HPCスタッフコラム

2019.02.13

ウォームアップにおける高強度エクササイズの効果

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ウォームアップは傷害の予防のみならずスポーツパフォーマンス向上のためには必要不可欠なものとなっています。適切なウォームアップは血流を増加させることによって体温を上昇させることから始まり、筋の柔軟性や関節の可動域の増加、筋力やパワーの向上、代謝系反応の向上など様々な効果があることがわかっています(1)。近年ではRAMPプロトコルというウォームアップのシステムが多くのS&Cコーチに用いられるようになってきました。RAMPとはRaise(体温を上昇させる)、Activate(筋を活性化させる)、Mobilize(可動域を向上させる)、Potentiate(力発揮を増強させる)の頭文字をとったもので、ウォームアップをより効果的に行うために動作やエクササイズを分類し、適切なウォームアップの枠組みを構築する助けとなるように考え出されました(2)。

今回紹介する研究のこのRAMPのP(Potentiate)の部分に注目し、スティフネスの増加を目的としたエクササイズがスティフネスと方向転換のパフォーマンスの向上にどのような効果を与えるかを検証しています。

 

Unilateral stiffness interventions augment vertical stiffness and change of direction speed.
片側のスティフネス(剛性)への介入が垂直方向へのスティフネスと方向転換スピードを向上させる

 

Maloney, SJ, Richards, J, Jelly, L, and Fletcher, IM.

J Strength Cond Res 33(2): 372–379, 2019

 

目的
以前にも、プレコンディショニングを行うことで方向転換スピード(CODS)を向上させられることが示されている。しかしながら、このような向上の物理的な性質はまだよく考察されていない。この研究ではCODSにおける垂直方向のスティフネスを向上させるためのプレコンディショニングの効果を検証した。

被験者
10名の健康的な男性(年齢:22±2歳、身長:1.78±0.05 m、体重:75.1±8.7 kg)

方法
習熟過程のあと、参加者は3つの異なる介入方法を無作為及び平衡した順序で行った。介入方法は;(a)両側性、(b)片側性、及び(c)CODS測定の練習(コントロール)。垂直方向のスティフネスと関節のスティフネスは介入前及び介入後に片脚ドロップジャンプを用いて計測した。方向転換スピードのパフォーマンスは介入後にダブル90°カットの動作を用いて測定した。

表1. 介入エクササイズ

*ソフトPogoジャンプ:跳躍高を意識せずソフトにリラックスして行う
*スティフPogoジャンプ:膝を曲げないように意識し高さを意識して行う

結果
片側性の介入後のパフォーマンスはコントロールと比べて優位に速かったが(1.7%;p=0.011;d=-1.08)、両側性の介入との差に有意差はなかった(1.0%速かった;p=0.14;d=-0.59)。コントロールと比較して、垂直方向のスティフネスは片側性の介入後は14%大きく(p=0.049;d=0.39)、両側性の介入後は11%大きかった(p=0.019;d=0.31)。片側性と両側性の介入間の差はなかった(p=0.94;d=-0.08)。

結論
本研究の結果は、垂直方向のスティフネスの向上を目的とした片側性のプレコンディショニング介入がこの研究の対象群におけるCODSを向上させることを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

スポーツパフォーマンスやトレーニングの効果を向上させるためには、適切なウォームアップが必要不可欠です。また、今回紹介した研究から得られた方向転換のスピードだけでなく、下半身のスティフネスはスプリント時の最高スピードと関係があるという報告もあります(3)。これまで一般的だったランニングとストレッチだけからなるウォームアップではなく、強度の高いエクササイズを含めることの有用性がこの研究で示されました。

この研究で用いられたスティフネスを向上させるようなエクササイズは、ラグビーやサッカー、バスケットボールなど多くの方向転換を必要とするスポーツにおけるウォームアップに活用できるのではないでしょうか。

 

参考文献
1. Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics
2. Jeffreys, I (2007) Warm-up revisited: The ramp method of optimizing warm-ups. Professional Strength and Conditioning. (6) 12-18
3. Chelly, SM and Denis, C (2001). Leg power and hopping stiffness: relationship with sprint running performance. Medicine and Science in Sports and Exercise, 326–333.