HPCスタッフコラム

2019.03.20

ラグビー選手におけるエキセントリックトレーニングの効果

画像

筋のエキセントリック(伸張性)活動は、動作において身体や負荷を下降させるときにスピードや方向をコントロールする役割があります。適切なエキセントリック活動が行われることで、身体やウェイトなどの負荷を適切なポジションにコントロールし、それに続くコンセントリック(短縮性)活動でより大きな筋力を発揮できるのです。また、エキセントリックの筋活動はコンセントリック筋活動に比べ、大きな筋力を発揮できることからレジスタンストレーニングにおいてエキセントリック筋活動を強調したトレーニング方法もあります。エキセントリック局面の負荷を増加させることで、筋力の向上や筋肥大に有効であるとも言われています(1、2)。しかし、多くの研究はエキセントリック筋活動を強調させることでの筋力や筋肥大への効果のみに注目しています。

今回紹介する研究は、このようなエキセントリック局面を強調したトレーニングが筋力のみならず、パワーやスピードへも効果的かどうかを検証しています。

 

Effects of accentuated eccentric loading on muscle properties, strength, power, and speed in resistance-trained rugby players.
レジスタンストレーニング経験のあるラグビー選手において、エキセントリック局面を強調した負荷による筋の性質、筋力、パワー及びスピードへの影響

Douglas, J, Pearson, S, Ross, A, and McGuigan, M.

J Strength Cond Res 32(10): 2750–2761, 2018

目的
この研究の目的は遅いまたは速いテンポでのエキセントリック局面を強調した負荷方法(AEL:Accentuated Eccentric Loading)を用いたレジスタンストレーニングの効果を一般的なレジスタンストレーニング(TRT:Traditional Resistance Training)をトレーニングを積んだラグビー選手で比較することである。

被験者
14名の学生ラグビー選手(19.4 ± 0.8歳、1.82 ± 0.05 m、97.0 ± 11.6 kg、バックスクワット1RMの体重比(1RM):1.71 ± 0.24 kg·BM−1

方法
被験者はAEL(n=7)もしくはTRT(n=7)どちらかの筋力及びパワーのトレーニングを行った。AEL群は特殊なスミスマシーンを用い、バックスクワットのコンセントリック局面で空気抵抗による補助を受けた。TRT群は一般的なラックでバックスクワットを行った。2つの4週間のトレーニング期間を設けた。両群とも、最初のフェーズでは遅いエキセントリックを強調した(3秒)テンポを、第2のフェーズでは速いエキセントリックを強調した(1秒)テンポでエクササイズをおこなった。加えて週に2回のパワートレーニングを行いAEL群はエキセントリック動作を強調したエクササイズを、TRT群は通常のエクササイズを同じボリュームで行った。バックスクワットの1RM、慣性負荷の最大パワー、ドロップジャンプのリアクティブ・ストレングス・インデックス(RSI:Reactive Strength Index)、40m走のスピード、細田おスプリント速度(Vmax)及び外側広筋の構造的な変数をベースライン(実験前)及び各フェーズのトレーニング終了後に計測された。

結果
遅いAELは遅いTRTと比較して、バックスクワットの1RM(+0.12 kg/BM、効果量(ES):0.48、90%信頼区間(CI):0.14-0.82)、40mタイム(-0.07秒、ES:0.28、CI:0.01-0.55)及びVmax(+0.20 m/s、ES:0.52、CI:0.18-0.86)においてより大きな向上を引き出した。速いAELはRSIにおいて小さな増加を引き出したが、スピードを害した。速いTRTでは速いAELと比較して、より大きな最大パワーの向上の傾向があり、またVLの羽状角に小さな増加が見られた。。

結論・応用
準備期間にコンカレントプログラムを行うラグビー選手において、短期間の遅いAELはTRTと比較して筋力と最大スプリント速度を向上させるのに有効であった。2フェーズ目の4週間の速いAELは速いTRTと比較して回復能力を超えてしまった恐れがある。
コンカレントプログラム(Concurrent Program):異なるトレーニング目標を同時にトレーニングする方法。例:筋肥大+パワー+スピード、筋力+持久力+柔軟性等

オリジナルの文献はこちら

 

この研究ではエキセントリック局面の負荷がTRT群の18~25%ほど高くなるように設定され、逆にコンセントリック局面は4~5%低く設定されていました。エキセントリックトレーニングがスピードの向上に貢献した理由として、脚のスティフネスの向上が考えられると筆者は考察部分で述べています。高負荷のエキセントリック局面での負荷によって腱や筋を包む筋膜へ刺激を与えることによりそれらの組織が変化したことによるとのことです。

エキセントリック局面だけの負荷を増加させるためにはこの研究で使用されたような特別な機器が必要となり、通常のウェイトルームの設備では実施するのが難しいかもしれません。しかし、トレーニング経験が豊富なラグビー選手においてスピードの増加等、スポーツパフォーマンスに直結する能力の向上が見られたことから、積極的な導入が考えられてもよいかもしれません。

参考文献
Roig, M., O’Brien, K., Kirk, G., Murray, R., McKinnon, P., Shadgan, B., & Reid, W. D. (2009). The effects of eccentric versus concentric resistance training on muscle strength and mass in healthy adults: A systematic review with meta-analysis. British Journal of Sports Medicine.
Higbie, E. J., Cureton, K. J., Warren, G. L., Prior, B. M., Warren 3rd, G. L., & Prior, B. M. (1996). Effects of concentric and eccentric training on muscle strength, cross-sectional area, and neural activation. J Appl Physiol, 81(5), 2173–2181