HPCスタッフコラム

2019.02.20

リカバリーのための連日の冷水浴の効果

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激しい運動後に回復を促進させたり、炎症や損傷を抑えるたりする目的で冷水浴(CWI:Cold Water Immersion)が用いられることが増えてきました。スポーツにおいては古くから冷水浴を対象に多くの研究が成されてきましたが、冷水浴の条件(水温、時間、頻度)などが異なったりと一定した効果は報告されていません。多数の研究でクレアチンキナーゼ(CK)などの炎症マーカーが減少するといった報告(1、2)や、遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset of Muscle Soreness)に対しても効果があるとのレビューもあります(1、4)。さらには、暑さの中での体温調整(3)や運動後の副交感神経への切り替えを促進する(6)といった効果も報告されています。このような生理的な項目に対する効果は多く挙げられているのですが、多くの研究で垂直跳びやスプリントといったパフォーマンスに関してはCWIの効果はないと報告され(2、4、5)、また身体に生理的な影響を及ぼすCWIのメカニズムは未だに明らかになっていません。

また、現在発表されているCWIに関する研究の多くは運動直後1回のCWIの効果を検証しており、実際のスポーツの現場で実施されるような連日のCWIが及ぼす効果に関してはありませんでした。そこで、今回紹介する研究ではバレーボール選手における連日のCWIの効果を検証しています。

 

Effect of cold water immersion performed on successive days on physical performance, muscle damage, and inflammatory, hormonal, and oxidative stress markers in volleyball players.
バレーボール選手における身体パフォーマンス、筋損傷及び炎症、ホルモン、酸化ストレスのマーカーに対する連日の冷水浴の効果

de Freitas, VH, Ramos, SP, Bara-Filho, MG, Freitas, DGS, Coimbra, DR, Cecchini, R, Guarnier, FA, and Nakamura, FY.

J Strength Cond Res 33(2): 502–513, 2019

目的
この研究の目的は、バレーボールにおいて毎日の冷水浴(CWI:Cold Water Immersion)が身体のパフォーマンス、筋損傷及び炎症、ホルモン及び酸化のストレスマーカーに与える影響を調べることである。

被験者
12名のブラジルスーパーリーグに所属するバレーボール選手(年齢:25.3±5.2歳、体重:91.0±7.4 kg、身長:192.0±6.8 cm、体脂肪率:8.2±2.7%)

方法
5日間のトレーニングにおいて、ポジションが均等になるように6名の選手を冷水浴(水温:14度)、6名をプラセボへと無作為に振り分けた。大腿の周径囲、スクワットジャンプ、アジリティの測定を初日、3日目及び6日目に行った。初日と6日目に血液と唾液を採取し酸化ストレス、筋損傷、炎症及びホルモンのレベルの分析を行った。筋痛及び反動を使った垂直跳びは毎日計測された。

結果
身体パフォーマンスの比較は差異を示さず、唯一のグループ間の大きな効果量を伴う差は反動を使った垂直跳びの一日目と二日目の変化率でみられた(効果量(ES)=-1.39)。遅発性筋肉痛とクレアチンキナーゼは両グループにおいて増加し、グループ間の変化率の比較の効果量は中程度以上にはならなかった。大腿部の周径位はプラセボ群のみで増加し(p=0.04)、変化率のグループ間の比較の効果量は大きかった(ES=1.53)。酸化ストレスと炎症のマーカーについての差異はなかった。コルチゾールはCWIグループにおいてのみ減少し(P≤0.05)、テストステロンとコルチゾール(ES=-1.94)及びインスリン様成長因子1(ES=-1.34)の変化率のグループ間比較の効果量は大きかった。

結論・応用
筋の腫れ及びホルモン状態に対する毎日のCWIのポジティブな効果にも関わらず、パフォーマンスや筋損傷、炎症マーカー、活性酸素種の媒介に対する限られたCWIの効果はバレーボール選手におけるこの回復方法の連日の実施の重要性の低さを示している。

オリジナルの文献はこちら

 

筋の腫れやコルチゾールの減少がCWI群に見られましたが、垂直跳びのパフォーマンスには効果が表れませんでした。この研究の筆者はさらに「冷水浴の不快感やそれにかかる時間、準備する手間や限定された効果からバレーボールにおける冷水浴を特別扱いした使用法の必要性は低いことに注意しなければならない」と本文の最後に記しています。CWIは疲労感や筋肉痛を減少さるとの報告(4)もありますが、Broatchらによれば、CWIの効果は部分的にもプラセボ効果によるものかもしれないそうです(7)。人数の多いチームスポーツでは冷水浴を用意するのは場所や用具の観点から困難な場合が多く、この研究の結果が示す効果を天秤にかけた場合、リカバリー目的で冷水浴を実施する優先性は確かに低いかもしれません。

冷水浴のメカニズムはまだまだ明らかになっていないことが多く、今回の研究ではコルチゾールが減少したとの報告もあり、他の目的(傷害予防、リハビリ等)においてCWIを用いることを検証する必要がありそうです。

 

参考文献
1. Leeder, J., Gissane, C., van Someren, K., Gregson, W., & Howatson, G. (2012). Cold water immersion and recovery from strenuous exercise: a meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 46(4), 233–40
2. Ascensão, A., Leite, M., Rebelo, A. N., Magalhäes, S., & Magalhäes, J. (2011). Effects of cold water immersion on the recovery of physical performance and muscle damage following a one-off soccer match. Journal of Sports Sciences, 29(3), 217–225
3. Vaile, J., Halson, S., Gill, N., & Dawson, B. (2008). Effect of cold water immersion on repeat cycling performance and thermoregulation in the heat. Journal of Sports Sciences, 26(5), 431–440
4. Rowsell, G. J., Coutts, A. J., Reaburn, P., & Hill-Haas, S. (2009). Effects of cold-water immersion on physical performance between successive matches in high-performance junior male soccer players. Journal of Sports Sciences, 27(6), 565–573
5. Schniepp, J., Campbell, T. S., Powell, K. L., & Pincivero, D. M. (2002). The effects of cold-water immersion on power output and heart rate in elite cyclists. Journal of Strength and Conditioning Research, 16(4), 561–566
6. Buchheit, M., Peiffer, J. J., Abbiss, C. R., & Laursen, P. B. (2009). Effect of cold water immersion on postexercise parasympathetic reactivation. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology, 296(2), H421–H427
7. Broatch, J. R., Petersen, A., & Bishop, D. J. (2014). Postexercise cold water immersion benefits are not greater than the placebo effect. Medicine and Science in Sports and Exercise, 46(11), 2139–2147