HPCスタッフコラム

2019.04.17

キャッチするか、キャッチしないか:パワークリーン

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パワークリーンなどのクリーンからの派生種目はパワーやジャンプのパフォーマンスの向上のために非常に有効なエクササイズです(1)。そのため多くのトレーニングプログラムに取り入れられ、スポーツパフォーマンスの向上のために使用されています。

しかし、クリーンにおいてキャッチの動作は様々な要因のために実施が難しい動作でもあります。それらの要因として、柔軟性の欠如、手首や肩関節の障害、コーディネーションなどが挙げられます。そのために、実際のコーチングの現場でもキャッチの動作が困難なために適切な重量でエクササイズを実施できないケースも少なくありません。そこで、クリーンの代替種目として良く用いられるのがプルやシュラッグなどの派生種目です。

今回紹介する研究ではパワークリーンに置いてキャッチをするまたはしない(クリーンプル)ことによるジャンプや力発揮のパフォーマンスへの効果を比較しています。

 

An investigation into the effects of excluding the catch phase of the power clean on force-time characteristics during isometric and dynamic tasks: an intervention study.
アイソメトリックパワークリーンのキャッチフェーズを取り除くことによる及びダイナミックな動作中における力―時間の特性への影響の検証:介入研究

Comfort, P, Dos’Santos, T, Thomas, C, McMahon, JJ, and Suchomel, TJ.

J Strength Cond Res 32(8): 2116–2129, 2018

目的
この研究の目的は、レジスタンストレーニングの2つの4週間のメゾサイクル後にパワークリーン(PC)においてキャッチを行うか行わないかによってアイソメトリック及びダイナミックな動作中の力―時間特性に与える効果を比較することである。

被験者
11名の男性プロサッカー選手及び23名の大学アスリート(BMX、漕艇、フィールドホッケー)

方法
筋力を基準に均等になるように被験者を2グループに振り分け、週に2回のトレーニングを8週間(4週間のメゾサイクルを2回)行った。一つ目のグループはパワークリーンのキャッチを行い(キャッチグループ:n=16、年齢19.3±2.1歳、身長1.79±0.08 m、体重71.14±11.79 kg、PCの1RMの体重比0.93±0.15 kg/kg)、もう一方はパワークリーンにおいてキャッチを行わなかった(プルグループ:n=18、年齢19.8±2.5歳、身長1.73±0.10 m、体重66.43±10.13 kg、PCの1RMの体重比0.91±0.18 kg/kg)。被験者はフォースプレート上でスクワットジャンプ(SJ)、反動を使った垂直跳び(CMJ)及びアイソメトリック・ミッドサイ・プル(IMTP)の測定(100ms、150ms、200ms、250ms時の力(F)及び最大値)そしてPCの1RMの測定をベースライン(介入前)、最初のメゾサイクル後、及び2つ目のメゾサイクル後に行った。

結果
キャッチ及びプルの両グループともに有意で効果的な向上がCMJ、IMTP及びPCの1RM にて見られた。介入前と介入後の数値を比較するとSJではキャッチグループのみが向上した(12.6±10.2%、p<0.001)。CMJでは介入前後の比較でキャッチ及びプルグループそれぞれ10.8 ± 12.3%(p=0.007)、5.2 ± 9.2%(p=0.04)向上した。IMTPにおいてはキャッチ及びプルそれぞれにおいて100msで14.9 ± 17.2%、15.5 ± 16.0%、150msで16.0 ± 17.6%、16.2 ± 18.4%、200msで15.8 ± 17.6%、17.9 ± 18.3%、200msで10.0 ± 16.1%、10.9 ± 14.4%、250msで10.0 ± 16.1%、10.9 ± 14.4%、最大値で13.7 ± 18.7%、9.7 ± 16.3%と介入前に比べて介入後で向上した(全てp<0.05)。PCの1RMも介入前後を比較するとキャッチ及びプルグループにおいてそれぞれ9.5 ± 6.2%、8.4 ± 6.1%向上した(p<0.05)。しかし、どの測定結果においても介入後のグループ間の比較においては有意な差はなかった。

結論・応用
仮説に反して、どの項目の変化率においてもグループ間の有意な差は見られなかった。この研究は2つの4週間のメゾサイクルを通してパワークリーンにおいてキャッチをする、またはしないことによる適応に差がないことを明確に示している。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究ではクリーン(キャッチあり)とクリーンプル(キャッチなし)の間にトレーニングによる効果の有意な差は見られませんでした。両種目ともにジャンプパフォーマンスや力の発揮率及びパワークリーンの1RMに向上が見られました。パワークリーンと今回の種目とは違いますがジャンプシュラッグの動作を比較した研究では、力発揮や関節の角速度、筋活動などがこれらのエクササイズ間では異なるとの報告(2、3)もありますが、今回の研究のように実際のトレーニング効果を比較した場合は差が出ないことが示されました。

これによって柔軟性の問題や障害などによってキャッチ動作が実施できない場合にパワークリーンと同様のトレーニング効果を得たい場合やピリオダイゼーションにおけるバリエーションとしてキャッチを必要としないクリーンの派生種目(クリーンプルやジャンプシュラッグ)をトレーニングプログラムに組み込むことができるでしょう。

 

参考文献
1. Channell, B. T., & Barfield, J. P. (2008). Effect of olympic and traditional resistance training on vertical jump improvement in high school boys. Journal of Strength and Conditioning Research, 22(5), 1522–1527
2. Kipp, K., Malloy, P. J., Smith, J. C., Giordanelli, M. D., Kiely, M. T., Geiser, C. F., & Suchomel, T. J. (2018). Mechanical Demands of the Hang Power Clean and Jump Shrug: A Joint-Level Perspective. Journal of Strength and Conditioning Research, 32(2), 466–474
3. Suchomel, T. J., Wright, G. A., Lottig, J., Tennessee, E., City, J., & Crosse, L. (2014). Lower Extremity Joint Velocity Comparisons During the Hang Power Clean and Jump Shrug At Various Loads. Biomechanics in Sport, 749–752