jump and isometric force-time characteristics.
垂直跳びとアイソメトリックの力―時間特性の向上のためのハングハイプルと荷重したジャンプスクワットの比較

Oranchuk, DJ, Robinson, TL, Switaj, ZJ, and Drinkwater, EJ.

J Strength Cond Res 33(1): 17–24, 2019

目的
ウェイトリフティングの動作は高度な技術及び熟練したコーチングが必要である。荷重したジャンプは比較して高い技術を必要としないがおそらく、爆発的なパフォーマンスの向上に同様に効果的である。この研究の目的は、10週間のハングハイプル(hang-pull)もしくはトラップバージャンプスクワット(jump-squat)の介入後の跳躍パフォーマンス、アイソメトリック筋力及び力の立ち上がり率(RFD:Rate of Force Development)を比較することである。

 


図1. トラップバースクワットジャンプ

 

被験者
全米大学スポーツ協会(NCAA:National Collegiate Athletic Association)ディビジョン2に所属する18名の水泳選手(男性8名:年齢19.6 ± 2.7歳(18–22歳)、身長180.0 ± 8.4 cm、体重76.2 ± 11.2 kg、女性10名:年齢21.4 ± 3.0歳(18–24歳)、身長167.9 ± 6.8 cm、体重62.6 ± 8.3 kg)が研究に参加した。被験者は最低でも1年間のレジスタンストレーニングの経験があった。

方法
測定はスクワットジャンプ(SJ)、反動を使ったジャンプ(CMJ)及びアイソメトリックミッドサイプル(IMTP:Isometric Mid-Thigh Pull)を行った。垂直方向の床反力を跳躍高と相対的な最大パワーを得るために分析した。相対的な最大フォース、最大RFD、及び相5つの時点での対的なフォースをIMTPから得た。被験者は無作為にhang pull(n=9)またはjump-squat(n=9)のどちらかに振り分けられ、10週間のボリュームが均一化され期分けされたトレーニングプログラムを行った。

結果
両グループにおいて有意なトレーニングの主作用があったにも関わらず、統計的なグループ間の差はどの従属変数にも見られなかった(p≧0.17)。しかし、SJの跳躍高(d=0.56)及びSJの最大パワー(d=0.69)において中程度の効果量がジャンプスクワットのグループに見られた。

結論・応用
荷重したジャンプは、レジスタンストレーニング経験のあるアスリートにおいて、下半身のパワーを向上させるためにウェイトリフティングからの派生エクササイズと同等に効果的であった。荷重したジャンプはウェイトリフティングよりもスキルやコーチングの必要性が少ないため、複雑な動作をコーチングすることが難しい場合に荷重したジャンプが考慮されるべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

結果の通り、この研究ではウェイトリフティングエクササイズ(ハングハイプル)と荷重したスクワットジャンプ(トラップバースクワットジャンプ)のトレーニング効果に統計的に有意な違いは表れませんでした。

アスリートのトレーニングにおいてパワーや跳躍パフォーマンスの向上はスポーツパフォーマンスの向上において重要な要因となります。しかしながら、それらのパフォーマンス要素の向上に有効とされるウェイトリフティングを行える環境や施設が限られているのも現状です。したがって、今回の研究結果は、ウェイトリフティングを指導できるコーチがいなかったり、安全にクリーンやスナッチなどを行えなかったりと限られた環境の中でトレーニングするアスリートにとっては朗報となるのではないでしょうか。

 

参考文献
1. Otto, III, WH, Coburn, JW, Brown, LE, and Spiering, BA. Effects of weightlifting vs. kettlebell training on vertical jump, strength, and body composition. J Strength Cond Res 26(5): 1199–1202, 2012
2. Channell, BT and Barfield, JP. Effect of Olympic and traditional resistance training on vertical jump improvement in high school boys. J Strength Cond Res 22(5): 1522-1527, 2008
3. Arabatzi, F, Kellis, E, and Saèz-Saez de Villarreal, E. Vertical jump biomechanics after plyometric, weight lifting, and combined (weight lifting + plyometric) training. J Strength Cond Res 24(9): 2440-2448, 2010
4. Hackett D, Davies T, Soomro N, Halaki, M. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: a systematic review with meta-analysis Br J Sports Med. 50, 865-872, 2016