HPCスタッフコラム

2019.05.08

スプリントトレーニング:地面上vsトレッドミル

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現在ではどのフィットネスジムやトレーニング施設にも置かれているトレッドミル(ランマシーン)は天候に左右されることなくエクササイズを行える便利なトレーニング器具です。多くの研究でも走動作の解析や有酸素能力の評価などでトレッドミルが使用されています。しかしながら、Sinclairらの研究(1)をはじめとして多くの研究でトレッドミルでの走動作と実際の地面上での走動作のメカニクスは異なるとの報告が挙げられています。

高性能のトレッドミルではより最高速度やそれに近い速度でスプリントができるようになってきました。そのため、トレッドミル上でスプリントのトレーニングを行える施設などもできてきたようです。しかし、スプリント能力に関しては力発揮などの他に動作のメカニクスが重要な要素となります。しかし、前述のようにトレッドミル上と地面上の走動作においてはメカニクスが異なるとなってくることから、トレッドミル上でのスプリントトレーニングの効果はどのように地面上に移行するでしょうか?

今回紹介する研究では、トレッドミル上でのスプリントトレーニングと地面上でのスプリントトレーニングの効果を比較しています。

 

Sprint training on a treadmill vs. overground results in modality-specific impact on sprint performance but similar positive improvement in body composition in young adults.
トレッドミルまたは地面でのスプリントトレーニングは若年の成人においてスプリントパフォーマンスに様式に特異的な影響を与えるが、体組成においては同様の向上が見られた

Dorgo, S, Perales, JJ, Boyle, JB, Hausselle, J, and Montalvo, S.

J Strength Cond Res XX(X): 000–000, 2018

目的
異なるスプリントトレーニングの様式が体組成に与える影響は未だに解明されておらず、スプリントトレーニングにおける電動式のトレッドミルの効果は正確に評価されていない。この研究では電動式のトレッドミルまたは地面におけるトレーニングがスプリントパフォーマンスと体組成に与える影響を調査した。

被験者
64名の定期的にスポーツまたは身体活動に参加する若い成人(男性33名と女性31名)

方法
被験者は6週間にわたる12回のスプリントトレーニングセッションをトレッドミル(TM)または地面上(TR)でのトレーニング、または自身の通常のエクササイズ習慣を維持する(CONTROL)に分かれて行った。50ヤードのスプリントタイム、20ヤードの最大スプリント速度のスプリットタイム、及びトレッドミルでの最大スピードがスプリントパフォーマンスの指標として用いられた。体組成とスプリントパフォーマンスの評価は6週間の介入期間の前後に行われた。

結果
6週間のトレーニングプログラムの終了後、トレッドミルの最大スピードは3つのグループすべてで有意に向上し、一方で20ヤードのスプリットタイムはTRグループにおいて有意に減少した。CONTROLグループの50ヤードのスプリントタイム及び20ヤードのスプリットタイムは6週間後に有意に遅くなった。50ヤードのスプリントタイム及び20ヤードのスプリットタイム、トレッドミルの最大スピードにおけるスプリントタイムとスピードの向上はCONTROLグループと比較してTR及びTMグループで有意に大きかった。トレッドミルの最大スピードの変化はTRグループと比べてTMグループの方が有意に大きかった。TR及びTMグループの被験者は総体脂肪量が有意に減少し、下肢の除脂肪量も有意に増加した。

結論・応用
これらの結果は、地面上でのスプリントトレーニングが、地面上でのスプリントパフォーマンスの測定においてより大きな向上につながったが、電動式のトレッドミルにおけるスプリントトレーニングは地面上のスプリントトレーニングの効果的な代替種目となり、また被験者の体組成も向上させることができることを示している。

オリジナルの文献はこちら

 

Sinclairらの研究(1)でも報告されていますが、やはりトレッドミルと地面上での走動作のメカニクスは異なり、それがこの研究結果につながっていることが考えられます。体組成に関しては様式関係なく双方とも向上したことから、心肺系の有酸素能力の強化であったり、代謝性のトレーニングであったりすれば走動作のメカニクスはそこまで影響がないかもしれませんが、やはりスプリントというメカニクスが大きな役割を担う動作であったからこそこのような結果につながったのではないでしょうか。

便利で使い勝手の良いトレッドミルですが、トレーニングの目的(スピードの向上やランニングメカニクスの改善等)によっては効果が小さかったり、逆にマイナスの影響が出たりする恐れがあります。目的に応じてトレッドミルまたは地面上のランニングを使い分けるのが良いでしょう。

参考文献
1. Sinclair, J., Richards, J., Taylor, P. J., Edmundson, C. J., Brooks, D., & Hobbs, S. J. (2013). Three-dimensional kinematic comparison of treadmill and overground running. Sports Biomechanics, 12(3), 272–282