HPCスタッフコラム

2019.05.15

アルコール摂取と睡眠と筋パフォーマンス

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アルコールの摂取はトレーニングや競技からの回復や翌日の筋のパフォーマンスに影響を与えるとされています。Barnes(1)によると、急性のアルコールの摂取は内分泌系反応や血流、タンパク質合成などにマイナスの影響を与え、回復に悪影響があるとしています。またBarnesらの研究では(2)、エキセントリックトレーニング後のアルコール摂取が翌日の筋力を低下させると報告されています。体重1kgあたり0.5g程度のアルコールであれば影響がない(1)ともされていますが、アルコールの分解には個体差が大いに関係しています。しかし、アルコール摂取が実際にパフォーマンスに与える影響を検証した介入研究の数は多くありません。

睡眠と筋力に関する報告では、最大及び最大下の筋力が睡眠不足によって低下したというものがあります(3)。しかし、無酸素パワーは睡眠不足によって影響されないとの報告(4、5)もあります。

今回紹介する研究では、アルコール摂取及び睡眠不足がそれぞれ及びその両方同時に起こるときに神経筋機能に与える影響を検証しています。

 

 

Can the combination of acute alcohol intake and one night of sleep deprivation affect neuromuscular performance in healthy male adults? A cross-over randomized controlled trial.
急性的なアルコールの摂取と一晩の睡眠不足が健康な男性成人の神経筋機能のパフォーマンスに影響を及ぼすか?クロスオーバー法を用いた無作為比較研究

Rodrigues, R, Franke, RA, Teixeira, BC, Macedo, RCO, Diefenthaeler, F, Baroni, BM, and Vaz, MA.

J Strength Cond Res 33(5): 1244–1251, 2019

目的
この研究の目的はクロスオーバー法を用いて神経筋機能の反応に対するアルコールの摂取と睡眠不足を単独及び併用した際の影響を比較することである。

被験者
10名の活動的な若い成人男性(年齢:23.5±3.3歳、体重:70.2±9.1 kg、身長:174.0±5.1 cm、体脂肪率:14.9±3.2 %、BMI:23.19±2.73 kg/m2、VO2max:44.8±2.4 ml/kg/min)

方法
被験者は以下の4つの研究条件に振り分けられた:(a)プラセボ摂取+通常の睡眠(PLA+SLE)、(b)アルコール摂取+通常の睡眠(ALC+SLE)、(c)プラセボ摂取+睡眠不足(PLA+SDP)、及び(d)アルコール摂取+睡眠不足(ALC+SDP)。各条件において、参加者は体重1kgあたり1gのアルコールをビールで摂取するか、ノンアルコールビール(PLA)を摂取し、その後一晩の通常の睡眠をとるか、または短い睡眠をとった。翌朝に神経筋機能のパフォーマンス(膝関節伸展筋のアイソメトリック及びコンセントリックの最大トルク及び、拳上不能のなるまでの時間を筋持久力の測定として)および筋活動を評価した。

結果
神経筋活動のパフォーマンスに有意な差は見られなかった。PLA+SLE群と比較して、膝関節伸展筋のアイソメトリックテストにてALC+SDP群において大腿四頭筋の筋活動の有意な低下がみられた(-20.8%;p=0.02、d=0.56)。

結論・応用
この研究の結果は、急性のアルコール摂取及び一晩の睡眠不足は大腿四頭筋の筋活動を減少させるが神経筋機能のパフォーマンスには影響がないことを示した。

オリジナルの文献はこちら

 

アルコール摂取または睡眠不足単体では神経筋機能には影響を与えないようです。しかし両方が同時に起こることで筋活動が低下し、本文には「有意ではないが大腿四頭筋の筋力が10%低下した」と述べられています。神経筋機能の低下はパフォーマンスのみならず、筋活動が低下することによって障害発生のリスクも増加することが考えられます。よって、大きな筋活動が必要とされる試合や強度の高いトレーニングの前日のアルコール摂取(ないとは思いますが…)や睡眠不足はパフォーマンスや障害予防の観点からも避けた方が良いでしょう。

また、興味深いことに、この研究ではアルコール摂取や睡眠不足によってパフォーマンスが低下するまたは変化しない人のみではなく、向上する人も見られました。よって、アルコールや睡眠不足に対する耐性には大きな個体差があると考えられます。

 

参考文献
1. Barnes, M. J. (2014). Alcohol: Impact on sports performance and recovery in male athletes. Sports Medicine
2. Barnes, M. J., Mündel, T., & Stannard, S. R. (2010). Acute alcohol consumption aggravates the decline in muscle performance following strenuous eccentric exercise. Journal of Science and Medicine in Sport, 13(1), 189–193
3. Reilly, T., & Piercy, M. (1994). The effect of partial sleep deprivation on weight-lifting performance. Ergonomics, 37(1), 107–115
4. Taheri, M., & Arabameri, E. (2012). The effect of sleep deprivation on choice reaction time and anaerobic power of college student athletes. Asian Journal of Sports Medicine, 3(1), 15–20
5. Souissi, N., Sesboüé, B., Gauthier, A., Larue, J., & Davenne, D. (2003). Effects of one night’s sleep deprivation on anaerobic performance the following day. European Journal of Applied Physiology, 89(3–4), 359–366