HPCスタッフコラム

2019.03.13

血流制限を伴うトレーニングの有酸素能力への効果

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加圧トレーニングをはじめとした血流制限(BFR:Blood Flow Restriction)を伴ったトレーニングは比較的新しいトレーニング方法です。血流制限を伴ったトレーニングは急性的に筋厚を増加し(1、3)、筋の活動量を増加させ(1)、また筋肥大の効果があるとされています(2、3)。比較的低強度で筋肥大の効果を促進させることができることから、低体力者やトレーニング初心者に対する筋肥大のトレーニングに適していると言えるでしょう。圧迫を容易に調整できる特殊な専用器具なども開発され、様々な方法も確立されてきており、近年では実践的な血流制限(practical Blood Flow Restriction:pBFR)を伴うトレーニングと称される伸縮性のあるバンテージやバンドを用いて圧迫を加える方法で研究がおこなわれてきています。(但し、適切な血流制限を生じる圧迫度に調整することが重要で、強すぎる圧迫により、動脈、静脈両方の血流を制限することでマイナスのトレーニング効果が起こることも発表されています。)

さらに、BFRを用いて有酸素エクササイズを行うことで有酸素能力を向上させるとのことから、今回紹介する研究は、BFRと有酸素能力やパフォーマンスを組み合わせた研究を集めまとめたシステマチックレビューとなっています。
*システマチックレビュー:発表された文献をくまなく検索し、質の高い研究からバイアスを取り除き分析したもの

 

Effects of blood flow restriction training on aerobic capacity and performance: A systematic review.
血流制限トレーニングの有酸素能力とパフォーマンスに対する効果:システマチックレビュー

Bennett, H and Slattery, F.

J Strength Cond Res 33(2): 572–583, 2019

目的
血流制限(BFR:Blood flow restriction)は、低いトレーニング強度でトレーニングへの適応を引き出す新しいトレーニング方法です。近年の研究では、BFRを使った有酸素エクササイズの有酸素能力とパフォーマンスへの効果を検証することを目的としており、相反下結果が出ています。このレビューの目的は、体系的に人におけるBFRと有酸素エクササイズを組み合わせた研究を明確にして評価し、有酸素能力とパフォーマンスに対するその効果を打ち立てることである。

方法
5つのデータベース(Medline、Web of Science、SPORTDiscus、CINHAL及びScienceDirect)を用いて検索を行った。二人の著者が独立して全ての検索を行い、すべての要旨を検討し、記事の適性を判断した。各研究におけるバイアスのリスクを評価するために定量研究に対する質的評価のツールを用いた。14件の研究が分析に用いられた。

結果
血流制限をした有酸素運動は若い青年において≧130 mm Hgの圧迫を用いた時有酸素能力とパフォーマンスの数値を増加させた。より年上の成人に対して、有酸素パフォーマンスの数値は向上したが、有酸素能力の数値に変化はでなかった。これらの発見は、すべての研究において方法論的な制限があったため慎重に解釈されなければならない。

結論・応用
短期間のBFRを用いた有酸素エクササイズは、健康な成人に対して≧130 mm Hgの圧迫を用いた時に有酸素運動のパフォーマンスと能力を向上させる有効な手段を提示すると考えられる。反対に、より年上の成人に対しては有酸素能力への影響はなく、厳密に有酸素パフォーマンスのみを向上させるように思われ、若年層と高年層の間には異なる適応のメカニズムがあることを潜在的に示唆している。方法論の制限にも関わらず、BRFを用いた有酸素エクササイズは高強度の有酸素エクササイズが適切でない場合に適用できると思われるが、これを論証するにはより質の高い研究が必要である。

オリジナルの文献はこちら

 

BFRを用いた有酸素運動は成人に対して有効であることが示されました。著者らは、血流制限をすることで心拍出量が減り、その後の心拍数を増加させることで心臓に機械的な負荷が増加し、心臓血管系の適応を促進させる(4)ことから、有酸素能力の向上が起こったと考えています。また、血流制限を伴うトレーニングは末端筋群の発達(筋持久力の向上)も促すことから、この側面から有酸素パフォーマンスが向上したのではないかと著者らは述べています。

運動能力の高い健康なアスリートに対しての効果に関してはまだまだ研究が成されていませんが、手術後のリハビリの過程において、高強度での運動が難しい段階で大いに活用ができるのではないでしょうか?すでに筋肥大への効果も示されており、アスリートにおいてはリハビリに、または低体力者や高齢者への血流制限を伴うトレーニングの活用が今後高まってくるかもしれません。

 

参考文献
1. Wilson, J. M., Lowery, R. P., Joy, J. M., Loenneke, J. P., & Naimo, M. A. (2013). Practical blood flow restriction training increases acute determinants of hypertrophy without increasing indices of muscle damage. Journal of Strength and Conditioning Research, 27(11), 3068–3075
2. Lowery, R. P., Joy, J. M., Loenneke, J. P., de Souza, E. O., Machado, M., Dudeck, J. E., & Wilson, J. M. (2014). Practical blood flow restriction training increases muscle hypertrophy during a periodized resistance training programme. Clinical Physiology and Functional Imaging, 34(4), 317–321
3. Loenneke, J. P., Fahs, C. A., Rossow, L. M., Abe, T., & Bemben, M. G. (2012). The anabolic benefits of venous blood flow restriction training may be induced by muscle cell swelling. Medical Hypotheses, 78(1), 151–154
4. Takano, H., Morita, T., Iida, H., Asada, K. ichi, Kato, M., Uno, K., … Nakajima, T. (2005). Hemodynamic and hormonal responses to a short-term low-intensity resistance exercise with the reduction of muscle blood flow. European Journal of Applied Physiology, 95(1), 65–73.