HPCスタッフコラム

2019.01.31

上半身と下半身のレジスタンストレーニングの組み合わせ

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スポーツパフォーマンスのピリオダイゼーション(期分け)において、筋肥大期、最大筋力期、パワー期とリニア(直線的)なピリオダイゼーションを計画することも多いと思います。最大筋力向上のためには高強度でトレーニングを行う必要があり、NSCAのEssentials of Strength Training and Conditioning(1)のガイドラインでも1RMの85%以上の負荷が推奨されます。そのような高負荷で行うエクササイズは筋肥大を目的とした比較的低負荷のエクササイズと比べ神経的な疲労を多く引き起こします(2)。

今回紹介する研究は、上半身、下半身ともに高強度でレジスタンストレーニングを行った場合と片方は低負荷の筋肥大のトレーニングを行った場合の効果を比較しています。

 

Effect of lower-body resistance training on upper-body strength adaptation in trained men.
トレーニング経験のある男性において下半身のレジスタンストレーニングが上半身の筋力の適応に与える影響

Bartolomei, S, Hoffman, JR, Stout, JR, and Merni, F.

J Strength Cond Res 32(1): 13–18, 2018

目的
この研究の目的は2つの異なる下半身の筋力トレーニングの方法がレジスタンストレーニングに対する上半身の適応に与える影響を検証することである。

被験者
20名のレジスタンストレーニングを行う男性(4.25±1.6年の経験)

方法
被験者は無作為に高強度(HI:n = 9;年齢 = 24.9 ± 2.9 歳;体重 = 88.7 ± 17.2 kg;身長 = 177.0 ± 5.6 cm)または高ボリュームと高強度が混在した(MP:n = 11;年齢 = 26.0 ± 4.7 歳;体重 = 82.8 ± 9.1 kg;身長 = 177.54 ± 5.9 cm)トレーニングプログラムのどちらかに振り分けられた。どちらのトレーニングプログラムも週4日トレーニングを行った。高強度グループ(HI)は上半身と下半身両方において高強度のトレーニング(最大拳上重量(1RM)の88%~90%で4~5レップ行う)を行う一方で、混在したグループ(MP)は、下半身で筋肥大を目的とした高ボリュームのトレーニング(1RMの65%~70%で10~12レップ)を行い、上半身はHIの方法で行った。最大筋力とパワーの測定を6週間のトレーニングプログラムの前後に行った。両グループのパフォーマンス数値を比較するために共分散分析を用いた。

結果
MPグループにおいてベンチプレスの1RM(p=0.007)と1RMの50%でのベンチプレスパワー(p=0.011)、上腕の筋面積(p=0.046)でHIグループと比較してより大きな向上が見られた。さらに、介入後の2グループ間の脂肪量に有意な差(MPグループ<HIグループ)が見られた(p=0009)。

結論・応用
この結果は、下半身の筋肥大と上半身の最大筋力を目的としたトレーニングプログラムは、上半身と下半身両方で高強度のレジスタンストレーニングを行うプログラムと比較して、上半身における筋力とパワーのより大きな向上を促す刺激を与えることができることを示した。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究の結果から、高頻度のレジスタンストレーニングプログラム(週4回)で行う場合、上半身または下半身において別々の目的(筋肥大、最大筋力等)を持たせることでお互いに干渉することなく効果を最大限にできることが示唆されました。これは、高強度(1RMの88~90%)のレジスタンストレーニングによる神経機能への刺激が大きいことを示唆し、上半身及び下半身両方で同時に最大筋力のトレーニングを行うことで刺激が過多となり、効果を減少させてしまうことも示しています。

オフシーズンなどで、高頻度でウェイトトレーニングを行う場合は神経系への疲労を考慮し部位によって強度を下げることで神経系への刺激を減らす必要があるのでしょう。これが高強度の代わりにパワーやスピード筋力のように低負荷で動作速度を重視したトレーニングの場合にどのような適応が出るか、今後の研究で解明してほしいトピックです。

参考文献
1. Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics
2. Walker, S., Davis, L., Avela, J., & Häkkinen, K. (2012). Neuromuscular fatigue during dynamic maximal strength and hypertrophic resistance loadings. Journal of Electromyography and Kinesiology, 22(3), 356–362